チケット転売の損害賠償はいつまで請求されるか|消滅時効の考え方
チケット転売の損害賠償はいつまで請求されるか|消滅時効の考え方
数年前に出品したチケットについて、いまになって意見照会書が届いた。「そんな昔のことまで請求されるのか」——このご質問は、開示請求の件数が増えるにつれて目立って多くなりました。
この記事では、チケット転売を理由とする請求にどのような時効が関係するのか、起算点はいつなのか、興行主が複数の構成を並べてくる理由、そして時効を当てにすることの危うさを、横浜の弁護士が条文に即して整理します。
2つの構成で、期間が違う
チケット転売の事案で興行主側が立てる法律構成は、大きく2つあります。それぞれ時効の期間が異なります。
| 構成 | 条文 | 期間 |
|---|---|---|
| 不法行為に基づく損害賠償請求 | 民法第724条 | 損害及び加害者を知った時から3年/不法行為の時から20年 |
| 不当利得返還請求 | 民法第166条第1項 | 権利を行使できることを知った時から5年/権利を行使できる時から10年 |
民法第724条は、不法行為による損害賠償の請求権について「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき」「不法行為の時から二十年間行使しないとき」に時効によって消滅すると定めています。民法第166条第1項は、債権一般について「債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間」「権利を行使することができる時から十年間」と定めています。
不当利得の構成についてはチケット転売の利益は返さなければならないのかで扱っています。
起算点はいつか——ここが実務上の要点
期間の長さより重要なのが、いつから数え始めるのかです。
不法行為の3年は「損害及び加害者を知った時」から進行します。「加害者を知った」とは、加害者に対する賠償請求が事実上可能な程度にその者を知ることをいうと解されています。
チケット転売の事案では、興行主は出品を見つけた時点では出品者が誰なのかを知りません。発信者情報の開示を受けて、初めて氏名・住所が判明します。したがって、開示を受けた時点が3年の起算点になると考えられます。
つまり、出品から何年経っていても、開示された時点から改めて3年の期間が始まるという構造です。「もう何年も前のことだから」という理解は、この点で成り立ちません。
それでも動かないのが20年と10年
一方、不法行為の時から20年、権利を行使することができる時から10年という上限は、開示の時期にかかわらず進行します。出品から20年以上が経過していれば、不法行為構成での請求は時効の問題になります。
もっとも、この分野の開示請求が本格化したのは2024年以降です。実際の相談で20年・10年の上限が問題になる場面は、現時点ではほとんどありません。手続の全体像はチケット転売の開示請求が情プラ法でどう進むのかで整理しています。
そもそも「開示されるまでの時間」に上限がある
時効より先に効いてくるのが、通信記録の保存期間です。開示は、転売サイトから出品時のIPアドレスを得て、そのIPアドレスを扱っていた通信事業者に契約者を照会する、という二段階で進みます。通信事業者側に記録が残っていなければ、そこで手続は止まります。
この保存期間については、各社が公表している一次情報を当事務所として確認できていないため、具体的な月数は申し上げません。「記録が残っている間しか手続は進まない」という構造だけを押さえてください。逆に言えば、意見照会書が届いたということは、記録が残っていたということです。
時効を当てにすることの危うさ
1. 交渉での言動が影響し得る
相手方の請求に対して、支払いの一部を実行したり、分割払いを申し出たりすると、それが債務の「承認」と評価され、時効の進行に影響することがあります。時効を主張するつもりであれば、交渉での言動には注意が必要です。支払いが難しい場合の選択肢は損害賠償が払えないときで扱っています。
2. 裁判上の請求で進行が止まる
訴訟が提起されれば、時効の完成は猶予されます。相手方が期間を意識して手続に踏み切ることは、当然に想定されます。
3. 時効は自動的には働かない
期間が経過していても、それを主張しなければ効果は生じません。「黙っていれば消えるはず」という考え方は成り立たず、主張する場面と方法があります。
いま書面が届いている方が確認すること
時効の検討が意味を持つのは、出品から相当の年数が経っている場合に限られます。多くの事案では、それよりも回答期限と、請求額の妥当性のほうが先に問題になります。
意見照会書が届いた段階の対応はチケット転売で意見照会書が届いたら、開示後に通知書が届いた段階は内容証明が届いたときの対応手順、請求額の考え方はチケット転売の損害賠償はいくらかにまとめています。この段階の取扱いは当事務所の損害賠償請求対応のページ、弁護士に依頼した場合の費用はチケット転売の発信者情報開示請求への対応のページで扱っています。
よくある質問
5年前の出品について照会が来ました。時効ではありませんか。
不法行為の3年は「損害及び加害者を知った時」から進行すると定められており、開示を受けて発信者が判明した時点が起算点になると考えられます。出品からの経過年数だけで時効を判断することはできません。
不当利得なら5年ということは、そちらのほうが有利ですか。
一概には言えません。期間だけでなく、請求できる金額の考え方も構成によって異なります。相手方がどの構成で請求しているかは、届いた書面の記載で確認できます。
「支払う意思はある」と伝えるだけでも影響しますか。
言い方や文脈によっては、債務を認めたものと受け取られることがあります。時効を含めて争う余地を残したい場合は、回答の内容を検討したうえで返答してください。
時効が完成していたら、放置してよいのですか。
いいえ。時効は主張しなければ効果が生じません。また、放置している間に訴訟を提起されれば、時効の完成は猶予されます。期間が経過していると思われる場合こそ、主張の仕方を検討する必要があります。
まとめ
- 不法行為は民法第724条により、損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年
- 不当利得は民法第166条第1項により、知った時から5年、行使できる時から10年
- 3年の起算点は開示を受けた時点になると考えられ、出品からの経過年数では判断できない
- 時効より先に、通信記録が残っているかどうかで手続が進むか決まる
- 時効は主張して初めて効果が生じ、交渉での言動が進行に影響することがある
ご自身の事案で時効の主張が成り立つかどうかは、出品の時期と、書面に記載された内容を見なければ判断できません。書面をお持ちのうえ、横浜のタングラム法律事務所までご相談ください。オンラインで全国から対応しています。
チケット転売を理由とする発信者情報開示請求について、対応の流れと弁護士費用はチケット転売の意見照会対応の詳細をご覧ください。
数年前の出品について書面が届いた方へ
タングラム法律事務所(横浜・山下公園)は、チケット転売を理由とする発信者情報開示請求について、意見照会書への回答書の作成・内容確認から、開示後の損害賠償請求への対応・示談交渉まで取り扱っています。オンラインで全国からご相談いただけます。出品の時期と、書面に記載された日付をお知らせください。
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