企業のネット風評被害対策——削除請求・発信者情報開示・予防策を弁護士が解説
2026/03/30
企業のネット風評被害対策——削除請求・発信者情報開示・予防策を弁護士が解説
「競合他社による根拠のない悪評がSNSに拡散している」「退職した元従業員に会社の悪口を書き込まれた」「実名で虚偽の口コミを投稿されて売上が下がっている」——こうした企業を標的にしたネット風評被害は、近年急増しています。個人の誹謗中傷被害と異なり、企業が受けるダメージは取引先の信頼喪失・採用への影響・株価や売上の低下など、事業全体に広く及ぶことが少なくありません。
本記事では、企業がネット上の風評被害を受けた場合に取るべき対応——削除請求・発信者情報開示請求・損害賠償請求——の流れと、2025年4月に施行された新法「情報流通プラットフォーム対処法」が企業の対策に与える影響、さらに被害を未然に防ぐための予防策まで、弁護士の視点からわかりやすく解説します。
企業が直面するネット風評被害の典型例
企業を対象としたネット風評被害には、以下のようなパターンが多く見られます。
- Googleビジネスプロフィール(旧Googleマイビジネス)への虚偽の低評価口コミ:実際には取引のない人物や競合他社関係者とみられるアカウントによる根拠のない星1評価
- SNS(X・Instagram・Facebook等)での誹謗中傷投稿:企業名・代表者名を挙げての事実無根の中傷、炎上を意図した拡散
- 掲示板(5ちゃんねる・爆サイ等)への書き込み:企業内部情報を装った虚偽情報や、従業員・顧客を名乗る誹謗中傷
- 転職口コミサイト(転職会議・OpenWork等)への虚偽投稿:退職従業員や求職者を装った事実と異なる投稿による採用活動への悪影響
- YouTube・TikTokでの誹謗中傷動画:企業や代表者を批判する動画の投稿と拡散
これらはいずれも、場合によっては名誉毀損罪(刑法230条)や業務妨害罪(刑法233条・234条)に該当し得るほか、民事上の不法行為(民法709条)として損害賠償請求の対象となりえます。
まず行うべき「証拠保全」——初動対応が勝負を決める
ネット上の投稿への対応で最初にすべきことは、証拠の保全です。問題のある投稿は予告なく削除されたり、アカウントごと消えてしまう場合があります。また、発信者情報開示請求を行うにあたっては、プロバイダや通信キャリアに保存されているIPアドレスや通信ログの保存期間(多くの場合3か月〜半年程度)が過ぎてしまうと、投稿者の特定が事実上困難になります。
被害を発見したら、速やかに以下の情報を記録・保存してください。
- 投稿のURL(URLが変更になる場合も多いため、正確に記録する)
- スクリーンショット(日付・時刻・アカウント名が確認できる状態で撮影する)
- 投稿日時・投稿者のアカウント名またはハンドルネーム
- 投稿内容の全文(長文の場合はスクロールしながらすべてを記録する)
プラットフォームへの削除申請——まずは自社で申請できる場合も
証拠を保全したら、問題の投稿が掲載されているプラットフォームに対して削除申請(送信防止措置依頼)を行うことができます。多くの大手プラットフォームには通報フォームや申請窓口が設けられており、名誉毀損・プライバシー侵害・虚偽情報などを理由として削除を申し出ることができます。
ただし、自社で申請しても削除が認められない場合や、対応窓口が見つからない・返答が遅い場合は珍しくありません。そのような場合は、弁護士が作成した書面を用いた削除申請や、仮処分(削除仮処分)の申立へと手続きを進めることになります。仮処分は裁判所を通じた緊急手続であり、通常の削除申請よりも対応速度が速くなる場合があります。
2025年4月施行「情報流通プラットフォーム対処法」の企業への影響
2024年5月に公布された「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」(情報流通プラットフォーム対処法)は、2025年4月1日に施行されました。この法律はプロバイダ責任制限法の全面改正であり、企業の風評被害対策において重要な意義をもちます。
大規模プラットフォームへの義務付け
本法の最大のポイントは、一定規模以上の「大規模特定電気通信役務提供者」に対して、削除対応の迅速化・体制整備・運用状況の透明化を義務付けた点です。2025年4月時点でGoogle LLC、Meta Platforms、LINEヤフー、TikTok Pte.などが同提供者として指定されており、その後も指定対象が拡大されています。これにより、こうした大手プラットフォームに対して自主的な迅速対応を一層求めやすくなりました。
「送信防止措置」の申請手続の整備
本法では、権利侵害申告(送信防止措置の申請)に対するプラットフォーム事業者の対応期間の目安が明確化されました。申請が適切に処理されない場合、被害者(企業を含む)は行政や裁判所への申立てを通じた対応を求めやすくなっています。
投稿者を特定する「発信者情報開示請求」
削除申請と並行して検討すべきなのが、発信者情報開示請求です。これは、プラットフォーム事業者やインターネットサービスプロバイダ(ISP)に対して、投稿者のIPアドレス・氏名・住所などの情報開示を求める手続きです。投稿者が特定できれば、損害賠償請求や刑事告訴へと進むことができます。
2022年10月のプロバイダ責任制限法改正により、「発信者情報開示命令」という新たな非訟手続が導入されました。これにより、従来は2段階の手続きが必要だった開示請求を一つの裁判手続の中で完結させることが可能になりました。ただし、実務では以下の点に注意が必要です。
| 手続きの種類 | 特徴 | 概要期間の目安 |
|---|---|---|
| 仮処分(削除・発信者情報保全) | 緊急性が高い場合に有効。IPアドレスのログ保存命令など | 1〜2か月程度 |
| 発信者情報開示命令(非訟手続) | 2022年10月導入。1つの手続でSNS→プロバイダへの開示を進められる | 3〜6か月程度 |
| 損害賠償請求訴訟 | 投稿者特定後に提起。慰謝料・逸失利益などを請求 | 半年〜1年以上 |
通信ログの保存期間は、プロバイダによって異なりますが3か月〜半年程度が一般的です。被害を発見したらできるだけ早く弁護士に相談し、ログ保存の申請(発信者情報の保全)を行うことが重要です。
企業が請求できる損害賠償の範囲
投稿者が特定できた場合、企業は民法709条(不法行為)に基づく損害賠償請求が可能です。企業が請求できる主な損害の項目としては以下が挙げられます。
- 売上の減少による逸失利益:問題の投稿によって顧客が減少し売上が下がったことを立証できる場合
- 信用回復費用:プレスリリース・広告・説明対応などにかかったコスト
- 弁護士費用:対応に要した弁護士費用の一部(相当因果関係が認められる範囲)
- 名誉毀損による無形損害(慰謝料的損害):法人にも認められる場合がある
なお、損害額の立証は容易ではなく、適切に証拠を整理・主張するためにも弁護士のサポートが不可欠です。また、悪質な場合は刑事告訴(名誉毀損罪・業務妨害罪など)を検討することも選択肢の一つです。
被害を防ぐための予防策——日頃からできること
風評被害への対応は、被害が発生してから動くだけでなく、事前の備えも重要です。企業として日頃から取り組めることを整理しておきましょう。
①ネット上の自社情報を定期的にモニタリングする
Googleアラートや専門のモニタリングサービスを活用して、自社名・代表者名・商品名などが言及されたときに通知を受け取る仕組みを整えましょう。早期発見が被害の最小化につながります。
②従業員向けのSNS・情報発信ポリシーを整備する
社内規程として、従業員によるSNS投稿に関するガイドラインを整備しておくことが重要です。退職後の情報発信に関する誓約も、退職時の書面に盛り込んでおくことを検討してください。
③公式サイト・SNSでの情報発信を充実させる
正確な情報を自ら発信することで、検索結果における自社の情報量を厚くし、誤った情報が上位表示されにくくなる効果があります。
④弁護士への事前相談と顧問契約
被害が実際に発生してから弁護士を探すのでは時間的なロスが生じます。インターネット上のリスク対応に強い弁護士と顧問契約を結んでおくか、相談窓口を事前に把握しておくことが企業の危機管理として有効です。
まとめ——企業の風評被害対応は「速さ」と「専門家の連携」が鍵
企業が受けるネット風評被害は、放置すれば拡散・定着し、取引先への信頼低下・採用難・売上の減少など、深刻なダメージをもたらします。2025年4月施行の情報流通プラットフォーム対処法によって大規模プラットフォームへの削除対応が一定程度迅速化されましたが、法的な削除請求・発信者情報開示請求・損害賠償請求については依然として弁護士にしか行えない業務です。
被害を発見したらまず証拠を保全し、できるだけ早く弁護士に相談することが重要です。「どこに相談すればよいかわからない」「自社での対応に限界を感じている」という場合は、ネット誹謗中傷に精通した弁護士事務所へのご相談をお勧めします。
企業のネット風評被害・誹謗中傷でお困りの方へ
タングラム法律事務所では、ネット誹謗中傷に関する発信者情報開示請求・削除請求・損害賠償請求について、豊富な実績を有しております。企業・法人の風評被害対応にも注力しており、初動の証拠保全から投稿者特定・損害賠償請求まで、一貫してサポートいたします。まずはお気軽にご相談ください。
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