誹謗中傷のリポスト(RT)・シェア・「いいね」でも訴えられる?拡散者の法的責任を弁護士が解説
誹謗中傷のリポスト(RT)・シェア・「いいね」でも訴えられる?拡散者の法的責任を弁護士が解説
SNSで他人の投稿をリポスト(旧リツイート・RT)したり、「いいね」を押したりする行為は、毎日何気なく行われています。しかし、「投稿したのは自分じゃないのだから、シェアしただけでは責任はないはずだ」と思っていたとすれば、それは大きな誤解です。
日本の裁判所は近年、誹謗中傷を含む投稿をリポスト・シェアした者に対しても、名誉毀損に基づく損害賠償責任を認める判断を積み重ねてきました。2024年には「いいね」を押す行為に関する最高裁の判断も確定し、SNSにおける拡散行為のリスクは以前にも増して現実的なものとなっています。
本記事では、最新の判例を踏まえながら、リポスト・シェア・「いいね」による拡散者の法的責任の範囲と、誹謗中傷の拡散被害を受けた方がとるべき対処法を解説します。
リポスト・シェアで名誉毀損が成立する法的根拠
名誉毀損とは、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損する行為(刑法第230条)や、故意または過失によって他人の権利・利益を侵害し損害を与える不法行為(民法第709条)を指します。重要なのは、これらの規定には「元の情報を作成した者だけが責任を負う」という限定はなく、拡散者もまた独立した不法行為者になり得るという点です。
リポストやシェアは、他人の投稿を自らのフォロワーや友人が閲覧できる状態に置く行為です。裁判所は、こうした行為を「リポスト者自身の表現行為」と評価しており、元投稿の内容が名誉毀損に当たる場合、拡散者も同様の責任を問われる可能性があります。
特に、コメントを付けずに行うリポスト(コメントなし拡散)については、裁判所は「元投稿の内容に賛同する意思を示す表現行為」と解釈する傾向があります。これは、シェアしただけで誹謗中傷の加害者になりうることを意味します。
リポスト・シェアに関する主要判例
(1)伊藤詩織氏関連事件(東京地裁令和3年11月30日判決)
ジャーナリストの伊藤詩織氏を誹謗中傷する内容を含むイラストが投稿された事件では、元の投稿者だけでなく、コメントなしでそのイラストをリポストした複数の者も訴えられました。
東京地裁は、リポスト行為について「元ツイートの内容に賛同する意思を示し、その内容を拡散させるリポスト者自身の表現行為と解するのが相当」と判示し、リポスト者それぞれに11万円の支払いを命じました。この判断は控訴審においても維持されています。
(2)漫画家イラストのリポスト事件(東京高裁)
別の事案でも、東京高裁は風刺イラストをリポストした医師に対して追加の賠償を命じました。高裁は、「イラスト内容に賛同する意思を示し、その内容を拡散させるリポスト者自身の表現行為である」と評価し、訴訟提起後もリポストを継続していた点も重く見ました。
(3)元府知事関連事件(大阪地裁)
元大阪府知事に対する誹謗中傷ツイートを、フォロワー約18万人を抱えるジャーナリストがリポストした事案では、大阪地裁が33万円の支払いを命じました。フォロワー数が多いほど拡散力が高く、被害が広範囲に及ぶことも判断に影響しています。
これらの判例が示す共通点は、リポスト者が投稿内容を認識したうえで拡散した場合には、単なる転載を超えた独立した表現行為と評価されるという点です。
「いいね」を押しただけでも法的責任は問われるか
「いいね」はリポストと異なり、投稿を直接拡散するわけではありません。そのため、法的責任が問われにくいと思われがちですが、日本の最高裁判所は2024年、「いいね」行為に対して損害賠償責任を認める判断を確定させています。
Twitter中傷投稿「いいね」訴訟(最高裁令和6年2月9日決定確定)
伊藤詩織氏を誹謗中傷する25件の投稿に繰り返し「いいね」を押した国会議員(当時)の行為が、名誉感情の侵害に当たるかどうかが争われた事件です。
東京高裁(令和4年10月20日判決)は、「いいね」行為の法的評価にあたって、①「いいね」を押した者の社会的立場(国会議員)、②被害者との従前の関係や対立の経緯、③25回にわたって繰り返されたという反復継続性を総合的に考慮しました。そのうえで、「いいね」が単なる抽象的な感情表示にとどまらず、被害者の名誉感情を侵害する不法行為に当たると判断し、55万円の支払いを命じました。この高裁判決は、最高裁判所第1小法廷(令和6年2月9日決定)で上告が棄却されて確定しています。
もっとも、「いいね」一度だけで不法行為が成立した例は少なく、一般ユーザーが特定の意図なく「いいね」を押したケースで責任を問われる可能性は現時点では低いと考えられます。ただし、特定の人物に対して繰り返し誹謗中傷投稿に「いいね」を押すような行動は、法的リスクがあることを認識しておく必要があります。
FacebookシェアやInstagramリポストにも同じ法理が適用される
リポストや「いいね」に関する判例の法理は、X(旧Twitter)に限らず、Facebook・Instagram・TikTok・Bluesky など、あらゆるSNSプラットフォームに適用されます。法律は特定のサービスを対象とするものではなく、行為の実質(他人の誹謗中傷を含む情報を拡散したか否か)によって判断されるからです。
2025年4月に施行された情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)により、X・Meta(Facebook・Instagram)・TikTok・Google・LINEヤフーなどは「指定大規模特定電気通信役務提供者」として規制の対象となり、削除申請への対応義務や発信者情報開示手続きの整備が進んでいます。これにより、プラットフォームを問わず投稿者・拡散者の特定が従来より容易になっています。
法的責任が認められやすいケース・認められにくいケース
リポストやシェアがすべて違法になるわけではありません。裁判所は、行為の目的・文脈・被害の程度などを総合的に考慮して判断します。
法的責任が認められやすいケース
- 誹謗中傷を含む投稿の内容を認識したうえで、コメントなしで賛同・拡散目的でリポストした
- 「この人は本当にひどい」などと同調するコメントを付けてシェアした
- 特定の人物に対して繰り返し誹謗中傷投稿に「いいね」を押した(反復継続性がある)
- フォロワー数が多く、拡散による被害が広範囲に及んだ
- 被害者と対立関係にある者が意図的に誹謗中傷投稿を拡散した
法的責任が認められにくいケース
- 「この投稿は問題だ」「これはデマです」など、批判・否定のコメントを明確に付けてシェアした
- 報道機関や研究者が問題のある投稿を分析・報告する目的で引用した
- シェアした時点では内容が虚偽または名誉毀損に当たると認識できなかった
なお、批判的なコメントを付けた引用であっても、文脈によっては拡散効果によって被害が増大するケースがあり、一概に安全とはいえません。内容に少しでも疑問を感じた場合は、シェアを控えることが最善の対応です。
拡散被害を受けた方がとるべき対処法
自分への誹謗中傷が拡散されている場合は、以下のステップで対処することを検討してください。
① 早急な証拠保全
まず、元の投稿およびリポスト・シェア・「いいね」をしているアカウント名、投稿のURL、投稿日時、本文内容をスクリーンショットで保存してください。SNS上の投稿は削除されると復元が困難になるため、被害に気づいた時点での早急な証拠保全が極めて重要です。スクリーンショットにはURLと日時が確認できる状態で保存することを推奨します。
② 情プラ法に基づく削除申請
2025年4月施行の情プラ法により、X・Facebook・Instagram・TikTokなど大規模プラットフォームは、削除申請を受けてから原則7日以内に対応の可否を判断し通知する義務を負っています。まず各プラットフォームの公式申請窓口からリポスト・シェアされた投稿の削除を申請しましょう。削除が認められれば、それ以上の拡散を防止できます。
③ 発信者情報開示請求で投稿者・拡散者を特定
誰がリポスト・シェアしているかが不明な匿名アカウントの場合、情プラ法・改正プロバイダ責任制限法に基〥く発信者情報開示請求を利用して、投稿者・拡散者のIPアドレスや氏名・住所などの情報開示を求めることができます。2022年10月に導入された「非訟手続(発信者情報開示命令事件)」により、以前は複数回必要だった裁判手続が1つの手続で完結できるようになっており、迅速な対応が可能になっています。
④ 損害賠償請求・刑事告訴
投稿者・拡散者が特定できたら、民法第709条に基〥く損害賠償請求を行うことができます。弁護士に依頼して内容証明郵便を送付し、示談交渉を試みるか、応じない場合は民事訴訟を提起します。また、誹謗中傷の内容が悪質であれば、名誉毀損罪(刑法第230条)や侮辱罪(刑法第231条)による刑事告訴も選択肢の一つです。
まとめ:「シェアしただけ」は言い訳にならない時代
「シェアしただけ」「いいねを押しただけ」では責任を問われないという感覚は、もはや現代の法的環境には当てはまりません。東京地裁・東京高裁・最高裁の一連の判断は、拡散行為を独立した表現行為として評価し、元投稿者と同様の法的責任を認める方向で積み重なっています。
SNSを利用する際には、リポストやシェアを行う前に投稿内容が他者の名誉を傷つけるものでないかを確認することが重要です。また、誹謗中傷の拡散被害を受けた場合は、早急に証拠を保全したうえで、弁護士に相談することをお勧めします。
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