在宅勤務(テレワーク)を導入する際の労働時間管理と就業規則変更のポイント|横浜の弁護士が解説
在宅勤務(テレワーク)を導入する際の労働時間管理と就業規則変更のポイント|横浜の弁護士が解説
「試しに在宅勤務を始めたけれど、就業規則はそのままでよいのだろうか」「社員が自宅で働いている間の労働時間をどうやって管理すればよいのか」――こうした疑問を抱える中小企業の経営者・総務担当者の方は多いのではないでしょうか。
コロナ禍をきっかけに急速に普及したテレワーク(在宅勤務・サテライトオフィス勤務等)は、今や多くの企業で恒常的な働き方として定着しつつあります。しかし、実態として「ルールを整備しないまま運用を続けている」という会社も少なくないのが現状です。
テレワーク導入にあたっては、労働時間の管理方法・就業規則の変更・費用負担のルールなど、労働法上の検討が欠かせません。本記事では、横浜の弁護士の視点から、中小企業が見落としがちな実務上のポイントをわかりやすく解説します。
テレワーク(在宅勤務)導入と就業規則の関係
まず前提として、テレワークを導入する際に、既存の就業規則を必ず変更しなければならないわけではありません。厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(令和3年3月改定、令和7年7月改訂版公表)では、「通常勤務と労働条件が同一であれば、就業規則の変更は不要」と整理されています。
ただし、テレワーク特有の事項――たとえば通信費や光熱費の負担方法・始業・終業時刻の変更・中抜け時間の取り扱いなど――が生じる場合には、就業規則への明記が必要となります(労働基準法第89条)。また、就業規則を変更する際には、過半数労働組合または過半数代表者の意見を聴くこと(同法第90条)も義務付けられています。
さらに、常時10人以上の労働者を使用する事業所では、就業規則の変更届を所轄の労働基準監督署に提出しなければなりません(同法第89条)。
在宅勤務規程に盛り込むべき主要項目
テレワーク導入時に就業規則(または別規程)に定めるべき主な事項を整理すると、以下のようになります。
| 項目 | 内容・注意点 |
|---|---|
| 対象者・対象業務 | テレワークを利用できる従業員の範囲と業務の種類を明確化する。育児・介護等の事情を考慮して優先対象者を設けることも考えられる。 |
| 就業場所 | 自宅・サテライトオフィス・コワーキングスペース等、認める場所を具体的に列挙する。無断で変更した場合の取り扱いも規定しておくとよい。 |
| 始業・終業時刻 | 通常勤務と同様か、変更を認めるか(フレックス等)を明記する。変更を認める場合は就業規則への記載が必要となる。 |
| 連絡・報告体制 | 上司・同僚との連絡手段(メール・チャット・電話等)と応答可能時間帯、報告の方法・頻度を定める。 |
| 費用負担 | 通信費・光熱費・備品等の負担ルール(会社負担の上限額等)を規定する。 |
| 情報セキュリティ | 使用できる機器・ネットワーク環境の基準、情報の持ち出し・保管方法を定める。 |
| 中抜け時間 | 休憩時間として認めるか、時間単位有給休暇(要労使協定)とするか、具体的な処理方法を規定する。 |
これらの事項を就業規則(在宅勤務規程)に明記しておくことで、トラブルが生じた際の判断基準が明確になり、社員への周知・徹底も図りやすくなります。
テレワーク時の労働時間管理方法の選択肢
テレワーク中の労働時間管理には、主に以下の3つの制度的な選択肢があります。それぞれの特徴と注意点を確認しておきましょう。
① 通常の労働時間制(固定時間制)
最も一般的な方法です。所定労働時間(例:9時〜18時)をそのままテレワークにも適用し、PCへのログイン・ログアウト時刻、チャットツールへの記録、日報の提出などを通じて始業・終業時刻を確認・管理します。管理方法が単純で導入しやすい一方、業務の中断(中抜け)が生じた場合の取り扱いに注意が必要です。
② フレックスタイム制
労使協定の締結を前提に、一定の「コアタイム」を設けつつ、始業・終業時刻を労働者が自由に選択できる制度です(労働基準法第32条の3)。テレワーク時には育児・介護との両立がしやすく、働きやすい環境を整備できる反面、残業代計算が「清算期間」(最長3か月)単位になるため、給与計算の仕組みを整える必要があります。フレックスタイム制を新たに導入・変更する場合は就業規則の変更と労使協定の締結が必要です。
③ 事業場外みなし労働時間制
労働時間の算定が困難な場合に「所定労働時間(または業務遂行に通常必要な時間)労働したものとみなす」制度です(労働基準法第38条の2)。しかし、テレワーク(在宅勤務)では、一般的に会社がPC等を通じて労働者の業務遂行状況を把握できる環境にあるため、「労働時間の算定が困難」とは認められにくく、この制度を安易に適用することはリスクがある点に注意が必要です。厚生労働省のガイドラインでも、テレワークへの事業場外みなしの適用は限定的に解するべきとされています。
テレワーク特有の「中抜け時間」の取り扱い
在宅勤務では、子どもの送り迎え・宅配便の受け取り・通院など、業務時間中に一時的に離席するケースが頻繁に発生します。こうした「中抜け時間」をどう取り扱うかは、テレワーク運用上の重要テーマのひとつです。
厚生労働省のガイドラインでは、中抜け時間の処理方法として主に以下の2つが示されています。
- 休憩時間として取り扱う場合:会社が業務の指示をしないこととし、労働者が自由に利用できる時間として保障する。開始・終了時刻を報告させ、中抜けした分だけ終業時刻を繰り下げる(または始業時刻を繰り上げる)などの調整を行う。
- 時間単位の年次有給休暇として取り扱う場合:中抜け時間を時間単位の有給休暇(年5日まで:労働基準法第39条第4項)として処理する方法。この場合は、労使協定の締結が必要となる。
どちらの方法を採用するかをあらかじめ規程で定めておかないと、「中抜けしていたのに残業代が発生した」「中抜けが有給消化に充当されていて有給が減っている」などのトラブルのもとになります。就業規則(在宅勤務規程)に中抜け時間の取り扱いを明記しておくことが重要です。
通信費・光熱費などの費用負担をどう定めるか
テレワークでは、業務に使用するインターネット回線費用・電気代(光熱費)・文具・備品などの費用をどちらが負担するかが問題になります。費用負担のルールを就業規則等に定めていない場合、後から従業員から「業務経費を自己負担させられた」として請求されるリスクがあります。
実務上は、主に以下の3つのアプローチが取られています。
- 実費精算方式:業務に使用した通信費等を領収書等に基づき精算する。正確だが事務負担が大きい。
- 定額手当方式:「在宅勤務手当」として毎月一定額(例:月3,000円〜5,000円程度)を支給する。シンプルで管理しやすい。
- 会社貸与設備:会社がPCや通信機器を貸与し、通信費を直接負担する方法。
なお、在宅勤務手当は「業務のために必要な費用の実費弁償」としての性質を持つ場合、所得税・社会保険料の対象外となることがありますが、その判定は支給形態や金額によって異なります。支給方法については税理士等にも確認することをお勧めします。
費用負担ルールは、就業規則または在宅勤務規程に上限額も含めて明記し、採用・労務トラブルを防ぐことが重要です。横浜エリアの中小企業においても、この点の規程整備が遅れているケースが多く見られます。
テレワーク中の労働災害と安全衛生管理
テレワーク中に発生した事故やケガについても、業務と相当因果関係がある場合には労災補償の対象となります。「自宅にいるから会社は関係ない」とは言い切れず、業務中の負傷であれば業務災害として労働者災害補償保険法上の給付が受けられる可能性があります。
ただし、在宅中の行動(食事・家事・家族の世話等)中に生じた負傷の場合は、業務起因性が認められないケースが多いとされています。業務遂行性・業務起因性の判断は個別の事情によって異なるため、事故が起きた場合は速やかに社労士や弁護士に相談することが望まれます。
また、使用者は労働安全衛生法上、テレワーク勤務者に対しても健康管理・安全衛生措置を講じる義務があります(労働安全衛生法第66条等)。厚生労働省は「テレワークを行う労働者の安全衛生を確保するためのチェックリスト」を公表しており、作業環境の確認(照明・椅子・机の高さ等)、メンタルヘルス対策などに活用できます。
テレワーク労務管理で弁護士に相談すべき場面
テレワーク・在宅勤務の労務管理に関しては、以下のような場面で弁護士や社労士への相談が有益です。
- 在宅勤務規程を新たに作成・整備したいが、何を盛り込めばよいかわからない
- 既存の就業規則にテレワーク条項を追加する際の手続きや記載内容を確認したい
- 事業場外みなし労働時間制を適用しているが、残業代未払いを指摘されるリスクが心配
- テレワーク中の従業員から「残業代が払われていない」「中抜け分が給与から控除された」と申し出があった
- 在宅勤務中の労災事故が発生し、どう対応すべきかわからない
- テレワーク制度を縮小・廃止したいが、労働条件の不利益変更にならないか不安
労働問題は「問題が顕在化してから」ではなく、ルール整備の段階で専門家に相談することが、結果的に会社と従業員双方を守ることにつながります。横浜エリアを中心に企業法務を取り扱う弁護士に気軽に相談してみてください。
まとめ
テレワーク(在宅勤務)の導入・定着にあたって重要なポイントをまとめます。
- テレワーク特有の事項(費用負担・中抜け時間等)が生じる場合は、就業規則の変更・在宅勤務規程の整備が必要です(労働基準法第89条・第90条)。
- 労働時間管理の方法(通常の労働時間制・フレックスタイム制・事業場外みなし)はそれぞれ適用要件が異なります。事業場外みなしのテレワークへの適用は限定的に解されるため注意が必要です。
- 「中抜け時間」の取り扱い(休憩時間か時間単位有給休暇か)を就業規則に明記することで、未払い残業代等のトラブルを防止できます。
- 通信費・光熱費等の費用負担ルールを就業規則または在宅勤務規程に明記し、上限額も定めておくことが重要です。
- テレワーク中の労災・安全衛生管理も事業者の義務であり、チェックリストの活用や健康管理体制の整備が求められます。
テレワーク関連のルール整備は一度整えてしまえば後々のトラブルを大幅に防ぎます。「うちは小規模だから大丈夫」と思わず、早めに法的な観点からの見直しをお勧めします。
テレワーク・在宅勤務の就業規則整備・労務管理でお困りの方へ
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