自分で支払督促を申し立てて売掛金を回収する方法|横浜の弁護士が解説
自分で支払督促を申し立てて売掛金を回収する方法|横浜の弁護士が解説
「請求書を何度送っても取引先が売掛金を払ってくれない」「弁護士に依頼するほどの金額ではないが、泣き寝入りはしたくない」——法務担当者のいない中小企業や個人経営の事業者の方から、こうしたご相談をよくいただきます。金額がそれほど大きくない売掛金の回収では、まずは自分で手続きを進められないかと考える方も少なくありません。
そうした場合の選択肢の一つが、簡易裁判所の「支払督促(しはらいとくそく)」です。この記事では、事業者ご自身で支払督促を申し立てて売掛金を回収する方法について、手続きの流れ・費用・オンライン申立ての方法から、自分で行う場合の限界までを、横浜の弁護士が解説します。
支払督促とは?売掛金回収に向いている理由
支払督促とは、金銭の支払いなどを求める債権者の申立てに基づき、簡易裁判所の裁判所書記官が、その主張から請求に理由があると認められる場合に、債務者に対して支払いを命じる書類(支払督促)を発する手続きです(裁判所ウェブサイト「支払督促」)。通常の訴訟のように法廷で争うのではなく、申立書などの書類審査のみで進められる点が最大の特徴です。
売掛金の回収で支払督促が使われやすいのは、次のような理由からと考えられます。
- 裁判所に出向く必要が原則ない:書類審査だけで進むため、審理のために期日に出頭する必要が原則ありません。本業がある事業者にとって負担が小さい手続きです。
- 費用が通常訴訟より抑えられる:申立手数料は、通常訴訟の場合の半額とされています。
- 請求金額に上限がない:60万円以下に限られる少額訴訟と異なり、支払督促には請求金額の上限がありません。
- 確定すれば強制執行の根拠になる:一定の要件を満たせば、相手の預金や売掛金などに対する強制執行の債務名義となります。
一方で、支払督促は相手(債務者)が「督促異議」を申し立てるだけで通常訴訟に移行してしまう手続きです。売掛金の存在そのものに争いがなく、単に相手が支払いを渋っている、資金繰りで滞納しているといったケースに向いていると解されています。取引の内容や金額について相手と食い違いがある事案では、後述するとおり別の手続きを検討したほうがよい場合があります。
支払督促手続きの流れ(申立てから確定まで)
裁判所ウェブサイトによると、支払督促の手続きは概ね次の流れで進みます。
① 申立て・書記官による審査
債権者が、相手(債務者)の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に対して支払督促を申し立てます。申立書に不備がなければ、裁判所書記官が審査のうえ支払督促を発付します。
② 支払督促の発付・送達
支払督促が発付されると、債権者には発付通知が届き、債務者には支払督促が送達されます。この送達がされて初めて、次のステップの起算点となります。
③ 債務者による督促異議(2週間以内)
債務者は、支払督促を受け取ってから2週間以内であれば「督促異議」を申し立てることができます。異議が申し立てられると、請求額に応じて簡易裁判所または地方裁判所の通常訴訟へ移行します。
④ 仮執行宣言の申立て(債権者側)
債務者から2週間以内に異議がなかった場合、債権者は、支払督促が送達された日の翌日から起算して2週間目の翌日から30日以内に、「仮執行宣言」の申立てをすることができます。この期間を過ぎると支払督促が効力を失うおそれがあるため、期限の管理が重要です。
⑤ 仮執行宣言付支払督促の送達・確定
仮執行宣言が発付されると、仮執行宣言付支払督促が債権者・債務者双方に送達されます。債務者はこれを受け取ってから再度2週間以内に督促異議を申し立てることができ、異議がなければ支払督促が確定します。確定した仮執行宣言付支払督促は債務名義となり、これに基づいて強制執行(差押え等)の申立てが可能になります。
申立てに必要な費用と書類
申立手数料
支払督促の申立手数料は、請求金額に応じて決まり、通常訴訟の場合の半額とされています。目安は次のとおりです(正確な金額は裁判所の「手数料早見表」でご確認ください)。
| 請求金額 | 通常訴訟の手数料(参考) | 支払督促の申立手数料(目安) |
|---|---|---|
| 10万円 | 1,000円 | 500円 |
| 50万円 | 5,000円 | 2,500円 |
| 100万円 | 10,000円 | 5,000円 |
| 200万円 | 15,000円 | 7,500円 |
なお、従来は申立手数料とは別に予納郵便切手が必要でしたが、民事訴訟手続のデジタル化に伴う改正により、郵便費用は申立手数料に一本化されました。現在は、申立手数料と郵便費用に相当する定額を合わせた金額を、原則としてペイジーで電子納付する扱いです。実際の総額は請求金額や納付方法によって変わるため、裁判所ウェブサイトの案内で最新の金額をご確認ください。
必要な書類
主な書類は次のとおりです。
- 支払督促申立書:当事者・請求の趣旨・請求の原因(いつ・どのような取引で・いくらの売掛金が発生したか)などを記載します。書式は裁判所ウェブサイトの「支払督促で使う書式」から確認できます。
- 当事者が法人の場合の登記事項証明書:申立人・相手方が法人の場合に必要です。
支払督促の段階では契約書などの証拠書類の提出は原則として求められませんが、督促異議が出て通常訴訟に移行した場合には、売掛金の発生を裏付ける証拠が必要になります。日頃から注文書・納品書・請求書・やり取りの記録などを整理しておくことが重要です。契約書を交わさずに取引を続けている場合のリスクについては、契約書なしで口頭取引を続けるリスクと証拠として残すべきものもあわせてご覧ください。
オンラインで申し立てる方法(mints・督促手続オンラインシステム)
従来、支払督促は紙の申立書を裁判所に提出する方法や、専用の「督促手続オンラインシステム」を利用する方法がありました。加えて、令和8年(2026年)5月21日以降は、民事裁判書類電子提出システム「mints(ミンツ)」を利用してオンラインで申立書を提出できるようになっています(裁判所ウェブサイト)。オンライン申立てでは、申立書をシステム上で作成・提出でき、収入印紙の貼付に代えてオンラインでの手数料納付が可能です。
また、督促手続オンラインシステムを利用する場合は、本来は相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てるところ、他の簡易裁判所の管轄事件であっても東京簡易裁判所の裁判所書記官に対して申立てができるとされています。いずれのシステムも利用にはアカウント登録などの準備が必要です。ご自身の事案でどの方法が使えるかは、裁判所ウェブサイトの案内を確認するか、申立先の簡易裁判所に問い合わせるのが確実です。
自分で行う場合の限界とリスク(弁護士に依頼した場合との違い)
支払督促は事業者ご自身でも申立てが可能な手続きですが、次のような限界・注意点があることも押さえておく必要があります。
- 相手が異議を出すだけで通常訴訟になる:督促異議には理由が要らないため、相手が「争う」という意思さえ示せば通常訴訟へ移行します。しかも訴訟は相手方の住所地を管轄する裁判所で行われるのが原則で、遠方の相手だと出頭の負担が生じます。
- 相手の所在が不明だと使えない:支払督促は書類が相手に送達されることが前提のため、相手が行方不明で送達できないケースでは利用が難しいと解されています。この場合は公示送達が可能な通常訴訟を検討することになります。
- 争いのある債権には不向き:金額や取引内容に食い違いがある事案では、異議が出て振り出しに戻りやすく、かえって時間がかかることがあります。
- 確定後の強制執行は別手続き:支払督促が確定しても自動的にお金が戻るわけではなく、相手が任意に支払わなければ、別途、財産を特定して強制執行を申し立てる必要があります。
弁護士に依頼した場合は、事案が支払督促に向いているかを見極めたうえで、必要に応じて内容証明郵便による督促、仮差押えによる財産の保全、訴訟、強制執行までを一貫して進めることができます。特に、相手に資産があるうちに動く必要がある場合には、初期段階から弁護士が関与するメリットがあると考えられます。取引先の経営状態が悪化しているケースでの回収については、取引先が倒産したら売掛金はどこまで回収できるかも参考にしてください。
よくある質問(FAQ)
支払督促と少額訴訟はどちらを選べばよいですか?
支払督促は請求金額に上限がなく、書類審査だけで手続きが進み出廷も不要なため、相手が支払いそのものを争っていないケースに向いていると解されています。一方、少額訴訟は60万円以下の金銭請求に限られますが、原則1回の期日で判決が得られます。相手が争う姿勢を見せている場合や証拠が必要な場合は、少額訴訟や通常訴訟のほうが適していることもあります。
相手が支払督促を無視したらどうなりますか?
債務者が支払督促を受け取ってから2週間以内に督促異議を申し立てなければ、債権者は仮執行宣言の申立てをすることができます。仮執行宣言付支払督促が確定すると、これが債務名義となり、相手の預金や売掛金などに対する強制執行の申立てが可能になります。無視されても手続きが前に進む点が支払督促の大きな特徴です。
相手が異議を出したらどうなりますか?
債務者が督促異議を申し立てると、請求額に応じて簡易裁判所または地方裁判所の通常訴訟へ移行します。訴訟は相手方(債務者)の住所地を管轄する裁判所で行われるのが原則で、証拠に基づく主張立証が必要になります。異議が出る可能性が高い事案では、最初から訴訟を見据えて準備しておくことが望ましいと考えられます。
相手の住所や所在が分からなくても支払督促は使えますか?
支払督促は債務者に書類が送達されることを前提とする手続きのため、相手の所在が不明で送達できない場合には利用が難しいと解されています。行方不明の相手に対しては、公示送達が可能な通常訴訟を検討することになります。所在確認が難しいケースでは、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ
支払督促は、簡易裁判所の書類審査だけで進み、通常訴訟の半額の手数料で申し立てられる、事業者にとって使い勝手のよい債権回収手続きです。相手が売掛金の存在を争っておらず、単に支払いが滞っているようなケースでは、自分で申し立てて回収できる可能性があります。オンライン申立ての整備も進んでおり、以前より手続きのハードルは下がっています。
もっとも、相手が異議を出せば通常訴訟に移行し、確定後の強制執行も別途必要になるなど、支払督促だけで解決しない場面もあります。相手が争いそうな事案や金額が大きく確実に回収したい事案などでは、早い段階で弁護士に相談することで、手続きの選択を誤らず、回収の可能性を高めることが期待できます。横浜・新横浜の弁護士として、事案に合った進め方を一緒に整理することをおすすめします。
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タングラム法律事務所では、企業法務(契約書レビュー・労務・法改正対応等)について、中小企業・個人経営の事業者向けに豊富な実績を有しております。支払督促・少額訴訟・通常訴訟・強制執行のどの手続きが適しているかの見極めから回収実行まで、事案に応じてサポートいたします。
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