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相続人の一人が遺産を使い込んでいた場合の対処法|返還請求の手順を弁護士が解説

相続人の一人が遺産を使い込んでいた場合の対処法|返還請求の手順を弁護士が解説

相続人の一人が遺産を使い込んでいた場合の対処法|返還請求の手順を弁護士が解説

2026/04/07

相続人の一人が遺産を使い込んでいた場合の対処法|返還請求の手順を弁護士が解説

親が亡くなり、いざ遺産の整理を始めようとしたとき、「被相続人の預貯金が想定より大幅に少ない」「相続開始前後の時期に不自然な多額の引き出しが繰り返されている」といった状況に気づくことがあります。親の介護を担っていた兄弟や同居していた相続人が、被相続人の判断能力が低下していた時期を利用して預金を引き出していた、あるいは相続開始後に遺産を勝手に費消してしまった——そのような「遺産の使い込み」の疑いが浮かんだとき、他の相続人としてどのように対処すればよいのでしょうか。

本記事では、相続人の一人による遺産の使い込みが発覚した場合の対処法と、使い込まれた財産を取り戻すための法的手続きの流れをわかりやすく解説します。「証拠が手元にない」「誰に相談すればよいかわからない」という方にも参考になるよう、証拠収集の方法から訴訟手続きまで段階的にまとめましたので、ぜひ最後までお読みください。

遺産の「使い込み」とはどのような状況か

相続の場面における「使い込み」とは、主に以下のような状況を指します。

  • 被相続人が認知症などで判断能力が低下していた期間中に、同居の相続人や通帳・印鑑を管理していた親族が預金口座から多額の現金を引き出した場合
  • 被相続人から生活費の管理を委任されていた相続人が、被相続人自身の生活費・医療費として合理的に説明できる金額を大幅に超えて引き出していた場合
  • 被相続人が死亡した後、遺産分割協議が終わっていないにもかかわらず、一部の相続人が預金口座を解約したり残高を引き出して私的に流用した場合

いずれも「正当な権限」を超えた財産の流出であり、他の相続人の利益を侵害する行為に当たります。ただし、口頭で「返してほしい」と申し入れても「被相続人本人が使ったお金だ」「介護の手間賃だ」「本人の同意があった」などと言い逃れられるケースも多く、証拠なしに返還を求めても解決が難しいのが実情です。まずは冷静に証拠収集から始めることが重要です。

まず預金の取引履歴を確認する――証拠収集の第一歩

使い込みを疑ったら、まず被相続人名義の預貯金口座の取引履歴(入出金明細)を取り寄せることが第一歩です。相続人は、金融機関に対して被相続人の口座に関する取引履歴の開示を請求することができます。複数の金融機関に口座がある場合は、それぞれに請求する必要があります。

取引履歴を入手したら、以下の点に注目して確認します。

  • 不自然な高額引き出しが短期間に繰り返されていないか
  • 引き出しの時期が、被相続人の判断能力が低下していた時期(認知症の診断時期、入院時期など)と重なっていないか
  • 引き出し金額が、被相続人の生活費・医療費・施設費として合理的に説明できる範囲を超えていないか
  • ATM操作が困難なはずの時期に現金引き出しが頻繁に行われていないか

被相続人が介護施設に入所していた時期や入院中に多額の引き出しが行われていた場合、被相続人本人による引き出しでない可能性を示す重要な事情となります。介護記録、診療録・入院記録、ケアマネジャーの記録なども証拠として重要な役割を果たす場合があります。

ポイント:取引履歴は相続開始前後の数年分を取り寄せることが重要です。使い込みの始まりが被相続人の判断能力低下の時期と重なる場合、その関連性を示す証拠として活用できる場合があります。

弁護士照会制度を活用した調査

自力では入手が困難な金融機関の記録についても、弁護士に依頼することで「弁護士会照会制度」(弁護士法第23条の2に基づく照会)を活用した調査が可能になる場合があります。この制度を利用することで、複数の金融機関に対してまとめて被相続人の取引履歴の照会を行うことができ、調査の効率が大幅に高まります。

ただし、弁護士照会で調べられるのは原則として「被相続人名義の口座」の動きに限られます。使い込みを行ったと疑われる相続人本人の口座については、金融機関がプライバシー保護を理由に開示を断ることが多く、その場合は訴訟手続きにおける文書提出命令(民事訴訟法220条)の申し立てにより開示を求める方法が取られる場合があります。

証拠収集は使い込みの立証において最も重要かつ難しい局面であるため、疑いを抱いた段階で早めに弁護士に相談することをお勧めします。

法的手段① 不当利得返還請求

証拠の収集・整理ができたら、法的手段を選択します。使い込みに対する主な法的手段の一つが「不当利得返還請求」です(民法703条・704条)。

不当利得とは、法律上の正当な原因なく他人の財産から利益を受け、これによって他人に損失を生じさせることを指します。使い込んだ相続人が被相続人の預金を無断で引き出して自分のために費消していたのであれば、法律上の原因なく利益を受けていることになり、その返還を請求できる場合があります。

相続開始前の使い込みについては、共同相続人の各自が自己の法定相続分に対応する額を個別に請求できる場合があります。一方、相続開始後の使い込みについては、共同相続財産に対する侵害となるため、扱いが異なる場合もあります。

請求の根拠 民法の条文 時効(消滅時効)
不当利得返還請求 民法703条・704条 権利行使できると知った時から5年、または権利行使できる時から10年(民法166条)
不法行為に基づく損害賠償請求 民法709条 損害および加害者を知った時から3年、または不法行為の時から20年(民法724条)

法的手段② 不法行為に基づく損害賠償請求

もう一つの法的手段が「不法行為に基づく損害賠償請求」です(民法709条)。相続人が故意または過失によって不正に遺産を費消し、他の相続人に損害を与えた場合には、損害賠償として相当額の支払いを求めることができる場合があります。

不法行為に基づく損害賠償請求の時効は、損害および加害者を知った時から3年(人の生命または身体を害する場合は5年)、または不法行為の時から20年です(民法724条・724条の2)。不当利得返還請求と比較すると短期の時効が適用されることがあるため、注意が必要です。

実務では、不当利得返還請求と不法行為に基づく損害賠償請求を同時に主張するケースも多く見られます。どちらの法的構成がより有効かは事案の内容・証拠の状況によって異なるため、弁護士に相談したうえで方針を決定することが重要です。

遺産分割の場面での対処法――民法906条の2の活用

2019年(令和元年)7月1日の改正相続法の施行により、「遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合」についての規定が新設されました(民法906条の2)。

この規定によれば、遺産分割協議が整う前に一部の相続人が遺産を処分した場合でも、共同相続人全員の同意があれば、処分された財産も遺産分割の対象として存在するものとみなして分割することができます。また、処分を行った相続人以外の相続人全員が同意した場合にも適用できるとされています。

この規定を活用することで、たとえば「相続開始後に引き出された預金〇〇万円を、遺産分割において使い込んだ相続人の取得分から差し引く」という形での解決が図られる場合があります。ただし、実際の運用においては相続人間での合意が前提となるため、使い込みを否定している相続人がいる場合には、最終的に訴訟での解決が必要になることもあります。

参考:民法906条の2は、2019年7月1日以降に開始した相続について適用されます。それ以前に開始した相続の場合は適用外となる点にご注意ください。

時効に注意――早めの行動が権利を守る

遺産の使い込みに対する返還請求には時効があります。不当利得返還請求権については、権利行使が可能と知った時から5年、または権利行使が可能な時から10年で消滅する可能性があります(民法166条)。不法行為に基づく損害賠償請求権については、損害および加害者を知った時から3年(または不法行為の時から20年)という時効が適用されることがあります(民法724条)。

また、使い込みの事実が発覚して時間が経過すればするほど、金融機関に保存されている取引記録の開示を受けられなくなる可能性も生じます。一般的に、金融機関が取引記録を保管する期間には限りがあり、古い記録については開示を受けられないケースがあります。

「まだ大丈夫」「話し合いで解決できるかもしれない」と思っているうちに時効が完成し、権利が消滅してしまうリスクがあります。使い込みの疑いが生じた段階で、できる限り早期に弁護士に相談されることを強くお勧めします。

まとめ――使い込みを疑ったらまず弁護士にご相談を

相続人による遺産の使い込みは、証拠の収集から法的手段の選択・交渉・訴訟への対応まで、専門的な知識と経験が求められる問題です。証拠が十分でないまま相手に問い詰めても、事実を否定されてしまい、かえって関係が悪化するだけになってしまう場合もあります。

横浜・神奈川県内で遺産の使い込みに関するトラブルを抱えている方は、早期に弁護士に相談することで、取引履歴の調査・証拠収集・交渉・訴訟対応まで一貫したサポートを受けることができます。弁護士が代理人として交渉することで、相手方の態度が変わるケースも少なくありません。また、訴訟になった場合でも、適切な証拠に基づいて最大限の主張を行うことができます。

「どこに相談すればよいかわからない」「自分の場合は請求できるのか不安」という方も、まずはお気軽に弁護士までご相談ください。初回相談で状況を整理し、今後の対応策をご提案します。

遺産の使い込みに関するご相談は、お早めに

タングラム法律事務所では、相続や遺留分侵害額請求の事案について豊富な実績を有しております。遺産の使い込みが疑われるケースでも、証拠収集の段階からしっかりとサポートいたします。時効や証拠の保全は時間が勝負です。まずはお気軽にご相談ください。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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