連絡が取れない相続人がいる場合の遺産分割の進め方|横浜の弁護士が解説
2026/04/22
連絡が取れない相続人がいる場合の遺産分割の進め方|横浜の弁護士が解説
親族が亡くなり相続手続きを進めようとしたところ、相続人の一人と長年連絡が取れないままになっている——そのような状況に直面し、「このまま手続きが止まってしまうのか」と不安を感じている方は少なくありません。特に疎遠になった兄弟姉妹が相続人に含まれる場合、所在が不明で困り果てるケースが実務上も多く見受けられます。
本記事では、相続人の中に連絡が取れない方がいる場合に、遺産分割をどのように進めることができるのかを解説します。不在者財産管理人の選任や失踪宣告といった法的手段のほか、まずどのように所在調査を行うべきかといった実務的な観点もご説明します。
遺産分割協議は相続人全員の参加が必要
遺産分割協議は、相続人全員の合意によって成立するものです(民法第907条)。相続人の一人でも欠けた状態で行われた遺産分割協議は無効となり、その後の相続登記や預貯金の払い戻し手続きもできません。
連絡が取れない相続人がいる場合、最初から「法的手段を使う」のではなく、まずは所在を調べる努力をすることが重要です。所在調査の結果、連絡を取ることができれば、郵便や電話を通じて協議に参加してもらうことができます。一方で、所在調査を尽くしても連絡が取れない場合には、後述の法的手続きを検討することになります。
まず行うべき所在調査の方法
相続人と連絡が取れない場合、いきなり裁判所に申し立てをするのではなく、まずは自力での所在調査を試みることが大切です。主な調査方法として以下のものが挙げられます。
戸籍の附票を取得する
戸籍の附票とは、その人が戸籍に入ってから現在までの住所の変遷が記録された書類です。本籍地の市区町村役場で取得できます。相続人は、他の相続人の戸籍の附票を取得する権限がありますので、これにより現住所が判明することがあります。
ただし、転居を繰り返している場合や、附票に記載された住所に実際に居住していない場合もあります。附票で住所が判明しても、その住所に手紙を送っても返信がなければ、次のステップを検討することになります。
弁護士会照会を活用する
弁護士に依頼すれば、弁護士会照会(弁護士法第23条の2)という制度を使い、金融機関や公共機関への情報照会が可能な場合があります。ただし、照会に応じるかどうかは各機関の判断によるため、必ずしも情報が得られるわけではありません。
連絡が取れない相続人への対応:2つの法的手段
所在調査を尽くしても連絡が取れない場合、または所在が完全に不明な場合には、主に2つの法的手段を使って遺産分割を進めることができます。それが「不在者財産管理人の選任」と「失踪宣告」です。どちらの手続きを選ぶかは、行方不明になってからの期間や状況によって異なります。
不在者財産管理人の選任とは
不在者財産管理人制度は、従来の住所や居所を去って容易に戻る見込みがない者(不在者)について、家庭裁判所が財産を管理する人を選任する制度です(民法第25条)。選任された管理人が、行方不明の相続人に代わって遺産分割協議に参加することで、手続きを進めることができます。
申立人と申立先
申立ができる人は、利害関係人(他の相続人など)または検察官です。申立先は、不在者の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所です。横浜にお住まいの方で不在者の最後の住所が横浜市内であれば、横浜家庭裁判所に申し立てることになります。
申立に必要な主な書類
- 申立書
- 不在者の戸籍謄本・戸籍の附票
- 財産管理人候補者の住民票または戸籍の附票
- 不在の事実を証する資料(音信不通であることを示す資料等)
- 不在者の財産に関する資料(不動産登記事項証明書、預貯金残高が分かる書類等)
- 利害関係を証する資料(相続関係を示す戸籍等)
費用・期間の目安
申立費用そのものは、収入印紙800円分と連絡用の切手代程度です。ただし、不在者の財産から管理費用を捻出できない場合には、申立人が予納金を納める必要があります。予納金はケースによって大きく異なり、概ね数十万円程度となることが多いとされています。申し立てから管理人が選任されるまでの期間は、おおむね1〜2か月程度が目安となっています。
不在者財産管理人の権限と遺産分割の制約
不在者財産管理人は、不在者の財産を守ることを目的として選任されるため、権限には一定の制限があります。遺産分割協議の内容について家庭裁判所の権限外行為の許可が必要となり、不在者が法定相続分を下回る内容の協議には、原則として許可が下りないとされています。つまり、行方不明の相続人の取り分をゼロにしたり、法定相続分より著しく少なくしたりするような協議は認められない傾向があります。
失踪宣告とは
失踪宣告は、行方不明になってから一定期間が経過した場合に、法律上その者を死亡したとみなす制度です(民法第30条・第31条)。失踪宣告が認められると、行方不明者は死亡したものとみなされ、行方不明者を除外した形で相続手続きを進めることができるようになります。
普通失踪と特別失踪
失踪宣告には2種類あります。一般的な行方不明(家出など)の場合は「普通失踪」といい、生死不明の最後の時点から7年が経過してから申立ができます。戦争・船舶の沈没・震災等の危難に遭遇した場合は「特別失踪」といい、危難が去ってから1年が経過すれば申立できます。
相続の場面では、普通失踪が問題となるケースがほとんどです。行方不明になってから7年未満の場合は失踪宣告を利用できないため、不在者財産管理人の選任を選択することになります。
失踪宣告の申立から認容まで
失踪宣告の申立は、利害関係人が不在者の従来の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。申立後、裁判所は公示催告手続きを行い、一定期間(6か月)を経た後に宣告がなされます(民法第32条)。手続き全体では1年〜1年半程度かかることが多いとされています。
なお、失踪宣告後に行方不明者が生存していることが判明した場合、失踪宣告の取消しを申し立てることができます(民法第32条)。取消しが認められると、失踪宣告を前提としてなされた遺産分割の効力も問題となり、複雑な法律関係が生じる可能性があります。
2つの制度の比較
不在者財産管理人の選任と失踪宣告は、それぞれ異なる状況に応じた手続きです。以下の表で主な違いを整理します。
| 比較項目 | 不在者財産管理人の選任 | 失踪宣告 |
|---|---|---|
| 利用できる期間 | 行方不明期間に関係なく申立可能 | 普通失踪:生死不明から7年以上 |
| 行方不明者の扱い | 生存しているものとして手続きを進める | 法律上死亡したとみなされる |
| 遺産分割の制約 | 法定相続分を下回る内容は原則不可 | 行方不明者分は代襲相続人等が相続 |
| 手続き期間の目安 | 選任まで1〜2か月程度 | 認容まで1年〜1年半程度 |
| 本人が現れた場合 | 管理人の権限は終了し、本人が対応 | 失踪宣告の取消し申立が可能 |
実務上は、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)との兼ね合いもあるため、手続きに要する時間を考慮しながら、どちらの制度を選択するかを慎重に判断する必要があります。
相続登記義務化との関係に注意
2024年4月1日から、相続による不動産の取得を知った日から3年以内の相続登記が義務化されました(不動産登記法第76条の2)。正当な理由なく申請を怠った場合、10万円以下の過料の対象となる場合があります。
連絡が取れない相続人がいる場合、遺産分割協議が難航し、登記申請が遅れることがあります。このような場合、相続人申告登記(不動産登記法第76条の3)という暫定的な措置を活用することで、義務違反とならないようにすることが可能です。相続人申告登記は、相続人であることを登記官に申告するだけの簡易な手続きであり、遺産分割が完了していなくても行うことができます。
不動産を含む遺産がある場合は、横浜の弁護士や司法書士に相談しながら、登記申請の期限管理と並行して手続きを進めることをお勧めします。
まとめ:早期に弁護士へ相談することが重要
連絡が取れない相続人がいる場合でも、不在者財産管理人の選任や失踪宣告といった法的手段を活用することで、遺産分割を前に進めることは可能です。ただし、どちらの手続きも裁判所への申立が必要であり、選択する手続きによって遺産分割の内容に制約が生じたり、将来的なリスクが異なったりするため、自己判断だけで進めると思わぬトラブルに発展する場合があります。
相続人の一人と連絡が取れないことが判明した場合は、できる限り早い段階で弁護士に相談することをお勧めします。早期に相談することで、状況に応じた最適な手続きを選択でき、相続税申告や相続登記の期限に間に合わせて手続きを進めることができます。
相続人と連絡が取れず遺産分割が進まない方へ
タングラム法律事務所では、相続や遺留分侵害額請求の事案について豊富な実績を有しております。相続人の所在が不明で手続きが止まっているケースについても、不在者財産管理人の選任申立や失踪宣告手続きへの対応を含め、状況に応じた解決方法をご提案いたします。まずはお気軽にご相談ください。
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