不貞慰謝料に「過失相殺」は適用される?被害者側に落ち度がある場合の影響を横浜の弁護士が解説
不貞慰謝料に「過失相殺」は適用される?被害者側に落ち度がある場合の影響を横浜の弁護士が解説
配偶者の不貞行為が発覚し慰謝料請求を検討していたところ、相手方から「あなた自身にも夫婦関係を悪化させた原因がある」などと反論されるケースがあります。あるいは、逆に慰謝料を請求された側が「被害者にも落ち度があるのだから減額されるべきだ」と主張することも少なくありません。こうした場面で問題となるのが「過失相殺」という法的概念です。
本記事では、不貞慰謝料の場面で「過失相殺」がどのように機能するのか、被害者側(請求する側)に何らかの落ち度があった場合に実際に慰謝料が減額されるのか、裁判例の傾向や実務上の注意点を横浜の弁護士が詳しく解説します。
過失相殺とは何か?民法722条2項の基礎知識
「過失相殺」とは、不法行為によって損害が発生した場面で、被害者自身にも損害の発生・拡大に関して何らかの過失(不注意)があった場合に、裁判所がその事情を考慮して損害賠償の額を減額できるという制度です。民法722条2項に「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」と明記されています。
交通事故の場面でよく耳にする概念ですが、不貞行為のような人格的権利の侵害(不法行為)の場合にも、同条が適用される余地があります。ただし、交通事故の過失相殺と不貞慰謝料における扱いにはいくつかの重要な違いがあるため、単純に同視することはできません。
不貞慰謝料に過失相殺は認められるのか
結論からいえば、不貞慰謝料の裁判においても、民法722条2項の過失相殺が適用されることは理論上あり得ます。しかし、その適用が認められるためのハードルは低くありません。
不貞行為によって侵害される権利は「平穏な婚姻共同生活を送る権利」であり、この権利侵害の性質上、被害者の「過失」として考慮されるべき事情は相当限定されると考えられています。単に夫婦間の不和や意思疎通の不足があったというだけでは、過失相殺の根拠にはなりにくいのが実情です。
裁判所が不貞慰謝料の額を定めるにあたっては、過失相殺という法律構成をとらなくても、慰謝料の増減事由として様々な事情を総合的に斟酌する柔軟な判断を行います。そのため「明確な過失相殺が認められた」というよりも、「被害者側の事情が考慮されて慰謝料が低く抑えられた」という形で結果に反映されるケースが多いといえます。
被害者側の「落ち度」として主張されやすい事情
実際の交渉・裁判では、慰謝料を支払う側(または減額を主張する側)が、被害者側の以下のような事情を取り上げて減額を求めることがあります。
①長期にわたる性的関係の拒否(セックスレス)
夫婦間で長期間にわたって性的な関係がない状態が続いていた場合、「婚姻関係が既に破綻していた」または「被害者にも関係悪化の責任がある」という主張の根拠として持ち出されることがあります。しかし、裁判所は一般的に、セックスレスという事実だけをもって過失相殺を認めることには慎重です。セックスレスは婚姻関係の破綻の一事情にはなり得ますが、直ちに被害者の「過失」として慰謝料を減額する理由とはなりにくい傾向があります。
②夫婦間の暴力(DV)やモラルハラスメント
被害者(請求する側)が加害者(不貞をした側)に対してDVやモラルハラスメントを行っていた場合、これが婚姻関係の悪化に寄与したとして、慰謝料が減額される方向に働く可能性があります。ただし、この場合も「過失相殺」というよりは、婚姻関係の実質的な破綻や婚姻関係への被害者側の寄与として評価される傾向があります。
③被害者自身にも不貞行為があった場合
被害者(請求する側)が自ら別の相手との間で不貞行為を行っていた場合、「双方に非がある」として慰謝料が著しく減額されるか、場合によっては請求自体が困難になる可能性があります。いわゆる「痛み分け」の状態です。相手方がこの事実を証拠とともに主張・立証した場合、慰謝料への影響は看過できないものとなり得ます。
④長期別居・家庭内別居の状態
不貞行為が開始された時点で既に長期間の別居や実質的な家庭内別居(同居しているが会話・生活を完全に切り離している状態)が続いていた場合、「婚姻関係は既に破綻していた」という主張の根拠となることがあります。この点は過失相殺とも重なりますが、より重大な場合には請求そのものが認められなくなる可能性もあります(後述)。
| 主張される事情 | 慰謝料への影響の傾向 |
|---|---|
| 長期のセックスレス | 単独では大幅な減額根拠になりにくい。婚姻関係破綻の一事情になる場合あり |
| 被害者側のDV・モラハラ | 婚姻関係の悪化への寄与として評価される場合があり、慰謝料が減額される方向に働くことがある |
| 被害者自身の不貞行為 | 著しい減額または請求困難になる可能性が高い |
| 長期別居・家庭内別居 | 婚姻関係破綻の認定につながる可能性がある。請求が棄却される場合も |
過失相殺と「婚姻関係の破綻」はどう違うのか
不貞慰謝料の減額・否定の文脈で「過失相殺」と混同されやすいのが「婚姻関係の破綻」という概念です。両者には明確な違いがあります。
「婚姻関係の破綻」とは、不貞行為が発生した時点で既に夫婦の婚姻関係が実質的に終わっており、修復が著しく困難な状態にあったと認定される場合です。最高裁判所は、不貞行為の時点で婚姻関係が既に破綻していた場合には、特段の事情がない限り第三者(不倫相手)に対して不法行為に基づく慰謝料を請求することはできないという立場を示しています(最高裁平成8年3月26日判決)。これは慰謝料の「減額」ではなく、請求そのものを「否定」するものです。
一方、「過失相殺」は婚姻関係が破綻するほどではないものの、被害者側の行為が損害の発生・拡大に何らかの形で貢献していたと評価される場合に、賠償額の「減額」を認める概念です。
実務上は、「婚姻関係の破綻」に至らない場合でも、夫婦関係の悪化への被害者側の寄与という事情が、慰謝料額を定める際の考慮要素として機能することがあります。ただし、この評価は非常に事案依存度が高く、裁判所の裁量的判断に委ねられる部分が大きいといえます。
「落ち度がある」と主張された場合の対処法
慰謝料交渉や訴訟において相手方から「あなた側にも落ち度がある」と主張された場合、感情的に対応してしまうと不利になることがあります。以下の点を意識した対応が重要です。
まず、相手方の主張に対して安易に認めたり、口頭で詳細を話したりすることは避けるべきです。相手方の主張を裁判上の証拠に変える機会を与えかねません。次に、自分側の事情を正確に整理した上で、弁護士を通じて反論を組み立てることが肝心です。たとえばセックスレスの主張であれば、その原因が相手方の不貞行為後の冷却に起因するものであるといった事情は、適切に主張することで評価が変わる可能性があります。また、被害者自身の精神的苦痛の深刻さや、不貞行為が婚姻・家庭に与えた実害(離婚に至ったか、子どもへの影響等)を具体的に示すことも、慰謝料額の適正な評価につながります。
慰謝料を請求する側が注意すべきポイント
不貞慰謝料を請求する側も、自分の言動や行動が相手方に「過失相殺・落ち度の主張」の材料を与えないよう注意する必要があります。不貞発覚後に感情的になって配偶者や相手方に暴言・脅迫的なメッセージを送ったり、相手方の職場に無断で押し掛けたりすると、逆に損害賠償請求を受けるリスクが生じます。また、慰謝料交渉の過程での言動も記録されている可能性があるため、冷静かつ法的に適切な対応が求められます。
横浜を中心に不貞慰謝料の案件に携わる弁護士の観点からも、請求する側が感情的に動くほど、相手方に反論材料を与えてしまい、最終的な解決金額が低くなるリスクが高まる印象があります。証拠の保全と適切な交渉戦略の構築を早期に専門家へ相談することで、こうしたリスクを回避しやすくなります。
まとめ|過失相殺の主張への対応は早期の法律相談が鍵
不貞慰謝料に関する「過失相殺」の議論は、単純に認めたり全面否定したりするのではなく、個別の事情に応じた丁寧な分析が必要です。被害者側の落ち度として主張される事情(セックスレス、DV、自身の不貞、長期別居など)がどの程度慰謝料に影響するかは、裁判所が具体的な事実関係を総合的に評価して判断するため、一概に断言できません。
重要なのは、相手方の主張に対して感情的に対応するのではなく、法的な観点から反論を組み立てることです。被害者側の落ち度を過大に評価させないためにも、また正当な慰謝料を確保するためにも、弁護士への早期相談が不可欠です。相手方から過失相殺を主張されている方も、これから請求を検討している方も、まずは専門家への相談をご検討ください。
不貞慰謝料の「過失相殺」問題でお困りの方へ
タングラム法律事務所では、不貞慰謝料請求の事案について豊富な実績を有しております。相手方から過失相殺・落ち度の主張をされている方、慰謝料請求に際して自分の立場を正確に整理したい方は、お気軽にご相談ください。
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