タングラム法律事務所

遺産の使い込みを疑われたら|引き出した側の反論方法を弁護士が解説

遺産の使い込みを疑われたら|引き出した側の反論方法を弁護士が解説

遺産の使い込みを疑われたら|引き出した側の反論方法を弁護士が解説

遺産の使い込みを疑われたら|引き出した側の反論方法を弁護士が解説

遺産の使い込みを疑われたら|引き出した側の反論方法を弁護士が解説

親と同居し、入退院の付き添いから通帳の管理まで一人で引き受けてきた。親に頼まれてキャッシュカードで生活費を下ろし、施設の費用を払ってきた。ところが相続が始まったとたん、他の兄弟から「預金が減っている」「使い込みではないか」と言われ、取引履歴を突きつけられた――。横浜の当事務所にも、遺産の使い込みをめぐるご相談は、請求する側からだけでなく、疑われた側からも数多く寄せられます。

長年介護を担ってきた立場からすれば、納得のいかない話だと思います。もっとも、感情的に「そんなことはしていない」と返すだけでは、かえって不信を強めてしまいます。この記事では、使い込みを主張する側が法律上何を立証しなければならないのか、疑われた側にどのような反論が考えられるのか、そして今の段階で何を準備しておくべきかを整理します。

遺産の使い込みを疑われるのはどのような場面か

「遺産の使い込み」「使途不明金」と呼ばれる問題は、被相続人の生前または死亡直後に、相続人の一人が被相続人名義の預貯金を引き出していた場合に生じます。最高裁平成21年1月22日判決(民集63巻1号228頁)は、共同相続人の一人が単独で預金口座の取引経過の開示を求めることができると判断しており、他の相続人は容易に取引履歴を入手できます。そこにまとまった出金や繰り返される現金引き出しが並んでいると、通帳を管理していた相続人に疑いの目が向けられることになります。典型的なのは次のような場面です。

  • 被相続人に頼まれ、キャッシュカードで生活費・医療費・施設費用を引き出していた
  • 被相続人が入院・入所し、通帳と印鑑を預かって支払いを代行していた
  • 被相続人の口座が凍結される前に、葬儀費用を確保するため引き出した
  • 被相続人から「もらっておきなさい」と言われて金銭を受け取った
  • 被相続人の口座から、自分名義の口座へ預け替えをした

いずれも家族の間ではごく自然な行為ですが、他の相続人から見れば「なぜこの時期にこの金額が動いたのか」がわからない出金にほかなりません。相続人の一方が遺産を取り込んでいるという不信は、遺産分割全体を止めてしまうことがあります(請求する側の視点は遺産を独り占めされたときの対処法をご覧ください)。

請求する側は何を立証しなければならないか

2つの法律構成|不当利得返還請求と損害賠償請求

使い込みを主張する相続人は、引き出した相続人に対し、次のいずれか(または両方)の構成で金銭の返還・賠償を求めるのが通常です。

法律構成 根拠条文 主な内容
不当利得返還請求 民法703条・704条 法律上の原因なく利益を受け、それにより被相続人に損失を与えたとして返還を求める。悪意の受益者には利息の付加も求められる
不法行為に基づく損害賠償請求 民法709条 故意・過失により被相続人の財産権を侵害したとして損害の賠償を求める

被相続人が生前に有していたこれらの請求権は、相続によって各相続人に承継されます。そのため、請求してくる兄弟が求められるのは、原則として自身の相続分に対応する部分にとどまり、「引き出された全額を一人で返せ」という請求が当然に通るわけではありません。

主張立証責任は請求する側にある

ここが、疑われた側にとって最も重要な出発点です。訴訟では、請求する側(原告)が請求の根拠となる事実を主張し、立証しなければなりません。不当利得返還請求であれば、①被相続人に損失が生じたこと、②引き出した相続人に利得があること、③両者の因果関係、④その利得に法律上の原因がないこと、が請求原因となり、判例・実務は請求する者の側が「法律上の原因がないこと」まで主張立証すべきものと解しています。不法行為構成の場合、引き出す権限がなかったことを請求原因と位置づけるか、権限があったことを被告側の抗弁と位置づけるかについては、裁判例上、明確な整理が確立しているとはいえない状況にあります(この論点は、齋藤清文ほか「被相続人の生前に引き出された預貯金等をめぐる訴訟について」判例タイムズ1414号75頁以下が詳しく検討しています)。

「立証責任は相手にある」で終わらせない
もっとも、実際の訴訟では、立証責任の所在だけで結論が決まることはほとんどありません。裁判所は、引き出しの権限や使途について引き出した側に説明を求め、その説明の合理性と、請求する側の反証の双方を踏まえて事実を認定していきます。「自分に立証責任はないから黙っていればよい」という対応は、結果的に不利に働くおそれがあります。

疑われた側の5つの反論|使途をどう説明するか

①被相続人の依頼・同意に基づく引き出しだった

最も基本となる反論です。被相続人から通帳やキャッシュカードを預かり、依頼を受けて代わりに引き出していたのであれば、そこには委任に基づく正当な権限があります。被相続人が自ら金融機関に行けない状態であったこと、生活費や医療費の支払いを誰かが代行する必要があったことなど、引き出しの必要性を客観的な資料で示すことが説得力につながります。

②被相続人のために使った(医療費・介護費・生活費)

引き出した現金を被相続人自身のために使っていたのであれば、被相続人の財産状態に実質的な不利益は生じていないという反論が成り立ちます。実務上も、単に無断で引き出したというだけで直ちに損害や利得を認めるのではなく、自己のために隠匿・費消したといえるかどうかを重視する傾向があります。入院費・施設利用料・付添看護の費用・自宅の改修費など、被相続人の生活実態に見合った支出であることを説明していくことになります。

③生前贈与を受けたものである

被相続人から贈与を受けたという主張も考えられます。ただし、書面によらない贈与は各当事者が解除することができ(民法550条本文)、口頭のやり取りしか存在しない場合には争いになりやすい点に注意が必要です。もっとも、履行の終わった部分については解除できないとされています(同条ただし書)。また、贈与と認められた場合には、それが特別受益(民法903条1項)にあたるとして遺産分割や遺留分の計算に反映される可能性があります。使い込みの主張は退けられても、特別受益として持ち戻され取り分が減るという結果もあり得ます。

税務上の取扱いにご注意ください
生前贈与を受けたと主張する場合、贈与税の申告の有無が問題となることがあります。また、相続開始前の一定期間内の贈与は相続税の課税価格に加算される場合があります。税務上の取扱いは個別の事情によって異なりますので、必ず税理士または所轄の税務署にご確認ください。

④口座凍結を避けるための引き出し・預け替えだった

被相続人の死亡が金融機関に知られると口座は凍結され、葬儀費用の支払いにも支障が生じます。そのため、死亡直前・直後の引き出しは実際に多く見られます。引き出した金銭を葬儀費用や未払いの医療費に充てたのであれば、その使途を明らかにすれば足ります。被相続人名義の別口座への預け替えにすぎない場合も、資金の流れを示すことで説明が可能です。

⑤そもそも引き出したのは自分ではない

被相続人本人や別の親族が引き出していた場合もあります。通帳を預かっていたというだけで出金の主体と決めつけられているのであれば、その点を争うことになります。金融機関に照会すれば、窓口での出金であれば払戻請求書の筆跡が、ATMでの出金であれば取引の店舗・時間帯がわかることがあり、これらが有力な反証になる場合があります。

疑われた側が今すぐやるべきこと

最も避けたいのは、時間の経過によって説明の材料が失われることです。次の資料は、可能な限り早い段階で集めて整理しておくことをおすすめします。

  • 被相続人名義の通帳・取引履歴(引き出しの時期と金額を時系列に並べる)
  • 自分名義の口座の取引履歴(引き出した現金を自分のために使っていないことの裏づけ)
  • 医療費・施設利用料の請求書・領収書、介護保険の利用明細
  • 介護記録、ケアプラン、診療録の写し(被相続人の心身の状態と支出の必要性を示す)
  • 被相続人とのやり取りが残るメール・LINE・手紙・メモ
  • 固定資産税・光熱費など、被相続人の生活に伴う支出の記録

そのうえで、引き出しの一つひとつについて「いつ・いくら・何のために」を対応させた一覧表を作っておくと、交渉でも訴訟でも役に立ちます。請求する側がどのような証拠を集めてくるのかは、遺産の使い込みの証拠の集め方で解説していますので、相手の視点を知る意味でも参考になるはずです。

消滅時効による反論

引き出しから長い年月が経っている場合には、消滅時効が有力な反論になります。

請求の種類 主観的起算点 客観的起算点
不当利得返還請求(民法703条・704条) 権利を行使することができることを知った時から5年(民法166条1項1号) 権利を行使することができる時から10年(同項2号)
不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条) 損害及び加害者を知った時から3年(民法724条1号) 不法行為の時から20年(同条2号)

時効は、当事者が援用しなければその効果は生じません。期間が経過していると思われる場合には、その旨を明確に主張する必要があります。もっとも、起算点をいつと見るかは事案によって判断が分かれるところであり、安易に「もう時効だ」と考えるのは危険です。

どの手続で争うことになるか

被相続人の生前に引き出された預貯金は、遺産分割の時点で遺産として存在しないため、原則として遺産分割の対象にはなりません。相続人全員の合意があれば遺産分割の対象に含めることもできますが、合意がなければ、請求する側は遺産分割とは別に、地方裁判所または簡易裁判所に民事訴訟を提起することになります。遺産分割調停と訴訟が並行して進む、という形になることも珍しくありません。

なお、相続開始後に遺産が処分された場合については、共同相続人全員の同意により、処分された財産が遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができ(民法906条の2第1項)、処分をした共同相続人の同意は要しないとされています(同条2項)。平成30年の相続法改正で新設され、令和元年7月1日以後に開始した相続に適用されます。相続開始の前後どちらの引き出しかによって扱いが変わるため、時期の確認は重要です。

いずれの手続によるにせよ、家族間の金銭のやり取りを、第三者である裁判所に理解できる形で再構成して説明する作業が求められます。横浜の当事務所の相続問題の取扱分野ページもあわせてご覧ください。

よくある質問

領収書を捨ててしまいました。使い込みと判断されてしまいますか。

領収書がないことだけで直ちに使い込みと判断されるわけではありません。家族間の金銭管理では、日用品の購入など日常的な支出について領収書が残っていないことはむしろ自然であり、裁判実務でもその点は考慮されます。もっとも、不動産の購入など大きな金額の支出については領収書の提出が期待される傾向にあります。通帳の記載、施設の請求書、介護記録など、間接的な資料を組み合わせて説明することになります。

親から「好きに使っていい」と言われていました。贈与だと主張できますか。

生前贈与であったと主張することは可能ですが、書面によらない贈与は各当事者が解除することができるとされており(民法550条本文)、口頭の合意だけでは争いになりやすい面があります。もっとも、履行の終わった部分については解除できません(同条ただし書)。また、贈与と認められた場合には特別受益(民法903条1項)として遺産分割や遺留分の計算に反映される可能性があり、贈与税・相続税の問題も生じ得ます。税務上の取扱いは税理士または所轄の税務署にご確認ください。

使い込みを疑われた場合、遺産分割調停の中で反論すればよいのでしょうか。

被相続人の生前に引き出された預貯金は、遺産分割の時点で遺産として存在しないため、原則として遺産分割の対象になりません。相続人全員の合意があれば対象に含めることもできますが、合意がない場合には、請求する側が地方裁判所または簡易裁判所に不当利得返還請求または損害賠償請求の訴訟を提起して争うことになります。

何年も前の引き出しについて請求されています。時効を主張できますか。

消滅時効を主張できる可能性があります。不当利得返還請求権は、権利を行使することができることを知った時から5年、権利を行使することができる時から10年で時効消滅します(民法166条1項)。不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年です(民法724条)。時効は援用しなければ効果が生じないため、主張するかどうかを含めて弁護士に相談することをおすすめします。

まとめ

遺産の使い込みを疑われたとき、押さえるべき要点は次のとおりです。

  • 請求する側が、法律上の原因がないことを含めて主張立証する責任を負うのが原則である
  • もっとも、実務では引き出した側の説明の合理性が重視されるため、沈黙は不利に働きやすい
  • 反論の柱は、被相続人の依頼・同意、被相続人のための支出、生前贈与、口座凍結対策、出金主体の否認の5つ
  • 通帳・領収書・介護記録を早期に確保し、「いつ・いくら・何のために」を一覧化しておく
  • 期間が経過している場合には、消滅時効の援用が有力な反論となり得る
  • 生前の引き出しは原則として遺産分割の対象外であり、別途の民事訴訟で争われる

使い込みをめぐる争いは、法律論そのものよりも、日々の生活の中で行われた金銭のやり取りをどこまで筋道の通った形で説明できるかで結論が変わります。弁護士が代理人として入ることで、感情的な応酬を避け、事実と証拠に基づいた整理を相手方に提示できるようになります。当事務所では、請求する側・される側の双方の立場からご相談をお受けしています。

遺産の使い込みを疑われてお困りの方へ

タングラム法律事務所では、遺産分割・遺留分・使途不明金など、紛争性のある相続案件を数多く取り扱っております。身に覚えのない請求を受けている方、介護に費やした支出を適切に説明したい方は、証拠が散逸する前にご相談ください。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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