フリーランス保護法とは?中小企業・発注事業者が知っておくべき義務と実務対応を弁護士が解説
2026/05/05
フリーランス保護法とは?中小企業・発注事業者が知っておくべき義務と実務対応を弁護士が解説
デザイン・IT開発・翻訳・ライティングなど、特定の業務を個人フリーランスに外注している中小企業や個人事業主の方は少なくないでしょう。しかし2024年(令和6年)11月1日、いわゆる「フリーランス保護法」が施行され、フリーランスへの業務委託を行う発注事業者には、これまでになかった新たな法的義務が課されることになりました。
「口頭で頼んでいるだけ」「請求書が来たら払えばいい」といった取引慣行が法令違反となるリスクも生じています。本記事では、フリーランス保護法の概要から中小企業・事業主が注意すべきポイントと実務対応まで、企業法務を専門とする弁護士の視点からわかりやすく解説します。
フリーランス保護法の概要と制定された背景
「フリーランス保護法」の正式名称は、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(令和5年法律第25号)といいます。2023年(令和5年)4月に成立し、2024年(令和6年)11月1日から施行されています。
近年、働き方改革の進展やデジタル化の影響を受け、フリーランスとして活動する個人が急増しています。内閣官房の調査によると、フリーランスとして働く人口は数百万人規模に上ると推計されており、その存在感は年々高まっています。一方で、報酬の一方的な減額や支払遅延、急な業務キャンセル、ハラスメントなどのトラブルも多数報告されてきました。
従来の「下請代金支払遅延等防止法」(下請法)は資本金規模に基づく適用要件があるため、中小企業やフリーランス個人との取引をカバーしきれないケースがありました。こうした保護の空白を埋め、フリーランスが安心して働ける取引環境を整備するために本法律が制定されました。
「特定受託事業者」と「業務委託」の定義を正確に理解する
フリーランス保護法は、すべての取引に適用されるわけではありません。まず、法律の適用対象となる用語の定義を正確に押さえておくことが重要です。
特定受託事業者(フリーランス側)
「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方となる事業者のうち、従業員を使用しない者をいいます(法第2条第1項)。個人事業主であっても法人(一人会社)であっても、従業員を雇用していなければ「特定受託事業者」に該当します。逆に言えば、一人でも従業員を雇っていれば、この法律の保護対象外となります。
業務委託(発注行為)
「業務委託」とは、事業者がその事業のために他の事業者に対して、物品の製造・加工、情報成果物(プログラム・デザイン等)の作成、または役務(清掃・コンサルティング等)の提供を委託することをいいます(法第2条第3項)。企業が外部に仕事を「外注」「アウトソーシング」する場面が広くこれに当たります。
発注側の区分と義務の違い
発注側(業務委託事業者)は、義務の範囲に応じて二つに区分されます。
| 区分 | 要件 | 課される主な義務 |
|---|---|---|
| 業務委託事業者 | フリーランスに業務委託をする全ての事業者 | 書面等による取引条件の明示 |
| 特定業務委託事業者 | 従業員を使用する事業者(または法人)が、フリーランスと継続的業務委託(1か月以上)を行う場合 | 書面明示+報酬支払期日の設定・禁止行為の遵守・ハラスメント対策・育児介護配慮・解除予告 など |
従業員を1人でも雇っている中小企業や法人が、フリーランスと1か月以上継続して取引する場合、「特定業務委託事業者」として幅広い義務を負うことになります。多くの中小企業がこれに該当すると考えられます。
発注事業者が負う主な法的義務
① 書面等による取引条件の明示(法第3条)
業務委託を行う際には、以下の事項を書面またはメール・チャットツール等の電磁的方法により、業務委託の開始前に明示しなければなりません。これは継続・非継続を問わず、すべての業務委託に適用されます。
- 業務の内容
- 報酬の額(算定方法)
- 支払期日および支払方法
- 業務委託期間
- 成果物の種類・量・品質(該当する場合)
- 成果物の提供方法・場所(該当する場合)
② 報酬支払期日の設定と厳守(法第5条)
継続的業務委託においては、役務の提供等を受けた日から起算して60日以内の日を支払期日として設定し、その期日内に報酬を支払うことが義務付けられています。長期間にわたる支払猶予を設ける取引慣行は認められなくなりました。
③ 契約の中途解除・不更新の事前予告(法第16条)
1か月以上の継続的業務委託を中途解除する場合、または期間満了時に更新しない場合には、原則として30日前までに予告しなければなりません。急な業務打ち切りや更新拒絶は、フリーランス側の生活に重大な影響を与えることから、事前通知が義務化されました。
特に注意すべき「禁止行為」の内容
継続的業務委託を行う「特定業務委託事業者」には、フリーランスに対する以下の行為が禁止されています(法第5条)。下請法の規制と類似した内容ですが、フリーランスとの取引にも明示的に適用されます。
| 禁止行為 | 具体例 |
|---|---|
| 受領拒否 | 正当な理由なく、フリーランスが納品した成果物の受け取りを拒む |
| 報酬の減額 | 発注後に一方的に報酬を引き下げる |
| 返品 | 正当な理由なく成果物を返品する |
| 購入・利用強制 | 不要な商品やサービスを購入させる |
| 不当な経済上の利益提供要請 | 協賛金・値引き・無償サービスなどを強要する |
| 不当な給付内容の変更・やり直し強制 | 合理的な理由なく業務内容を変更し、無償でやり直しを命じる |
また、ハラスメント(セクシュアルハラスメント・パワーハラスメント・マタニティハラスメント等)を防止するための体制整備も特定業務委託事業者の義務です(法第14条)。さらに、フリーランスから育児・介護・疾病を理由とする申し出があった場合には、必要な配慮を行う努力義務も課されています(法第13条)。
違反した場合のリスクとペナルティ
フリーランス保護法の義務に違反した発注事業者に対しては、主務官庁(公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省)が次のような措置を講じる可能性があります。
- 指導・助言:まず行政指導が行われます。
- 勧告:違反が改善されない場合、公式な勧告が行われます。
- 命令:勧告に従わない場合は是正命令が発せられ、命令違反には100万円以下の罰金が科される可能性があります(法第34条)。
- 氏名・名称の公表:勧告・命令を受けた事業者の名称が公表される可能性があります。
中小企業が今すぐ取り組むべき実務対応チェックリスト
フリーランス保護法への対応として、以下のステップを参考にしてください。横浜の弁護士への早期相談も有効な手段の一つです。
STEP 1|現状の取引を棚卸しする
自社がフリーランス(従業員を使用しない個人・法人)に業務委託しているケースをすべてリストアップします。取引期間・金額・契約形態を確認しましょう。
STEP 2|書面による条件明示を徹底する
口頭や慣習で発注していた取引は、メールや書面での条件明示に切り替えます。記載内容(業務内容・報酬額・支払期日等)が法定事項を満たしているか確認します。
STEP 3|業務委託契約書を整備・更新する
継続的に業務委託している場合は、改正法の要件を満たした契約書を新たに締結するか、既存契約書を見直します。特に報酬支払期日(60日以内)や解除予告条項(30日前)の記載を確認してください。
STEP 4|社内周知・担当者教育を行う
フリーランスへの発注を担当する従業員や管理職に対して、禁止行為・ハラスメント対策について社内研修や通知を実施しましょう。
STEP 5|弁護士に相談して契約書・ルールを点検する
契約書の作成・修正、現行の取引慣行の適法性チェックについては、企業法務を専門とする弁護士に相談することをお勧めします。個別の事情を踏まえた適切なアドバイスを受けることができます。
まとめ:フリーランス保護法は中小企業にも無関係ではありません
フリーランス保護法は、フリーランスとの取引を行うすべての事業者に影響を及ぼす法改正です。「規模が小さいから関係ない」という認識のまま従来の取引慣行を続けることは、法令違反を招くリスクがあります。
特に書面等による取引条件の明示義務は、継続・非継続を問わずすべての業務委託に適用されます。継続的業務委託を行っている中小企業は、報酬支払期日の設定・禁止行為の遵守・ハラスメント対策・解除予告など、幅広い義務を負います。今一度、自社のフリーランスとの取引を見直していただくことをお勧めします。
「自社の取引はこの法律の対象になるのか」「既存の契約書を修正する必要があるか」といったご不明点は、お気軽に弁護士にご相談ください。横浜を拠点とするタングラム法律事務所では、企業法務の豊富な経験を持つ弁護士が、中小企業・個人事業主の皆様の取引適正化をサポートしております。
フリーランスとの取引、法令を満たした契約書になっていますか?
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