発信者情報開示請求の流れと費用——弁護士が手順・期間・相場をわかりやすく解説
2026/05/05
発信者情報開示請求の流れと費用——弁護士が手順・期間・相場をわかりやすく解説
「SNSや掲示板に根拠のない悪口を書かれた。相手を特定して責任を取らせたい」——そう思っても、インターネット上の投稿は匿名であることがほとんどです。相手が誰なのかわからなければ、謝罪を求めることも、損害賠償を請求することも、刑事告訴することもできません。
こうした状況を打開するための制度が発信者情報開示請求です。法律の力を使って、プラットフォームやプロバイダに投稿者の氏名・住所などの個人情報を開示させることができます。
ただ、「どんな手続きが必要なのか」「費用はどれくらいかかるのか」「本当に特定できるのか」といった疑問を抱える方は多いでしょう。本記事では、発信者情報開示請求の仕組み・流れ・費用・期間を、2025年4月施行の法改正の内容も含めて詳しく解説します。
発信者情報開示請求とはどんな制度か
発信者情報開示請求は、インターネット上で名誉毀損・侮辱・プライバシー侵害などの権利侵害を受けた被害者が、SNSや掲示板の運営会社(コンテンツプロバイダ)やインターネット接続業者(アクセスプロバイダ)に対して、投稿者の個人情報の開示を求める制度です。
根拠となる法律は、もともと「プロバイダ責任制限法」と呼ばれていましたが、2024年5月に改正法が成立し、2025年4月1日より「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」(情報流通プラットフォーム対処法)として施行されています。法律名は変わりましたが、発信者情報開示請求の基本的な仕組み自体に大きな変更はありません。
開示を求めることができる情報は主に次のとおりです。
- 投稿者の氏名・住所
- 電話番号・メールアドレス
- 投稿時のIPアドレス・タイムスタンプ
開示請求が認められるための要件
発信者情報の開示は、以下の要件をいずれも満たす場合に認められます。
①権利が侵害されていること(違法性)
投稿内容が被害者の権利を違法に侵害していることが必要です。名誉毀損(事実の摘示によって社会的評価を低下させる表現)、侮辱(根拠なく人格を貶める表現)、プライバシー侵害(個人情報の無断公開)、業務妨害などが主な類型です。
②権利侵害が「明らか」であること
ただの不快な表現ではなく、法的に権利を侵害していることが客観的に明らかである必要があります。批判や意見の表明にとどまるものは、権利侵害と評価されないことがあります。
③開示を求める正当な理由があること
投稿者に対して損害賠償請求や刑事告訴をするために必要である、といった理由が求められます。単なる好奇心での開示請求は認められません。
発信者情報開示請求の流れ——2ステップで投稿者を特定する
投稿者を特定するには、通常2段階の手続きを踏む必要があります。これは、SNSなどのコンテンツプロバイダはIPアドレスまでしか把握しておらず、氏名・住所まで知っているのはアクセスプロバイダであるためです。
STEP 1:コンテンツプロバイダへの開示請求(IPアドレスの取得)
まずX(旧Twitter)・Instagram・5ちゃんねるなどの投稿サイトに対して、投稿時のIPアドレスとタイムスタンプの開示を求めます。任意開示に応じるケースもありますが、多くは裁判所への発信者情報開示命令の申立て(非訟手続)が必要です。
STEP 2:アクセスプロバイダへの開示請求(氏名・住所の取得)
取得したIPアドレスをもとに、そのIPアドレスを割り当てたインターネット接続業者(NTT・ソフトバンクなど)に対して、契約者の氏名・住所の開示を求めます。こちらも任意開示が難しければ、同じく裁判所への申立てが必要です。
2022年改正で手続きが一本化——「非訟手続(発信者情報開示命令申立て)」とは
2022年10月の法改正前は、コンテンツプロバイダへの仮処分申立て→アクセスプロバイダへの訴訟提起、と複数の裁判を別々に起こす必要があり、費用も時間も大きな負担でした。
改正後は、一つの裁判所に一件の事件番号で申し立てる「発信者情報開示命令申立て(非訟手続)」という新制度が創設されました。非訟手続は口頭弁論が不要で、裁判所の職権による調査が可能なため、従来の手続きより大幅に迅速化されています。
| 比較項目 | 改正前(旧制度) | 改正後(現行制度) |
|---|---|---|
| 手続きの数 | 仮処分+訴訟(複数) | 原則1件の申立てで完結 |
| 所要期間 | 1年〜1年半程度 | 最短3〜6ヶ月程度 |
| 裁判の種類 | 仮処分(民事保全)+訴訟 | 非訟手続(決定で終局) |
| 口頭弁論 | 訴訟では必要 | 原則不要 |
この新制度の普及を受けて、申立件数は急増しています。2024年上半期の全国の申立件数は約2,979件と、2023年上半期(約1,575件)のほぼ2倍に達しています(企業法務ナビ報道より)。手続きの敷居が下がり、被害者が声を上げやすくなったといえるでしょう。
発信者情報開示請求にかかる費用の相場
費用は大きく「弁護士費用」と「裁判所費用」に分かれます。
弁護士費用
弁護士費用は事務所や事案の複雑さによって異なりますが、一般的な相場は次のとおりです。
| 費用の種類 | 目安 |
|---|---|
| 着手金(開示請求のみ) | 15万〜35万円程度 |
| 成功報酬(投稿者特定成功時) | 10万〜30万円程度 |
| 合計(開示請求全体) | 30万〜70万円程度 |
事務所によっては成功報酬型(特定できた場合のみ費用が発生)のプランを設けているところもあります。特定後に損害賠償請求や刑事告訴まで依頼する場合は、別途費用が加算されます。
裁判所費用
申立てに必要な収入印紙代・郵便切手代などの実費は、数千円〜数万円程度です。弁護士費用と比べれば小さな割合です。
開示請求にかかる期間と注意点
非訟手続の活用により、現在は最短3〜6ヶ月程度で投稿者の氏名・住所まで特定できるケースが増えています。ただし、以下の点には注意が必要です。
ログの保存期間が過ぎると特定が困難になる
アクセスプロバイダが保存する通信ログ(接続記録)には保存期間があります。一般的には3ヶ月〜6ヶ月程度とされており、この期間を過ぎると投稿者の特定が事実上不可能になることがあります。誹謗中傷の投稿を発見したら、できるだけ早く弁護士に相談することが重要です。
必ずしも特定できるとは限らない
VPNや海外サーバーを経由した投稿、公共Wi-Fiからの投稿、ログが既に消去されているケースなどは、特定が困難になる場合があります。事案ごとに特定の見込みは異なりますので、弁護士への個別相談をお勧めします。
海外プラットフォームは開示に時間がかかることがある
X(旧Twitter)や Meta(Instagram・Facebook)などの海外企業は、法律上の義務が認められても実際の開示手続きに時間がかかるケースがあります。ただし、情報流通プラットフォーム対処法の改正により、大規模プラットフォーム事業者に対する義務が強化されており、今後は改善が期待されます。
弁護士に依頼するメリット
発信者情報開示請求は法律上は自分で行うこともできますが、実務上は弁護士への依頼をお勧めします。その理由として、次の点が挙げられます。
- 権利侵害の見極め:投稿が法的に「権利侵害」に当たるかどうかの判断は容易ではなく、見誤ると申立てが却下されます。
- 手続きの複雑さへの対応:非訟手続といえど、裁判所への申立書類の作成や、プロバイダとのやり取りには専門的な知識が必要です。
- 証拠保全のサポート:投稿のスクリーンショットや保全方法について適切なアドバイスが受けられます。
- 特定後の対応まで一貫して依頼できる:投稿者が特定できた後の損害賠償請求・謝罪要求・刑事告訴まで、同じ弁護士に継続して依頼できます。
まとめ——早期相談が特定成功の鍵
発信者情報開示請求は、2022年の法改正によって大幅に利用しやすくなりました。非訟手続(発信者情報開示命令申立て)の活用により、従来1年以上かかっていた手続きが最短3〜6ヶ月程度に短縮され、申立件数も急増しています。
ただし、通信ログの保存期間という「タイムリミット」が存在する以上、被害を受けたと感じたら一刻も早く専門家に相談することが、投稿者特定の成否を分けることになります。費用や手続きについてわからないことがあれば、まず弁護士への初回相談を活用してみてください。
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タングラム法律事務所では、ネット誹謗中傷に関する発信者情報開示請求・削除請求・損害賠償請求について、豊富な実績を有しております。「誰が書いたのか特定したい」「どのくらい費用がかかるか知りたい」といったお問い合わせだけでもお気軽にご相談ください。証拠保全の方法から手続き全体のロードマップまで、丁寧にご説明いたします。
法律相談の予約はこちら※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な法的判断については、弁護士にご相談ください。
※本記事は2026年5月時点の法令・実務に基づいて作成しています。法改正等により内容が変更になる場合があります。