乗っ取り犯は特定できるか|開示請求より削除を優先すべき理由
乗っ取り犯は特定できるか|開示請求より削除を優先すべき理由
自分のアカウントを乗っ取り、名前と写真を使って知人に詐欺DMを送った人物がいる。許せない、正体を突き止めて責任を取らせたい――。乗っ取りの被害に遭った方が、そう考えるのはごく自然なことです。
インターネット上の加害者を特定する手続として、発信者情報開示請求があります。では、乗っ取り犯もこの手続で特定できるのでしょうか。この記事では、手続としては可能であるものの、乗っ取りの事案では手詰まりになるケースが多い理由と、当事務所が削除による被害拡大の阻止に集中することをお勧めしている理由を解説します。
発信者情報開示請求の仕組み
発信者情報開示請求は、インターネット上の投稿などで権利を侵害された人が、サイトの運営者や通信事業者に対して、投稿者を特定するための情報の開示を求める手続です。2025年4月に施行された情報流通プラットフォーム対処法(特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律)に定められています。
X・InstagramのようなログインしてSNSを使うサービスでは、投稿そのものではなく、ログイン時の通信の記録をもとに発信者をたどることになり、一般に次の2段階を踏みます。
- SNSの運営会社に対し、ログイン時のIPアドレス等の開示を求める
- 判明したIPアドレスから通信事業者(アクセスプロバイダ)を割り出し、契約者の氏名・住所の開示を求める
ログイン型のSNSで開示を受ける際の要件は、ログイン型SNSの投稿者を特定する「特定発信者情報」開示請求で詳しく解説しています。
乗っ取りの事案で手詰まりになりやすい理由
制度上は、乗っ取った人物による不正な投稿やDMについても、同じ手続をとることが考えられます。しかし、実際には次のような壁に突き当たることが多いのが実情です。
| 壁 | 内容 |
|---|---|
| 海外からのアクセス | 乗っ取りの多くは海外から行われており、判明したIPアドレスが海外の通信事業者のものであることが少なくありません。日本の裁判所の手続で、海外の通信事業者から契約者情報の開示を受けることは、現実には極めて困難です |
| 匿名化の仕組み | VPNや匿名化サービス、他人の端末を経由したアクセスが使われていると、IPアドレスから実際の人物にたどり着けません |
| 記録の保存期間 | 通信の記録は保存期間が限られており、手続に時間がかかるうちに消えてしまうおそれがあります |
| 特定後の回収 | 仮に特定できても、相手が海外にいる場合、損害賠償を請求して実際に支払いを受けることは容易ではありません |
費用と見込みを比べると
開示請求は2段階の手続になるため、当事務所の場合、基本着手金だけで運営会社に対する手続・通信事業者に対する手続でそれぞれ20万円(税込22万円)、合計40万円(税込44万円)がかかります。これに実費が加わります。
時間と費用をかけても、相手が海外にいることがわかった時点で手続が止まってしまう――乗っ取りの事案では、こうした結果になることが少なくありません。その間も、アカウントが残っている限り、詐欺DMや偽の投稿による被害は続いていきます。
当事務所が「削除に集中」をお勧めする理由
乗っ取りの被害で最も大切なのは、ご本人の名前で被害が広がり続ける状態を、できるだけ早く止めることです。そのため当事務所では、乗っ取りの事案については、発信者情報開示請求を積極的にはお勧めしておらず、削除によって被害の拡大を止めることに集中する方針をとっています。
- 削除は、ご本人の側の証拠(開設者であることを示す資料、被害の状況)で立証でき、相手の所在に左右されにくい
- 不正な運用が続いていれば、仮処分によって比較的早期に結論を得ることを目指せる
- 費用と期間の見通しを立てやすい
削除の手続については乗っ取りアカウントが取り戻せないときの削除仮処分、費用と期間についてはアカウント削除仮処分の費用と期間で解説しています。
犯人の処罰を求めるなら警察への相談を
他人のアカウントに無断でログインする行為は、不正アクセス禁止法違反となる可能性があり、同法では3年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金が定められています(2025年6月施行の刑法等改正により「懲役」は「拘禁刑」に改められました)。犯人の処罰を求めたい場合は、民事の開示請求ではなく、警察への相談・被害届が本来の窓口です。
捜査機関は、民間の手続とは異なる権限や国際的な協力の枠組みを用いることができます。警察への相談と、民事の削除手続は並行して進めることができます。
例外的に開示請求を検討する場面
次のように、国内の人物による乗っ取りが強く疑われる事情がある場合には、開示請求を検討する余地があります。
- 元交際相手や元従業員など、パスワードを知り得た特定の人物に心当たりがある
- 乗っ取り後の投稿内容が、ご本人の身近な人しか知らない事情に触れている
こうした場合は、なりすましの事案に近い考え方になります(SNSのなりすまし・偽アカウント被害への法的対処法参照)。いずれの場合も、見込みをご説明したうえで、削除と併せて検討します。インターネット上の権利侵害への対応全般は発信者情報開示請求・削除請求のページもご覧ください。
よくある質問
乗っ取り犯を特定することは、法律上できないのですか?
手続としては、発信者情報開示請求によって特定を試みることは可能です。ただし、乗っ取りは海外からのアクセスや匿名化の仕組みを使ったものが多く、手続を尽くしても特定に至らない事案が少なくありません。
開示請求をせずに削除だけを依頼することはできますか?
できます。当事務所では、乗っ取りの事案については削除を中心とした手続をお勧めしています。犯人の特定をご希望の場合は、見込みをご説明したうえで、オプションとして併せて検討します。
犯人がわからないままでは、損害賠償は請求できないのですか?
相手方が特定できなければ、損害賠償を請求することはできません。ただ、乗っ取りの事案では特定の見込みが低いことが多いため、まずは被害の拡大を止めることを優先するのが現実的です。
警察に相談すれば犯人はわかりますか?
捜査が行われるかどうか、犯人が判明するかどうかは事案によります。犯人の処罰を求める場合は、警察への相談・被害届が本来の窓口であり、民事の削除手続と並行して進めることができます。
まとめ
乗っ取り犯の特定は、発信者情報開示請求によって手続上は試みることができます。しかし、乗っ取りの多くは海外から行われており、時間と費用をかけても手詰まりになるケースが少なくありません。
当事務所では、乗っ取りの事案では開示請求を積極的にはお勧めせず、削除による被害の拡大の阻止に集中することをご提案しています。横浜のタングラム法律事務所では、オンラインで全国からのご相談をお受けしていますので、弁護士への相談をご検討ください。
被害を止めるためのアカウント削除について、手続と費用の詳細は乗っ取られた・ログインできないアカウントの削除請求のページをご覧ください。
乗っ取りの被害を早く止めたい方へ
横浜のタングラム法律事務所では、X・Instagram等のSNSアカウントの削除請求や、インターネット上の権利侵害への対応に継続的に取り組んでいます。犯人の特定よりも、被害の拡大を止めることを優先した手続をご提案します。
法律相談の予約はこちら※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。