名誉毀損と侮辱罪の違いとは?法的な判断基準を弁護士がわかりやすく解説
2026/03/25
名誉毀損と侮辱罪の違いとは?法的な判断基準を弁護士がわかりやすく解説
SNSや掲示板に悪質な書き込みをされた、職場や学校での評判を傷つけるような投稿を見つけた——そのような被害に遭い、「これは法律で対処できるのだろうか」とお困りの方は少なくありません。
ネットの誹謗中傷に関して調べていると、「名誉毀損」と「侮辱罪」という二つの言葉が出てきます。どちらも自分の名誉が傷つけられた場面で問題になる法律用語ですが、実はこの二つは明確に異なる犯罪です。そして、どちらに該当するかによって、取りうる法的対応や時効の期間なども変わってきます。
本記事では、名誉毀損罪と侮辱罪の違いについて、法的な判断基準をわかりやすく解説します。また、2022年に実施された侮辱罪の厳罰化改正のポイントや、民事上の損害賠償請求との関係についても併せて説明します。
名誉毀損罪と侮辱罪——最大の違いは「事実の摘示」の有無
名誉毀損罪と侮辱罪は、どちらも「他人の名誉を傷つける行為」を規律する刑法上の犯罪です。ところが、その成立要件には本質的な違いがあります。最大のポイントは、「具体的な事実を示しているかどうか」(事実の摘示の有無)です。
刑法第230条第1項は名誉毀損罪を、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」行為として定義しています。一方、刑法第231条は侮辱罪を、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した」行為として定義しています。
つまり、具体的な事実を示して相手の社会的評価を下げた場合は名誉毀損罪、事実の摘示を伴わず抽象的な悪口や罵倒によって侮辱した場合は侮辱罪、という整理になります。
具体例で理解する——どちらの罪に当たるか
理論だけではわかりにくいので、ネット上での投稿を例に具体的に見てみましょう。
名誉毀損罪になりやすい例
- 「○○さんは過去に横領で逮捕されたことがある」(犯罪歴の摘示)
- 「△△店の料理は産地偽装をしている」(不正行為の具体的な主張)
- 「あの会社の部長は部下と不倫している」(プライベートな事実の暴露)
- 「あのインフルエンサーは実績をすべて詐称している」(詐欺的行為の具体的な指摘)
これらはいずれも、特定の事実を示すことで相手の社会的評価を下げる可能性があります。その事実が真実であっても、公共性・公益性の要件を満たさない限り、名誉毀損罪が成立しえます。
侮辱罪になりやすい例
- 「本当にバカで使えない人間だ」
- 「きもい、消えろ」「ゴミ以下の存在」
- 「あの人は性格最悪でクズ」
これらは具体的な事実を示さず、単に相手を罵倒・侮辱する表現です。事実の摘示がないため名誉毀損罪には当たりませんが、「公然と人を侮辱した」として侮辱罪が成立しえます。
名誉毀損罪の3つの成立要件
名誉毀損罪(刑法第230条第1項)が成立するためには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。
① 公然性
「不特定または多数の人が知りえる状態」で行われたことが必要です。SNSへの投稿、掲示板への書き込み、大人数のグループへのメッセージ送信などは公然性が認められやすいといえます。
ただし、一見すると限られた人数だけに向けられた発信であっても、「伝播可能性」——すなわちその内容がさらに広まる可能性があると認められれば、公然性が肯定される場合があります。鍵垢(非公開アカウント)の投稿やクローズドなグループでの発言であっても、スクリーンショット等で拡散されうる場合には注意が必要です。
② 事実の摘示
相手の社会的評価を低下させるに足りる、具体的な事実を示していることが必要です。名誉毀損罪においては、その事実が真実であるか虚偽であるかは問われません。
③ 名誉毀損性
摘示された事実によって、その人の社会的評価(人としての信頼・評判)が低下する危険性があることが必要です。社会的評価が実際に低下したことまでは要件ではなく、低下させるおそれ(抽象的危険)で足ります。
侮辱罪の成立要件——事実の摘示は不要
侮辱罪(刑法第231条)が成立するためには、次の要件が必要です。
- 公然性:名誉毀損罪と同様に、不特定または多数の人が認識できる状況であること
- 侮辱行為:事実の摘示なく、相手の人格・品性・能力などを貶める言動(罵倒、蔑視、嘲笑など)
- 特定の人物への向け:被害者が特定できること(匿名であってもアカウントや文脈から特定できれば足ります)
侮辱罪は、具体的な事実は示さず単に「バカ」「気持ち悪い」といった抽象的な侮辱で成立しうる点が特徴です。その分、名誉毀損罪よりも広い行為類型をカバーしているともいえます。
2022年改正——侮辱罪は大幅に厳罰化された
以前の侮辱罪の法定刑は「拘留(30日未満)または科料(1万円未満)」という非常に軽いものでした。しかし、SNS上での誹謗中傷が深刻な社会問題となる中、2022年6月に刑法が改正され、同年7月7日から施行されました。
改正後の法定刑(現行)
改正後の侮辱罪の法定刑は、「1年以下の懲役もしくは禁錮(2025年6月1日以降は拘禁刑に一本化)もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料」へと大幅に引き上げられました。
公訴時効の延長
改正前は公訴時効が1年でしたが、改正によって3年に延長されました。これにより、被害から時間が経過した後でも刑事告訴が可能になる場合が増えました。
教唆犯・幇助犯も処罰対象に
侮辱行為を唆した者(教唆犯)や手助けした者(幇助犯)も、改正後は処罰の対象となりました。
| 項目 | 改正前 | 改正後(2022年7月〜) |
|---|---|---|
| 法定刑 | 拘留または科料のみ | 1年以下の懲役・禁錮(拘禁刑) 30万円以下の罰金 または拘留・科料 |
| 公訴時効 | 1年 | 3年 |
| 教唆・幇助犯 | 対象外 | 処罰対象 |
名誉毀損罪と侮辱罪の法定刑比較
厳罰化後も、名誉毀損罪と侮辱罪では法定刑に差が設けられています。具体的な事実を摘示して名誉を傷つける名誉毀損罪の方が、社会的評価の侵害が大きいと評価され、より重い刑が定められています。
| 区分 | 名誉毀損罪(刑法230条) | 侮辱罪(刑法231条) |
|---|---|---|
| 事実の摘示 | 必要 | 不要 |
| 法定刑 | 3年以下の懲役・禁錮 または50万円以下の罰金 |
1年以下の懲役・禁錮(拘禁刑) または30万円以下の罰金 または拘留・科料 |
| 公訴時効 | 3年 | 3年(改正後) |
| 親告罪 | はい(告訴期間:犯人を知った日から6か月) | はい(同左) |
| 免責特例 | あり(刑法230条の2) | なし |
名誉毀損罪の免責規定——「真実だから許される」は条件付き
名誉毀損罪には、刑法第230条の2に重要な免責規定が存在します。摘示した事実が次の3つの要件をすべて満たす場合、罰せられないことがあります。
- ① 摘示された事実が公共の利害に関わるものであること
- ② その目的が専ら公益を図るものであること
- ③ 摘示した事実が真実であると証明されること(または真実と信じる相当の理由があること)
政治家の汚職を報道するジャーナリズムや、公益に関わる事実の告発がこれに当たりえます。一方、個人間の口論やプライベートな暴露については、「公益目的」の要件を満たすことは難しく、免責は認められにくいでしょう。
なお、侮辱罪にはこのような免責規定がありません。
民事上の損害賠償請求との関係
ここまで刑事責任(犯罪としての処罰)について説明してきましたが、被害者にとって重要なのは民事上の損害賠償請求も選択肢になるという点です。
名誉毀損行為や侮辱行為は、刑法上の罪であるとともに、民法第709条・第710条に定める不法行為にも該当しえます。被害者は民事訴訟を通じて、加害者に対して財産的損害や精神的苦痛に対する慰謝料を請求することができます。また、民法第723条に基づき、名誉回復のための措置(例:謝罪文の掲載)を求めることも可能です。
民事の損害賠償請求は、刑事告訴(犯罪として処罰を求める手続き)とは別の手続きです。どちらか一方、あるいは両方を追求することも可能です。
・刑事告訴:加害者を処罰(懲役・罰金等)するための手続き。捜査機関(警察・検察)が主体となる。
・民事訴訟(損害賠償請求):被害者が自ら加害者を訴えて金銭的補償等を求める手続き。
ネット上の誹謗中傷——実務上のポイント
匿名投稿でも法的対応は可能
SNSや掲示板への投稿は匿名であることが多く、「相手が誰かわからないから対処できない」と諦めてしまう方もいます。しかし、発信者情報開示請求の手続きを経ることで、投稿者のIPアドレス等の情報をプロバイダから取得し、投稿者を特定できる場合があります。
2025年4月施行の情プラ法による変化
2025年4月1日には、従来のプロバイダ責任制限法を抜本的に改正した「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)」が施行されました。同法により、大規模なSNS事業者等に対して削除申請への迅速な対応や、申請窓口の整備が義務づけられました。これにより、被害者が削除申請をした際の対応が改善されることが期待されています。
証拠保全が重要
誹謗中傷の投稿は削除されてしまうと証拠が失われます。問題のある投稿を発見したら、速やかにスクリーンショットで保存し、投稿日時・URL・投稿者名(アカウント名)がわかるよう記録しておくことが重要です。
告訴期間(親告罪の6か月)に注意
名誉毀損罪・侮辱罪はいずれも親告罪であり、被害者が告訴しなければ起訴できません。告訴できる期間は「犯人を知った日から6か月」に制限されていますので、加害者が特定できた場合は早急に弁護士に相談することをお勧めします。
まとめ——どちらの法律が適用されるかで対応が変わる
名誉毀損罪と侮辱罪の違いを改めて整理しましょう。
| 判断のポイント | 名誉毀損罪 | 侮辱罪 |
|---|---|---|
| 書き込みの内容 | 具体的な事実(「○○した」「○○だ」等) | 抽象的な悪口・罵倒(「バカ」「気持ち悪い」等) |
| 事実の摘示 | あり | なし |
| 法定刑の重さ | より重い(3年以下の懲役等) | 改正後に重くなったが、なお名誉毀損より軽い |
| 免責特例 | 公益目的・真実の証明で免責の可能性 | なし |
「自分への投稿がどちらに当たるか」を判断することは、法律の専門知識がない一般の方には容易ではありません。グレーゾーンの表現も多く、実際の投稿内容を詳細に検討し、公然性・事実摘示性・名誉毀損性の各要件を個別に評価する作業が必要です。
ネット上の誹謗中傷被害に遭われた場合は、早めに弁護士に相談することで、状況を正確に評価してもらい、刑事告訴・民事の損害賠償請求・削除申請など最適な対応策を検討できます。証拠が消えてしまう前に、一度専門家にご相談されることをお勧めします。
名誉毀損・侮辱被害に遭ったら、まず弁護士に相談を
タングラム法律事務所では、ネット誹謗中傷に関する発信者情報開示請求・削除請求・損害賠償請求について、豊富な実績を有しております。名誉毀損・侮辱罪のどちらに該当するかの判断から、刑事告訴・民事請求の手続きまで、状況に応じた最適な対応策をご提案します。まずはお気軽にご相談ください。
法律相談の予約はこちら※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案については、弁護士等の専門家にご相談ください。法令の内容は改正により変わる場合があります。本記事の情報は2026年3月時点のものです。