傷病で従業員が長期休職になったら?休職制度の整備から復職・退職までの対応手順を横浜の弁護士が解説
傷病で従業員が長期休職になったら?休職制度の整備から復職・退職までの対応手順を横浜の弁護士が解説
「社員がうつ病と診断されて、もう3か月出勤できていない」「骨折で長期入院している従業員をどう扱えばよいかわからない」——中小企業の経営者や担当者の方からこうしたご相談をいただくことは少なくありません。従業員が病気やけがで長期間働けなくなったとき、会社はどう対応すべきでしょうか。
実は、休職に関するルールは法律で細かく定められているわけではなく、各会社が就業規則で独自に定める部分が大きいため、制度がないまま対応を誤ると後から大きなトラブルに発展することがあります。本記事では、休職制度の基本から、復職・退職に至るまでの流れ、そして会社が陥りやすいリスクポイントについて、横浜の弁護士がわかりやすく解説します。
1. 休職制度とは——法律上の位置づけを理解する
まず押さえておきたいのが、休職制度は法律で設置を義務づけられたものではないという点です。労働基準法や労働契約法には「休職制度を設けなければならない」という規定は存在せず、休職制度を設けるかどうかは原則として会社の裁量に委ねられています。
もっとも、従業員が私傷病(業務外の病気・けが)によって就労が困難な状態に陥った場合、会社がすぐに解雇できるかというと、そう単純ではありません。日本の労働法制においては解雇は厳格に制限されており(労働契約法第16条)、一定の回復期間を与えずにいきなり解雇すると、「解雇権の濫用」として無効と判断されるリスクがあります。
こうした背景から、多くの会社は就業規則に休職制度を盛り込み、一定期間は雇用を維持しながら回復を待つという運用を行っています。就業規則に休職規定がなければ、従業員が長期欠勤した場合の対応基準が曖昧になり、トラブルの温床となりかねません。従業員が10人以上いる場合は就業規則の作成・届出が義務(労働基準法第89条)となりますが、それ以下の規模の会社でも、トラブル予防の観点から就業規則を整備しておくことを強くお勧めします。
2. 就業規則に定めるべき休職規定のポイント
休職制度を機能させるためには、就業規則に以下の項目を明確に定めておく必要があります。規定が曖昧だと、従業員との間でトラブルが生じたときに会社の主張が通りにくくなります。
(1)休職事由
どのような場合に休職を命じることができるかを明示します。一般的には、「私傷病によって○日以上欠勤が続いた場合」「医師の診断により就労が困難と認められた場合」などと定めます。なお、業務上の傷病(労災)については、療養期間中の解雇が労働基準法第19条で禁止されていますので、私傷病と業務上傷病を区別して規定することが重要です。
(2)休職期間
休職を認める期間の上限を設定します。勤続年数に応じて段階的に設定するケースが一般的です(例:勤続1年未満は1か月、1年以上3年未満は3か月、3年以上は6か月など)。中小企業では、財政上の負担も考慮して2〜6か月程度とすることが多いようです。期間を設けておかないと、いつまでも雇用関係が継続してしまう問題が生じます。
(3)休職中の処遇
休職中の給与の取り扱い(無給とする場合はその旨)、社会保険料の負担、有給休暇の取り扱いなどを規定します。傷病手当金(健康保険法の給付)については会社が支給するものではありませんが、従業員への案内として記載しておくとよいでしょう。
(4)復職の手続き
復職を希望する場合の申出方法、提出が必要な書類(主治医の診断書など)、会社が産業医や指定医の意見を聴取できる旨などを定めます。
(5)休職期間満了時の取り扱い
休職期間が満了した時点で復職できない場合の取り扱い(退職扱いとなる旨など)を明記します。ここが後述のトラブルと直結する重要な規定です。
3. 休職命令の発令——手順と注意点
従業員が欠勤を続けている場合、会社はどのような手順で休職を命じるべきでしょうか。
まず、従業員本人や主治医から、現在の病状と就労の可否についての情報を収集します。主治医の診断書の提出を求めるのが一般的です。次に、必要に応じて産業医や会社指定の医師による面談・診察を実施し、就労困難の判断を慎重に行います。そのうえで、就業規則の休職規定に基づき、書面で休職命令を発令します。口頭だけでは後からトラブルになりやすいため、必ず書面(休職命令書)を交付してください。
休職命令書には、休職期間の開始日・終了日(または期間の上限)、休職理由、休職中の連絡方法、復職の手続き、期間満了時の取り扱いなどを明記しておくと安心です。
4. 休職中の給与・社会保険・傷病手当金
休職期間中の給与については、就業規則で「無給」と定めている会社が多数です。賃金は労働の対価ですから、働いていない期間について給与を支払う義務は原則としてありません。ただし、有給休暇が残っている場合は、先に有給休暇を消化することが多いです。
給与が支払われない期間については、健康保険の「傷病手当金」制度(健康保険法第99条)を利用できる場合があります。傷病手当金は、業務外の病気・けがで働けなくなり、連続して3日以上欠勤した場合(待期期間の完成後)に、標準報酬日額の約3分の2が最長1年6か月間支給されるものです。会社から直接支給されるものではなく、協会けんぽや健康保険組合に申請するものですが、会社側が申請書類に証明を行う必要があります。従業員にこの制度を案内することは会社としての重要な配慮といえます。
社会保険料(健康保険・厚生年金)については、休職中も納付義務が続きます。会社と従業員の両方の負担分をどう精算するかをあらかじめ決めておき、従業員に説明しておくとトラブルを防ぎやすくなります。
5. 復職の判断——「治癒」の認定と手続き
休職期間中に従業員から「回復したので復職したい」と申し出があった場合、会社はどのように対応すればよいでしょうか。
復職を認めるかどうかは、就業規則で定めた「休職事由が消滅したかどうか」、すなわち「治癒」しているかどうかで判断します。「治癒」とは、単に本人が「もう大丈夫」と感じていることではなく、従前と同等の業務に通常の状態で就けることを指すと解されるのが一般的です。したがって、主治医から「復職可能」との診断書が提出されていても、それだけで会社が復職を認める義務があるとは必ずしも言えません。
実務上は、主治医の診断書の内容を精査したうえで、産業医や会社指定の医師による診察・意見聴取を行い、総合的に復職の可否を判断します。また、精神疾患の場合などは、いきなりフル勤務ではなく、リハビリ勤務(試し出勤)を経て段階的に復帰するケースも増えています。
なお、復職後に短期間で再び症状が悪化して欠勤が生じた場合、就業規則に通算規定があれば前回の休職期間と通算して対応できます。こうした事態に備えた規定の整備は、横浜をはじめ各地の中小企業において非常に重要な課題となっています。
6. 休職期間満了と退職——最も注意が必要なポイント
休職期間が満了した時点で従業員が復職できない状態にある場合、就業規則に「期間満了をもって退職とする」旨の規定があれば、雇用関係は終了(自然退職)するものと解されています。これは解雇ではなく「自動退職」の扱いですが、実務上は「解雇に準じた慎重な対応」が裁判例上も求められています。
特に注意が必要なのは以下の点です。
(1)復職の可能性を十分検討したか
休職期間満了直前に従業員が「復職できる」旨の診断書を提出してきた場合、会社はそれを無視して退職扱いにすることはできません。産業医や指定医の意見も踏まえ、真に就労不能かどうかを丁寧に検討する必要があります。この手順を怠ると、自然退職扱いが無効と判断されるリスクがあります。
(2)業務起因性の確認
休職の原因となった傷病が業務上のもの(労災)であった場合、療養期間中は労働基準法第19条第1項により解雇が禁止されており、自然退職扱いも同条の類推適用によって無効と解される可能性が高いとされています。業務起因性がある場合は、退職扱いの前に必ず弁護士に相談されることをお勧めします。
(3)退職手続きの適切な実施
自然退職となる場合でも、退職手続きを適切に行う必要があります。離職票の発行、雇用保険の手続き、健康保険・厚生年金の資格喪失など、各種手続きを漏れなく進めてください。
7. 中小企業がとくに陥りやすいリスクと弁護士への相談
中小企業における休職・復職対応でよく見受けられる失敗としては、次のようなものがあります。
一つ目は、就業規則に休職規定がそもそもないケースです。規定がないと、どこまで欠勤を認めるべきか、給与をどうするか、いつ退職扱いにできるかなど、判断基準がすべて曖昧になります。長期欠勤が続いても退職させられず、会社が困り果てるという事態も起きがちです。
二つ目は、主治医の診断書だけを根拠に復職を認め、短期間で再発するケースです。主治医は患者の利益を第一に考えるため、職場環境まで十分考慮した判断が難しい場合があります。産業医との連携が特効薬になることも多いでしょう。
三つ目は、休職期間満了時に手続きが不適切だったために、後から「不当な退職扱い」として訴えられるケースです。退職扱いの前には、必ず弁護士や社会保険労務士に確認を取ることをお勧めします。
横浜を拠点に企業法務を取り扱う弁護士に相談すれば、就業規則の休職規定の整備から個別ケースの対応方針の策定まで、トータルでサポートを受けることができます。問題が顕在化してから対処するよりも、早い段階で専門家に相談することが、会社と従業員双方にとって望ましい結果につながります。
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