SNSのなりすまし・偽アカウント被害への法的対処法|削除申請・発信者情報開示・損害賠償を弁護士が解説
2026/04/24
SNSのなりすまし・偽アカウント被害への法的対処法|削除申請・発信者情報開示・損害賠償を弁護士が解説
ある日突然、自分の名前や顔写真を使った見知らぬアカウントがSNSに存在することに気づいた――そんな衝撃的な経験をされた方が年々増えています。なりすまし・偽アカウントは、本人の評判を傷つけるだけでなく、フォロワーや取引先に誤情報を広め、人間関係や仕事に深刻な影響をもたらすことがあります。
本記事では、SNSにおけるなりすまし・偽アカウント被害の実態を整理したうえで、偽アカウントの削除申請、発信者情報開示請求による犯人特定、民事・刑事の法的手続きまで、弁護士がわかりやすく解説します。
SNSのなりすまし被害とはどのような行為か
「なりすまし」とは、他人の氏名・顔写真・プロフィール情報などを無断で使用し、その人物になりきってSNSアカウントを作成・運営する行為です。具体的には以下のようなケースが代表的です。
- 本人の写真とほぼ同じプロフィール写真・ハンドルネームを使った偽アカウントを作成し、誹謗中傷を投稿する
- 芸能人や著名人になりすまして偽のDM・勧誘・詐欺行為を行う
- 企業・店舗の公式アカウントを装い、虚偽の情報や粗悪な商品の宣伝をする
- 元交際相手や知人になりすまして、その人の信用を意図的に失墜させる
総務省の相談窓口「違法・有害情報相談センター」への相談件数は急増しており、なりすまし関連の相談は2021年度の約50件から2023年度には1,600件超へと急騰しています。2025年以降も増加傾向が続いており、一般個人・法人を問わず深刻な問題となっています。
なりすましで問われる法的責任——適用される法律を整理する
なりすまし行為そのものを直接処罰する単一の法律は現時点では存在しません。しかし、なりすましに付随する行為によって、複数の法律が適用される可能性があります。
①名誉毀損罪・侮辱罪(刑法230条・231条)
偽アカウントを通じて「本人が行っていない不倫や犯罪行為をしたかのような投稿」を行った場合、名誉毀損罪(刑法230条)が成立しえます。名誉毀損罪の法定刑は3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金です。単に侮辱的な表現にとどまる場合は侮辱罪(刑法231条)が適用され、2022年の厳罰化改正により1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科されます。
②不正アクセス禁止法違反
他人のSNSアカウントにパスワードなどを無断使用してログインする行為(アカウント乗っ取り型のなりすまし)は、不正アクセス禁止法(不正アクセス行為の禁止等に関する法律)違反となります。法定刑は3年以下の懲役または100万円以下の罰金です。
③偽計業務妨害罪(刑法233条)
企業や個人事業主のアカウントになりすまして虚偽の情報を拡散し、業務を妨害した場合、偽計業務妨害罪が成立する可能性があります。法定刑は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
④プライバシー権・肖像権の侵害(民法709条)
本人の同意なく写真や個人情報を無断で使用する行為は、民法上のプライバシー権・肖像権の侵害として損害賠償請求の対象となります。
| 適用法律・権利 | 主な行為類型 | 法定刑・効果 |
|---|---|---|
| 名誉毀損罪(刑法230条) | 偽情報の拡散、虚偽の事実の投稿 | 3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金 |
| 侮辱罪(刑法231条) | 侮辱的な表現での投稿 | 1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 |
| 不正アクセス禁止法違反 | 他人のアカウントへの不正ログイン | 3年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
| 偽計業務妨害罪(刑法233条) | 虚偽情報による業務妨害 | 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
| プライバシー権・肖像権侵害(民法709条) | 写真・個人情報の無断使用 | 損害賠償請求の対象 |
被害を受けたときの対処法——5つのステップ
ステップ1:証拠保全(最初に必ずやること)
偽アカウントを発見したら、まず証拠を保全することが最優先です。プラットフォームへの通報後、偽アカウントが削除されると証拠が失われてしまいます。スクリーンショットでアカウントのURL、プロフィール情報、各投稿の内容・日時・投稿者名をすべて記録してください。Webページのアーカイブサービス(archive.ph等)を利用するとより確実です。
ステップ2:各SNSプラットフォームへの削除申請
各プラットフォームには、なりすまし・偽アカウントに対する専用の通報フォームが用意されています。
- X(旧Twitter):「なりすまし報告」専用フォームから申請。本人確認書類(運転免許証・パスポート等)の提出が必要なケースがあります。
- Instagram:投稿やプロフィールの「…」メニューから「報告する」→「なりすまし」を選択。本人確認書類の提出を求められる場合があります。
- Facebook:プロフィールの「…」→「サポートを受けるか報告する」→「なりすまし」から申請します。
- TikTok:アカウントプロフィールから「報告」→「なりすまし」を選択します。
プラットフォームの利用規約はなりすまし行為を明確に禁止しており、通報が受理されれば比較的速やかに対応される傾向があります。ただし、各社の判断に委ねられるため、必ずしも速やかに削除されるとは限りません。削除されない場合は、法的手続きへの移行を検討する必要があります。
2025年4月に施行された情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)のもとでは、一定規模以上の大規模プラットフォーム事業者は、権利侵害の疑いのある投稿等に対して7日以内に対応することが義務づけられています。これにより、従来よりも迅速な削除対応が期待できる場合があります。
ステップ3:発信者情報開示請求による犯人特定
偽アカウントを作成した犯人が匿名の場合、損害賠償請求や刑事告訴のためには、まず発信者(犯人)の身元を特定する必要があります。そのための法的手続きが「発信者情報開示請求」です。
手続きの流れは以下のとおりです。
- 第1段階:SNSプラットフォームへの開示請求 ― アカウント作成時・ログイン時のIPアドレスや携帯電話番号等の開示を求めます。任意開示に応じない場合は、裁判所に発信者情報開示命令(非訟手続)を申し立てます。
- 第2段階:インターネットプロバイダへの開示請求 ― 開示されたIPアドレスをもとに、対応するプロバイダに対して氏名・住所等の契約者情報の開示を求めます。
2022年の法改正(プロバイダ責任制限法改正)により、非訟手続が新たに創設され、従来の仮処分手続と比べて手続きの迅速化が図られています。さらに2025年4月施行の情プラ法では、大規模プラットフォーム事業者に対する開示手続がよりスムーズになっており、被害者にとって有利な制度整備が進んでいます。
ステップ4:損害賠償請求(民事)
犯人が特定できた場合、民法709条(不法行為)に基づく損害賠償請求が可能です。請求できる損害としては、精神的損害(慰謝料)のほか、弁護士費用、調査費用、業務上の損失などが挙げられます。なりすましの態様や被害の規模・期間によって慰謝料の額は異なりますが、長期間にわたって組織的に行われた悪質なケースでは、相当額の認容が見込まれることもあります。
ステップ5:刑事告訴
名誉毀損罪・侮辱罪は親告罪ですので、被害者自身が警察に告訴状を提出する必要があります。不正アクセス禁止法違反・偽計業務妨害罪は非親告罪であり、被害届の提出により捜査が開始されます。刑事手続きを追うことで、捜査機関が犯人を特定・逮捕し、刑事処罰が科される可能性があります。刑事手続きを進めながら、並行して民事の損害賠償請求を行う戦略が有効です。
情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)がなりすまし被害に与える影響
2025年4月1日に施行された情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)は、旧プロバイダ責任制限法を全面改正したものです。なりすまし・偽アカウント被害においても、次のような点で実務上の変化が生じています。
- 大規模プラットフォーム事業者への削除対応義務:一定の規模要件を満たすSNS等は、権利侵害情報の削除申請を受けてから原則7日以内に対応結果を申請者に通知しなければなりません。迅速な削除対応が期待できます。
- 発信者情報の開示手続の整備:非訟手続による開示命令申立が整備され、従来の仮処分申立と比較して手続きがシンプルになりました。「提供命令」「消去禁止命令」も活用することで、ログの消去を防ぎながら迅速に手続きを進めることが可能です。
- 運営状況の透明化:大規模プラットフォーム事業者は、削除対応状況の公表義務を負い、対応が形骸化しにくくなっています。
情プラ法はまだ施行から間もない法律であり、実務上の運用については今後の判例・行政指針の蓄積が重要になります。専門家とともに最新の動向を踏まえた対応をとることが望まれます。
弁護士に相談すべきケース
次のような状況に当てはまる場合は、早期に弁護士へ相談することをお勧めします。
- プラットフォームへの通報を行っても偽アカウントが削除されない
- 偽アカウントによる投稿が拡散し、仕事・人間関係・社会的信用に実害が生じている
- 犯人が誰なのかわからず、発信者情報開示請求を検討している
- 複数のプラットフォームにまたがって偽アカウントが存在する
- 企業・店舗へのなりすましで業務上の損害が発生している
- 元交際相手や知人が犯人と疑われるが証明できない
なりすまし被害への対処は、プラットフォームの利用規約・各国の法制度・技術的な制約が複雑に絡み合います。弁護士が介入することで、削除申請の書面作成、発信者情報開示請求の手続き遂行、損害賠償・刑事告訴まで一体的に対応でき、被害の拡大を防ぎながら実効的な解決を目指すことができます。
まとめ
SNSのなりすまし・偽アカウント被害は年々増加しており、放置すれば名誉・信用・業務に取り返しのつかない損害が生じることがあります。対処の手順を整理すると、①証拠保全 → ②プラットフォームへの削除申請 → ③発信者情報開示請求による犯人特定 → ④損害賠償請求(民事) → ⑤刑事告訴、という流れになります。
2025年4月施行の情プラ法により、削除申請の迅速化・開示手続の整備が進んでいますが、手続きには専門的な知識と迅速な対応が求められます。被害に気づいた段階で、できるだけ早く弁護士に相談することが解決への近道です。
SNSのなりすまし・偽アカウント被害でお悩みの方へ
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