定款の「事業目的」を広く書くべき理由|記載漏れが招くリスクと対処法を横浜の弁護士が解説
定款の「事業目的」を広く書くべき理由|記載漏れが招くリスクと対処法を横浜の弁護士が解説
会社を設立するとき、定款に定める「事業目的」をどう書けばいいか、迷った経験はないでしょうか。「今やっているビジネスだけ書けばいいか」「あれもこれも書くと変な会社に見えないか」——そう悩んで、とりあえず目の前の事業だけを簡潔に記載してしまうケースは少なくありません。
ところが、その「とりあえず」の記載が、後になって思わぬ障害を引き起こすことがあります。許認可申請で受理されなかった、銀行融資の審査で事業内容との乖離を問われたというケースは、横浜・神奈川エリアでの法律相談でもしばしば耳にします。
本記事では、定款の事業目的とは何か、なぜ広めに書いておくべきなのか、記載が狭いことで生じるリスクと、後から変更する場合の手続き・費用について、弁護士の視点から解説します。
定款の「事業目的」とは何か——会社の顔となる重要な記載事項
定款とは、会社の根本ルールを定める文書です。会社法第27条は、株式会社の定款に「目的」を絶対的記載事項として規定しており(会社法第27条第1号)、これを欠くと定款そのものが無効となります。
事業目的は単に行政上の届け出書類にとどまらず、対外的に会社の事業領域を示す「顔」としての役割も持っています。取引先が新規取引を検討する際には登記事項証明書(登記簿謄本)を取り寄せて事業目的を確認しますし、銀行が融資審査をする際にも定款や登記簿を照合して、申告している事業内容と目的が整合しているかどうかをチェックします。
つまり、事業目的の記載は「今の事業だけを正確に書けばよい」ものではなく、将来の事業展開も視野に入れ、かつ外部からの信頼を得られる内容にすることが求められます。
事業目的の記載に求められる3つの要件
事業目的を定款に記載するにあたっては、法的に次の3つの要件を満たす必要があるとされています。
① 適法性
法律に違反する事業を目的とすることはできません。公序良俗に反する内容や、そもそも法令上禁止されている事業は記載しても効力を認められません。また、特定の業種では法律上「その業を営むために許認可が必要」とされているため、許可を取得しないまま営業することができない点にも注意が必要です(後述)。
② 営利性
会社は利益を追求する組織ですので、事業目的には利益を生み出す活動である必要があります。純粋な慈善事業のみを目的として列挙することは株式会社の目的としてなじまないと解されることがある点に留意してください。
③ 明確性
第三者が読んだときに、その会社がどのような事業を営んでいるかが理解できる表現でなければなりません。「何でもします」「各種サービスの提供」のように抽象的すぎる表現は、法務局の審査で指摘を受けることがあります。
この3つの要件を満たしながら、かつ将来の事業展開を見据えて「広く」書くというバランス感覚が重要です。
「事業目的を狭く書きすぎる」と起こる3つのリスク
設立時に事業目的を必要最小限しか記載しなかった場合、次のようなリスクが生じる可能性があります。
リスク① 新規事業が「目的外」と判断される
会社は定款に定めた目的の範囲内でのみ権利を有するとされており(会社法第3条参照)、実務・判例上は「目的遂行に必要または有用な行為」は目的の範囲内と柔軟に解釈されます。しかし取引先や金融機関は登記簿の目的と実際の事業内容を照合するため、大きく乖離していると「この会社は本当にこの事業をやっているのか」という疑念を招き、新規事業への進出局面で取引を躊躇されるケースがあります。
リスク② 許認可申請で受理されないことがある
建設業の許可、飲食店営業許可、古物商許可、宅地建物取引業免許など、特定の業種で事業を行うには行政庁の許認可が必要です。これらの許認可を申請する際、行政機関は定款の事業目的の記載を確認します。該当する事業が目的に明示されていない場合、申請が受理されない、あるいは定款変更を求められることがあります。
たとえば古物商許可を取得する場合、「古物営業法に基づく古物の売買・交換」といった趣旨の記載が定款の目的に含まれていることが求められます。これが書かれていないと、許可申請の段階で定款変更を先に済ませる必要が生じ、時間と費用のロスが発生します。
リスク③ 銀行融資の審査で不利になることがある
銀行が融資審査を行う際、定款や登記事項証明書は必須の提出書類の一つです。審査において「申告している事業内容」と「定款の事業目的」が合致しているかどうかがチェックされます。たとえばIT関連サービスを主力事業としているにもかかわらず、定款には「●●の製造販売」としか書かれていないような場合、担当者から説明を求められたり、追加書類の提出を求められたりして、審査がスムーズに進まないことがあります。
融資審査は時間的に余裕がないケースも多く、定款の目的記載の不整合が審査遅延・否決の一因になることは避けたいものです。
許認可が必要な業種では「明確な記載」が特に重要
前述のとおり、行政機関から許認可を受けるためには、定款の事業目的に該当業種の記載が必要です。以下に代表的な業種と定款記載のポイントを整理します。
| 業種 | 必要な許認可 | 定款への記載のポイント |
|---|---|---|
| 飲食業 | 飲食店営業許可(食品衛生法) | 「飲食店の経営」「飲食物の調理・提供」等を明記 |
| 建設業 | 建設業許可(建設業法) | 許可を受ける業種(土木、建築、電気工事等29種)を具体的に記載 |
| 古物商 | 古物商許可(古物営業法) | 「古物の売買・交換」等の記載が必須 |
| 宅地建物取引業 | 宅建業免許(宅地建物取引業法) | 「宅地建物取引業」または「不動産の売買・賃貸・仲介」を明記 |
| 労働者派遣業 | 労働者派遣事業許可(労働者派遣法) | 「労働者派遣事業」の文言を明記 |
| 介護・障害福祉サービス | 都道府県等による指定 | 対象サービス(訪問介護、通所介護等)を具体的に記載 |
これらの業種では、設立時から将来取得する可能性のある許認可に対応する目的を盛り込んでおくことで、後の定款変更コストを回避できます。
「前各号に附帯関連する一切の事業」という一文の重要性
実務上、定款の事業目的の末尾に「前各号に附帯関連する一切の事業」という文言を加えることが広く行われています。この一文を入れることで、具体的に列挙した事業に関連する付随的な業務を包括的にカバーすることができます。
たとえば、主力事業がWebシステムの開発であっても、その附帯事業としてコンサルティング、研修サービス、ソフトウェアの保守・運用などを展開することは珍しくありません。これらを個別に列挙していなくても、「附帯関連する一切の事業」の文言があれば、一定の範囲でカバーできるとされています。
ただし、この一文だけに頼ることには限界があります。許認可が必要な業種や、事業内容が主力事業と大きく異なる分野へ進出する場合は、個別に目的として記載することが必要です。「附帯関連」というのはあくまで補完的な位置づけであり、まったく関係のない新事業を包含するものではないと考えておくべきでしょう。
設立時には、次の点を意識して事業目的を記載することをお勧めします。
- 現在行っている事業を具体的に列挙する
- 3〜5年以内に展開したい事業や、許認可を取得したい業種も先行して書き加える
- 末尾に「前各号に附帯関連する一切の事業」を付け加える
設立後に事業目的を変更するには——手続きと費用の現実
「設立時に書き忘れた」「新しい事業を始めたい」という場合、定款の事業目的を変更することは可能です。ただし、手続きが必要であり、費用と時間がかかります。
変更の手続きの流れ
株式会社が定款の事業目的を変更するには、まず株主総会で特別決議を得る必要があります。特別決議とは、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成によって成立する決議です(会社法第309条第2項)。
特別決議を得た後、原則として決議後2週間以内に法務局に変更登記の申請を行います(会社法第915条第1項)。申請期限を過ぎた場合、代表者が100万円以下の過料に処せられる可能性があります(会社法第976条)。なお、代表取締役が独断で定款を変更することはできません。会社規模にかかわらず、必ず株主総会での特別決議が必要である点を覚えておいてください。
変更にかかるコスト
| 費用の種類 | 金額の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 登録免許税(実費) | 3万円 | 法務局への登記申請時に必要 |
| 司法書士報酬 | 3万〜7万円程度 | 専門家に依頼する場合(事務所により異なる) |
| 株主総会の開催費用 | 数千円〜数万円 | 招集通知の郵送費、議事録作成等 |
登録免許税だけでも3万円かかるうえ、手続きに要する時間(株主総会の招集通知発送から決議、登記申請まで概ね1か月程度を見ておく必要があります)を考えると、設立時から少し先を見越して広めに書いておくほうが、結果としてコストを抑えられることがわかります。
また、許認可申請を控えたタイミングで定款変更が必要と判明した場合、変更登記の完了を待ってから許可申請を行うことになり、事業開始が遅れるリスクもあります。横浜・神奈川で許認可申請を伴う事業を立ち上げるご予定がある場合は、設立の段階から弁護士または司法書士に相談しておくことをお勧めします。
まとめ——設立時から広めに書くことが中小企業の実務的な得策
定款の事業目的は「今やっている事業だけ」を最小限に書けばいい、というものではありません。将来の事業展開、取得予定の許認可、銀行融資への対応といった複数の観点から、設立段階から戦略的に記載内容を考えることが重要です。
実務上のポイントをまとめると、次のとおりです。
- 現在の事業を具体的に記載しつつ、3〜5年以内に展開する予定の事業も先行して記載しておく
- 許認可が必要な業種は、許可を取得する前であっても目的に書いておくことが有効(実際の営業開始は許可取得後)
- 末尾に「前各号に附帯関連する一切の事業」を加えて補完性を持たせる
- 後から変更する場合は株主総会の特別決議・変更登記が必要で、費用も時間もかかる
- 変更手続きは原則として決議から2週間以内に登記申請が必要(期限超過は過料のリスクあり)
定款の内容は後から変更するたびにコストが発生するため、設立段階で慎重に設計することが長期的なコスト削減につながります。横浜エリアで会社設立を検討されている方や、既存の定款を見直したい方は、ぜひ弁護士にご相談ください。
定款の事業目的の書き方・見直し、会社設立に関するご相談はタングラム法律事務所へ
タングラム法律事務所では、企業法務(契約書レビュー・労務・法改正対応等)について、中小企業・個人経営の事業者向けに豊富な実績を有しております。定款の事業目的の記載内容や変更手続き、許認可対応など、会社設立・法人運営に関するご相談を横浜の弁護士が丁寧にサポートいたします。
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