生前贈与と相続はどちらが有利?税金面・遺留分リスクを弁護士が比較解説
2026/04/28
生前贈与と相続はどちらが有利?税金面・遺留分リスクを弁護士が比較解説
「生きているうちに財産を渡した方が得なのか、それとも相続まで待った方がよいのか」——親の財産をめぐる場面や、自分の財産を子や孫に移転したいと考えるとき、多くの方がこの問いに突き当たります。税金の問題だけでなく、後になって他の相続人から「遺留分を侵害された」と請求されるリスクも絡んでくるため、判断は容易ではありません。
本記事では、生前贈与と相続それぞれの税負担の違い、2024年(令和6年)の税制改正による影響、そして見落とされがちな遺留分侵害額請求のリスクについて、横浜の弁護士がわかりやすく解説します。どちらが有利かは個々の状況によって異なりますので、全体像を把握したうえで専門家への相談に臨んでいただければ幸いです。
生前贈与と相続の基本的な違い
「相続」とは、被相続人(亡くなった方)の財産を、死亡を原因として相続人が引き継ぐ手続きです。一方、「生前贈与」とは、贈与者が生存している間に受贈者に財産を無償で移転する契約であり、贈与契約(民法549条)に基づきます。
相続では相続税が、生前贈与では贈与税が課税されます。どちらの税が高くなるかは、財産の総額、相続人の人数、贈与の時期・金額・方法、そして後述する改正後のルールによって大きく変わります。単純に「贈与税は高い」「相続税の方が安い」と言い切れない場面が増えているのが現状です。
相続税の仕組みと基礎控除
相続税は、被相続人の遺産総額(みなし相続財産や生前贈与の持ち戻し分を含む)から基礎控除額を差し引いた残額に対して課税されます。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。たとえば相続人が配偶者と子2人の計3人であれば、3,000万円+600万円×3人=4,800万円が非課税となります。
税率は課税遺産総額に応じた累進課税で、10%(1,000万円以下)から最高55%(6億円超)まで設定されています。配偶者については「配偶者の税額軽減」により、法定相続分か1億6,000万円のいずれか大きい額まで相続税がかからないという優遇があります。遺産総額が基礎控除額以下であれば、相続税の申告・納税は不要です。
贈与税の仕組みと2つの課税制度
贈与税には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つの制度があります。
暦年課税
暦年課税では、1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与の合計額から基礎控除額110万円を差し引いた残額に対して贈与税が課されます。110万円以下であれば贈与税は非課税であり、贈与税の申告も原則不要です。税率は110万円超の部分について10%(200万円以下)から最高55%(3,000万円超)の累進課税となります。
毎年110万円ずつコツコツ贈与する「暦年贈与」は、長期的に見ると相続財産を圧縮できる節税手法として広く活用されてきました。ただし、後述する2024年改正によりその効果が縮小されている点に注意が必要です。
相続時精算課税
相続時精算課税は、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与に適用できる制度です。累計2,500万円まで贈与税が非課税(超過分には一律20%課税)となりますが、贈与者が亡くなった際に、贈与時の価額で相続財産に加算されて相続税が精算されます。
2024年(令和6年)1月1日以降、相続時精算課税に新たに年間110万円の基礎控除が設けられました。この年110万円以下の贈与分については贈与税が非課税となるだけでなく、相続時の加算対象にもなりません。これにより相続時精算課税の使い勝手が向上しましたが、一度この制度を選択すると暦年課税には戻れない点には注意が必要です。
2024年改正で変わった「生前贈与の持ち戻し」7年ルール
生前贈与と相続税の関係において、最も重要な改正が2024年1月1日から施行された「生前贈与加算期間の延長」です。
従来は、相続開始前3年以内に行われた暦年贈与は相続財産に加算されて相続税が課税される「持ち戻し」が行われていました。この期間が、2024年1月1日以降の贈与については最終的に7年間へと延長されました(令和5年度税制改正)。
2024年1月1日以降に行われた贈与から新ルールが適用されます。加算期間は段階的に延長され、令和13年(2031年)1月1日以降に開始した相続については加算期間が7年となります。なお、延長された4年分(相続開始前3年超7年以内)の贈与については、合計100万円まで相続財産への加算が不要という経過措置があります。
この改正により、亡くなる直前に駆け込みで贈与しても節税効果が薄れることになります。長期的な計画のもとで生前贈与を進めることの重要性がこれまで以上に高まっています。
| 制度 | 年間非課税枠 | 相続時の持ち戻し | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 暦年課税(改正後) | 110万円 | 死亡前7年以内の贈与を加算(段階的移行) | 長期計画が必要。遺留分への影響あり |
| 相続時精算課税(改正後) | 年110万円(新設)+累計2,500万円特別控除 | 年110万円超の贈与分は相続時に加算 | 一度選択すると暦年課税に戻れない |
| 相続(遺産分割) | 基礎控除3,000万円+600万円×相続人数 | ― | 配偶者控除など各種特例を活用可能 |
生前贈与が税務上「有利」になりやすいケースと注意点
生前贈与が相続よりも税負担を抑えられる傾向にあるケースとして、以下のような状況が挙げられます。
- 相続財産の総額が相続税の基礎控除を大きく超えており、相続税率が高くなる見込みの場合
- 十分な期間(7年超)をかけて計画的に暦年贈与を行い、相続財産を圧縮できる場合
- 将来値上がりが見込まれる財産(株式・不動産など)を、価値が低いうちに贈与税評価額で移転できる場合
- 相続時精算課税を利用して収益物件を早期に移転し、その後の賃料収入が受贈者側に蓄積される場合
一方で、相続財産の総額が相続税の基礎控除以下に収まる見込みの場合は、そもそも相続税が課税されないため、あえて贈与税を払ってまで生前贈与するメリットは薄い場合があります。また、小規模宅地等の特例(相続税評価額を最大80%減額)は相続時にのみ適用できるため、不動産を生前贈与するとこの特例を使えなくなる点にも注意が必要です。
見落としがちな遺留分侵害額請求のリスク
生前贈与を検討する際に、税金と並んでしっかり考えなければならないのが「遺留分」の問題です。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者・子・直系尊属)に保障された最低限の相続分のことです。被相続人が特定の人物に多額の財産を生前贈与した結果、他の相続人の遺留分が侵害されてしまった場合、その相続人は「遺留分侵害額請求」によって金銭の支払いを求めることができます(民法第1046条)。
相続人への生前贈与は「10年以内」が遺留分算定の対象
遺留分の算定基礎となる財産への算入期間は、贈与の相手方が誰かによって異なります(民法第1044条)。
- 相続人(法定相続人)への贈与:婚姻・養子縁組のためまたは生計の資本として受けた贈与(特別受益)であれば、相続開始前10年以内の贈与が遺留分算定の基礎に算入されます。
- 相続人以外への贈与:相続開始前1年以内の贈与が対象となります。ただし、双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をした場合(悪意)は、1年を超えた贈与も算入される場合があります。
つまり、「子どもには10年以上前に贈与したから大丈夫」と思っていても、それが特別受益に当たる場合は遺留分算定の基礎に含まれてしまう場合があります。一方で、孫や内縁の配偶者など相続人でない人への贈与は、1年以内のものに限って算入されるのが原則です。
生前贈与を受けた相続人自身の遺留分請求にも注意
遺留分侵害額請求をする側にも注意が必要な点があります。過去に特別受益となる生前贈与を受けた相続人が遺留分を請求しようとする場合、その受益分は遺留分侵害額の計算において自分の「取得分」として控除されます。しかもこの控除には「10年」という期間制限が適用されないため、30年前に受けた贈与であっても差し引かれる場合があります。生前贈与を多く受けていると、思ったほど遺留分侵害額が残らないケースもあり得ます。
生前贈与と遺留分トラブルを防ぐための主な対策
生前贈与に伴う遺留分トラブルを予防するために、次のような対策が考えられます。
- 遺留分を侵害しない範囲で贈与計画を立てる:相続財産の全体像を把握したうえで、他の相続人の遺留分を侵害しないよう贈与額を設計することが重要です。
- 公正証書遺言で贈与の趣旨を説明する:遺言書の付言事項に贈与の理由や他の相続人への配慮を記載することで、感情的なトラブルを和らげられる場合があります。
- 遺留分の事前放棄を活用する:相続開始前に家庭裁判所の許可を得て、特定の相続人に遺留分を放棄してもらうことが制度上可能です(民法第1049条)。ただし、放棄する相続人本人の真意に基づくものである必要があり、慎重な対応が求められます。
- 生命保険を活用する:死亡保険金は原則として「みなし相続財産」として扱われますが、相続財産そのものではないため、遺留分算定の基礎には原則算入されません。ただし、著しく不公平な場合には例外的に算入されることもあります。
まとめ:生前贈与・相続の選択は専門家への相談が不可欠
生前贈与と相続のどちらが有利かという問いには、一般的な正解がありません。相続財産の総額、相続人の構成、贈与のタイミングと金額、そして贈与を受ける相手が相続人かどうかなど、複数の要素が絡み合って結論が変わります。
2024年改正によって生前贈与加算期間が最終的に7年に延長されたことで、短期集中型の節税贈与の効果は薄れました。一方、相続時精算課税に年110万円の基礎控除が新設されたことで、この制度の活用余地は広がっています。税金面の最適解を探るには税理士との連携が欠かせませんが、遺留分トラブルが絡む場面では弁護士への相談が不可欠です。
横浜を拠点とするタングラム法律事務所では、相続に関する法律問題全般について、遺留分侵害額請求を含む豊富な実績をもとにご相談に対応しています。生前贈与をめぐるトラブルに直面している方、これから相続対策を検討したい方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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タングラム法律事務所では、相続や遺留分侵害額請求の事案について豊富な実績を有しております。生前贈与をめぐる遺留分トラブルや相続対策についてのご不安・疑問を、横浜の弁護士がていねいにお聞きします。
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