なぜ匿名のチケット転売出品者が特定されるのか|開示の仕組みを解説
なぜ匿名のチケット転売出品者が特定されるのか|開示の仕組みを解説
ニックネームで登録し、本名も住所も入力していない。それなのに、意見照会書は自宅に届く。「なぜ自分だとわかったのか」という戸惑いは、チケット転売の開示請求を受けた方から最もよく聞かれる言葉です。
特定は、勘や推測で行われているわけではありません。どの情報を、誰から、どういう順番で取れるのかが法令で決められており、その手順にそって進められています。この記事では、その仕組みを条文にそって説明します。仕組みがわかると、自分の事案で何を争えるのかも見えてきます。
法令が「特定に使える情報」を列挙している
発信者情報開示請求の根拠は、旧プロバイダ責任制限法にあたる「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」(情報流通プラットフォーム対処法)第5条です。そして、開示の対象となる「発信者情報」の中身は、同法施行規則(令和四年総務省令第三十九号)第2条が具体的に列挙しています。
主なものは次のとおりです。
| 情報 | 意味 |
|---|---|
| 氏名または名称/住所/電話番号/メールアドレス | 契約者を直接示す情報 |
| IPアドレスおよび組み合わされたポート番号 | 通信がどの回線から行われたかを示す |
| SIM識別番号 | スマートフォンに入っているSIMを識別する番号 |
| 移動端末設備からのインターネット接続サービス利用者識別符号 | 携帯回線の利用者を識別する符号 |
| 送信された年月日および時刻 | いわゆるタイムスタンプ |
| 利用管理符号 | 事業者間で回線や利用者を識別するために用いられる符号 |
注目していただきたいのは、氏名や住所と同じ列に、IPアドレスやSIM識別番号が並んでいる点です。本名を入力していなくても、通信の痕跡そのものが「特定に資する情報」として開示の対象になるというのが、この制度の設計です。
特定は二段階で進む
転売サイトは、出品者の本名や住所を持っていないことが通常です。そのため、開示は次の二段階に分けて行われます。
| 段階 | 相手方 | 取得される情報 |
|---|---|---|
| 第一段階 | 転売サイトの運営会社 | 出品時のIPアドレス・ポート番号、タイムスタンプ、登録メールアドレスなど |
| 第二段階 | 携帯電話会社・インターネット接続業者 | その通信を行った回線の契約者の氏名・住所・電話番号 |
第一段階で得たIPアドレスは、誰にでも公開されている割当情報(whois)で調べれば、どの事業者に割り当てられたものかがわかります。そこで第二段階の相手方が決まり、その事業者に対して「この日時にこのIPアドレスを使っていた契約者は誰か」と請求する、という流れです。
ログイン時の通信も対象になる
出品したときの通信記録が残っていない場合でも、それで終わりとは限りません。同法は「侵害関連通信」という枠組みを設けており、施行規則第3条は、これに係るIPアドレスやSIM識別番号などを「特定発信者情報」として位置づけています。
平たくいえば、投稿や出品そのものの通信だけでなく、アカウントへのログインなどに関する通信の記録も、一定の要件のもとで開示の対象になり得るということです。ログイン型のサービスで長く使われているアカウントほど、手がかりは増えることになります。
「時間が経てば消える」が期待できない理由
通信記録の保存期間は法律で定められておらず、事業者の運用によります。実務では数か月程度とされることが多く、この短さが、かつては特定の壁になっていました。
しかし現在は、裁判所が次の2つの命令を出せる仕組みがあります。
- 提供命令(第15条):転売サイトの運営会社に対し、次に請求すべき事業者の名称等を申立人に提供させ、あるいはその事業者に発信者情報を提供させる命令
- 消去禁止命令(第16条):事件が終わるまで、保有する発信者情報を消去してはならないと命じる決定
提供命令によって第一段階から第二段階への移行が速くなり、消去禁止命令によって記録が保全されます。すでに手続が動いている段階で、時間の経過を頼りにすることは現実的ではありません。
よくある誤解
出品を削除すれば記録も消えるのか
画面から出品が見えなくなることと、事業者のサーバーに残る通信記録が消えることは別です。削除しても、開示請求の対象となる情報が残っていることは十分にあり得ます。
アカウントを退会すればよいのか
同様に、退会によって過去の通信記録がただちに消えるわけではありません。むしろ、後から自分の事案の内容を確認する手段を失うという不利益のほうが大きくなり得ます。
家族名義の回線なら特定されないのか
開示されるのは回線の契約者情報です。契約者と実際の出品者が異なる場合、その点は重要な争点になりますが、「特定されない」のではなく「契約者として通知が届く」ことになります。この場合の対応は、チケット転売で意見照会書が届いたらで解説しています。
仕組みを知ると、争える点が見えてくる
特定の手順を理解すると、意見照会書への回答で何を述べるべきかがはっきりします。実務上、次のような点が検討対象になります。
- 問題とされている出品の日時・IPアドレスと、自分の利用状況が一致するか
- 当該回線を実際に使用していたのが誰か
- そもそも問題とされた出品が「特定興行入場券の不正転売」の要件を満たすか
3点目については、チケット転売はどこから違法かで条文の要件を整理しています。当事務所の対応の流れと費用は、チケット転売の発信者情報開示請求への対応ページでご案内しています。
よくある質問
本名も住所も登録していないのに、なぜ特定されるのですか。
施行規則第2条は、氏名や住所だけでなく、IPアドレス、ポート番号、SIM識別番号、送信日時なども「発信者情報」として列挙しています。これらを転売サイトから取得し、そこから回線の契約者へとたどる仕組みになっているためです。
フリーメールで登録していれば安全ですか。
登録メールアドレスは特定の手がかりの一つにすぎません。実際の特定は、通信を行った回線をたどる形で進みますので、メールアドレスの種類によって結論が変わるものではありません。
もう何年も前の出品ですが、記録は残っているのでしょうか。
保存期間は事業者の運用によります。ただし、開示請求が始まっている事案では、裁判所の消去禁止命令によって記録が保全されている場合があります。意見照会書が届いているということは、少なくとも第一段階の情報は取得済みと考えるのが自然です。
特定された後でも、争う余地はありますか。
あります。特定されたことと、法的な責任を負うかどうかは別の問題です。出品の態様や価格、契約者と出品者の同一性など、争点は残ります。書面が届いた段階で、資料を揃えて弁護士にご相談ください。
まとめ
- 開示の対象となる発信者情報は、情プラ法施行規則第2条が具体的に列挙している
- 氏名・住所だけでなく、IPアドレス・ポート番号・SIM識別番号・送信日時なども対象
- 特定は、転売サイト → 携帯電話会社等という二段階で進む
- ログインなどの「侵害関連通信」に係る情報も、一定の要件のもとで対象になり得る
- 提供命令(第15条)と消去禁止命令(第16条)があるため、時間の経過は頼りにならない
特定の仕組みは、知っておくほど落ち着いて対応できます。横浜のタングラム法律事務所では、発信者情報開示請求を受けた側の対応を数多く取り扱っています。開示された後の流れはチケット転売で氏名・住所が開示された後で解説していますので、あわせてご覧ください。
身に覚えのない開示請求でお困りの方へ
タングラム法律事務所(横浜市中区)は、チケット転売を理由とする発信者情報開示請求について、意見照会書への回答書作成から、開示後の損害賠償請求への対応・示談交渉まで取り扱っています。オンラインで全国からご相談いただけます。回答期限がある場合は、その日付をお知らせください。
法律相談の予約はこちら※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。