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事業用賃貸借契約の「原状回復義務」とは?オーナーと借主の費用負担を横浜の弁護士が解説

事業用賃貸借契約の「原状回復義務」とは?オーナーと借主の費用負担を横浜の弁護士が解説

事業用賃貸借契約の「原状回復義務」とは?オーナーと借主の費用負担を横浜の弁護士が解説

2026/04/23

事業用賃貸借契約の「原状回復義務」とは?オーナーと借主の費用負担を横浜の弁護士が解説

店舗や事務所などの事業用物件からテナントが退去する際、「原状回復費用」をめぐってオーナー(貸主)とテナント(借主)の間でトラブルになるケースが後を絶ちません。「スケルトン返し」を求められ、数百万円単位の工事費を突然請求されるケースもあり、準備不足のまま退去交渉に臨んだ事業者が経営上の大きな打撃を受ける例も見られます。

事業用賃貸借契約における原状回復義務は、居住用の賃貸借とは異なるルールが適用される部分が多く、契約書の内容が費用負担の帰趨を大きく左右します。本記事では、横浜で企業法務を扱う弁護士の視点から、原状回復義務の基本・費用負担の線引き・トラブルを防ぐ実践的なポイントを解説します。

1. 原状回復義務の基本——民法の規定と国土交通省ガイドラインの位置づけ

原状回復義務とは、賃貸借契約が終了した際に、借主が賃貸物件を「貸し出された時点の状態に回復させる義務」のことです。民法第621条は、賃借人が賃貸借終了時に損傷を原状に復する義務を負うと定めつつ、「賃借人の責めに帰することができない事由」によるもの——すなわち通常の使用によって生じる損耗(通常損耗)や経年変化——については、この義務が及ばないと規定しています。この考え方は2020年(令和2年)施行の改正民法によって明文化されました。

また、国土交通省は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公表して費用負担の考え方を整理しています。ただしこのガイドラインは主として居住用賃貸借を念頭に置いたものであり、事業用物件には直接の適用はなく、あくまでも参考として活用できるものにとどまります。

2. 居住用と事業用では原状回復ルールが大きく異なる

居住用賃貸借では、消費者契約法による借主保護が働き、借主に不利な特約の有効性は厳しく審査されます。一方、店舗・事務所・倉庫などの事業用物件の賃貸借は消費者契約法の適用対象外です。貸主・借主ともに事業者として扱われるため、契約自由の原則がより強く働き、特約の有効性が認められやすくなります。

比較項目 居住用賃貸借 事業用賃貸借
消費者契約法の適用 あり(個人が借主の場合) なし(法人・事業者間)
国土交通省ガイドラインの適用 準用される傾向が強い 直接の適用なし
特約の有効性 要件が厳格 比較的認められやすい
通常損耗の負担 貸主負担が原則 特約次第で借主負担も有効
「スケルトン返し」特約 原則として無効になりやすい 有効と判断されることが多い

「スケルトン返し」とは、内装を全撤去して躯体(コンクリートむき出し)状態で返還することを求める特約です。事業用賃貸借では広く利用されており、この特約が有効と認められた場合、借主は内装解体・電気設備・空調・給排水設備の撤去費用など多額の工事費を全額負担しなければならない可能性があります。

3. テナント(借主)が負担する費用・オーナーが負担すべき費用

借主が負担するのは、主に①善管注意義務(民法第400条)違反による損傷と、②スケルトン返し等の特約で定められた範囲の原状回復です。善管注意義務違反の例としては、大型機器の設置による床・壁の破損、換気不足によるカビの発生、油煙による換気ダクトの汚損などが挙げられます。スケルトン返し特約が有効な場合、内装解体・電気設備・空調・給排水設備の撤去費用を全額負担しなければならないことがあり、物件の規模によっては工事費の合計が数百万円から一千万円を超えることもあります。退去時に突然このような請求を受けて経営上の打撃を受けるテナントも少なくないため、入居前の段階で特約内容をしっかり把握しておくことが重要です。

一方、原則として貸主(オーナー)が負担すべきものとして、建物自体の老朽化・経年劣化による損耗、入居前から存在していた傷・汚れ・設備不具合、耐用年数を超えた設備の自然消耗、貸主が管理すべき共用部分の修繕などがあります。ただし事業用物件では特約の内容によって、この「原則」が覆される場合があります。設備の修繕・交換費用を借主負担とする条項が盛り込まれていることも多く、契約書の細部まで確認することが重要です。

⚠️ 注意:事業用物件でも、特約の内容が著しく一方的で社会通念上の相当性を欠く場合には、その全部または一部が無効と判断される可能性があります。特約の有効性は個別事情による法的判断が必要です。

4. トラブルになりやすいケースと裁判例の傾向

原状回復をめぐるトラブルは退去時の費用精算場面で多発します。横浜地方裁判所でも、テナントと建物オーナーの間での費用負担をめぐる訴訟が多数処理されています。よくあるトラブルのパターンとしては、スケルトン返しの範囲(電気幹線・空調本体・排水管等を含むかどうか)をめぐる解釈の対立、入居時の現況記録がなく責任の所在が不明になるケース、オーナー指定業者による相場を大幅に上回る高額見積もりの提示、耐用年数を超えた設備の交換費用を全額借主に請求するケースなどが代表的です。

裁判例の傾向としては、スケルトン返し特約の内容が明確で、借主がその内容を理解して契約した場合には有効と認められることが多い一方、特約の内容が不明確・著しく不合理な場合や経年劣化を完全に無視した費用算定の場合には、特約が一部無効とされることもあります。また、入居時の状態を記録した証拠がない場合には借主が不利になりやすいため、現況確認書と写真の保存が極めて重要です。

5. 入居前・退去時のチェックポイント

トラブルを防ぐための実践的な確認事項を整理します。

入居前に確認すべきこと

  • 原状回復条項・特約の内容を正確に確認する(スケルトン返しの範囲・設備の扱い)
  • 入居時現況確認書を作成し、貸主・借主双方が署名する
  • 室内・設備を写真・動画で詳細に記録し、日付とともに保管する
  • 原状回復工事業者の指定条項・造作買取請求権の有無を確認する

退去前に行うべき準備

  • 貸主と立会い調査の日程を調整し、双方が確認する
  • 複数業者から工事見積もりを取得し、相場と比較する
  • 原状回復の範囲と費用について貸主と書面で合意する
  • 不当な請求には書面で異議を申し立て、記録として残す

6. 費用負担で折り合えない場合の法的手段と弁護士への相談

原状回復費用の負担をめぐって貸主と折り合えない場合、まず弁護士に相談のうえ内容証明郵便で法的な交渉意思を示すことが有効です。それでも解決しない場合は、裁判所の民事調停、または60万円以下の場合は少額訴訟(民事訴訟法第368条)、金額が大きい場合は通常訴訟の提起を検討することになります。また、民法第622条の2の規定に基づき、不当に返還が拒まれている敷金の返還請求を行うことも可能です。

原状回復トラブルは、退去後になってから相談を受けることが多いですが、退去前・退去交渉の段階で横浜の弁護士に相談することで、特約の有効性判断・費用の妥当性確認・交渉戦略の立案など、選択肢が格段に広がります。問題が生じた段階での早期相談をお勧めします。

事業用物件の原状回復・敷金返還でお困りの事業者様は、タングラム法律事務所にご相談ください。横浜を中心に企業法務・事業者間トラブルを多数手がける弁護士が、費用負担の妥当性や法的対応策について丁寧にご説明します。

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本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律相談ではありません。原状回復義務の範囲や費用負担の判断は、契約書の内容・物件の状況・個別の事情によって大きく異なります。具体的な案件については弁護士にご相談ください。

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