相続についてよくある誤解10選|"長男が全部もらえる"は本当?弁護士が正しく解説
2026/05/04
相続についてよくある誤解10選|"長男が全部もらえる"は本当?弁護士が正しく解説
「相続のことは家族で何とかなる」「うちは揉めないから大丈夫」と思っていたにもかかわらず、いざ相続が発生すると思わぬトラブルに発展してしまう——そのような事例は決して珍しくありません。その背景には、相続に関して広く信じられている「誤解」が少なくないことがあります。
本記事では、実際の相談現場でよく耳にする相続にまつわる誤解を10個取り上げ、正しい法律上の考え方をわかりやすくご説明します。相続の基礎知識を整理することで、将来のトラブルを防ぐための参考にしていただければ幸いです。
誤解①「長男が遺産を多くもらえる(または全部もらえる)」
「家を継ぐ長男が遺産を多くもらうのは当然」という考え方は、旧民法時代(戦前)の家督相続制度の名残です。現行の民法(第900条)では、同順位の相続人が複数いる場合は均等に相続するのが原則であり、長男・長女・次男・次女などの区別は一切ありません。
たとえば被相続人の子どもが3人いれば、それぞれが遺産の3分の1ずつを相続するのが法定相続分となります。長男に多く渡したい場合は、遺言書を作成するか、相続人全員の合意による遺産分割協議が必要です。ただし、その場合も他の相続人の遺留分を侵害することはできません。
誤解②「子どもがいなければ、配偶者が全財産を相続できる」
子どものいない夫婦でも、配偶者が単独で全財産を相続できるとは限りません。民法の相続順位のルールにより、子ども(第1順位)がいない場合は被相続人の直系尊属(父母・祖父母)が第2順位として相続人となります。直系尊属も全員亡くなっていれば、兄弟姉妹(第3順位)が相続人になります。
たとえば配偶者と被相続人の兄弟姉妹が相続人となる場合、配偶者の法定相続分は4分の3、兄弟姉妹の合計が4分の1です。「義理の兄弟に財産が渡ってしまった」というトラブルは実務上少なくなく、配偶者への財産集中を望む場合は遺言書の作成が有効な対策となります。
誤解③「遺言書があれば、その内容が絶対に優先される」
遺言書は相続における最も強力な意思表示ですが、それが万能というわけではありません。民法は一定範囲の相続人(配偶者・子・直系尊属)に対して「遺留分」を保障しています(民法第1042条)。遺留分とは、相続財産に対して最低限受け取れる割合のことで、遺言書でこれを下回る内容が定められた場合、遺留分権利者は遺留分侵害額請求権を行使できます(民法第1046条)。
遺言書の存在は相続手続きを円滑に進めるうえで非常に重要ですが、「遺言書さえ作れば問題ない」と過信すると、後日の紛争リスクが残ります。遺言書作成の際は遺留分への配慮が欠かせません。
誤解④「相続放棄すれば借金は一切関係なくなる」
相続放棄(民法第938条・第939条)は、相続人としての地位を完全に放棄する手続きであり、プラスの財産もマイナスの財産(借金)も一切引き継がなくなります。ただし、相続放棄が有効に成立するためには、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(熟慮期間)に家庭裁判所に申述する必要があります(民法第915条)。
なお、相続放棄をしても、故人の債務について連帯保証人になっていた場合は保証債務を免れることはできません。また、相続財産を勝手に処分・消費してしまうと「法定単純承認」(民法第921条)とみなされ、放棄が認められなくなる場合があります。手続き前に何も動かさないことが大切です。
誤解⑤「生前贈与した財産は相続と無関係」
生前贈与をすれば相続から切り離せると考える方は多いのですが、民法・税法の両面で注意が必要です。相続税法上、2024年(令和6年)1月1日以降に発生する相続については、相続開始前7年以内の贈与財産が相続税の課税対象に加算されるよう改正されました(旧来の加算期間3年から延長)。
また、特定の相続人に対する「特別受益」(学費・住宅購入資金・多額の援助など)は、原則として相続財産に持ち戻して遺産分割の計算をします(民法第903条)。さらに、遺留分の計算においては相続開始前10年以内の生前贈与が算入される場合があります(民法第1044条)。生前贈与は有効な相続対策の一つですが、思わぬ形で争いの火種になることもあります。
誤解⑥「認知症の親が書いた遺言書は必ず無効」
遺言書の有効性は、認知症の診断の有無ではなく、遺言書を作成した時点での「意思能力(遺言能力)」の有無によって判断されます(民法第963条)。軽度の認知症であっても遺言能力があると判断された事例もあり、逆に診断を受けていなくても意思能力が欠けていた場合は無効とされる場合があります。
裁判例では、遺言内容の合理性・公証人や医師の関与・日常生活の状況などを総合的に考慮して判断する傾向があります。「認知症だから必ず無効にできる」「診断がないから有効だ」という単純な判断は危険です。遺言の効力に疑義がある場合は、早めに弁護士へご相談ください。
誤解⑦「相続人全員が合意すれば、どんな分け方でも自由にできる」
「一人の相続人が借金を引き受ける」という遺産分割協議の合意は、相続人全員の間では有効です。しかし、この合意は債権者(貸主・金融機関など)に対抗することができません(民法第902条の2参照)。法定相続分に応じて各相続人が債務を承継するのが原則であり、「〇〇が全部払うと協議書に書いた」という主張は、債権者には通用しないのです。
被相続人に多額の借金があり、特定の相続人が債務を引き受けることを検討している場合は、債権者との間で「免責的債務引受」の合意を別途行う必要があります。専門家を介した交渉が不可欠です。
誤解⑧「うちには大した財産がないから、相続税は関係ない」
相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」(相続税法第15条)です。たとえば法定相続人が3人であれば基礎控除は4,800万円となります。都市部では住宅不動産だけでこの金額を超えるケースも珍しくなく、「相続税は富裕層だけの問題」という認識は危険です。
また、相続税申告の期限は被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内(相続税法第27条)であり、期限を過ぎると延滞税・加算税が発生します。「申告が必要かどうかわからない」という段階でも、早めに税理士や横浜の弁護士など専門家に状況を確認してもらうことをお勧めします。
誤解⑨「不動産の相続登記はいつでも手続きできる」
2024年(令和6年)4月1日に施行された改正不動産登記法(第76条の2)により、相続登記が義務化されました。相続(または遺産分割)によって不動産を取得した相続人は、その事実を知った日から3年以内に登記申請をしなければならず、正当な理由なく申請を怠ると10万円以下の過料の対象となります。
この義務は2024年4月1日以前に相続が発生した不動産にも適用されます。「実家の名義がずっと祖父母のまま」「相続人間で話し合いが進まない」という状況でも放置は許されません。手続きが難しい場合は「相続人申告登記」という簡易な制度も利用できます。なお、登記手続き自体は司法書士が専門ですが、相続人間で争いがある場合は弁護士への相談が先決です。
誤解⑩「相続トラブルは、裁判になってから弁護士に頼めばよい」
相続問題に弁護士が関与するのは「裁判になってから」と思われがちですが、実際には早期相談の方が問題解決の選択肢が広く、費用・時間・精神的負担のいずれも抑えられる傾向があります。遺産分割交渉の段階から弁護士が代理人として関与することで、法律的に正確な枠組みでの話し合いが可能となり、不合理な主張への対応や書面作成の正確性も確保されます。
特に、遺留分侵害額請求には1年の時効(民法第1048条)がある点、相続放棄には3か月の期限がある点など、時間制約のある問題では相談のタイミングが結果を大きく左右します。「まだ様子を見ている」という状況でも、一度法律の専門家に状況を整理してもらうことが安心への近道です。
まとめ|相続の誤解を解き、早期対応で安心を
今回ご紹介した10の誤解は、いずれも実際の相談現場で繰り返し耳にするものです。「常識だと思っていたことが法的には通用しなかった」という場面が相続では少なくありません。正しい知識を身につけることが、相続トラブルを未然に防ぐ第一歩となります。
相続には多くの期限・手続き・法的ルールが絡み合っており、ご自身だけで全体像を把握するのは容易ではありません。「何か変だな」「本当にこれで大丈夫かな」と少しでも感じたら、早めに弁護士へご相談ください。横浜をはじめ神奈川県全域の相続案件について、タングラム法律事務所がサポートいたします。
相続の「誤解」が不安を生む前に、弁護士に確認を
タングラム法律事務所では、相続や遺留分侵害額請求の事案について豊富な実績を有しております。「今の状況が法的にどうなのか整理したい」「誤った対応をして損をしたくない」というご相談も、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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