遺留分侵害額請求の時効は1年!起算点の考え方と時効を止める方法を弁護士が解説
2026/03/25
遺留分侵害額請求の時効は1年!起算点の考え方と時効を止める方法を弁護士が解説
親族が亡くなり、遺言書を確認したところ、自分の遺留分が大きく侵害されていることに気づいた——そのような状況に置かれたとき、多くの方は「いつまでに請求しなければならないのか」という不安を抱えます。実は、遺留分侵害額請求権には厳格な時効があり、放置すればその権利が永久に消滅してしまうことがあります。
本記事では、遺留分侵害額請求権に設けられた「2つの期間制限」の内容、「起算点(いつから時効が進み始めるか)」の法的な解釈、そして時効を止める具体的な方法について、横浜を拠点とする弁護士がわかりやすく解説します。時効が迫っている方はもちろん、まだ時間があると思っている方にも、早期対応の重要性をぜひご確認ください。
遺留分侵害額請求権には「2つの期間制限」がある
遺留分侵害額請求権の期間制限は、民法第1048条に規定されています。同条は、「遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。」と定めています。
この条文には、実は2種類の期間制限が定められています。①「知った時から1年」という短期の消滅時効と、②「相続開始から10年」という長期の期間制限(除斥期間と解されています)です。いずれか一方の期間が経過した時点で、遺留分侵害額請求権は消滅します。
| 種別 | 期間 | 起算点 | 時効の更新(中断) |
|---|---|---|---|
| 短期消滅時効 | 1年 | 相続開始・遺留分侵害を知った時 | 可能(催告・訴訟提起等) |
| 長期の期間制限 | 10年 | 相続開始時(被相続人の死亡時) | 基本的に不可 |
1年という期間は非常に短く、相続後の手続きや葬儀の対応に追われているうちに経過してしまうことも少なくありません。また、「10年あれば大丈夫」と考えていても、相続開始から10年が経過した後では、たとえ遺留分侵害を「知った」ばかりであっても請求できなくなるため、注意が必要です。
「知った時」の起算点とは何を意味するか
1年の消滅時効で最も重要な問題は、「知った時」という起算点の解釈です。一見シンプルに思えますが、法的にはかなり慎重な解釈が求められます。
判例(最高裁昭和57年11月12日判決)によれば、「知った時」とは、単に贈与または遺贈があったことを認識しただけでは足りないとされています。「遺贈の事実及びこれが(遺留分を)侵害できるものであったことを知った時」、すなわち自己の遺留分が侵害されているという認識までが必要であると解されています。
具体的には、以下の2つの事実を認識したときが起算点となります。
- 被相続人(亡くなった方)が死亡し、相続が開始したこと
- 遺贈または贈与があり、それによって自分の遺留分が侵害されていること
たとえば、被相続人が亡くなったことは知っていたものの、遺言書の内容を長期間確認できなかった場合には、遺言書の内容を実際に確認した時点が「知った時」になる場合があります。ただし、遺言書の存在を知りながら故意に確認を避けていた場合など、個別の事情によって判断が変わることがあります。
起算点が特に問題になる場面
実務上、起算点の認定が争点となりやすいケースがいくつかあります。代表的なものを以下に整理します。
(1)相続後に遺言書の存在を知った場合
被相続人の死亡後しばらくして遺言書が発見されるケースでは、遺言書を確認した時点が起算点になることが多いと考えられます。ただし、遺言書の内容を知る機会があったにもかかわらず確認を怠っていた場合には、早期に起算点が認定される可能性もあります。
(2)生前贈与が相続後に判明した場合
被相続人が生前に多額の贈与を行っていたことを、相続開始後に初めて知ったというケースです。この場合、贈与の事実とそれが遺留分を侵害していることを認識した時点が起算点となる傾向があります。
(3)遺留分侵害の「金額」が不明な場合
遺産の内容や評価が不明で、自分の遺留分が具体的にいくら侵害されているかわからない時点では、厳密には「知った」とはいえないとも思えます。しかし実務上は、贈与・遺贈の存在と遺留分侵害の事実を大まかに認識した時点で起算点が始まると解釈されることが多く、金額の精確な把握は要件とされていません。したがって、「金額がわからないから待っていた」という状況は、時効を回避する理由にはならない可能性があります。
遺言無効を主張している場合の重大な注意点
「遺言書は無効だ」と考えて遺言無効確認訴訟を提起している場合、「訴訟中だから遺留分侵害額請求の時効は止まっているはず」と誤解されることがあります。しかし、この考え方には大きなリスクが伴います。
判例上、遺言無効の訴訟を提起していても、遺留分侵害額請求権の消滅時効は原則として進行し続けると解されています。「法律上及び事実上の根拠があって遺留分権利者が遺言の無効を信じたことがもっともと首肯し得る特段の事情がない限り時効は進行する」とした裁判例があり、実務でも遺言無効の争いと並行して、念のため遺留分侵害額請求の意思表示を行うことが強く推奨されています。
時効を止める(更新する)ための具体的な方法
遺留分侵害額請求権の消滅時効は、適切な手続きを取ることで「更新(中断)」することができます。主な方法を解説します。
(1)内容証明郵便による「催告」
最も手軽かつ迅速に時効の進行を止める方法として、内容証明郵便(配達証明付き)による遺留分侵害額請求の意思表示があります。「内容証明郵便の送付=催告」によって、時効の完成を6か月間猶予することができます(民法第150条)。ただし、この催告による猶予は1回限りです。催告から6か月以内に訴訟の提起や調停の申立てなど、より確実な手続きへ移行する必要があります。
(2)調停の申立て
家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てることも、時効の更新に有効な場合があります。ただし、調停の申立てをするだけでは相手方に対する遺留分侵害額請求の意思表示にはならないとされています。そのため、調停申立てと同時に、または直前に、内容証明郵便で意思表示を行っておくことが重要です。
(3)訴訟の提起
遺留分侵害額請求に関する訴えを地方裁判所に提起することで、時効は更新されます(民法第147条1項1号)。訴訟提起は時効を止める最も確実な手段ですが、訴訟に至るまでには時間がかかることもあるため、まず内容証明郵便で意思表示を行い、その後交渉・調停を経て訴訟へ進む流れが一般的です。
(4)相手方の「承認」
遺留分侵害額請求を受けた相手方が、請求権の存在を「承認」した場合にも時効は更新されます(民法第152条)。交渉の過程で相手方が「支払う意思がある」などの発言をした場合、これが承認に当たることがあります。
内容証明を送った後も要注意!金銭支払請求権の「5年時効」
遺留分侵害額請求の意思表示をすることにより、相手方に対する「金銭支払請求権」が発生します。この金銭支払請求権は遺留分侵害額請求権とは別個の権利であり、民法第166条第1項第1号に基づく5年の消滅時効が適用されます。
せっかく1年の短期時効内に内容証明郵便を送付して意思表示を行っても、その後5年以上にわたって金銭請求の手続きを放置すると、金銭支払請求権が時効消滅してしまう危険があります。意思表示を行ったからといって安心せず、その後の交渉・調停・訴訟についても、弁護士に相談しながら適切なペースで進めることが重要です。
| 請求権の種類 | 時効期間 | 起算点 |
|---|---|---|
| 遺留分侵害額請求権(意思表示の権利) | 1年(短期)/10年(長期) | 「知った時」/相続開始時 |
| 金銭支払請求権(意思表示後に発生) | 5年 | 権利行使できることを知った時 |
まとめ:遺留分侵害額請求の時効は「早期行動」が鉄則
遺留分侵害額請求権の消滅時効は、「知った時から1年」という非常に短い期間内に進行します。相続発生後の多忙な時期に1年はあっという間に過ぎてしまうため、遺言書の内容や被相続人の財産状況を把握したら、できる限り早く専門家に相談することが重要です。
また、起算点(「知った時」)の解釈や、遺言無効と時効の関係など、実務上の判断は個別事情によって大きく異なります。「まだ時間がある」「訴訟を起こしているから大丈夫」という思い込みが権利喪失に直結するケースもあります。
横浜を中心に相続問題に取り組む弁護士に早めに相談することで、時効が到来する前に適切な手段を講じることができます。権利を守るためには、「迷ったらすぐ相談」を心がけてください。
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