相続人がいない遺産はどうなる?相続財産清算人と特別縁故者を弁護士が解説
相続人がいない遺産はどうなる?相続財産清算人と特別縁故者を弁護士が解説
「亡くなった親族に配偶者も子もおらず、他に相続する人が見当たらない」「長年連れ添った内縁のパートナーが亡くなったが、自分には相続権がないと言われた」——このような場面で、遺された財産が最終的にどこへ行くのか、不安に感じている方は少なくありません。相続人が見当たらない場合、遺産は自動的に誰かのものになるわけではなく、法律で定められた手続きを経て清算・分配されていきます。
本記事では、相続人がいない(相続人不存在)とはどのような状態を指すのか、その場合に選任される「相続財産清算人」の役割、故人と特別な関係にあった人が財産を受け取れる「特別縁故者」への分与、そして最終的な国庫帰属までの流れを、2023年(令和5年)4月に施行された民法改正の内容もふまえて整理します。あわせて、こうした事態を防ぐために生前にできる対策にも触れます。
相続人がいない(相続人不存在)とはどのような状態か
「相続人がいない」とは、法律上の相続人(法定相続人)が存在しない、または存在するかどうかが明らかでない状態を指します。民法は、配偶者を常に相続人としたうえで、子(およびその代襲相続人)、直系尊属、兄弟姉妹(およびその子)の順で相続人となることを定めています(民法第887条・第889条・第890条)。これらのいずれもいない場合に、相続人不存在の問題が生じます。
実務上、相続人がいない状態は次のような場面で発生します。
- 被相続人に配偶者・子・親・兄弟姉妹などがいずれもいない(もともと法定相続人がいないケース)
- 戸籍上は親族がいても、相続人全員が家庭裁判所で相続放棄をした結果、相続する人がいなくなったケース
- 相続人が全員、相続欠格や廃除によって相続権を失っているケース
近年は生涯未婚の方や、子のない夫婦の一方が先立ったケースなどで、この問題に直面する場面が増えています。子のない夫婦の相続関係については「子のない夫婦の相続はどうなる?」もあわせてご覧ください。また、相続放棄によって相続人がいなくなる場合の注意点は「相続放棄しても管理義務は残る?」で解説しています。
相続人がいない場合の遺産の流れ(全体像)
相続人がいない場合、遺産は次のような順序で処理されていきます。段階を踏んで清算し、それでも残った財産があれば特定の人に分与され、最終的には国のものになる、という流れです。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| ① 清算人の選任 | 利害関係人・検察官の申立てにより、家庭裁判所が相続財産清算人を選任(民法第952条) |
| ② 公告・権利確定 | 相続人を捜索する公告(6か月以上)と、債権者・受遺者への請求申出の公告を実施 |
| ③ 清算 | 清算人が財産を管理・換価し、債権者・受遺者へ弁済 |
| ④ 特別縁故者への分与 | 公告期間満了後3か月以内に申立てがあれば、家庭裁判所が相当と認める範囲で分与(民法第958条の2) |
| ⑤ 国庫帰属 | それでも残った財産は国庫に帰属(民法第959条) |
この一連の手続きの主役となるのが、②以降を担う「相続財産清算人」です。以下で詳しく見ていきます。
相続財産清算人の選任と役割(2023年民法改正)
相続人のあることが明らかでないとき、家庭裁判所は、利害関係人または検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任します(民法第952条第1項)。ここでいう利害関係人には、被相続人の債権者、特定遺贈を受けた受遺者、内縁のパートナーや療養看護に努めた人など、財産の帰属に利害を持つ人が含まれ得ます。
選任された相続財産清算人は、相続財産を管理し、財産の調査・換価、債権者や受遺者への弁済を行い、最終的な清算までを担います。清算人には弁護士や司法書士などの専門職が選任されることが一般的です。
2023年改正で「相続財産管理人」から名称が変わった
2023年(令和5年)4月1日に施行された民法改正により、相続人不存在の場面で清算を担う職務は、従来の「相続財産管理人」から「相続財産清算人」へと名称が改められました。あわせて、これまで段階的に行っていた複数の公告が一本化されています。
改正前は、清算人の選任公告、債権者・受遺者への請求申出の公告、相続人を捜索する公告を順番に行う必要があり、権利関係が確定するまでに最短でも10か月程度を要していました。改正後は、相続人を捜索する公告(6か月以上)の中で他の公告も並行して行えるようになり、最短で6か月程度に短縮されました。手続きの長期化が課題とされていた点が改善された形です。
費用(予納金)の目安
清算人選任の申立てには、収入印紙や官報公告料などの実費がかかります。加えて、相続財産だけでは清算に必要な費用をまかなえないと見込まれる場合、申立人が「予納金」を納めるよう求められることがあります。予納金は事案によって異なり、数十万円から100万円程度になる場合もあるとされています。財産が十分にあれば最終的に清算費用にあてられますが、負担が生じ得る点は事前に理解しておく必要があります。具体的な金額は申立先の家庭裁判所にご確認ください。
特別縁故者への相続財産分与(民法第958条の2)
清算を終えてもなお財産が残り、相続人が現れないことが確定した場合、故人と特別な関係にあった人が、その財産の分与を受けられる可能性があります。これを「特別縁故者に対する相続財産の分与」といいます(民法第958条の2。2023年改正前の旧第958条の3にあたります)。
特別縁故者の3つの類型
民法は、特別縁故者として次の3類型を挙げています。
- 被相続人と生計を同じくしていた者:内縁の配偶者、事実上の養子など
- 被相続人の療養看護に努めた者:報酬を超えて献身的に看護した人など
- その他被相続人と特別の縁故があった者:長年にわたり親密な交流があった人など
典型例としては、内縁配偶者、事実上の養親子、身の回りの世話を続けた甥・姪や子の妻などが挙げられます。ただし、これらに該当すれば当然に財産を受け取れるわけではなく、家庭裁判所が「相当と認めるとき」に、清算後に残った財産の全部または一部を与えることができる、という枠組みです。どの範囲が認められるかは、縁故の厚さや財産の状況などをふまえて個別に判断される傾向があります。内縁関係と財産承継の全体像は「内縁関係(事実婚)に相続権はない?パートナーへ財産を残す5つの方法」でも解説しています。
申立ての期限(3か月)に要注意
特別縁故者として財産分与を求めるには、家庭裁判所に申立てを行う必要があります。この申立ては、相続人を捜索する公告の期間が満了した後、3か月以内に行わなければなりません。この3か月は除斥期間と解されており、1日でも過ぎると申立てができなくなると考えられています。せっかく特別縁故者にあたる事情があっても、期限を逃すと分与を受けられなくなるため、期間の管理には特に注意が必要です。
残った財産の国庫帰属と共有持分の扱い
債権者への弁済も特別縁故者への分与も行われた後、なお財産が残った場合、その財産は国庫に帰属します(民法第959条)。つまり、最終的に引き取り手がいなければ、遺産は国のものになります。
なお、被相続人が他人と共有していた不動産の持分などについては、共有者が死亡し相続人がいないときに他の共有者へ帰属するという規定(民法第255条)との関係が問題になります。この点について裁判例では、特別縁故者への分与の手続きが優先し、分与されずに残った場合にはじめて他の共有者に帰属する、という考え方が示されています。共有持分が絡む事案は判断が複雑になりやすいため、専門家への相談が有用です。
相続人がいない事態を防ぐ生前の対策
相続財産清算人の選任から国庫帰属までの手続きには時間も費用もかかり、故人が「この人に遺したい」と考えていた相手に必ず財産が渡るとは限りません。特別縁故者の分与も、あくまで家庭裁判所の裁量によるものです。そこで、相続人がいない、あるいは少ないと見込まれる方は、生前に次のような対策を検討しておくことが考えられます。
- 遺言書の作成:内縁のパートナーやお世話になった人、団体へ財産を「遺贈」する旨を遺言に記しておくことで、清算手続きを経ずに意思を実現しやすくなります
- 死因贈与契約:受け取る相手と生前に合意しておく方法です
- 養子縁組:法律上の親子関係を結ぶことで、その人が法定相続人となります
いずれの方法にもメリット・注意点があり、遺言の形式不備や他の親族との関係など、検討すべき点は少なくありません。横浜・新横浜のタングラム法律事務所では、こうした生前対策のご相談にも対応しています。ご自身の状況に合った方法を弁護士と一緒に整理しておくことで、遺したい相手に確実に財産を届けやすくなります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 相続人がいるかどうかは誰が調べるのですか?
戸籍をたどっても法定相続人が見つからない、または相続人全員が相続放棄した場合、利害関係人や検察官が家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てます。選任された清算人が公告等を通じて相続人の有無を確定させます。公告期間(6か月以上)内に相続人が現れなければ、相続人がいないことが確定します。
Q2. 相続財産清算人を選任するのにどのくらい費用がかかりますか?
申立ての実費(収入印紙・官報公告料等)のほか、相続財産だけでは清算費用をまかなえない場合に、申立人が予納金を納めるよう求められることがあります。予納金の額は事案により異なり、数十万円から100万円程度になる場合もあります。金額は財産の内容によって変わるため、詳しくは申立てを行う家庭裁判所にご確認ください。
Q3. 内縁の妻や事実婚のパートナーは特別縁故者として財産をもらえますか?
内縁配偶者は「被相続人と生計を同じくしていた者」として特別縁故者に該当し得る典型例とされています。ただし当然に財産を受け取れるわけではなく、家庭裁判所への申立てと審判が必要で、認められる範囲も個別の事情によって判断されます。
Q4. 特別縁故者の申立てには期限がありますか?
相続人を捜索する公告の期間が満了した後3か月以内に、家庭裁判所へ相続財産分与の申立てを行う必要があります。この3か月は除斥期間と解されており、経過すると申立てができなくなるため、期限の管理には特に注意が必要です。
まとめ|相続人がいないときこそ早めの相談を
相続人がいない場合、遺産は相続財産清算人による清算を経て、特別縁故者への分与や国庫帰属へと進みます。2023年の民法改正で手続きは以前より短縮されましたが、それでも清算には相応の期間と費用がかかり、特別縁故者の申立てには公告期間満了後3か月という厳格な期限があります。「自分は特別縁故者にあたるのか」「内縁のパートナーの財産を受け取れるのか」といった判断は、事案ごとの事情に大きく左右されます。
また、相続人が少ない・いないと見込まれる方にとっては、生前の遺言や養子縁組などの対策が、遺したい相手へ財産を届けるうえで有効な選択肢になります。相続財産清算人の申立てを検討している方も、生前対策を考えている方も、早い段階で弁護士に相談することで、手続きの見通しを立てやすくなります。横浜・新横浜のタングラム法律事務所では、相続人不存在に関する手続きや生前対策のご相談を承っています。
相続人がいない・特別縁故者の手続きでお困りの方へ
タングラム法律事務所では、相続や遺留分侵害額請求の事案について豊富な実績を有しております。相続財産清算人の選任申立て、特別縁故者としての財産分与、内縁パートナーへの生前対策など、相続人不存在にまつわるご相談に横浜の弁護士が対応します。
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