不貞の相手方が「既婚者とは知らなかった」と主張した場合の対応|横浜の弁護士が解説
2026/04/29
不貞の相手方が「既婚者とは知らなかった」と主張した場合の対応|横浜の弁護士が解説
配偶者の不貞行為が発覚し、相手方(不倫相手)に慰謝料を請求しようとしたところ、「お相手が既婚者だとは知らなかった」「騙されていた」と主張されて、どう対応すればよいか困っている方は少なくありません。このような主張がなされた場合、慰謝料請求は本当に認められないのでしょうか。
結論から申し上げると、相手方の「知らなかった」という主張が法的に通るためには、非常に厳しい条件をクリアする必要があります。本記事では、「既婚者とは知らなかった」という抗弁の法的意味、どのような場合に認められ得るか、請求する側がとるべき対応と証拠収集のポイントまで、横浜の弁護士がわかりやすく解説します。
「既婚者とは知らなかった」という主張の法的根拠
不貞慰謝料請求の法的根拠は、民法709条(不法行為)です。同条に基づく損害賠償責任が成立するためには、「故意または過失」の存在が必要とされています。つまり、不倫相手が相手方の既婚の事実を「知っていた(故意)」あるいは「知ることができたのに知らなかった(過失)」ことが請求の要件となります。
最高裁判所の判例(昭和54年3月30日判決)も、「夫婦の一方と肉体関係を持った第三者は、故意または過失がある限り、他方配偶者の権利を侵害し、精神的苦痛を慰謝すべき義務がある」と判示しています。裏を返せば、故意も過失もない場合——すなわち「善意無過失」の場合には、原則として責任を負わないということになります。
したがって、相手方が「既婚者とは知らなかった、かつ知らなかったことについて過失もなかった」と証明できれば、慰謝料請求は認められない可能性があります。これが「知らなかった」主張の法的根拠です。
善意無過失が認められるのはどんなケースか
法律上、「善意無過失」(知らず、かつ知らなかったことに落ち度がない状態)が認められるためには、相手方が既婚事実を知るべき合理的な機会が一切なかったといえる必要があります。実務上、これが認められるのは非常に限られた特殊な状況です。
認められ得る典型例
配偶者が結婚指輪を外し、婚姻の事実を積極的に隠蔽した状況で交際を始めた場合、独身と称してマッチングアプリに登録し相手方を騙した場合、相手方が調査を行う合理的な機会や手段が客観的に存在しなかったといえる場合など、かなり例外的な状況に限られます。そのような場合でも、後述する「過失」の有無が厳しく問われます。
「知らなかった」だけでは不十分
裁判実務では、単に「知らなかった」という主張だけでは不十分とされる傾向があります。「知らなかったこと自体に過失(落ち度)がなかったか」も審査されるためです。たとえば、交際中に相手が「週末は家族のことがある」と話していた、二人で旅行に行く際にいつも相手から日程制限があった、職場で既婚者と周知されていた、といった事情があれば、「調べれば分かったはず」と判断され、過失ありとされる可能性が高まります。
「知らなかった」主張が認められにくいケースとは
以下のような状況がある場合、相手方の「知らなかった」という主張は認められにくくなる傾向があります。慰謝料請求を検討している方は、こうした事情が存在しないか確認してみましょう。
| 状況・事情 | 過失認定の傾向 |
|---|---|
| 職場の同僚・上司であり、婚姻事実が周知されていた | 知ることができたと判断されやすい |
| 交際中に配偶者の存在を示唆する発言や行動があった | 調査すべき契機があったとされ得る |
| SNS・プロフィール等に家族写真や「既婚」の記載があった | 容易に知り得たと判断されやすい |
| 相手が常に「連絡できない時間帯」を限定していた | 既婚を疑うべき状況と評価され得る |
| 友人や共通の知人から既婚者であると聞いた形跡がある | 故意(知っていた)に準じる扱いになり得る |
| マッチングアプリで出会ったが、プロフィールに「離婚経験あり」等の記載があった | 疑問を抱く機会があったと判断され得る |
また、不倫関係が始まった当初は本当に知らなかったとしても、交際の途中で既婚であることを知った場合には、その時点以降の行為については当然「故意」が認められます。「知った後も関係を続けた期間」については慰謝料責任を免れることができません。
請求する側がとるべき対応と証拠収集のポイント
相手方が「知らなかった」と主張してきた場合でも、諦める必要はありません。請求する側は、相手方が既婚事実を「知っていた」もしくは「知ることができたはずである」ことを示す証拠を収集・提示することが重要です。
相手方の「認識」を示す証拠の例
- 配偶者と不倫相手の間のLINEやSNSのメッセージ(「奥さん」「家族」などに言及している内容)
- 配偶者が自分の婚姻について言及・開示した形跡のあるメッセージ
- 不倫相手が自ら「結婚しているのに」「奥さんに申し訳ない」等と述べているメッセージ
- 共通の知人・職場の人物からの証言(不倫相手が婚姻を知っていた旨の発言をしていたなど)
- 不倫相手のSNSアカウントの内容(配偶者と写った写真へのコメント等)
- 探偵事務所の調査報告書(二人で行動している様子を継続的に記録したもの)
- 配偶者の名刺や職場情報(不倫相手が接触していた状況)
特に、LINEやメッセージアプリのやり取りは、相手方の認識を直接示す有力な証拠になり得ます。配偶者のスマートフォンを確認できる状況であれば、早い段階で内容を確保しておくことが重要です。ただし、証拠の取得方法が違法と判断されると裁判で使えなくなる場合もあるため、取得方法については弁護士に確認することをお勧めします。
「知らなかった」と主張されたときの交渉・法的手続きの進め方
相手方が「知らなかった」と主張している場合でも、まずは任意での交渉(示談交渉)を試みることが一般的です。証拠を提示しながら交渉を進めることで、相手方が「過失があった」と認め、減額条件で和解に至るケースも少なくありません。
任意交渉で解決できない場合には、民事訴訟を提起することになります。訴訟では、請求側が「相手方に故意または過失があった」という事実を証拠で立証する必要があります。相手方は「善意無過失」を抗弁として主張しますが、裁判所が実際に善意無過失を認める場合はきわめて限られており、多くのケースでは少なくとも「過失あり」と判断される傾向にあります。
横浜をはじめ全国の裁判例を見ても、職場の同僚・上司であったり、SNSで配偶者の存在が確認できる状況であったりした場合に、「知らなかった」という主張が認められた例はほとんど見当たりません。裁判所は、社会通念上「婚姻の事実を知るべき契機があったか」という観点から総合的に判断する傾向があります。
相手方が「独身と偽られた」と主張する場合
相手方が「配偶者から独身であると積極的に偽られた」と主張するケースもあります。この場合、騙された相手方(不倫相手)は被害者としての側面も持ち得ます。ただし、だからといって慰謝料請求が自動的に否定されるわけではありません。
このような場合、裁判所は「相手方が既婚と知るべき機会や状況があったか」という観点から過失の有無を審査します。積極的に騙された事情が認められ、かつ過失もなかったと評価される場合には、請求が認められないか、大幅に減額される可能性があります。一方で、配偶者が独身を詐称して不倫相手を騙した場合には、配偶者自身の責任(慰謝料額)がより重く評価されることになります。
また、独身と偽られて妊娠・出産させられたなど、著しく悪質な場合には、配偶者に対する「貞操権侵害」による慰謝料請求が別途認められる可能性もあります(不倫相手が被害者として配偶者を訴えるケース)。法律関係が複雑になることが多いため、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
慰謝料額への影響と減額リスク
相手方が「知らなかった」と主張し、裁判所が一定の「善意」(知らなかった事情)を認定した場合でも、慰謝料が完全にゼロになるのではなく、減額にとどまるケースもあります。相手方の認識の程度や、騙された経緯の詳細、不倫関係の期間・態様などを総合的に考慮して、慰謝料額が決定される傾向があります。
慰謝料の目安としては、一般的に不貞行為が認められた場合で50万円〜300万円程度とされていますが、相手方の認識の程度や婚姻関係への影響度合いによって大きく変動します。「知らなかった」事情が一定程度考慮されると、50万円以下に減額されるケースも見られます。
まとめ:「知らなかった」主張には証拠と弁護士のサポートで対応を
不貞の相手方が「既婚者とは知らなかった」と主張してきた場合、法律上は「善意無過失」であれば責任を免れる可能性があるのは事実です。しかし実務では、この主張が認められるケースはきわめてまれであり、多くの場合は少なくとも「過失あり」と判断される傾向にあります。
慰謝料請求を進めるにあたっては、相手方が既婚の事実を「知っていた」または「知り得た」ことを示す証拠を早期に確保することが重要です。LINEやSNSのやり取り、職場での関係性、共通の知人からの証言など、多角的な証拠収集を行うことで、相手方の抗弁を崩せる可能性が高まります。
「知らなかった」という主張への対応は、法的な判断が複雑で、証拠の収集・評価にも専門的な知識が必要です。横浜を拠点とするタングラム法律事務所では、不貞慰謝料請求の多数の案件を取り扱っており、こうした複雑な場面でも的確なアドバイスとサポートをご提供しています。一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。
「知らなかった」と言われて請求が難しいとお感じの方へ
タングラム法律事務所では、不貞慰謝料請求の事案について豊富な実績を有しております。相手方が「既婚者とは知らなかった」と主張している場合でも、証拠の収集・評価から交渉・訴訟対応まで、弁護士が一貫してサポートいたします。まずはお気軽にご相談ください。
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