ネット誹謗中傷で請求できる損害|慰謝料・治療費・休業損害を弁護士が解説
ネット誹謗中傷で請求できる損害|慰謝料・治療費・休業損害を弁護士が解説
ネット上で誹謗中傷を受けると、精神的な苦痛だけでなく、体調を崩して通院したり、仕事を休まざるを得なくなったり、お店の売上が落ち込んだりと、実生活にさまざまな損害が及ぶことがあります。「相手に請求できるのは慰謝料だけなのか」「かかった治療費や失った収入は取り戻せないのか」と疑問に感じている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、ネット誹謗中傷の損害賠償で請求できる損害の種類を、慰謝料・治療費・休業損害・営業損害・調査費用・弁護士費用に分けて整理し、それぞれが認められるための考え方と、損害を裏付けるために残しておくべき証拠を横浜の弁護士がわかりやすく解説します。
損害賠償の法的根拠|民法709条・710条
ネット誹謗中傷への損害賠償は、民法の不法行為の規定を根拠とします。民法709条は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定めています。名誉やプライバシーは法律上保護される利益にあたるため、これらを違法に侵害する投稿をした者は、生じた損害を賠償する義務を負います。
さらに民法710条は、他人の身体・自由・名誉を侵害した場合には「財産以外の損害」に対しても賠償しなければならないと規定しています。この「財産以外の損害」の賠償が、いわゆる慰謝料です。つまり、慰謝料は709条・710条を根拠とする損害の一部であり、損害賠償として請求できるのは慰謝料に限られるわけではありません。投稿と相当因果関係のある損害であれば、財産的な損害も含めて請求の対象になり得ます。
※投稿者が匿名の場合、損害賠償を請求するにはまず発信者情報開示請求によって投稿者を特定する必要があります。プロバイダ責任制限法は2025年4月1日施行の「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)」へと改正・改称されており、開示手続の根拠法もこの法律に基づきます。
①慰謝料(精神的損害)
誹謗中傷の損害賠償の中心となるのが、精神的苦痛に対する慰謝料です。金額は、投稿の内容・悪質性、拡散の範囲、被害者の社会的地位、被害の継続期間などを総合して個別に判断されます。一般的に、個人が被害者の場合の慰謝料は数万円から数十万円程度、社会的評価の低下が著しい事案や事業者が被害者の事案ではより高額になることもありますが、金額は事案ごとに大きく異なります。
慰謝料の相場や、金額を左右する具体的な事情については、ネット誹謗中傷の慰謝料を左右する「増額要素」と「減額要素」の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
②治療費・通院交通費
誹謗中傷が原因で不眠症やうつ状態などに陥り、心療内科や精神科への通院を余儀なくされた場合、その治療費や通院にかかった交通費は、慰謝料とは別の財産的損害として請求できる場合があります。ポイントとなるのは、投稿と症状との間に相当因果関係が認められるかどうかです。
この因果関係を立証するうえで重要になるのが、医師の診断書です。いつから、どのような症状で通院を開始したのかが記録されていると、投稿と治療の結びつきを示しやすくなります。治療費の領収書、処方箋、通院日の記録なども保管しておきましょう。
③休業損害・逸失利益
誹謗中傷による精神的不調で仕事を休まざるを得ず、現実に収入が減った場合には、その減収分を休業損害として請求できる可能性があります。会社員であれば給与明細や欠勤記録、個人事業主であれば確定申告書や帳簿などが、減収額を裏付ける資料となります。
もっとも、休業や減収が誹謗中傷によるものであることを示す立証は容易ではありません。休業の必要性(診断書等による裏付け)や、減収額が投稿と相当因果関係にあることを、資料に基づいて説明できるかが結果を左右します。
事業者の営業損害(売上減少)は立証が難しい
店舗や会社に対する中傷で客が減り、売上が落ちたという場合、その減少分を営業損害(逸失利益)として請求する余地はあります。しかし、売上の減少が投稿によるものなのか、景気や季節変動・競合の影響など他の要因によるものなのかを切り分けることは難しく、裁判例の中には、中傷投稿について慰謝料は認めつつ、売上減少との因果関係までは認めなかったものもあります。営業損害を主張する場合は、投稿前後の売上推移や予約数の変化など、客観的な資料を早い段階から整えておくことが有効です。
④発信者情報開示にかかった調査費用・弁護士費用
匿名の投稿者を特定するために発信者情報開示請求を行った場合、その手続に要した費用(いわゆる調査費用)は、権利侵害と相当因果関係のある損害として、後の損害賠償請求で加害者に請求できると解されています。投稿者を特定しなければ賠償請求そのものができない以上、その特定に要した費用は権利侵害と結びついた損害と評価されるためです。
また、損害賠償請求訴訟を弁護士に依頼した場合の弁護士費用についても、その全額ではありませんが、認容された損害額の一定割合(実務上はおおむね1割程度)が、不法行為と相当因果関係のある損害として認められるのが一般的な取扱いです。最高裁昭和44年2月27日判決も、事案の難易・請求額・認容額その他の事情を斟酌して相当と認められる範囲で、弁護士費用を不法行為と相当因果関係のある損害と認めています。
開示にかかった費用を加害者に請求できるかという論点は、発信者情報開示にかかった弁護士費用は加害者に請求できる?の記事でさらに詳しく解説しています。
請求できる損害の一覧と必要な証拠
| 損害の種類 | 内容 | 裏付けとなる主な資料 |
|---|---|---|
| 慰謝料 | 精神的苦痛に対する賠償 | 投稿のスクリーンショット・URL、被害状況の記録 |
| 治療費・通院交通費 | 通院・治療に要した費用 | 診断書、領収書、処方箋、通院記録 |
| 休業損害 | 休業による減収分 | 診断書、給与明細、欠勤記録、確定申告書 |
| 営業損害(逸失利益) | 売上・利益の減少分 | 売上推移資料、予約数の記録、帳簿 |
| 調査費用 | 発信者情報開示にかかった費用 | 開示手続の費用に関する契約書・領収書 |
| 弁護士費用(相当額) | 認容額の一定割合 | 委任契約書、請求書 |
いずれの損害も、共通して重要になるのが「投稿と損害の結びつきを示す証拠」です。投稿そのものが削除されると立証が困難になるため、URL・投稿日時・アカウント名が写り込んだスクリーンショットを早期に保存しておくことが、後の損害賠償請求の土台になります。特定後の具体的な進め方は、発信者情報開示請求で投稿者を特定した後の損害賠償請求・訴訟の流れもご参照ください。
損害賠償請求の流れと時効
匿名投稿の場合、損害賠償までの流れは、証拠の保全、発信者情報開示による投稿者の特定、示談交渉、まとまらない場合の損害賠償請求訴訟という順に進みます。ここで注意したいのが消滅時効です。不法行為に基づく損害賠償請求権は、被害者が損害および加害者を知った時から3年(人の生命・身体を害する場合は5年)、または不法行為の時から20年で時効により消滅します(民法724条・724条の2)。
投稿者が特定できていない段階では、まだ「加害者を知った」とはいえないと考えられますが、開示手続には数か月単位の時間がかかることも少なくありません。ログの保存期間の問題もあるため、被害に気づいたら早めに動くことが、請求できる損害を確実に回収するうえで大切です。
よくある質問
慰謝料のほかに、治療費や通院交通費も請求できますか?
誹謗中傷が原因で不眠やうつ状態となり通院した場合、その治療費や通院交通費は、投稿と症状との間に相当因果関係が認められれば、慰謝料とは別に損害賠償として請求できる場合があります。医師の診断書や領収書など、投稿と治療の関連を裏付ける資料を残しておくことが重要です。
誹謗中傷で会社を休んだ分の休業損害は請求できますか?
誹謗中傷による精神的不調で就労できず現実に減収が生じた場合、休業損害として請求できる可能性があります。もっとも、休業と投稿との相当因果関係や減収額の立証が必要であり、認められるかは事案によります。診断書・給与明細・欠勤記録などの資料が判断の基礎となります。
お店の売上が減ったのですが、その分を損害賠償請求できますか?
店舗や事業への中傷で売上が減少した場合、営業損害(逸失利益)として請求する余地はあります。ただし、売上減少が投稿によるものか、他の要因によるものかを切り分ける立証が難しく、裁判例には因果関係を認めず慰謝料の範囲にとどめたものもあります。売上推移の資料等を早めに整えておくことが有効です。
発信者情報開示にかかった弁護士費用や調査費用は相手に請求できますか?
投稿者を特定するために要した発信者情報開示の費用(いわゆる調査費用)は、権利侵害と相当因果関係のある損害として、加害者に請求できると解されています。損害賠償請求訴訟の弁護士費用についても、認容額の一定割合が損害として認められるのが実務上の取扱いです。
損害賠償請求に時効はありますか?
不法行為に基づく損害賠償請求権は、被害者が損害および加害者を知った時から3年(人の生命・身体を害する場合は5年)、または不法行為の時から20年で時効消滅します(民法724条・724条の2)。加害者を特定できていない段階では時効の起算点に注意が必要で、早めの対応が望まれます。
まとめ
ネット誹謗中傷の損害賠償で請求できるのは、慰謝料だけではありません。治療費や通院交通費、休業損害、事業者であれば営業損害、投稿者特定にかかった調査費用、そして訴訟の弁護士費用の相当額まで、投稿と相当因果関係のある損害であれば請求の対象になり得ます。もっとも、慰謝料以外の損害は、投稿と損害の結びつきを証拠で示せるかどうかが結果を大きく左右します。
どの損害をどこまで請求できるか、そのためにどの証拠を残すべきかは、事案ごとの見極めが必要です。損害の範囲を適切に構成し、証拠に基づいて主張することは、弁護士に依頼する大きなメリットの一つといえます。被害に気づいた段階で早めに弁護士へ相談することで、請求できる損害を取りこぼさずに回収できる可能性が高まります。
誹謗中傷の損害賠償について、横浜のタングラム法律事務所にご相談ください
タングラム法律事務所では、ネット誹謗中傷に関する発信者情報開示請求・削除請求・損害賠償請求について、豊富な実績を有しております。慰謝料はもちろん、治療費・休業損害・調査費用など請求できる損害の範囲を見極め、証拠の整え方から回収までを一貫してサポートいたします。
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