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固定残業代(みなし残業)が無効になる?中小企業が知っておくべき適法要件と実務対応を弁護士が解説

固定残業代(みなし残業)が無効になる?中小企業が知っておくべき適法要件と実務対応を弁護士が解説

固定残業代(みなし残業)が無効になる?中小企業が知っておくべき適法要件と実務対応を弁護士が解説

固定残業代(みなし残業)が無効になる?中小企業が知っておくべき適法要件と実務対応を弁護士が解説

固定残業代(みなし残業)が無効になる?中小企業が知っておくべき適法要件と実務対応を弁護士が解説

「毎月の給与に残業代を含めて払っているから、残業しても追加で払う必要はない」――このような認識で固定残業代(みなし残業)制度を運用している経営者の方は少なくありません。しかし、その制度が法律の要件を満たしていない場合、固定残業代全額が無効と判断され、数年分の未払い残業代を一括で請求されるリスクがあります。

実際に、最高裁判所は固定残業代の有効性に関する重要な判断を積み重ねており、要件の1つでも欠けると制度全体が無効とされた事例も多く見受けられます。本記事では、固定残業代制度の仕組みと適法要件、中小企業が陥りやすい落とし穴、そして実務上の対応策について、横浜の弁護士の視点からわかりやすく解説します。

固定残業代制度とは?基本的な仕組みを確認する

固定残業代(定額残業代・みなし残業代とも呼ばれます)とは、毎月の賃金の中にあらかじめ一定時間分の時間外労働(残業)に相当する割増賃金を含めて支払う制度です。たとえば「月給30万円の中に30時間分の残業代2万円を含む」といった形で設定されます。

この制度を正しく運用すれば、毎月の残業時間が変動しても固定額の範囲内で処理できるため、給与計算の手間が省けるメリットがあります。また、求人時に「月給〇〇円(固定残業代〇〇円含む)」と明示することで、応募者に対して透明性のある給与体系を示すことができます。

ただし、固定残業代制度は設定した時間を超えて残業させた場合には、超過分の割増賃金を別途支払わなければならない点に注意が必要です。あくまでも「固定時間分の残業代を前払いしている」に過ぎず、何時間でも残業させてよいわけではありません。

固定残業代が「有効」となるための3つの適法要件

最高裁判所の判例(日本ケミカル事件・最高裁第一小法廷平成30年7月19日判決ほか)を踏まえると、固定残業代制度が有効と認められるためには、主に以下の3つの要件を満たす必要があると解されています。

①対価性要件:残業代としての性格が明示されていること

支払われる手当や給与の一部が「時間外労働の対価(割増賃金)」であることが、雇用契約書や就業規則・給与規程において明確に定められている必要があります。「営業手当」「職務手当」などの名目で支給されている場合でも、その手当が残業代の趣旨であることが書面に明確に示されていれば要件を満たす可能性があります。しかし、単に「職責に応じた手当」という説明しかなく、残業代との関係が書面上で不明確な場合、対価性が認められないリスクがあります。

②判別可能性要件:基本給と残業代部分が区別できること

通常の労働時間に対応する賃金(基本給)と割増賃金に相当する部分とが、明確に区別できる状態になっていることが必要です。たとえば「基本給25万円+固定残業代3万円(30時間分)」のように分けて記載することが求められます。「月給28万円(一部残業代を含む)」のような曖昧な表記では、どの金額が残業代にあたるのかが判別できないとして無効と判断されることがあります。

③超過分の精算義務:実残業が固定時間を超えた場合は差額を支払うこと

固定残業代は、設定した時間数(たとえば30時間)を超えて実際に残業をさせた場合には、超過分の割増賃金を別途上乗せして支払う義務があります。この精算義務が就業規則や雇用契約書に明記されており、実際に超過分を支払っていない場合は、固定残業代制度全体が無効とされる可能性があります。

ポイント:上記3要件はいずれも必要であり、1つでも欠けた場合には固定残業代全体が無効と判断され、実際に発生した残業代を改めて全額支払う義務が生じる可能性があります。

固定残業代が無効と判断された場合のリスク

固定残業代が裁判所に無効と判断された場合、企業にとって非常に深刻なリスクが生じます。具体的には以下のような問題が発生する可能性があります。

  • 未払い残業代の一括請求:労働基準法の改正(2020年4月施行)により、未払い賃金の請求権の時効は原則3年に延長されました(労働基準法第115条、当分の間は3年)。そのため、過去3年分の残業代を遡って請求されるおそれがあります。
  • 付加金の支払い命令:残業代の不払いが悪質と判断された場合、裁判所は未払い残業代と同額の付加金(労働基準法第114条)の支払いを命じることがあり、実質的に2倍の金額を支払うことになりかねません。
  • 労働基準監督署への申告と是正勧告:退職した従業員が労働基準監督署に申告した場合、行政調査が入り、是正勧告・指導を受けることがあります。対応を怠ると送検されるリスクもゼロではありません。
  • 会社の信用低下:残業代未払い問題が知られると、採用難や取引先との関係悪化につながる可能性があります。

中小企業が陥りやすい4つの落とし穴

実務上、中小企業の固定残業代制度が問題になるケースには、次のような共通したパターンが見られます。

落とし穴①:求人票や採用時の説明だけで済ませている

求人票には「月給〇〇万円(固定残業代〇〇時間分含む)」と記載しているにもかかわらず、実際に締結する雇用契約書や就業規則にその旨が記載されていないケースがあります。求人票だけでは雇用条件の合意としては不十分と判断されることがあるため、雇用契約書・就業規則への明記が必須です。

落とし穴②:固定残業時間数を設定していない

「月給のうち〇万円が残業代」と金額だけを定め、何時間分の残業代なのかを明示していないケースも散見されます。固定残業代が何時間分の割増賃金に相当するかを明示しないと、法定の割増率(時間外は25%以上、深夜・法定休日は別途)を満たしてえるか確認できないため、有効性が認められにくくなります。

落とし穴③:超過分の精算をしていない

固定残業時間を超えて残業させているにもかかわらず、追加の残業代を支払っていない状態は、制度の根本的な要件を満たしていません。「給与に含まれているから追加は不要」という認識が広まっている中小企業では、このミスが特に多か見受けられます。

落とし穴④:最低賃金を下回っている

固定残業代を高く設定し基本給を低く抑えた結果、基本給部分が最低賃金(最低賃金法)を下回るケースがあります。最低賃金の計算には固定残業代は含まれないため、基本給だけで最低賃金をクリアしているか確認が必要です。

最高裁判例から学ぶ:有効・無効を分けた事例

固定残業代をめぐる訴訟では、最高裁判所が重要な判断を示しています。以下に代表的な2つの事件を紹介します。

判決 概要 結論
テックジャパン事件
(最高裁平成24年3月8日)
月給に残業代が含まれるとされたが、何時間分の残業代かが明示されていなかった事案 補足意見で「明確な時間数の明示・超過分の上乗せ」が必要との基準を示した
日本ケミカル事件
(最高裁平成30年7月19日)
給与規程に固定残業代の額と時間数が明記され、超過分の精算規定もあった事案 当該手当は割増賃金の対価と認められ有効と判断

日本ケミカル事件では、最高裁が「雇用契約に係る契約書等の記載内容」「使用者の労働者に対る説明内容」「実際の勤務状況」を総合的に考慮して有効性を判断するという枠組みを示しました。この判断枠組みは現在も実務の指針として広く参照されています。

これらの判例を踏まえると、固定残業代制度を有効に機能させるためには、①就業規則・給与規程、②雇用契約書(労働条件通知書)、③給与明細書の3点が整合した内容で整備されていることが非常に重要と解されています。

実務対応:就業規則・雇用契約書の整備チェックリスト

固定残業代制度を適法に運用するために、以下の項目を社内でご確認ください。

  • 就業規則・給与規程に固定残業代の制度(名称・金額・対応時間数)が明記されているか
  • 雇用契約書(労働条件通知書)に固定残業代の金額と時間数が個別に記載されているか
  • 固定残業時間を超えた場合に超過分を別途支払う旨が書面に明記されているか
  • 実際に超過分の残業が発生した月には、差額を追加支払いする運用ができているか
  • 基本給(固定残業代を除く)が最低賃金を上回っているか
  • 固定残業時間が月45時間(時間外労働の原則上限・労働基準法第36条)を超えていないか
  • 給与明細書で基本給と固定残業代が分けて記載されているか
注意:就業規則は常時10人以上の従業員を使用する事業場では労働基準監督署への届出が義務付けられています(労働基準法第89条)。また、10人未満の職場でも、就業規則を整備しておくことで固定残業代の有効性を支え��根拠になります。

まとめ:残業代トラブルを防ぐには早期の体制整備が重要です

固定残業代制度は、適法に設計・運用すれば中小企業の給与管理を効率化できる有用な制度ですが、要件の1つでも欠けると制度全体が無効とされ、多額の未払い残業代請求に発展するリスクがあります。

特に、従業員が退職した後に「残業代が適切に払われていなかった」として請求されるケースが近年増加しており、横浜の弁護士としても相談件数が増えていると実感しています。問題が発生してからでは解決に多大な費用と時間がかかることが多いため、現在の制度設計に不安がある場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

固定残業代の設計・見直しにあたっては、就業規則・雇用契約書の内容が最新の判例基準を満たしているかを弁護士に確認してもらうことが、リスクを最小化する最も確実な方法のひとつと言えます。

固定残業代の制度設計・見直しについてご不安がある方へ

タングラム法律事務所では、就業規則の作成・見直しや残業代トラブルの予防・対応につて、中小企業・個人経営の事業者向けに豊富な実績を有しております。「現在の固定残業代制度が有効かどうか確認したい」「就業規則を整備したい」というご相談も、横浜の弁護士が丁寧にお応えします。

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※本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律相談ではありません。具体的な案件については弁護士にご相談ください。

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