オーナー経営者が知るべき「事業承継と遺留分」|相続トラブルを防ぐ対策を横浜の弁護士が解説
2026/04/24
オーナー経営者が知るべき「事業承継と遺留分」|相続トラブルを防ぐ対策を横浜の弁護士が解説
「自分が亡くなった後、後継者にすべての自社株式を引き継いでほしい」と考えるオーナー経営者は少なくありません。ところが、遺言書や生前贈与によって株式を後継者に集中させると、他の相続人から「遺留分侵害額請求」を受けるリスクがあります。この請求への対応を誤ると、後継者が多額の金銭を支払わなければならなくなったり、会社経営が不安定になったりする事態を招きかねません。
本記事では、事業承継における遺留分問題の基本から、経営承継円滑化法の民法特例を活用した対策まで、横浜の弁護士がわかりやすく解説します。
1.事業承継において「遺留分」がトラブルの原因になるケース
中小企業のオーナー経営者にとって、自社株式は最大の財産であることが多く、会社の経営権と直結しています。後継者(たとえば長男)に株式をすべて承継させたいと考えた場合、次男・長女など他の相続人の相続分が大きく減少することになります。
こうした場合、他の相続人は「遺留分侵害額請求権」を行使することが考えられます。具体的には、後継者が受け取った株式の評価額に基づいて算出された遺留分侵害額に相当する金銭を、後継者に対して請求するものです。
問題は、自社株式の評価額が高い場合、遺留分侵害額も相当な金額になる可能性があることです。後継者が請求に応じるための資金を手当てできなければ、金融機関からの借入れや会社資産の売却を余儀なくされ、事業継続に深刻な影響を与えることになりかねません。横浜の弁護士への相談でも、相続発生後にこのような深刻な状況となった事例は少なくありません。
2.遺留分とは何か――民法上の基礎知識
遺留分とは、相続において配偶者・子・直系尊属(父母等)という一定の法定相続人に対して、法律が保障する最低限の相続分のことです(民法第1042条)。被相続人が遺言や生前贈与によって財産を処分したとしても、遺留分権利者はこれを一定限度で取り戻すことができます。
遺留分の割合は次のとおりとされています。
| 相続人の構成 | 遺留分の総額(遺産全体に対する割合) |
|---|---|
| 直系尊属のみ(父母等) | 相続財産の3分の1 |
| 上記以外(配偶者・子などを含む場合) | 相続財産の2分の1 |
各相続人の個別の遺留分は、上表の遺留分総額に法定相続分の割合を乗じて算出します。たとえば相続人が配偶者と子2人の場合、子1人の遺留分は「遺産全体の2分の1 × 法定相続分4分の1 = 遺産全体の8分の1」となります。
なお、兄弟姉妹には遺留分が認められていません(民法第1042条第1項)。兄弟姉妹のみが相続人となる場面では遺留分の問題は生じません。
遺留分の算定基礎となる財産は、相続開始時の遺産に加え、一定期間内の贈与(相続人への贈与は原則10年以内、相続人以外への贈与は原則1年以内)も含まれます(民法第1043条・第1044条)。生前贈与による株式の移転も計算対象となりうる点に注意が必要です。
3.2019年民法改正で変わった「遺留分侵害額請求権」
2019年(令和元年)7月1日施行の改正民法によって、遺留分制度は大きく変更されました。事業承継の観点からとくに重要な変更点を確認しておきましょう。
改正前:物権的効力のある「遺留分減殺請求権」
改正前は「遺留分減殺請求権」と呼ばれ、遺贈・贈与の対象財産そのものの返還を求める物権的効力を持っていました。そのため、後継者が取得した自社株式に対して他の相続人が共有持分を取得し、会社の意思決定に支障をきたすケースがありました。後継者以外が株主として会社の経営に関与してくる事態も生じうるため、経営の安定性が大きく損なわれる恐れがありました。
改正後:金銭債権としての「遺留分侵害額請求権」
改正後の現行民法(民法第1046条)では、遺留分権利者が請求できるのは金銭の支払いのみとなりました。株式そのものの返還を求めることはできなくなったため、後継者が株式を失うリスクは大幅に低下しました。事業承継の観点からは重要な改善といえます。
ただし、後継者が多額の金銭を支払わなければならない点は変わりません。支払い資金の調達が困難な場合は、裁判所に対して支払期限の猶予を申し立てることが認められています(民法第1047条第5項)が、この措置はあくまで緊急避難的なものです。根本的な対策は事前に講じておくことが望ましいといえます。
4.経営承継円滑化法の「民法特例」を活用した遺留分対策
中小企業の円滑な事業承継を支援するために設けられた「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)は、遺留分に関する民法の特例を定めています。通常の民法規定では実現できない柔軟な遺留分対策を可能にする制度です。
①除外合意
後継者が先代経営者から受け取った自社株式等を、遺留分算定の基礎となる財産から除外することを、他の推定相続人全員の合意によって取り決める制度です。当該株式については遺留分侵害額の計算対象から外れるため、相続発生時の遺留分侵害額請求リスクを大幅に低減できます。
②固定合意
後継者が贈与を受けた自社株式等について、贈与時点の評価額を遺留分算定の基礎となる価額として固定することを、他の推定相続人全員の合意によって取り決める制度です。後継者が経営努力によって株式の価値を高めた場合でも、遺留分の算定には固定された贈与時の評価額が用いられるため、後継者の努力の成果が遺留分侵害額の増大に直結することを防ぐことができます。
民法特例の活用に必要な主な要件は次のとおりです。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 対象会社 | 中小企業基本法上の中小企業者(株式会社等)であること |
| 先代経営者 | 会社の代表者であった者(または現在の代表者)であること |
| 後継者 | 会社の代表者として経営を担っている者であること |
| 合意の範囲 | 先代経営者の推定相続人全員の書面による合意が必要 |
| 手続き | 経済産業大臣の確認 → 家庭裁判所の許可(この順で手続きが必要) |
5.その他の遺留分対策——生命保険・遺言・財産構成の見直し
民法特例以外にも、遺留分に備えるための手段はいくつかあります。複数の方法を組み合わせることで、より実効性の高い対策が可能となります。
生命保険の活用
後継者を受取人とする生命保険を準備しておくことで、遺留分侵害額請求が発生した場合の支払い資金を確保できます。生命保険金は原則として相続財産には含まれず(最高裁平成16年10月29日決定参照)、遺留分の算定基礎から除外される扱いを受けることが多いとされています。ただし、契約形態や保険金額の設定によって取り扱いが異なる場合もありますので、専門家への確認が必要です。
公正証書遺言の作成
後継者への株式承継の意思を公正証書遺言に明記しておくことで、相続発生時の法律関係を明確にし、遺産分割をめぐる紛争を抑制することができます。遺言書の存在自体が遺留分請求を防ぐ効果はありませんが、後継者が円滑に株式を取得するための重要な根拠となります。遺言書の作成は他の対策と組み合わせることで効果を発揮します。
後継者以外の相続人への代償財産の確保
自社株式とは別に、後継者以外の相続人が取得できる現預金・不動産等の財産を確保しておくことも有効な手段です。遺留分に相当する財産が別途確保されていれば、相続発生後に遺留分侵害額請求が実際に行われるリスクを低下させることができます。
持株会社(ホールディングス)の活用
持株会社を設立して事業承継を行う手法も選択肢のひとつです。株式評価額のコントロールや相続税対策と組み合わせることで、遺留分問題を含む法的リスクを総合的に軽減できる場合があります。ただし、設立・運営コストや税務上の取り扱いについての事前検討が不可欠です。
6.まとめ――事業承継の遺留分対策は早期着手が不可欠
事業承継における遺留分の問題は、対策を先延ばしにすると選択できる手段が大幅に限られてしまいます。経営承継円滑化法の民法特例を活用するには、推定相続人全員の合意と行政・司法手続きが必要であり、相応の準備期間を要します。生命保険の手当てや株式評価の最適化も、十分なリードタイムが必要な対策です。
「まだ先のこと」と思っているうちに先代経営者の健康状態が変化してしまうと、有効な手を打てないまま相続が発生するという事態になりかねません。後継者への円滑な経営移行を実現するためには、現時点から弁護士・税理士・金融機関と連携した包括的なプランを策定することが重要です。
横浜・神奈川エリアで事業承継や遺留分対策にお悩みのオーナー経営者の方は、ぜひタングラム法律事務所にご相談ください。自社株式の評価状況や家族構成、後継者の状況を踏まえた具体的な法的アドバイスをご提供しています。一人で悩まず、まずはお気軽にご連絡ください。
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