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VPN・海外サーバー経由の投稿者は特定できる?発信者情報開示の限界と対処法を弁護士が解説

VPN・海外サーバー経由の投稿者は特定できる?発信者情報開示の限界と対処法を弁護士が解説

VPN・海外サーバー経由の投稿者は特定できる?発信者情報開示の限界と対処法を弁護士が解説

2026/04/07

VPN・海外サーバー経由の投稿者は特定できる?発信者情報開示の限界と対処法を弁護士が解説

「VPNを使えば誰にも特定されない」——そう信じて誹謗中傷を繰り返すインターネット上の加害者が後を絶ちません。一方で被害を受けた方からは、「相手がVPNを使っていると弁護士に言われた。もう特定できないのか」という不安の声をよくお聞きします。

結論から申し上げると、VPNや海外サーバーを経由していても、必ずしも特定が不可能というわけではありません。しかし、国内からの通常の投稿に比べて手続きが複雑になることも事実です。本記事では、VPN・海外サーバーを使った投稿者の特定がどこまで可能なのか、技術的・法的な両面からわかりやすく解説します。

VPNとは何か——なぜ「特定が難しい」と言われるのか

VPN(Virtual Private Network)とは、インターネット通信を暗号化し、接続元のIPアドレスをVPNサーバーのIPアドレスに置き換えて通信する仕組みです。本来であれば、SNSや掲示板への投稿者のIPアドレスを照会すれば発信者を辿れますが、VPNを使われると投稿時のIPアドレスはVPNサーバーのものになるため、その先に誰がいるかが直接わからなくなります。

特に、VPNサーバーが海外に置かれている場合には、通信ログをVPN事業者が保有していたとしても、日本の裁判所が直接その開示を命じることができないという法的ハードルが生じます。この点が「海外VPN経由は特定できない」と言われる主な理由です。

加えて、近年では「ノーログポリシー」(通信ログを一切保存しないと宣言する方針)を採用したVPNサービスも普及しています。ノーログVPNの場合、仮に事業者が捜査協力に応じる意思があっても、提供すべきデータ自体が存在しないとされるため、投稿者特定がより困難になります。

VPN経由でも投稿者を特定できるケース

VPNを使っていたからといって、すべての場合に特定が不可能なわけではありません。以下のようなケースでは、発信者情報開示の手続きが有効に機能することがあります。

(1)VPN事業者が日本の法的手続きに協力する場合

VPN事業者の中には、海外に本拠を置いていても日本語サービスを提供し、日本のユーザーを主要顧客とする事業者があります。このような事業者に対しては、日本の裁判所が管轄権を認めた上で開示命令を発し、事業者側が任意または強制的にログを提供するケースがあります。また、事業者によっては「ノーログ」と標榜しながら実際には一部のデータを保持していたという事例も知られており、開示が奏功することがあります。

(2)SNS・掲示板側のログから特定できる場合

SNSや掲示板は、ログイン時や投稿時のIPアドレスをある程度の期間保存しています。加害者がVPNを使って投稿した後、同じアカウントを使って自宅のWi-Fiから(VPNなしで)ログインしてしまうケースは珍しくありません。こうした「VPNの切り忘れ」「アカウントの紐付け」によって、実際のIPアドレスが記録に残ることがあります。

(3)VPNがログを実際には保持していた場合

「ノーログ」を謳うVPNサービスでも、障害対応や不正利用防止のために一時的なログを保持していたことが発覚した事例が国内外で複数あります。事業者の実際の運用が宣言どおりとは限らないため、「ノーログだから絶対に安全」という加害者の思い込みが裏切られることがあります。

(4)他の証拠から総合的に特定できる場合

IPアドレスだけが特定手段ではありません。投稿の内容・文体・使用語彙・投稿時間帯・言及されている固有名詞など、複数の間接的な証拠を組み合わせることで、投稿者の属性や身元を絞り込めることがあります。また、複数のアカウントにまたがって同一人物と推定される書き込みが続いている場合、別の投稿経路から特定につながることもあります。

特定が困難・不可能になるケース

一方、現実問題として特定が非常に難しい状況があることも率直にお伝えする必要があります。

(1)真のノーログVPN+海外事業者の組み合わせ

厳格なノーログポリシーを実践している海外のVPN事業者(パナマ・ケイマン諸島など法的拘束力の弱い国に本拠を置くものを含む)が利用された場合、日本の裁判所の開示命令は直接には届きません。国際司法共助条約(MLAT: Mutual Legal Assistance Treaty)を通じた捜査協力の要請も理論上は可能ですが、民事事件では原則として利用できず、刑事事件でも相手国の協力が不可欠なため、現実的には非常に長い時間と高いハードルが伴います。

(2)Tor(トーア)ブラウザやプロキシを多段経由する場合

Torブラウザは複数の中継サーバーを経由して通信を匿名化する仕組みです。この場合、投稿元のIPアドレスを追うことは技術的にきわめて困難です。ただし、Torを経由した接続を拒否するプラットフォームも増えており、実際にTorを使ったまま投稿が成功するケースは限られています。

(3)ログの保存期限が経過している場合

プロバイダやVPN事業者がIPアドレスのログを保存する期間には限りがあります。投稿から時間が経過すると、ログが既に削除されてしまい、そもそも辿る手がかりがなくなることがあります。誹謗中傷の被害に気づいたら、早期に弁護士へ相談し証拠保全を行うことが非常に重要な理由の一つがここにあります。

海外VPN経由の発信者情報開示——法的手続きはどうなるのか

発信者情報開示の法律上の手続きは、2022年の改正プロバイダ責任制限法(現在は2025年4月施行の「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)」として再編)によって整備されています。国内の事業者に対しては、①開示命令(裁判所による命令)、②提供命令(経由プロバイダへの通知・提供を求める命令)、③消去禁止命令を組み合わせた非訟手続を利用することで、従来より迅速な開示が可能になりました。

しかし、海外事業者に対しては、これらの国内法上の命令を直接執行できません。海外事業者への対応は、大きく分けて以下の2つのアプローチが考えられます。

アプローチ 内容 現実的な難易度
現地の法的手続き VPN事業者の所在地国の裁判所に開示請求訴訟を提起する 高(費用・時間がかかり、現地弁護士が必要)
事業者への任意協力の要請 弁護士名義でVPN事業者に対して任意開示を求める書面を送付する 中(事業者の方針次第で協力が得られる場合がある)

なお、2025年9月には国際法学会でも「海外事業者に対する発信者情報開示手続と国際私法」が論点として取り上げられており(加藤紫帆・東京大学准教授)、学術・実務の両面でこの問題が注目されていることがわかります。今後の国際的な枠組みの整備に期待が集まっています。

【ポイント】 情プラ法(2025年4月施行)は、国内の大規模プラットフォームに対して削除申請への7日以内の対応や開示手続の透明化を義務付けましたが、海外に本拠を置くVPN事業者に対する開示手続の実効性を直接高めるものではありません。海外事業者が絡む案件では、引き続き従来の国際的なルートを通じた対応が必要です。

被害者として取れる対策——あきらめる前にできること

VPNや海外サーバーが絡む案件でも、被害者として取れる手立てがないわけではありません。以下のような対応を弁護士と連携して進めることが重要です。

① 証拠の早期保全

最初にすべきことは、問題の投稿のスクリーンショットと、そのURL・投稿日時・ページのHTMLソースを含む証拠の保全です。ログには保存期限があるため、被害を認識したらできる限り早く弁護士に相談してください。証拠保全公正証書(公証役場を利用した証拠保全)を活用すると、後の法的手続きで証拠の信用性が高まります。

② SNS・掲示板事業者への削除申請と情報開示請求

投稿が行われたプラットフォーム(X、Instagram、5ちゃんねる、爆サイなど)への削除申請と、そのプラットフォームが保有するIPアドレス等のログの開示請求は、VPN経由であっても手続きとして有効です。VPN利用のIPアドレスが記録されていても、そこからVPN事業者を特定して追跡の入口とすることができます。

③ アカウントの紐付けや他ログインの痕跡を確認する

SNSアカウントが複数の投稿をしている場合、VPN非使用時のログインが含まれている可能性があります。弁護士から事業者に対して複数の時点でのIPアドレス開示を求めることで、実際のIPアドレスが判明するケースがあります。

④ 刑事告訴・被害届の提出を検討する

民事の発信者情報開示では困難でも、警察が刑事事件として捜査を行う場合には、より強い権限(国際刑事警察機構:インターポールを通じた捜査協力要請など)を行使できる場合があります。名誉毀損罪(刑法第230条)や侮辱罪(刑法第231条。2022年改正で法定刑が引き上げられ、1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金等)での刑事告訴を視野に入れることで、捜査機関を通じた解決につながることもあります。

⑤ 削除請求に集中する選択肢もある

加害者の特定を諦めるわけではありませんが、まず被害の拡大を止めることが最優先の場合もあります。発信者の特定と並行して、または特定を一時的に後回しにしてでも、誹謗中傷の投稿そのものの削除を求めることで、名誉・精神的損害の継続を食い止めることができます。

VPNを使って誹謗中傷した側のリスク

「VPNを使えばバレない」という誤解を加害者側が持つことで、被害が深刻化するケースが後を絶ちません。しかし実際には、以下のようなリスクが現実に存在します。

  • VPNを使っていたにもかかわらず、「VPN切り忘れ」によって実IPアドレスが記録されていたケース
  • 「ノーログ」と称するVPN事業者が実際にはログを保持しており、捜査に協力したケース
  • 複数アカウントの言動・文体・情報が組み合わさり、周辺証拠として個人が特定されたケース
  • 刑事捜査において警察が国際捜査協力を通じてVPN事業者からログを取得したケース

インターネット上の「完全な匿名性」は幻想に近く、特に継続的な誹謗中傷行為を行っている場合、どこかで特定につながるリスクは常に存在します。

まとめ——VPN経由の案件こそ早めの専門家相談を

VPN・海外サーバー経由の投稿者特定は、国内からの通常の投稿に比べて困難なケースがあることは確かです。しかし、「不可能」ではなく「難しい場合がある」という正確な理解が重要です。

実際の案件では、①プラットフォーム側のIPログからVPN事業者を特定する、②VPN事業者への任意開示要請を行う、③アカウントのログイン履歴から実IPアドレスを探す、④刑事告訴を通じて捜査機関の力を借りる——といった複数の手段を組み合わせて解決を図ることになります。

こうした複雑な対応を適切に進めるためには、発信者情報開示の実務経験を豊富に持つ弁護士への早期相談が不可欠です。ログには保存期限があるため、時間との戦いでもあります。被害を受けたと感じたら、早めにご相談ください。

VPN・海外サーバー経由の誹謗中傷にお困りの方へ

タングラム法律事務所では、ネット誹謗中傷に関する発信者情報開示請求・削除請求・損害賠償請求について、豊富な実績を有しております。VPNや海外サーバーが絡む複雑な案件にも対応しておりますので、まずはお気軽にご相談ください。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的なご事情については、弁護士にご相談ください。

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