ログイン型SNSの投稿者を特定する「特定発信者情報」開示請求とは?要件と実務を弁護士が解説
ログイン型SNSの投稿者を特定する「特定発信者情報」開示請求とは?要件と実務を弁護士が解説
「X(旧Twitter)で誹謗中傷されたので発信者情報開示請求をしたら、投稿時のIPアドレスは記録されていないと言われた」——ネット上の中傷被害でお困りの方が、こうした壁に直面するケースが増えています。X、Instagram、TikTokといった主要SNSは、いわゆる「ログイン型サービス」に分類され、投稿(書き込み)そのものの通信記録を保存していないことが少なくありません。そのため、従来の発信者情報開示請求だけでは投稿者にたどり着けない場合があるのです。
この問題を解決するために設けられたのが、ログイン時の通信記録に着目した「特定発信者情報」の開示請求という制度です。本記事では、ログイン型SNSでなぜ通常の開示が難しいのか、特定発信者情報とは何か、開示が認められるための要件、そして実務上の注意点について、ネット誹謗中傷対応を専門とする弁護士の視点からわかりやすく解説します。
なぜログイン型SNSでは投稿者の特定が難しいのか
発信者情報開示請求の基本は、「権利を侵害する投稿が行われたときのIPアドレスとタイムスタンプ」をたどって投稿者を割り出す、という仕組みです。投稿時のIPアドレスがわかれば、そのIPアドレスを管理する経由プロバイダ(アクセスプロバイダ)に対して、契約者の氏名・住所の開示を求めることができます。
ところが、X・Instagram・TikTokなどのSNSの多くは、ユーザーが一度ログインすればその後の個々の投稿について逐一IPアドレスを記録・保存していません。これらは「ログイン型サービス」と呼ばれ、サービス側が保有しているのは、主にアカウントにログインした際の通信記録であることが一般的です。
つまり、被害者が「この投稿をした人物を特定したい」と考えても、投稿そのものの通信記録が存在せず、手元にあるのはログイン時の記録だけ、という状況が生じます。この「ログイン時情報から投稿者を特定する」ための法的な道筋を整えたのが、令和3年(2021年)改正で新設された特定発信者情報の開示請求制度です。
「特定発信者情報」と「侵害関連通信」とは
特定発信者情報とは、ごく単純化すると、権利侵害の投稿そのものではなく、それに関連するログイン等の通信(侵害関連通信)に係る発信者情報のことをいいます。具体的には、その通信に用いられたIPアドレスやタイムスタンプ、ポート番号などが対象です。
「侵害関連通信」として法令上想定されているのは、おおむね次のような通信です。
| 侵害関連通信の類型 | 内容 |
|---|---|
| アカウント作成時の通信 | SNSアカウントを新規に作成した際の通信 |
| ログイン時の通信 | アカウントにログインした際の通信(最も多く使われる) |
| ログアウト時の通信 | アカウントからログアウトした際の通信 |
| アカウント削除時の通信 | アカウントを削除した際の通信 |
これらの通信に紐づくIPアドレス等を手がかりに経由プロバイダを割り出し、最終的に投稿者本人にたどり着くことを目指します。なお、こうした侵害関連通信の範囲は、法律本体だけでなく施行規則で具体的に定められています。
特定発信者情報の開示が認められる3つの要件
特定発信者情報は、いわば「投稿そのものの記録がない場合の補充的な手段」であるため、通常の発信者情報よりも開示のハードルが一段高く設定されています。情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)5条1項では、特定発信者情報の開示を求める場合、次の3つの要件をすべて満たす必要があるとされています。
① 権利侵害の明白性
投稿によって、名誉権やプライバシー権など、請求者の権利が侵害されたことが「明らか」であること。これは通常の発信者情報開示と共通する要件で、単なる批判ではなく違法な権利侵害といえる必要があります。
② 開示を受けるべき正当な理由
損害賠償請求や差止請求のために発信者情報が必要であるなど、開示を受ける正当な理由があること。これも従来の開示請求と共通します。
③ 補充的要件(情プラ法5条1項3号)
特定発信者情報に特有の要件です。簡潔にいえば、「投稿時の通常の発信者情報だけでは投稿者を特定できない事情があること」を求めるもので、条文上は次のいずれかに該当する場合とされています。
- 当該プロバイダが、特定発信者情報以外の発信者情報(投稿時のIPアドレス等)を保有していないと認められるとき
- 保有している発信者情報が、氏名・住所等の特定に役立たないものであるとき
- 請求者が、特定発信者情報以外の情報の開示を受けても投稿者を特定できないと認められる一定の場合 など
ログイン型SNSのように、そもそも投稿時のIPアドレスを保存していないサービスは、この③の要件を満たしやすいといえます。
2025年4月施行の情プラ法との関係
2025年(令和7年)4月1日、従来の「プロバイダ責任制限法」が改正され、名称も「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)」へと変わりました。ここで重要なのは、特定発信者情報の開示請求の枠組み自体は令和3年改正で既に導入されており、情プラ法でもその仕組みが引き継がれているという点です。
情プラ法は、大規模なSNS等を運営する事業者(大規模特定電気通信役務提供者)に対し、削除申請への対応の迅速化や運用状況の透明化を新たに義務づけました。総務省は、Google、LINEヤフー、Meta(Facebook・Instagram)、TikTok、Xなどを含む事業者を対象として指定しています。これにより、削除や開示に向けた手続の運用がより整備されていくことが期待されています。
ただし、情プラ法はあくまで削除対応の迅速化や透明化を主眼とした改正であり、特定発信者情報の開示が「簡単になった」わけではありません。ログイン型SNSの投稿者特定には、依然として要件の検討と専門的な手続が必要です。
特定発信者情報開示の一般的な流れ
ログイン型SNSの投稿者を特定する場合、おおむね次のような段階を踏みます。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ① 証拠の保全 | 投稿のURL・スクリーンショット・投稿日時を確保する |
| ② コンテンツプロバイダへの請求 | SNS運営会社に対し、ログイン時のIPアドレス等(特定発信者情報)の開示を求める |
| ③ 経由プロバイダの特定 | 開示されたIPアドレスから、どの通信会社の回線かを割り出す |
| ④ 経由プロバイダへの請求 | 契約者の氏名・住所等の開示を求める。ログ保存期間に注意 |
| ⑤ 損害賠償請求等 | 特定された投稿者に対し示談交渉や訴訟を行う |
これらの手続には、任意の開示請求のほか、令和3年改正で創設された発信者情報開示命令の非訟手続を利用する方法があります。非訟手続では、開示命令・提供命令・消去禁止命令を組み合わせることで、複数のプロバイダにまたがる特定作業を一体的・迅速に進めやすくなりました。
ログイン型SNSの投稿者特定でつまずきやすいポイント
特定発信者情報の開示は制度として整備されたものの、実務では次のような難しさがあります。
第一に、ログイン記録が複数残っている場合、「どのログインが投稿者本人のものか」が必ずしも一義的に定まらないことがあります。第二に、海外に拠点を置くSNS事業者を相手にする場合、手続に時間や追加的な対応を要することがあります。第三に、ログイン時にVPNや公衆Wi-Fiが使われていると、たどり着いたIPアドレスから契約者を特定できないこともあります。
こうした事情から、開示が認められるかどうかはケースごとの個別判断になります。「必ず特定できる」と保証することはできませんが、適切な証拠保全と要件の組み立てによって特定の可能性を高めることは十分に可能です。
まとめ——ログイン型SNSの特定は専門家への早期相談を
X・Instagram・TikTokなどのログイン型SNSでは、投稿時のIPアドレスが残っていないことが多く、投稿者の特定には「特定発信者情報(ログイン時情報)」の開示という一段踏み込んだ手続が必要になります。その開示には、権利侵害の明白性・正当な理由に加え、補充的要件という特有のハードルがあり、要件の検討や手続の選択には専門的な判断が欠かせません。
さらに、プロバイダのログ保存期間という時間的制約や、二段階の特定作業という手続の複雑さもあります。被害に気づいたら、できるだけ早い段階でネット誹謗中傷に詳しい弁護士に相談することが、投稿者特定の可能性を高める近道です。
ログイン型SNSの投稿者特定でお困りの方へ
タングラム法律事務所では、ネット誹謗中傷に関する発信者情報開示請求・削除請求・損害賠償請求について、豊富な実績を有しております。X・Instagram・TikTok等のログイン型SNSにおける特定発信者情報の開示についても、証拠保全から投稿者特定、損害賠償請求まで一貫してサポートいたします。まずはお気軽にご相談ください。
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