デジタル遺産(暗号資産・ネット口座・サブスク)の相続手続きと注意点|横浜の弁護士が解説
2026/04/23
デジタル遺産(暗号資産・ネット口座・サブスク)の相続手続きと注意点|横浜の弁護士が解説
「故人のスマートフォンに仮想通貨の取引アプリが入っていたが、どう手続きすればいいかわからない」「毎月引き落とされている定額課金サービスがいくつもあるが、解約できるのだろうか」――相続の現場では近年、このようなデジタル資産にまつわるご相談が急増しています。
従来の相続手続きは不動産や預貯金通帳など「目に見える財産」を前提としていましたが、今や財産の一部がスマートフォンやパソコンの中にだけ存在するケースは珍しくありません。本記事では、暗号資産(仮想通貨)、ネット銀行・ネット証券口座、サブスクリプションサービス、SNSアカウントなど、いわゆる「デジタル遺産」の相続手続きと注意点について、弁護士の視点からわかりやすく解説します。
デジタル遺産とは?その種類と法的な位置づけ
「デジタル遺産」とは、故人が保有していたデジタル形式の財産・アカウントの総称です。大きく分けると、経済的な価値をもつ「デジタル資産」と、経済的価値は乏しいものの故人の思い出や個人情報を含む「デジタル遺品」に区別されます。
| 種類 | 主な例 | 相続財産への該当 |
|---|---|---|
| デジタル資産 | 暗号資産(ビットコイン等)、ネット銀行口座、ネット証券・FX口座、電子マネー・ポイント | 原則として相続財産に含まれる |
| サブスク契約 | 動画・音楽配信サービス、クラウドストレージ、新聞・雑誌デジタル版 | 財産価値はないが解約手続きが必要 |
| デジタル遺品 | SNSアカウント、メール、写真・動画データ | 原則として財産分割の対象外(一身専属的権利) |
民法第896条は「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定めており、デジタル資産も同条に基づいて相続の対象となります。ただし、日本にはデジタル遺産を包括的に規律する専用の法律は現時点では存在しておらず、各サービスの利用規約や不正アクセス禁止法を個別に考慮しながら対応することになります。
暗号資産(仮想通貨)の相続手続きと注意点
ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産は、相続財産の一部として遺産分割協議の対象になります。手続きの流れは概ね次のとおりです。
①取引所・ウォレットの把握
まず、被相続人がどの暗号資産取引所に口座を持ち、どれくらいの残高があるかを確認します。スマートフォンのアプリや、パソコンのブラウザ履歴・登録メール、取引所から届いた郵便物などが手がかりになります。なお、ハードウェアウォレット(USBデバイス等)に保管されている暗号資産は取引所を介さないため、ウォレットの存在と秘密鍵・シードフレーズを把握できなければ事実上取り出せなくなる点に注意が必要です。
②取引所への相続手続き申請
口座を把握できたら、各取引所に対して名義人の死亡を通知し、相続手続きの申請を行います。必要書類は取引所によって異なりますが、一般的には死亡診断書(写し)、相続人であることを示す戸籍謄本、遺産分割協議書(または遺言書)、相続人本人確認書類などが求められます。
③相続開始後の取引禁止
相続手続きが完了するまでの間、被相続人の口座で勝手に売却や送金を行うことは避けてください。遺産分割協議が成立していない段階での無断取引は、他の相続人との間でトラブルになる場合があります。また、被相続人のスマートフォンやパソコンを早期に処分してしまうと、ウォレット情報やパスワードが永遠に失われる危険がある点も念頭に置いておきましょう。
ネット銀行・ネット証券口座の相続手続き
実店舗を持たないネット銀行や、オンライン専業の証券会社では、取引の履歴や残高証明書がすべてインターネット上にしか存在しないケースがあります。相続人が気づかないまま口座が放置され、休眠口座として長期間眠ってしまう事例も少なくありません。
調査の糸口としては、被相続人のメールアカウントに届いた口座開設通知・取引明細通知などを確認する方法が有効です。また、銀行や証券会社から郵送される書類(年間取引報告書など)が手がかりになることもあります。
手続き自体は、基本的には通常の金融機関と同様に、相続届(死亡の通知)、戸籍謄本、遺産分割協議書または遺言書、印鑑証明書等を準備して各社の相続担当窓口に申請することになります。ただし、各社によって手続き方法・書式・オンラインまたは郵送のみ対応といった違いがありますので、事前に公式サイトまたはカスタマーサポートで確認することをお勧めします。
サブスクリプションサービスの解約手続き
動画配信・音楽配信・クラウドストレージ・ニュースメディア購読など、月額・年額で課金される定額サービスは、契約者が死亡しても自動的に解約されることはありません。放置すると、登録されたクレジットカードや口座から料金が引き続き引き落とされ、遺産が目減りするおそれがあります。
まず契約内容を特定する
被相続人の銀行口座やクレジットカードの明細を確認し、定期的に引き落とされている項目をリストアップすることが第一歩です。スマートフォン(iPhoneならApp Store、AndroidならGoogle Play)の設定画面から「サブスクリプション」や「定期購入」を確認できる機能もあります。
解約手続きは各サービスへ個別に
解約方法はサービスごとに異なります。多くの場合、サービスのカスタマーサポートに死亡診断書と相続人であることを証明する書類を送付することで解約または承継の手続きができますが、ログイン情報(IDとパスワード)を知らないと手続きの窓口にたどり着けないことも少なくありません。
SNSアカウント・デジタルデータの扱い
FacebookやX(旧Twitter)、InstagramなどのSNSアカウント、メールアカウント、クラウドに保存された写真や動画は、一般的に「デジタル遺品」として扱われ、通常の遺産分割協議の対象とはなりません。これらは被相続人の一身に専属する権利・情報としての性格が強く、民法第896条ただし書きが適用される余地があります。
各SNSプラットフォームには、アカウント所有者の死亡時に向けた制度が設けられていることがあります。たとえばFacebookには「追悼アカウント」へ変換する制度があり、事前に「追悼アカウント管理人」を指定しておくことができます。一方で、アカウントの完全削除を希望する場合は遺族からの申請が必要です。対応できるかどうかや手続き方法はプラットフォームごとに異なるため、各社の公式サポートページをご確認ください。
また、クラウドストレージ(iCloud、Google Drive、Dropboxなど)内のデータは、サービス契約が解約・期限切れになると消去される可能性があります。家族の思い出の写真や重要な書類が保存されている場合は、早めにデータをバックアップしておくことが大切です。
デジタル遺産にかかる税金の注意点
暗号資産やネット証券口座の株式・投資信託は相続財産として相続税評価の対象となります。暗号資産の評価額は、原則として相続開始日(被相続人の死亡日)において、被相続人が利用していた取引所が公表している当日の売却価格(終値)で評価します。複数の取引所を利用していた場合は、相続人が選択した取引所の価格を用いることができます。活発な市場が存在しない暗号資産については、その内容・性質・取引実態等を勘案して個別に評価することになります。
さらに問題が複雑になるのは、相続した暗号資産を後日売却した場合です。この場合は相続税だけでなく、売却益に対する所得税・住民税(総合課税)も課税される可能性があります。暗号資産が大幅に値上がりしていたケースでは、相続税と所得税・住民税の合計が高水準になる傾向があり、あらかじめ税理士と連携して資金計画を立てておくことが重要です。
なお、2025年度税制改正の議論において暗号資産への申告分離課税の導入が検討されており、制度が変わると税率や計算方法が変わる可能性があります。最新の税務情報については必ず税理士等の専門家にご確認ください。
生前にできるデジタル遺産の整理と対策
デジタル遺産に関するトラブルの多くは、「どんな資産があるかわからない」「パスワードがわからない」という情報不足から生じます。被相続人が生前に整理しておくことで、遺族の負担を大幅に軽減できます。
具体的な対策としては、エンディングノートや専用のパスワード管理ツールを活用して、①利用中の金融機関・取引所の一覧、②各口座のID・パスワード・秘密鍵の保管場所、③サブスクリプション契約の一覧と解約方法、④SNSアカウントの処理に関する希望——をまとめておくことが有効です。なお、パスワードを遺言書に直接記載すると情報漏洩のリスクがあるため、別途保管した上で遺言書にはその保管場所のみを記載する方法が安全と考えられます。
また、信頼できる家族に利用中のサービスや資産の概要を伝えておくか、弁護士を遺言執行者に指定した上で必要情報を預けておくという方法も検討に値します。横浜などの弁護士事務所では遺言書の作成から執行まで一貫してサポートしているところも多く、デジタル遺産を含めた包括的な対策を相談することが可能です。
まとめ:デジタル遺産の相続に困ったら早めに弁護士へ
デジタル遺産の相続は、従来の相続手続きとは異なる専門知識と対応を必要とします。暗号資産の評価方法、各取引所への申請手続き、サブスクリプションの解約対応、さらには税金面の問題まで、複数の専門分野が絡み合っています。
特に、他の相続人との遺産分割で揉めているケースや、被相続人のデジタル資産の全貌が把握できていないケースでは、早い段階で弁護士に相談することが解決への近道となります。「デジタル遺産のことは後回しでいいか」と放置せず、まずは専門家への相談を検討してみてください。遺産分割協議が成立しないまま時間が経過すると、法的手続きが複雑になる場合もありますので、お早めにご相談いただくことをお勧めします。
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