タングラム法律事務所

トレントを一度だけ使った場合も開示請求は来るか|短時間利用の扱い

トレントを一度だけ使った場合も開示請求は来るか|短時間利用の扱い

トレントを一度だけ使った場合も開示請求は来るか|短時間利用の扱い

トレントを一度だけ使った場合も開示請求は来るか|短時間利用の扱い

トレントを一度だけ使った場合も開示請求は来るか|短時間利用の扱い

執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年11月6日 最終更新日:2026年11月6日

「試しに一度使っただけなのに」「数分で止めて、すぐ削除したのに」。BitTorrent(トレント)を理由とする意見照会書が届いた方から、よく伺うお話です。長く使い続けていたわけではないのに、なぜ自分のところに書面が届いたのか。戸惑いや理不尽さを感じるのは自然なことだと思います。

この記事では、一度だけ・短時間の利用が開示請求や損害賠償でどのように扱われるのかを、著作権法の定義と裁判例に沿って整理します。あわせて、回答書で「一度だけ」と書く前に確認しておきたい点を、横浜の弁護士の立場から説明します。

結論から述べると、利用が一度だけ・短時間であっても、それだけで開示請求の対象から外れるとはいえません。著作権法は、送信した量や回数ではなく、自動的に送信し得る状態にしたことを問題にしているためです。他方で、利用していた期間の長短は損害額を左右し得る事情です。もっとも、「すぐやめた」という説明は、裏付けがなければそのとおりに認定されるとは限らないことに注意が必要です。

一度だけのトレント利用でも意見照会書が届く理由

BitTorrentでは、ファイルを受け取っている途中から、取得済みの断片(ピース)が他の利用者へ送信され得ます。権利者側の調査では、監視用のソフトウェアがネットワーク上の利用者の一人として接続し、相手のIPアドレス・ポート番号・発信時刻などを記録するのが一般的です。

つまり、調査の側から見れば、問題になるのは「その人が何回使ったか」ではなく、「ある時刻に、その回線から対象ファイルに関する通信が確認できたか」です。利用がたった一度でも、そのときに記録されれば、開示請求の対象になる可能性があります。調査用ソフトウェアの仕様の変化についてはトレントの断片(ピース)送信と著作権侵害の記事で詳しく説明しています。

逆に、長期間使っていた方に必ず書面が届くわけでもありません。書面が届くかどうかには、作品が調査の対象になっていたか、プロバイダにログが残っていたかなど、利用者の側からは分からない事情が関わります。「自分だけ運が悪かった」と感じられるのは、この仕組みによるものです。

短時間でも問題になる法律上の理由——送信可能化の定義

著作権法23条1項は、著作者が公衆送信を行う権利を専有すると定め、自動公衆送信の場合には送信可能化を含むとしています。そして送信可能化とは、一定の行為により「自動公衆送信し得るようにすること」をいい、その行為には、情報が記録された装置について、送受信用プログラムの起動などによって回線へ接続することも含まれます(同法2条1項9号の5)。

この定義には、継続した時間や送信回数についての定めはありません。そのため、短時間であっても、他の利用者の求めに応じて自動的に送信し得る状態になっていれば、送信可能化に当たると考えられます。また、ファイルが完成していなくても、知的財産高等裁判所令和6年6月26日判決(令和5年(ネ)第10102号)は、復元・再生が可能なシステムの一環としてピースの送受信が行われている場合に、ピースの送信による侵害を認める判断を示しています。

発信者情報の開示請求では、権利侵害が明らかであること、開示を受ける正当な理由があることが要件とされています(情報流通プラットフォーム対処法5条1項1号・2号)。この条文にも、利用の回数や期間についての下限はありません。本記事の執筆時点で確認できた範囲では、利用や観測の回数が少ないことだけを理由に開示を否定した公表裁判例は見当たりません。もちろん、個別の事案で調査の正確性などを争う余地は別に残ります。

短時間の利用が意味を持つ場面——損害額と期間

一度だけ・短時間であることが意味を持つのは、主に損害額を考える場面です。知的財産高等裁判所令和4年4月20日判決(令和3年(ネ)第10074号)は、BitTorrentの利用者について、対象ファイルをダウンロードしてから利用を停止するまでの期間を基準に、その期間中のダウンロード数を推計して損害額を算定しました。その期間の外については責任を負わないとする一方で、その期間内の損害は全額について共同不法行為者として責任を負うとしています。

主張の内容同判決での扱い
利用していた「期間」が短い算定の基礎となる期間に直接反映される
一般の利用者は数時間でアップロードを終えるので、期間の一部だけで計算すべき採用されず、期間中の損害の全額について責任を認めた
全体の中での自分の関与はごく一部なので、割合で減らすべき採用されなかった

つまり、争点になるのは「どれだけ寄与したか」の割合よりも、「いつからいつまで送信可能な状態だったか」です。この点はトレントの共同不法行為と責任の範囲を解説した記事でも扱っています。なお、前記令和6年判決は、それ自体では再生できないピースを保有するにすぎない発信者について、損害は微々たるものにとどまると想定される旨を付言しています。請求額は、作品の性質、利用態様、期間、件数などによって変わるため、書面の金額をそのまま受け止める前に、期間の認定を確認する意味があります。

「すぐやめた」は裁判でそのまま認められるとは限らない

ここが、この記事で最もお伝えしたい点です。前記令和4年判決は、ダウンロードキャッシュを削除するか利用を停止するまでは、ダウンロード済みのファイルが送信可能な状態にあったとして、そのいずれかが認められる時点まで不法行為が続いていたとしました。そのうえで、それより前の特定の日にキャッシュを削除した証拠はないとして、利用者らがプロバイダから意見照会を受けた日まで、送信可能化を続けていたと推認しています。

この判断からは、「一度しか使っていない」という記憶と、「送信可能な状態がいつ終わったか」は別の問題だということが分かります。たとえば、次のような場合には、本人の感覚より長い期間が問題になるおそれがあります。

  • ファイルを見終えた後も、ソフトを終了せずに常駐させていた
  • パソコンの起動時にソフトが自動で立ち上がる設定になっていた
  • 再起動後に、前回の共有が自動で再開されていた
  • 取得したファイルを別の場所に移さず、ソフトの共有対象のまま残していた
  • 使っていないつもりのまま、ソフトもファイルも長期間そのままにしていた

終期の認定は、本人の説明と、それを支える事情によって判断されます。同判決では、意見照会を受けて怖くなりソフトを削除するのは通常の行動であるとして、陳述書の内容が不自然ではないと評価されています。逆にいえば、「いつ」「何をきっかけに」やめたのかを具体的に説明できることが大切です。設定に関する主張の扱いはトレントのアップロード制限・ポート未開放の記事も参考にしてください。

回答書に「一度だけ」と書く前に確認したいこと

意見照会書への回答で「一度だけです」と書きたくなるお気持ちは分かります。しかし、この一文には注意が必要です。

第一に、「一度だけ使った」という記載は、利用した事実を認める記載でもあります。一度だけだからといって開示の要件が欠けるとは限らないため、開示を止める理由としての効果は限られる一方で、利用の事実が記録に残ることになります。第二に、一般に用いられる意見照会の書式では、回答の理由や証拠は請求者側に通知され得るものとされています。後の示談交渉や訴訟で、回答書の記載と異なる説明をすることは難しくなります。

第三に、記憶だけで「一度だけ」と断定すると、事実と食い違う場合があります。回答前に、次の事項を確認しておくことをお勧めします。

  • 意見照会書に記載された発信日時・ファイル名と、ご自身の記憶が合っているか
  • ソフトをいつ入れ、いつ削除したか(分かる範囲で)
  • 照会の対象以外に、同じ時期に共有していたファイルはないか
  • 同じ回線を使う家族・同居人が利用していた可能性はないか

なお、書面が届いた後に慌ててデータを消すことには別の検討が必要です。この点は意見照会書が届いた後のソフト削除と証拠隠滅の記事で整理しています。利用をやめること自体は、前記判決のとおり期間の終わりを画する事情になり得ますが、やめた時期を説明できる形で残すことが重要です。

回答の方針は、利用の事実の有無だけでなく、後の交渉や訴訟を見通して決める必要があります。意見照会段階の対応の全体像は、発信者情報開示の意見照会対応のページにまとめています。書面が届いた方向けの対応内容は、BitTorrent著作権侵害の意見照会対応のご案内でご確認いただけます。

よくある質問

一度だけ使って数分で止めました。それでも開示されることはありますか。

あり得ます。著作権法の送信可能化は回数や時間を要件としておらず、開示請求の条文にも利用回数の下限はありません。もっとも、開示されるかどうかは事案ごとの判断であり、調査の正確性などを争う余地が残る場合もあります。

一度だけなら損害賠償の額は小さくなりますか。

利用期間の長短は損害額を左右し得る事情です。知的財産高等裁判所令和4年4月20日判決は、利用していた期間を基準にダウンロード数を推計して損害額を算定しています。ただし、短期間だったことを裏付けられなければ、より長い期間が認定されるおそれがあります。

ソフトを消した日を証明する資料がありません。どうすればよいですか。

資料がなくても、いつ、何をきっかけにやめたのかを具体的に説明できれば、それ自体が判断材料になり得ます。同判決でも陳述書の内容が評価されています。パソコンの買い替え時期など、周辺の事情も含めて整理することをお勧めします。

ダウンロードが途中で止まり、作品を見ていません。それでも対象になりますか。

対象になる可能性があります。BitTorrentではダウンロードの途中から取得済みのピースが送信され得るためです。知的財産高等裁判所令和6年6月26日判決は、ピース自体が再生できなくても侵害が成立し得るとしています。

回答書には「一度だけです」と書けばよいですか。

そのまま書くことはお勧めできません。この記載は利用の事実を認めることにもなり、開示を止める効果は限られます。回答の内容は後の交渉や訴訟にも影響するため、回答期限内に弁護士へ相談して方針を決めることをお勧めします。

まとめ

  • 送信可能化は回数や時間を要件としていないため、一度だけ・短時間でも開示請求の対象になる可能性がある
  • 短時間であることが意味を持つのは、主に損害額の基礎となる期間を考える場面である
  • 送信可能な状態の終わりは、利用をやめた記憶ではなく、ソフトの停止やキャッシュの削除などの事実で判断される
  • 裏付けがなければ、意見照会を受けた日まで利用が続いていたと推認された裁判例がある
  • 「一度だけ」と回答書に書くことは利用の事実を認めることにもなるため、書く前に事実関係と方針を確認する

「一度だけなのに」というお気持ちを、法的に意味のある事実へ整理することが第一歩です。弁護士に相談すれば、利用の期間をどう説明できるのか、回答書に何を書き、何を書くべきでないのかを確認できます。横浜の当事務所では、全国の方からのBitTorrent事案のご相談に、弁護士がオンラインで対応しています。

BitTorrent著作権侵害の意見照会対応の詳細はこちら

「一度だけなのに」と意見照会書が届いてお困りの方へ

タングラム法律事務所では、BitTorrent(トレント)による著作権侵害を理由とする意見照会書への対応から、開示後の損害賠償請求・示談交渉まで数多く取り扱っております。届いた書面の内容と利用状況を伺い、回答の方針をご説明します。BitTorrentの意見照会書が届いた方のご相談に限り、オンライン(20分程度)で無料のご相談を承っています(その他の分野のご相談は対象外です)。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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