ディープフェイク被害への法的対処法|削除申請・発信者情報開示・損害賠償を弁護士が解説
2026/04/29
ディープフェイク被害への法的対処法|削除申請・発信者情報開示・損害賠償を弁護士が解説
「自分の顔が使われたフェイクポルノ動画がSNSに拡散されている」「知人の写真が無断で加工され、まるで本人が問題行動をしているかのような動画が出回っている」——生成AI技術の急速な普及により、このようなディープフェイク(DeepFake)被害が日本でも急増しています。
ディープフェイクとは、AIを用いて人物の顔や声を別の映像・音声に合成・置換する技術のことです。かつてはハリウッド映画レベルの設備が必要でしたが、現在では無料ツールでも高精度な偽動画が誰でも容易に作れるようになっており、被害の深刻さが増しています。2025年には国内で生成AIを用いたわいせつ画像の販売事件で初の逮捕者が出るなど、法執行の動きも本格化しています。
本記事では、ディープフェイク被害に遭った場合に取るべき法的手段を、弁護士の視点からわかりやすく解説します。
ディープフェイク被害の主な類型
ディープフェイクが引き起こす被害はいくつかのパターンに分けられます。自分の状況がどの類型に当たるかを把握することが、適切な対処の第一歩です。
① 性的ディープフェイク(フェイクポルノ)
被害者の顔をアダルト動画の出演者の顔に合成したり、裸の画像を生成したりするケースです。特に女性被害者が多く、心理的ダメージが非常に深刻です。名誉毀損やプライバシー侵害、わいせつ物頒布罪などが問題となります。
② 名誉毀損型ディープフェイク
政治家や経営者、芸能人などの顔・声を使って、実際には言っていない発言をさせる偽動画を作成・拡散するケースです。個人の評判を傷つけることを目的とし、名誉毀損が成立しやすい類型です。
③ なりすまし・詐欺型ディープフェイク
本人に似せた偽の動画や音声を作成し、振り込め詐欺や不正送金の指示に使うケースです。近年、企業の経営者になりすましたディープフェイク音声で多額の送金を指示するビジネスメール詐欺(BEC)が世界的に増加しています。
④ 報復・ハラスメント目的のディープフェイク
元交際相手や職場のトラブルの相手方が、嫌がらせを目的としてディープフェイクを作成・流布するケースです。リベンジポルノ的な側面もあり、被害者は精神的に追い詰められることが多くあります。
ディープフェイク被害に適用される法律
日本には現時点でディープフェイクを直接規制する専用の法律はありません。しかし、既存の法律を組み合わせることで、加害者の刑事・民事責任を追及することが可能です。
| 法律・法的根拠 | 内容 | 主な適用場面 |
|---|---|---|
| 名誉毀損罪(刑法230条) | 公然と事実を摘示して人の名誉を毀損する行為を処罰 | 偽の行為・発言をしているような動画の拡散 |
| 侮辱罪(刑法231条) | 事実を示さずに人を公然と侮辱する行為を処罰 | ディープフェイクで本人を嘲笑・貶める投稿 |
| わいせつ物頒布罪(刑法175条) | わいせつな画像・動画を販売・頒布・公開する行為を処罰 | フェイクポルノ動画の作成・流布 |
| 不正競争防止法(2条1項21号) | 他人の肖像等の不正利用を規制(パブリシティ権) | 著名人のディープフェイクを商業利用する行為 |
| プライバシー権・肖像権侵害(民法709条) | 不法行為として損害賠償請求が可能 | 無断で顔・姿を合成・利用された場合全般 |
2025年6月に施行されたいわゆる「AI基本法」は、AIの基本理念を定めた枠組み法であり、ディープフェイクに対する罰則は設けられていません。しかし今後、ディープフェイクを直接規制する立法が検討されており、法的環境は急速に整備されつつあります。
被害を受けたときにまず取るべき行動
ステップ1:証拠を保全する
最初にすべきことは、問題の動画・画像・投稿の証拠をしっかりと保全することです。URLとともにスクリーンショットを撮影し、投稿日時・投稿者アカウント名・コメント数などを記録してください。動画はできれば録画ツールを使って保存します。プラットフォームが削除した後では証拠を取り戻せないため、早急な対応が必要です。
ステップ2:プラットフォームへの削除申請
X(旧Twitter)、Instagram、TikTok、YouTube などの主要プラットフォームは、「非合意のなりすまし」や「フェイクポルノ」に関するポリシーを設けており、削除申請フォームから報告することができます。2025年4月に施行された情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)により、大規模プラットフォームは侵害情報への対応窓口を設置し、7日以内を目途に対応することが義務付けられています。削除申請を行う際は、「当該コンテンツが自分のものであること」「本人の同意なく合成されたものであること」を具体的に説明することが重要です。
ステップ3:弁護士に相談する
削除申請だけでは対応が難しいケースや、加害者を特定して法的責任を追及したい場合は、弁護士への相談を検討してください。法的手続きには専門的な知識が必要であり、早期の対応が被害の拡大を防ぐことにつながります。
発信者情報開示請求でディープフェイクの投稿者を特定する
ディープフェイクを作成・拡散した相手が誰なのかわからない場合でも、発信者情報開示請求という法的手続きによって投稿者を特定できる場合があります。
情プラ法(旧プロバイダ責任制限法を改組・改称した法律)の下では、被害者はコンテンツプロバイダ(SNS事業者等)に対して投稿者のIPアドレス等の開示を申請できます。その後、IPアドレスから特定されたアクセスプロバイダに対して氏名・住所等の開示を求めるという二段階の手続きを経て、投稿者を特定するのが一般的な流れです。
特に、ディープフェイクが「肖像権侵害」「名誉毀損」「プライバシー侵害」に当たると認められる場合には、裁判所への開示命令申立て(非訟手続)を利用することで、迅速に相手方の情報を取得できます。ただし、投稿者がVPNや海外のサーバーを経由している場合は特定が困難なケースもあり、弁護士と相談しながら戦略を立てることが重要です。
損害賠償請求と刑事告訴
民事上の損害賠償請求
投稿者が特定できたら、民法709条(不法行為)に基づく損害賠償請求が可能です。請求できる損害としては、精神的苦痛に対する慰謝料のほか、弁護士費用や社会的評判・業務上の損失(証明できる場合)が含まれます。性的ディープフェイクは心理的被害が非常に深刻であり、慰謝料として数十万円から数百万円が認められるケースもあります。
刑事告訴
加害者の刑事責任を問うには、警察に対して告訴状を提出します。ディープフェイクの態様によって適用される罪名は異なりますが、名誉毀損罪(刑法230条)・わいせつ物頒布罪(刑法175条)・偽計業務妨害罪(刑法233条)などが考えられます。告訴を行う際は弁護士に告訴状の作成を依頼すると、受理率が上がり手続きがスムーズになります。
情プラ法とディープフェイク被害の関係
2025年4月に施行された情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)は、ディープフェイク被害への対応においても重要な役割を果たします。同法に基づき大規模プラットフォーム(月間利用者数1,000万人超が目安)は以下の義務を負います。
- 利用規約において、権利侵害情報(ディープフェイクを含む)への対応方針を明記すること
- 削除申請の窓口を整備し、申請から7日以内を目途に対応の可否を通知すること
- 発信者情報開示に応じること(開示命令申立てへの対応義務)
これらの義務に違反したプラットフォームには、総務大臣による是正勧告・命令が可能であり、命令に従わない場合は最大1億円の罰金が科されます。ディープフェイク被害者にとっては、プラットフォームへの削除申請がより実効性を持つようになったといえます。
ディープフェイク被害対応のまとめ
ディープフェイク被害は、技術の進歩とともに今後さらに増加することが予想されます。被害を受けた場合の基本的な流れを整理すると、まず証拠の保全を最優先に行い、次にプラットフォームへの削除申請を行います。並行して弁護士に相談し、発信者情報開示請求による投稿者の特定、そして特定後の損害賠償請求・刑事告訴という流れで対処するのが効果的です。
ディープフェイクによる被害は放置すると動画が拡散し続け、被害が深刻化します。「どうせ削除できないだろう」と諦めず、早期に法的手段を検討することが被害最小化につながります。一人で抱え込まず、まずは専門家にご相談ください。
ディープフェイク被害にお困りの方へ
タングラム法律事務所では、ネット誹謗中傷に関する発信者情報開示請求・削除請求・損害賠償請求について、豊富な実績を有しております。ディープフェイク・フェイクポルノ被害にお悩みの方は、お気軽にご相談ください。状況に応じた最善の法的手段をご提案いたします。
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