未成年者によるネット誹謗中傷への法的対処法|親への損害賠償請求・発信者情報開示を弁護士が解説
未成年者によるネット誹謗中傷への法的対処法|親への損害賠償請求・発信者情報開示を弁護士が解説
「誹謗中傷の相手が中学生だった」「クラスメートにSNSで悪口を拡散された」——こうした相談が近年増加しています。加害者が未成年者だとわかったとき、「子どもが相手では泣き寝入りするしかないのか」と感じる方も多いでしょう。しかし、相手が未成年者であっても、法律上の対処手段はしっかりと存在します。
本記事では、未成年者によるネット誹謗中傷に遭った場合に誰に対してどのような請求ができるか、責任能力の考え方から親権者の監督義務者責任(民法714条)、発信者情報開示請求の活用まで、弁護士がわかりやすく解説します。
未成年者によるネット誹謗中傷の実態
総務省の調査によれば、中高生のスマートフォン利用率は90%を超えており、X(旧Twitter)・Instagram・TikTok・LINEなど多様なSNSが日常的に使われています。これに伴い、学校内で起きたトラブルがオンライン上に持ち込まれ、特定の人物の悪口・デマ・プライベートな画像を拡散するといった事案が後を絶ちません。
こうしたネットいじめは、投稿の拡散スピードが速く、削除しても魚拓や転載が残るという特性から、被害が深刻化しやすい傾向があります。また、匿名で投稿されることも多く、加害者が誰か特定できないまま被害が拡大するケースも少なくありません。未成年者が関与する事案では加害者本人への責任追及が難しいと思われがちですが、適切な法的手段を講じることで解決できる場合は十分にあります。
未成年者本人に法的責任はあるか?——「責任能力」の考え方
まず確認しておきたいのが、未成年者本人に損害賠償責任が生じるかどうかという点です。民法712条は「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない」と規定しています。ここでいう「責任を弁識するに足りる知能」を責任能力といいます。
責任能力の有無は、法律上「〇歳から」とう明確な基準があるわけではなく、個々の事案ごとに判断されます。ただし、過去の裁判例の積み重ねから、一般的には12〜13歳(小学校高学年〜中学校1年生)頃を境に責任能力が認められる傾向があります。中高生が行うネット誹謗中傷のほとんどはこの年齢層をカバーしているため、本人に責任能力が認められるケースが多いといえます。
責任能力がある場合は、未成年者本人が民法709条(不法行為責任)に基づく損害賠償義務を負います。一方、責任能力がない(幼い子どもによる行為など)と判断された場合は、本人への直接請求はできません。そのような場合に重要になるのが、次に解説する親権者への請求です。
親権者・監督義務者への損害賠償請求——民法714条とは
実務上、未成年者が加害者の場合に最も重要となるのが親権者(両親)への請求です。民法714条1項は「責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と規定しています。これを監督義務者責任といいます。
この規定は本来、責任能力がない未成年者の行為について親に責任を問うものです。では、責任能力がある(12〜13歳以上の)未成年者が加害者の場合はどうなるでしょうか。
この点について判例(最高裁昭和49年3月22日判決等)は、責任能力がある未成年者の行為であっても、親権者が監督義務を果たさなかったことが損害発生に寄与していると認められる場合には、民法709条(一般不法行為)に基づいて親に賠償責任が生じるとしています。つまり、子どもに責任能力がある場合でも、スマートフォンの利用管理義務違反を理由に親への損害賠償請求が認められる可能性があります。
なお、親が免責されるためには、「監督義務を怠らなかった」ことを親側が証明する必要があります(民法714条1項但書)。実務上この証明は難しいとされており、フィルタリングの設定状況や利用ルールの取り決めの有無などが審理の焦点となります。
誰に・何を請求できるか——整理表
未成年者によるネット誹謗中傷の被害を受けた場合に考えられる請求の相手と内容を整理します。
| 請求の相手 | 法的根拠 | 内容・備考 |
|---|---|---|
| 未成年者本人 | 民法709条(不法行為責任) | 責任能力がある場合に損害賠償請求可能。現実的な支払能力の問題はある。 |
| 親権者(両親) | 民法714条・709条 | 監督義務者責任または監督義務違反による一般不法行為責任。実務上の中心的請求先。 |
| SNS・プラットフォーム事業者 | 情プラ法・プロバイダ責任制限法 | 損害賠償請求ではなく、投稿削除申請・発信者情報開示請求の相手方となる。 |
実務上は、支払能力の観点から親権者を相手に損害賠償請求を行うのが一般的です。未成年者本人と親権者双方を相手とした請求を同時に行うことも可能です。
加害者が匿名の場合——発信者情報開示請求で特定する
ネット上の誹謗中傷では、加害者が実名を出さず匿名で投稿しているケースがほとんどです。この場合、まず加害者を特定するための発信者情報開示請求が必要になります。
2025年(令和7年)4月1日に施行された情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)では、発信者情報開示の手続きが改正・整備されました。この法律に基づき、X・Instagram・TikTokなど大規模SNSに対して開示申請を行うことで、投稿者のIPアドレスやアカウント情報を取得できる場合があります。その後、取得したIPアドレスをもとにインターネットサービスプロバイダ(ISP)に対して開示請求を行い、加害者(子ども本人または回線契約者である親)の住所・氏名などの個人情報を取得します。
特定された発信者が未成年の子どもであっても、通信回線の契約者(多くの場合は保護者)の情報が開示される場合があります。特定後は、加害者の親に対して削除要求や損害賠償の交渉を進めることになります。
SNS・プロバイダが保有するIPアドレス等のアクセスログは、数か月程度で削除されることが多く、一度消えてしまうと加害者の特定が困難になります。被害に気づいたら、できるだけ早期に手続きを開始することが重要です。
刑事的対応——少年事件としての扱い
民事上の損害賠償請求とは別に、刑事告訴を検討するケースもあります。ただし、加害者が未成年者の場合は、成人の刑事事件とは異なる少年法が適用されます。
14歳未満(刑事未成年)の場合、刑事責任を問うことはできず、家庭裁判所に送致されて児童相談所等が関与する保護手続きが取られます。14歳以上18歳未満の少年については、原則として家庭裁判所に送致され、審判を経て保護処分(少年院送致・保護観察等)が行われます。重大事件では検察官に逆送致されて刑事裁判になることもあります。
刑事手続きはあくまで加害者の更生を目的とした手続きであり、被害者が直接金銭的な賠償を受けるものではありません。経済的補償を求める場合は、民事上の損害賠償請求が必要です。
未成年者が加害者の場合の具体的な対処の流れ
未成年者によるネット誹謗中傷への対処は、以下のステップで進めるのが一般的です。
①証拠保全——投稿のスクリーンショットを日時・URLが分かる状態で保存します。後から削除される前に記録を残すことが重要です。公証役場でのタイムスタンプ付与も有効です。
②削除申請——情プラ法に基づき、SNS事業者に対して削除申請を行います。大規模プラットフォームは申出から原則7日以内に可否の通知が義務付けられています。
③発信者情報開示請求——加害者が特定できていない場合は、SNS事業者・プロバイダへの開示請求で住所・氏名を特定します。弁護士に依頼すると手続きが確実です。
④内容証明郵便の送付——加害者(および親権者)に対し、損害賠償請求・謝罪・再発防止を求める内容証明郵便を送ります。これにより時効の完成猶予効果も生じます。
⑤示談交渉・訴訟——当事者間の交渉で解決しない場合は、民事訴訟(損害賠償請求訴訟)を提起します。弁護士に委任することで、精神的負担を軽減しながら手続きを進められます。
まとめ——未成年者が加害者でも泣き寝入りしない
加害者が未成年者であっても、民法714条の監督義務者責任や民法709条の一般不法行為責任に基づき、親権者への損害賠償請求が可能なケースは多くあります。加害者が匿名の場合でも、情プラ法を活用した発信者情報開示請求によって特定できる場合があります。
ただし、責任能力の有無の判断・発信者情報開示請求の手続き・親権者への交渉など、実務的に難しい判断が重なるため、被害に遭ったら早期に弁護士に相談することをお勧めします。適切な対処を取ることで、削除・賠償・謝罪といった解決に近づくことができます。
未成年者によるネット誹謗中傷でお悩みの方へ
タングラム法律事務所では、ネット誹謗中傷に関する発信者情報開示請求・削除請求・損害賠償請求について、豊富な実績を有しております。加害者が未成年者であるケースも含め、お一人で抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。
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