名誉毀損が成立しない場合|真実性・公共性・公益目的の3要件を解説
名誉毀損が成立しない場合|真実性・公共性・公益目的の3要件を弁護士が解説
「書いたことは本当なのに、名誉毀損だと言われた」「事実なら何を書いても問題ないはずだ」——ネット上の投稿をめぐって、こうした疑問や反論を耳にすることは少なくありません。被害を受けた側からすれば「真実だと言い張られて泣き寝入りするしかないのか」と不安になり、投稿した側からすれば「本当のことなのになぜ責任を問われるのか」と戸惑うところです。実は、名誉毀損は「真実を書けばセーフ」という単純な話ではありません。逆に、一定の要件を満たせば真実性の証明があった場合に責任を免れる仕組み(違法性阻却)も法律に用意されています。
この記事では、名誉毀損が成立しない場合の判断枠組みを、刑法230条の2の条文と最高裁判例をもとに整理します。違法性阻却の3要件、真実だと証明できなくても免責され得る「相当性の法理」、公務員・政治家への言及の特例、意見・論評の場合の扱い、ネットで免責が認められにくいケースを、被害者側・投稿者側の双方の視点から解説します。
名誉毀損は「成立しない」ことがある——違法性阻却事由とは
刑法230条1項は、公然と事実を摘示して人の社会的評価を低下させた場合、その事実の真偽を問わず名誉毀損罪が成立し得ると定めています。つまり出発点としては、真実であっても人の名誉を傷つければ名誉毀損に当たり得るのが原則です。これは、真実を並べ立てて他人を社会的に葬ることも許されない、という考え方に基づいています。
しかし、それでは政治や行政への批判、商品・サービスの問題点の指摘、報道といった社会に必要な言論まで萎縮してしまいます。そこで刑法230条の2は、一定の要件を満たす場合に「これを罰しない」として、表現の自由と名誉権の調和を図っています。この規定は判例・通説上、行為の違法性そのものを失わせる違法性阻却事由と理解されています。民事の損害賠償(民法709条)でも、最高裁昭和41年6月23日判決がこの考え方を取り入れており、要件を満たせば賠償責任も発生しません。
名誉毀損そのものの成立範囲(公然性や「事実の摘示」の意味)については、名誉毀損の「公然性」とは|DMや1対1でも成立するかもあわせてご覧ください。
違法性阻却の3要件(公共性・公益目的・真実性)
事実を摘示するタイプ(事実摘示型)の名誉毀損で責任を免れるためには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。ひとつでも欠ければ免責されないのが原則です。
| 要件 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| ①公共性 (公共の利害) |
摘示した事実が、社会一般の正当な関心事に関わること | 政治・行政・企業活動・商品の安全性などは認められやすい。純粋な私生活・私事は認められにくい |
| ②公益目的 | その表現が、専ら公益を図る目的でされたこと | 私怨・嫌がらせ・利益誘導が主目的だと否定されやすい |
| ③真実性 | 摘示した事実が真実であることの証明があること | 証明責任は表現した側にある。証明できなければ原則として責任を負う |
なお刑法230条の2第2項は、まだ起訴されていない犯罪行為に関する事実は「公共の利害に関する事実」とみなすと定めています。ここで重要なのは、③の真実性の証明は表現した側が負うという点です。「噂で聞いた」「みんなが言っている」という程度では真実の証明にはなりません。ネット上の投稿では、この証明のハードルが想像以上に高いことが、投稿者側の落とし穴になりがちです。
真実だと証明できなくても免責される「相当性の法理」
では、投稿者が本当だと信じて書いたのに、裁判で真実だと証明しきれなかった場合はどうなるのでしょうか。この点について最高裁昭和41年6月23日判決は、民事の名誉毀損について、真実であることが証明されなくても、その事実を真実と信じたことについて相当の理由があるときは、故意・過失がなく不法行為は成立しないと判断しました。これを一般に「相当性の法理」と呼びます。
刑事についても、いわゆる夕刊和歌山時事事件の最高裁昭和44年6月25日判決が、確実な資料・根拠に照らして事実を真実と誤信したことに相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく名誉毀損罪は成立しないとしています。ここでいう「相当の理由」は単なる思い込みでは足りず、裏付けとなる確実な資料・根拠が求められます。伝聞や匿名掲示板の書き込みを鵜呑みにして拡散したケースでは、相当性は認められにくいのが実情です。
公務員・政治家に関する特例(刑法230条の2第3項)
刑法230条の2第3項は、公務員または公選による公務員の候補者に関する事実については、事実が真実であることの証明があれば処罰しないと定めています。つまり、この場合には①公共性・②公益目的の判断を経るまでもなく、真実性の証明があれば免責されるという扱いです。政治家の職務上の疑惑追及など、公人に対する監視・批判を広く保護する趣旨です。
もっとも、これは無制限ではありません。公務員に関する事実であっても、職務と全く無関係な私生活上の事柄については、この特例の対象外と解されています。また、あくまで「真実であることの証明」が前提であり、虚偽の事実を摘示すれば免責されません。政治家批判のつもりでも、事実に反する断定や人格攻撃に踏み込めば、名誉毀損が成立し得ます。
意見・論評(批判)の場合——公正な論評の法理
「あの店の対応は最悪だ」「この経営者は無責任だ」といった感想・評価は、事実そのものの摘示ではなく意見・論評(意見論評型)に当たります。この場合の判断枠組みを示したのが最高裁平成9年9月9日判決です。同判決は、意見・論評による名誉毀損について、次の要件を満たせば違法性が阻却されるとしました。
- 公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的であること
- 意見・論評の前提としている事実が、重要な部分で真実であることの証明があること(真実と信じる相当の理由があれば故意・過失が否定される)
- 人身攻撃に及ぶなど、意見・論評としての域を逸脱したものでないこと
ポイントは、意見であってもその前提となっている事実が真実でなければ免責されないことです。「対応が最悪だ」という評価も、実際に問題のある対応があったという事実を前提にしています。前提事実が虚偽であれば、「あくまで個人の感想」と述べても違法となり得ますし、前提事実が真実でも人格攻撃・誹謗中傷にわたれば論評の域を逸脱したものと評価されます。事実摘示型と意見論評型の違いは、事実摘示型と意見論評型の名誉毀損の違いで詳しく解説しています。
ネット投稿で違法性阻却が認められにくいケース
条文だけを見ると「公共性があって真実なら大丈夫」と考えがちですが、ネット上の投稿では次のような理由で免責が認められにくいことが多くあります。投稿者側は「本当のことだから問題ない」と安易に考えず、被害者側は「真実だと言われた」からと諦めないことが大切です。
- 公共性が乏しい——私人の恋愛・家庭・借金といった私生活の暴露は、内容が真実でも公共の利害に関わらないと判断されやすい。
- 公益目的が認められない——投稿の経緯や表現ぶりから、私怨・報復・嫌がらせが主目的だとみられると否定される。
- 真実性を証明できない——裏付け資料がなく、伝聞や推測にとどまる投稿は真実の証明ができない。相当性も認められにくい。
- 表現が論評の域を逸脱——批判を超えて侮辱的な言葉を連ねると、意見論評型でも違法となる。
なお、事実の摘示ではなく単に人を侮辱した場合には侮辱罪(刑法231条)や名誉感情の侵害が問題となり、真実性の抗弁は基本的に働きません。事実による攻撃か評価による攻撃かで、防御・請求の組み立ては大きく変わります。信用毀損・業務妨害との違いについてはネット上の信用毀損・業務妨害とは?名誉毀損との違いもご参照ください。
よくある質問(FAQ)
書いた内容が真実であれば名誉毀損は成立しませんか?
真実であることだけでは足りません。責任を免れるには、原則として①公共の利害に関する事実であること(公共性)、②専ら公益を図る目的であること(公益目的)、③摘示した事実が真実であることの証明、の3つがそろう必要があります。純粋な私生活の暴露などは、内容が真実でも公共性・公益目的が認められず、名誉毀損が成立し得ます。
真実だと信じていたのに証明できなかった場合はどうなりますか?
最高裁昭和41年6月23日判決は、真実であると証明できなくても、真実と信じたことについて確実な資料・根拠に照らして相当の理由があるときは、故意・過失がなく不法行為は成立しないと判断しました(相当性の法理)。刑事でも夕刊和歌山時事事件判決(最高裁昭和44年6月25日)が同様の考え方を示しています。もっとも、単なる噂や思い込みでは相当の理由は認められません。
「対応が最悪だ」といった感想・意見でも名誉毀損になりますか?
意見・論評であっても名誉毀損(人格権侵害)が問題になり得ます。最高裁平成9年9月9日判決は、公共性・公益目的に加え、前提とした事実が重要な部分で真実であること、かつ人身攻撃に及ぶなど意見・論評の域を逸脱しないことを免責の要件としました。前提事実が虚偽であったり、表現が誹謗中傷にわたる場合は違法となり得ます。
公務員や政治家を批判する投稿も名誉毀損になりますか?
刑法230条の2第3項は、公務員や公選による公務員の候補者に関する事実については、真実であることの証明があれば処罰しないと定めています。公人の職務に関わる事柄は公共性が広く認められる傾向があります。ただし職務と無関係な私事は対象外と解され、また虚偽の事実であれば免責されません。
まとめ
名誉毀損は「真実なら必ずセーフ」でも「書かれた側は必ず泣き寝入り」でもありません。事実摘示型では公共性・公益目的・真実性の3要件がそろって初めて責任を免れ、意見・論評でも前提事実の真実性と表現の相当性が問われます。私事の暴露や裏付けのない断定は、真実でも違法となり得ます。こうした線引きは、投稿の文言・前提事実・経緯を個別に検討して初めて判断できます。
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