誹謗中傷で刑事告訴する方法|名誉毀損罪・侮辱罪の要件と手続きを弁護士が解説
2026/04/06
誹謗中傷で刑事告訴する方法|名誉毀損罪・侮辱罪の要件と手続きを弁護士が解説
SNSや掲示板で心ない書き込みをされ、「法的に罰してほしい」「加害者に相応の責任を取らせたい」とお考えではないでしょうか。誹謗中傷の被害を受けた場合、民事上の損害賠償請求だけでなく、刑事告訴という手段も存在します。刑事告訴が受理されれば警察・検察が捜査に動き、加害者が逮捕・起訴される可能性があります。
しかし、刑事告訴には厳格な要件と手順があり、弁護士のサポートなしに進めようとすると告訴状が受理されないケースも少なくありません。本記事では、誹謗中傷に関する名誉毀損罪・侮辱罪の基本から、告訴の具体的な手順、民事請求との使い分けまで、弁護士が実務的な観点からわかりやすく解説します。
1. 誹謗中傷が該当する可能性のある刑事罰——名誉毀損罪と侮辱罪
インターネット上の誹謗中傷に対して適用が検討される主な刑事罰は、名誉毀損罪(刑法230条)と侮辱罪(刑法231条)の2つです。この2つは似ているようで要件が異なります。
名誉毀損罪(刑法230条)
名誉毀損罪は、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」場合に成立します。「事実の摘示」とは、具体的な出来事や事柄を示すことを意味し、その内容が真実かどうかは問いません。たとえば、「○○さんは不倫している」「○○社は詐欺まがいの商売をしている」などの書き込みが該当しえます。
法定刑は3年以下の懲役若しくは禁錮または50万円以下の罰金です(2025年6月1日以降、懲役・禁錮が統合され「拘禁刑」へ移行しています)。
侮辱罪(刑法231条)
侮辱罪は、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した」場合に成立します。「バカ」「死ね」「ゴミ」など、具体的な事実を指摘せず相手を貶めるような表現がこれにあたります。
2022年7月7日施行の刑法改正により、侮辱罪の法定刑は大幅に引き上げられました。改正前は「拘留または科料」という極めて軽い刑にとどまっていましたが、改正後は1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金または拘留若しくは科料となり、実刑や罰金刑が現実味を帯びるようになっています。
| 罪名 | 成立要件 | 法定刑(改正後) | 公訴時効 |
|---|---|---|---|
| 名誉毀損罪(刑法230条) | 公然と具体的事実を摘示して名誉を毀損 | 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 | 3年 |
| 侮辱罪(刑法231条) | 事実摘示なく公然と人を侮辱 | 1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金または拘留・科料 | 3年 |
名誉毀損罪・侮辱罪はいずれも親告罪です。被害者(または代理人)による告訴がなければ、検察官は起訴することができません。また、告訴は犯人を知った日から6か月以内に行わなければなりません。この期限を過ぎると告訴権が失われるため、早期の対応が重要です。
2. 刑事告訴と被害届の違い
警察への申告には「被害届」と「告訴」の2種類があり、混同されることがよくあります。両者は似ているようで法的な意味合いが異なります。
被害届は、「犯罪被害を受けたことを警察に申告する」手続きです。被害届を提出しても、捜査への強制力は生じず、警察の任意の判断で捜査が進みます。これに対して刑事告訴は、「犯罪事実を申告し、加害者の訴追(起訴)を求める意思表示」です。告訴が受理されると、捜査機関に捜査義務が生じます(捜査の範囲・程度には限りがありますが)。
誹謗中傷の被害については、被害届よりも刑事告訴のほうが法的効果は強くなります。ただし、告訴状は被害届よりも厳格な記載が求められ、受理の難易度も高いというのが実情です。
3. 刑事告訴の流れ——5つのステップ
刑事告訴を行う際は、以下のステップを順に進めていくことになります。
ステップ1:証拠の保全
まず、誹謗中傷の投稿内容をスクリーンショットや印刷で保全します。投稿のURL・日時・投稿者名(アカウント名)・本文をすべて記録してください。削除されると証拠が失われてしまうため、発見次第すぐに保存することが重要です。スクリーンショットは改ざんが難しいPCから撮影し、撮影日時がわかるように管理することをおすすめします。
ステップ2:投稿者の特定(発信者情報開示請求)
インターネット上の誹謗中傷では、投稿者が匿名の場合がほとんどです。告訴状には被告訴人(加害者)の特定が原則として必要なため、多くのケースでは先に発信者情報開示請求を行い、投稿者のIPアドレスや氏名・住所等を取得してから告訴に進みます。
2022年10月施行の改正プロバイダ責任制限法(現行では情報流通プラットフォーム対処法として再整理)により、発信者情報開示の手続きが整備されています。とくに2025年4月に施行された情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)のもとでは、大規模プラットフォーム事業者に対して削除対応や開示手続の迅速化が義務付けられており、実務上の投稿者特定スピードが以前より向上しつつあります。
ステップ3:告訴状の作成
告訴状には法定の書式はありませんが、以下の内容を漏れなく、かつ明確に記載する必要があります。
- 告訴人(被害者)の氏名・住所・連絡先
- 被告訴人(加害者)の氏名・住所(判明している場合)
- 告訴の趣旨(何罪で処罰を求めるか)
- 告訴事実(いつ・どこで・どのような書き込みがされたか)
- 告訴に至る経緯
- 証拠の一覧
特に「告訴事実」の部分は、犯罪の構成要件(名誉毀損罪や侮辱罪の要件)を意識しながら具体的・客観的に記載することが求められます。感情的な表現や余計な説明は省き、事実関係を簡潔にまとめることが受理のポイントです。弁護士に告訴状の作成を依頼すると、記載の精度と受理の可能性が高まります。
ステップ4:警察署への提出・受理
告訴状は、犯罪地または被告訴人の居住地を管轄する警察署に提出します。法律上、管轄外の警察署でも受理する義務がありますが、実務上は管轄署への提出がスムーズです。
残念ながら、誹謗中傷の告訴状は一度で受理されないケースも珍しくありません。証拠が不十分と判断されたり、構成要件の説明が不足していたりすると、補正を求められることがあります。弁護士が同行・代理するケースでは受理されやすくなる傾向があります。
ステップ5:捜査・送検・起訴
告訴状が受理されると、警察が捜査を開始します。捜査が進めば加害者が任意出頭または逮捕を経て検察に送致(送検)され、検察官が起訴・不起訴を判断します。名誉毀損罪の場合、不起訴となる割合は相応に高い(過去のデータでは67%程度)ですが、近年は侮辱罪の法定刑引き上げにより加害者への心理的プレッシャーが強まり、示談・謝罪に至るケースも増えています。
4. 刑事告訴のメリットと注意点
刑事告訴のメリット
刑事告訴の最大のメリットは、国家機関(警察・検察)が加害者に対して公権力で対応するという点です。民事の損害賠償請求では被害者側が費用・労力を負担して訴訟を提起しなければなりませんが、刑事事件化すれば捜査は国が行います。
また、告訴を受けた加害者が処罰を恐れて示談・謝罪・投稿削除に応じるケースも見られます。示談成立に伴い告訴を取り下げることで不起訴を狙う加害者側の動機から、被害者にとって有利な条件で示談交渉が進む場合があります。さらに、刑事事件として認定された事実は民事の損害賠償請求において有利な証拠にもなります。
刑事告訴の注意点
一方で注意すべき点もあります。まず、告訴が受理されても起訴に至る保証はなく、最終的に不起訴となるケースも少なくありません。また、告訴権には期限(犯人を知った日から6か月)があるため、投稿者を特定できた時点で速やかに対応する必要があります。
さらに、虚偽の事実に基づく告訴は「虚偽告訴罪」に問われる可能性もあります。根拠のない告訴は絶対に行わないようにしてください。
刑事告訴と民事請求(損害賠償・削除請求)は、目的が異なります。刑事は加害者への制裁・社会的責任の追及、民事は被害の回復(金銭賠償・投稿削除)が主目的です。実務上は両者を並行して進めることが多く、どちらを優先するかは被害の内容・目的・加害者の状況によって異なります。弁護士に相談してご自身の状況に合った戦略を立てることを強くおすすめします。
5. 刑事告訴に関するよくある疑問
Q. 投稿者が特定できていなくても告訴できますか?
氏名不詳のまま告訴状を提出することは法律上可能ですが、実務上は受理されにくい傾向があります。可能な限り発信者情報開示請求で投稿者を特定してから告訴に臨むことが効果的です。
Q. 告訴から逮捕まで、どのくらいかかりますか?
告訴受理から送検・逮捕に至るまでの期間は事案によって異なります。証拠が整っていて捜査がスムーズに進む場合は数か月以内に結果が出ることもありますが、複数の機関が関与する開示手続きを経る場合は1年前後かかることも珍しくありません。
Q. 侮辱罪の厳罰化後、実際に逮捕・起訴されるケースは増えましたか?
2022年の侮辱罪厳罰化後、SNSでの誹謗中傷に対して侮辱罪での逮捕事例が報じられるケースが増えています。ただし、起訴率はまだ高くなく、多くのケースでは起訴猶予(不起訴)となっています。とはいえ、加害者側のリスク認識が高まったことで、示談・謝罪への応じやすさは以前より向上していると言われています。なお、2025年6月1日からは「拘禁刑」が施行され、侮辱罪も拘禁刑(1年以下)の対象となっています。
Q. 告訴するには弁護士に頼まなければいけませんか?
法律上、告訴は本人でも行うことができます。ただし、告訴状の作成・受理・捜査対応など、専門的な知識が求められる局面が多く、弁護士のサポートを受けることで受理率の向上や手続きの円滑化が期待できます。特にネット誹謗中傷の案件は、発信者情報開示という前段階の手続きも伴うため、早期の段階から弁護士に相談することが望ましいといえます。
6. まとめ——刑事告訴は「戦略的な手段の一つ」として活用を
ネット上の誹謗中傷に対する刑事告訴は、加害者に刑事責任を問うための有力な手段です。名誉毀損罪・侮辱罪はいずれも親告罪であり、告訴期限(犯人を知った日から6か月)があることを忘れないでください。
告訴状の作成・受理・捜査対応はハードルが高く、投稿者の特定(発信者情報開示請求)から告訴、並行する民事請求まで一体として対応するには、誹謗中傷を専門とする弁護士のサポートが不可欠です。
「刑事で罰してほしい」「民事で損害賠償を取りたい」「まず投稿を削除したい」——どのような目的であれ、まずは専門家に状況を相談し、あなたのケースに最適な対応方針を立てることをおすすめします。
誹謗中傷の刑事告訴・削除請求・損害賠償請求はタングラム法律事務所へ
タングラム法律事務所では、ネット誹謗中傷に関する発信者情報開示請求・削除請求・損害賠償請求について、豊富な実績を有しております。刑事告訴をご検討の方も、まずはお気軽にご相談ください。告訴状の作成から投稿者特定まで、一貫してサポートいたします。
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