遺言書があっても遺留分は請求できる?遺言と遺留分の関係を弁護士が解説
2026/04/01
遺言書があっても遺留分は請求できる?遺言と遺留分の関係を弁護士が解説
相続が始まり遺言書を開封してみると、「全財産を長男に相続させる」「特定の第三者に遺贈する」といった内容が記載されており、自分の取り分がほとんどないことに気づいた――そのような状況に直面し、困惑されている方も少なくありません。遺言書は被相続人の最終意思を示す重要な書面であり、原則としてその内容に沿って相続が進められます。しかし、「遺言書に書かれているから何も請求できない」というわけではありません。
実は、遺言書の内容が法律上の「遺留分(いりゅうぶん)」を侵害している場合、侵害された相続人は「遺留分侵害額請求」という権利を行使することができます。本記事では、遺言と遺留分の関係・優先順位の考え方、請求できる人・できない人の要件、そして実際の手続きの流れについて、わかりやすく解説します。
遺留分とは?民法が保障する最低限の相続分
遺留分とは、民法が一定範囲の相続人に対して保障している「最低限の相続分」のことです(民法第1042条)。被相続人は生前に遺言書を作成し、自由に財産の行き先を指定することができます。しかし、被相続人と特に密接な関係にある相続人の生活保障や、長年にわたって家族として財産形成に貢献してきた事実を保護するため、法律は「遺留分」として一定の割合を留保しています。
遺留分の割合は、相続人の構成によって異なります。原則として相続財産の2分の1が遺留分の総枠となりますが、相続人が直系尊属(親・祖父母)のみである場合は3分の1です。たとえば、相続人が配偶者と子2人の場合、総枠は2分の1ですので、配偶者の遺留分は4分の1、子それぞれの遺留分は8分の1となります。
| 相続人の構成 | 遺留分の総枠 | 各相続人の遺留分(例) |
|---|---|---|
| 配偶者のみ | 1/2 | 配偶者:1/2 |
| 配偶者+子1人 | 1/2 | 配偶者:1/4、子:1/4 |
| 配偶者+子2人 | 1/2 | 配偶者:1/4、子各:1/8 |
| 直系尊属のみ | 1/3 | 直系尊属全体で1/3を按分 |
| 兄弟姉妹のみ | なし | 遺留分なし |
遺言書と遺留分の優先関係――どちらが強いのか
相続における権利の優先順位は、「遺留分 > 遺言 > 法定相続分」となります。被相続人が遺言書を残していたとしても、その内容が遺留分を侵害している場合には、遺留分権利者は侵害相当額の金銭支払いを請求することができます(民法第1046条第1項)。
ただし、誤解しやすい点として「遺留分を侵害する遺言書は無効である」わけではありません。遺言書自体は法的に有効であり、形式に不備がなければその内容に従って相続手続きが進みます。遺留分権利者が行動しなければ、遺言書の内容はそのまま実行されます。遺留分を取り戻したい場合は、相続人が自ら「遺留分侵害額請求」という権利行使をしなければならない点に注意が必要です。
遺留分を請求できる人・できない人
遺留分侵害額請求ができるのは「遺留分権利者」に限られます。民法上、遺留分権利者として認められているのは以下の方々です。
- 配偶者
- 子(養子・認知された子を含む。代襲相続人も含む)
- 直系尊属(父母・祖父母など)
一方、被相続人の兄弟姉妹には遺留分が認められていません(民法第1042条第1項ただし書き)。遺言書によって兄弟姉妹への相続分が少なく設定されていたとしても、兄弟姉妹は遺留分侵害額請求をすることはできません。
また、以下に該当する場合は遺留分を請求する権利が失われることがあります。相続放棄をした場合は遺留分も含めたすべての相続権を放棄することになりますので、遺留分侵害額請求も認められません。また、被相続人の生前に家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄した場合(民法第1049条)も、同様に請求できなくなります。さらに、相続欠格事由(民法第891条)や相続廃除(民法第892条)によって相続権を失った場合にも、遺留分侵害額請求は認められません。
公正証書遺言でも遺留分は奪えない
「遺言書が公正証書遺言だから、遺留分の請求はできないのでは?」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、公正証書遺言であっても、その内容が遺留分を侵害している場合には、遺留分侵害額請求の対象となります。遺留分は民法によって保障された権利であり、遺言書の形式(自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言)を問わず、その内容に関わらず請求できます。
公証人が作成した公正証書遺言は形式的な有効性が高く、争われにくい面はありますが、それはあくまで遺言書の形式的な有効性に関する話です。遺留分の問題はまったく別次元の話であり、遺言書が有効に成立していることと、遺留分侵害額請求ができることは、矛盾なく両立します。横浜をはじめ全国の弁護士事務所にてこのような相談は日常的に扱われており、公正証書遺言があるからといって請求を諦める必要はありません。
「遺留分を放棄するように」という遺言の効力は?
被相続人が遺言書の中に「○○は遺留分を主張しないこと」「全員が本遺言の内容に従うこと」といった文言を記載することがあります。しかし、このような条項は法的効力を持ちません。遺留分は法律上認められた相続人の権利であり、被相続人が一方的に遺言で剥奪することはできないからです。
なお、遺留分の「放棄」が法的に認められるケースがあります。それは被相続人の生前に、相続人が家庭裁判所に申立てをして許可を得た場合です(民法第1049条第1項)。この手続きを経た場合のみ、遺留分を放棄することができます。被相続人の死後であれば、相続人が自ら請求しないという選択をすることは自由ですが、それはあくまで権利者自身の意思による選択であり、遺言によって強制されるものではありません。
遺留分侵害額請求の手続きの流れ
① 遺留分侵害額の計算
まず、遺留分がどの程度侵害されているかを把握するために、遺留分侵害額を計算します。計算の基礎となる「みなし相続財産」には、相続時の財産だけでなく、被相続人が生前に行った贈与(原則として相続開始前10年以内の贈与)も含まれます。また、特別受益(特定の相続人が受けた贈与など)の持戻しや、寄与分なども影響することがあるため、計算は複雑になる場合があります。
② 内容証明郵便による請求の意思表示
遺留分侵害額請求権には時効があります。「相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った日から1年」(民法第1048条)が経過すると権利が消滅します。知らなかった場合でも、相続開始から10年が経過すると請求できなくなります。そのため、遺言書の内容を知ったら早期に行動することが重要です。内容証明郵便で請求の意思表示をすることで時効の進行を中断させることができます(民法第150条)ので、まずはこの手続きを優先させましょう。
③ 当事者間の交渉・遺留分侵害額請求調停
内容証明郵便を送付した後、相手方と任意の交渉を行います。話し合いで合意に至ることができれば、費用・時間ともに最小限で解決できます。合意が得られない場合は、家庭裁判所に遺留分侵害額の請求に関する調停(調停申立)を申立てます。調停委員会が仲介し、話し合いによる解決を目指します。
④ 訴訟による解決
調停でも合意が得られない場合は、訴訟を提起することになります。遺留分侵害額請求訴訟は金銭の支払いを求める民事訴訟であり、地方裁判所(または請求額によっては簡易裁判所)に提起します。訴訟においては、遺留分侵害額の計算根拠をめぐって争いになることも多く、弁護士のサポートが実務上不可欠な場面が多くあります。
まとめ:遺言書の内容に納得できないときは早めに弁護士へ相談を
遺言書が存在していても、その内容が遺留分を侵害している場合には「遺留分侵害額請求」という法的手段が用意されています。遺言書の形式(自筆・公正証書)を問わず、遺留分は民法によって保障された相続人の権利です。しかし、この権利には「知った日から1年」という短い時効がありますので、遺言書の内容を確認したら、できるだけ早く専門家に相談することが大切です。
遺留分侵害額の計算、内容証明郵便の作成、相手方との交渉、調停・訴訟への対応と、一連の手続きには専門的な法律知識と交渉力が求められます。特に遺言書の解釈や財産評価をめぐって争いがある場合には、弁護士のサポートを受けることで適切な対応が期待できます。一人で抱え込まず、まずは専門家への相談をご検討ください。
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