タングラム法律事務所

相続放棄したのに請求が来たら?督促への対応を弁護士が解説

相続放棄したのに請求が来たら?督促への対応を弁護士が解説

相続放棄したのに請求が来たら?督促への対応を弁護士が解説

相続放棄したのに請求が来たら?督促への対応を弁護士が解説

相続放棄したのに請求が来たら?督促への対応を弁護士が解説

家庭裁判所で相続放棄の手続を済ませ、ようやく片がついたと思っていたところに、消費者金融やカード会社、あるいは市役所から請求書や督促状が届く——。相続放棄をされた方から、このようなご相談をいただくことは少なくありません。「手続が受理されたはずなのに、なぜまだ請求が来るのか」「放棄が認められていなかったのではないか」と不安になるのは当然のことです。

結論から申し上げると、相続放棄が有効に受理されているのであれば、被相続人の借金などの相続債務を支払う義務は原則としてありません。請求が届く理由の多くは、債権者が放棄の事実を知らないことにあります。もっとも、請求の中には放棄をしても支払義務が残るものが混じっていることがあり、対応を誤ると放棄の効力自体が争われかねません。この記事では、請求が来る理由、債権者への対応手順、支払義務が残る例外、訴訟を起こされた場合の対応までを、横浜の弁護士が整理して解説します。

相続放棄をしたのに請求が来るのはなぜか

相続の放棄をした者は、その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。したがって、被相続人が負っていた借入金や未払金といった相続債務も、相続放棄をした人は承継しません。それにもかかわらず請求が届くのは、次のような事情によります。

  • 家庭裁判所が債権者に知らせる仕組みがない——申述が受理されても、その事実が債権者に通知されることはありません。債権者は、戸籍などから把握した法定相続人に対し、放棄の有無を知らないまま請求を続けます。
  • 請求書の発送と放棄の時期が前後している——督促状が発送された後に申述が受理された場合、行き違いで届くことがあります。
  • 相続人が複数いる——相続放棄は相続人ごとに個別に行う手続です。自分が放棄をしても、他の相続人が放棄していなければその人に請求が向かいます。
  • そもそも相続債務ではない請求が混じっている——後述のとおり、相続放棄をしても支払義務が残るものがあります。

つまり、請求が届いたこと自体は、相続放棄が認められなかったことを意味しません。まずは落ち着いて、届いた書面の内容を確認することが出発点になります。

請求が届いたらまず確認すべき3つのこと

対応の方向性は、請求の中身によって変わります。次の3点を順に確認してください。

① 誰の、どのような債務についての請求か

請求書に記載された債務者名・契約日・契約の種類を確認します。被相続人が契約者である借入れ・クレジット・未払家賃・未払医療費などであれば相続債務ですので、相続放棄によって支払義務を免れます。自分自身が契約者や保証人になっている契約であれば、相続とは無関係の自分の債務です。

② 請求の時点で、自分の相続放棄は受理されているか

相続放棄は、家庭裁判所に申述し、これが受理されて初めて効力を生じます。申述書を郵送しただけ、あるいは他の相続人に「放棄する」と伝えただけでは法的な相続放棄にはなりません。手元に相続放棄申述受理通知書があるかを確認してください。

③ 放棄の効力を争われかねない事情がないか

被相続人の預貯金を引き出して使った、自動車や貴金属を売却したといった事情があると、相続財産の処分として法定単純承認(民法921条1号)に当たる可能性があります。放棄をした後に相続財産を隠したり自分のために消費したりした場合も、単純承認をしたものとみなされます(民法921条3号)。心当たりがある場合は、債権者へ回答する前に弁護士にご相談ください。避けるべき行為は、相続放棄でしてはいけないこと(単純承認とみなされる行為)の記事で詳しく整理しています。

債権者への対応手順——通知書・証明書の使い分け

相続放棄をした人が債権者へ通知しなければならないという法律上の義務はありません。しかし、通知をしなければ請求は止まりませんから、実務上は放棄の事実を伝えるのが通常の対応です。

相続放棄申述受理通知書と相続放棄申述受理証明書の違い

書面交付のされ方主な使い方
相続放棄申述受理通知書申述が受理された後、家庭裁判所から申述人に送付される債権者への事実の連絡。通常はこの写しで足りることが多い
相続放棄申述受理証明書申請に基づき家庭裁判所が交付する。必要な通数を申請できる金融機関・法務局・自治体など、公的な証明を求められる場面

受理通知書は、原則として受理の際に1通が送られてくるだけですので、複数の債権者へ原本を提出したい場合や、証明書の提出を明示的に求められた場合には、受理証明書を申請します。

受理証明書の取得方法

申述をした家庭裁判所に対し、相続放棄(受理)証明申請書を提出して申請します。裁判所の案内によれば、費用は証明書1枚につき収入印紙150円で、郵送申請の場合は返信用の郵便切手(静岡家庭裁判所の案内では110円)が必要とされています。必要書類や郵便料金は裁判所や時期によって異なりますので、申述をした家庭裁判所の案内をご確認ください。債権者などの利害関係人も、利害関係を証する資料を添えて申請できる運用となっています。

債権者への伝え方

電話で口頭のみ伝えると記録が残りません。事件番号(令和○年(家)第○号など)、申述人氏名、受理年月日を明示した簡潔な書面に、受理通知書または受理証明書の写しを添えて送付するのが確実です。送付の事実を残したい場合は、特定記録郵便や配達証明付きの郵便を利用します。放棄をした以上、債務の存否や金額を交渉する必要はありませんので、支払意思があるかのような返答は避けてください。

注意:「少額なので払っておく」という対応は避けてください。相続財産から支払ったと評価されると、相続財産の処分(民法921条1号)に当たるおそれがあります。また、相続放棄後に自分の財産から支払うことも、債務を承認したかのような外形を作ることになり、後の紛争の火種となり得ます。

相続放棄をしても支払義務が残るケース

相続放棄は万能ではありません。次のようなものは、放棄をしても残ります。

自分自身が保証人・連帯保証人になっている債務

被相続人の借入れについて相続人が自ら保証人・連帯保証人となっていた場合、その保証債務は相続で承継した債務ではなく、自分自身が契約によって負った債務です。したがって相続放棄をしても消えません。賃貸借契約の連帯保証人になっているケースなどでよく問題になります。

相続財産を現に占有している場合の保存義務

相続の放棄をした者は、放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人または相続財産の清算人に当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければなりません(民法940条1項)。支払義務ではありませんが、空き家となった実家を管理している場合などに実際上の負担となります。詳しくは相続放棄後の管理義務と民法改正の記事で解説しています。

税金・公租公課についての注意

被相続人に課されるべき国税の納付義務は相続人が承継しますが(国税通則法5条1項)、相続放棄をした人は相続人ではありませんから、承継しないことになります。固定資産税についても、賦課期日前に登記名義人が死亡している場合の納税義務者は「賦課期日において当該土地又は家屋を現に所有している者」とされており(地方税法343条2項後段)、相続放棄をした人はこれに当たらないと解されます。もっとも、課税台帳が更新されていないために納付書が届くことは珍しくありません。その場合は、受理証明書の写しを添えて市区町村の課税担当課へ届け出てください。

税務についての留意点:相続税や所得税の取扱い、生命保険金の非課税枠の適用の有無など、税務に関する判断は個別性が高い分野です。具体的な課税関係については、税理士または所轄の税務署・市区町村の窓口にご確認ください。

受け取れるもの・受け取れないものの整理

項目相続放棄をした場合の扱い
被相続人の借入金・未払金承継しない(民法939条)
自分が保証人となっている債務自分自身の債務として残る
被相続人の預貯金・不動産取得できない
受取人が指定された生命保険金受取人固有の権利として取得できる(最高裁昭和40年2月2日第三小法廷判決・民集19巻1号1頁)。ただし税務上の扱いは別途確認が必要
現に占有している相続財産引渡しまで保存義務を負う(民法940条1項)

次順位の相続人に請求が回ることに注意

相続放棄をした人は初めから相続人でなかったものとみなされますから、子が全員放棄をすれば、民法889条により被相続人の直系尊属(親・祖父母)が、直系尊属がいない場合や全員が放棄した場合には兄弟姉妹が相続人となります。債権者は、新たに相続人となった親族に対して請求を行うことになります。

問題は、次順位の親族が相続の開始を知らないまま時間が経過してしまうことです。熟慮期間は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月」ですが(民法915条1項)、連絡が遅れるほど資料収集や判断の時間が失われます。親族間のトラブルを避けるためにも、自分が放棄をした時点で次順位となる親族に事情を伝えておくことが望まれます。期限を過ぎた場合の考え方は、相続放棄の期限が過ぎたらどうなるかの記事をご覧ください。

督促が止まらない・訴訟を起こされたときの対応

受理通知書の写しを送っても請求が続く場合や、債権者が相続放棄の効力自体を争ってくる場合があります。

相続放棄の受理は実体的な有効性まで確定するものではない

相続放棄の申述の受理は、申述が適式にされたことを公証するものにとどまり、相続放棄が実体的に有効であることまで確定するものではないと解されています。そのため、受理後に債権者が「熟慮期間の経過後の申述であった」「相続財産を処分しており法定単純承認に当たる」などと主張し、訴訟で効力を争うことは制度上可能です。

訴状・支払督促が届いたら放置しない

裁判所から訴状や支払督促が届いた場合、期限内に答弁書や督促異議申立書を提出しなければ、相続放棄をしていても、請求を認める判決や仮執行宣言付支払督促が出てしまうおそれがあります。「放棄したのだから関係ない」と考えて放置するのが最も危険です。書面に記載された期限を確認し、相続放棄の事実と受理証明書を証拠として主張する必要があります。

よくある質問

相続放棄をしたことを債権者に通知する義務はありますか。

法律上、債権者に通知しなければならないという義務の定めはありません。もっとも、家庭裁判所が債権者に放棄の事実を知らせる仕組みもないため、通知をしなければ請求が続くのが通常です。受理通知書または受理証明書の写しを送付して事情を説明することで、請求が止まることが多いといえます。

相続放棄申述受理通知書と受理証明書はどう違いますか。

受理通知書は、申述が受理されたことを家庭裁判所が申述人に知らせる書面で、受理後に自動的に送られてきます。受理証明書は、申請に基づき家庭裁判所が交付する証明書で、必要な通数の交付を受けられます。債権者や金融機関から公的な証明を求められた場合は、受理証明書を提出するのが確実です。

相続放棄をしても支払わなければならないものはありますか。

被相続人の債務について、相続人自身が連帯保証人・保証人になっていた場合の保証債務は、相続とは別に自分自身が負っている債務ですので、相続放棄をしても消えません。また、相続放棄の時に相続財産を現に占有していた場合には、民法940条1項により、相続人または相続財産の清算人に引き渡すまでの間、その財産を保存する義務を負います。

相続放棄をした後に、債権者から訴訟を起こされることはありますか。

あります。相続放棄の申述の受理は、申述が適式にされたことを公証するものであって、実体的な有効性まで確定するものではないと解されています。そのため、債権者が法定単純承認(民法921条)に当たる事情があるなどとして、訴訟で効力を争うことは可能です。訴状や支払督促が届いた場合は、期限内に答弁書や督促異議を提出する必要があります。

自分が相続放棄をすると、親や兄弟姉妹に請求が回りますか。

回ることがあります。相続放棄をした人は初めから相続人でなかったものとみなされるため(民法939条)、同順位の相続人が全員放棄すると、民法889条により次の順位の直系尊属、さらに兄弟姉妹が相続人になります。次順位の親族が事情を知らないまま3か月の熟慮期間を過ぎてしまうことがあるため、早めに連絡をしておくことが望ましいといえます。

まとめ

相続放棄をしたのに請求が届く場合、その多くは債権者が放棄の事実を把握していないことによるものです。受理通知書または受理証明書の写しを添えて書面で伝えれば、請求が止まることは少なくありません。他方で、自分が保証人になっている債務や、現に占有している相続財産の保存義務(民法940条1項)のように、放棄をしても残るものがあります。相続で承継した借金と自分自身の債務との切り分けは、相続した借金はどうなるかの記事も参考になります。

対応を誤ると、相続財産の処分や隠匿(民法921条1号・3号)と評価され、せっかくの相続放棄の効力が争われる事態を招きかねません。督促が止まらない場合や、訴状・支払督促が届いた場合には、早い段階で弁護士にご相談ください。当事務所の相続・遺産分割に関する取扱分野のページでは、対応している相続問題の範囲と進め方をご案内しています。

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タングラム法律事務所では、遺産分割・遺留分をはじめとする相続の紛争案件について、横浜を拠点に数多くのご相談に対応しております。相続放棄後の債権者対応、放棄の効力を争われている事案についても、書面の作成から交渉・訴訟対応までお引き受けいたします。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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