トレントの共同不法行為と連帯責任|損害賠償の範囲を裁判例で解説
トレントの共同不法行為と連帯責任|損害賠償の範囲を裁判例で解説
意見照会書や損害賠償請求の通知書を受け取った方から、「同じファイルを共有していた人は何百人もいるはずなのに、なぜ自分だけに請求が来るのか」「自分がアップロードした量はごくわずかなのに、全部の責任を負わされるのは納得できない」というご相談をよくいただきます。BitTorrent(トレント)は多数の利用者が断片を分け合う仕組みですから、こうした疑問を持たれるのは自然なことです。
この点を正面から扱うのが、共同不法行為(民法719条1項)という考え方です。本記事では、なぜ一人に全額の請求が来る構造になっているのか、責任を負う損害の範囲はどこからどこまでなのか、「自分の寄与はわずか」という減額の主張はどこまで通るのかを、実際の裁判例に即して横浜の弁護士が解説します。
なぜ「自分だけ」に請求が来るのか——連帯責任という構造
民法719条1項前段は、「数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う」と定めています。ここでいう「連帯して」とは、頭数で割った分だけを負担すればよいという意味ではありません。
民法436条は、債権者は「連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次に全ての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる」と定めています。つまり権利者は、関与した全員を探し出す必要はなく、身元が判明した一人に対して損害の全額を請求してよいことになります。発信者情報開示で氏名・住所が判明したのが自分だけであれば、請求が自分に集中するのは、法律上はこの構造の帰結です。
理屈のうえでは、全額を支払った人は他の連帯債務者に負担部分に応じた求償ができます(民法442条1項)。しかし同時期に同じファイルを共有していた相手は氏名不詳であり、身元を突き止める手段は事実上ありません。求償は、実務上はほとんど機能しないと考えておくべきです。
BitTorrentで共同不法行為を認めた裁判例(知財高裁令和4年4月20日判決)
この問題を詳細に判断した裁判例として、知的財産高等裁判所令和4年4月20日判決(令和3年(ネ)第10074号・債務不存在確認請求控訴事件、原審・東京地方裁判所令和2年(ワ)第1573号)があります。BitTorrentの利用者らが、権利者から損害賠償請求を受けたことについて債務の不存在確認を求めた事案です(判決文は裁判所ウェブサイトの知的財産裁判例集に掲載されています)。
同判決は、BitTorrentの仕組みを詳しく認定したうえで、ダウンロードによる権利者の損害は、そのファイルを送信可能な状態に置いていた相当程度の数のピア(参加者)が存在することによって生じているとして、利用者は「同時期に同一のファイルを送信可能化していた他の利用者又は氏名不詳者らと連帯して」損害を賠償する責任を負うと判断しました。
また同判決は、「共有される仕組みを知らなかった」という主張についても、ダウンロードと同時に送信可能化されることを認識・理解していたか、容易に認識し得たのに理解しないでいたものと認められるとして、少なくとも過失があるとしています。断片(ピース)しか送っていない場合の侵害の成否は、トレントの断片(ピース)送信でも著作権侵害になるかを解説した記事で扱っています。
責任を負う期間には、始まりと終わりがある
連帯責任というと際限なく重いもののように思えますが、同判決の実務上もっとも重要な部分は、責任を負う損害の範囲を時間で区切った点にあります。
権利者側は、そのファイルが最初にアップロードされて以降の権利侵害のすべてについて責任を負うべきだと主張しました。しかし同判決は、利用者と他の参加者との間に共謀があるわけではない以上、自分がダウンロードを始める前や、利用を終了した後の期間については権利侵害行為をしていないとして、この主張を退けています。損害は1ダウンロードごとに発生するものであり、自分が利用していない時期のダウンロードとの間に因果関係は認められない、という理由です。
| 期間 | 責任の有無 |
|---|---|
| 自分がダウンロードを開始する前 | 責任を負わない |
| ダウンロード開始日〜利用停止日 | この期間のダウンロードによる損害について連帯責任 |
| 利用を停止した後 | 責任を負わない |
そして、この「終期」をいつと見るかが賠償額を大きく左右します。同判決の事案では、利用者らがいずれもプロバイダから意見照会を受けた日をもってBitTorrentの利用を終えたと認定されました。意見照会書が届いて怖くなり、クライアントソフトを削除したり利用を控えたりするのは通常の行動であって、陳述書の内容に不自然な点はない、というのが裁判所の評価です。
「自分の送信量はごくわずか」という減額の主張は通るか
同判決の事案では、利用者側から、ネットワーク上には数百のピアが散在しており、ダウンロードする者が必ず自分から取得するわけではないのだから、損害額は全体の100分の1などとして算定すべきだ、という主張がされました。
これに対し裁判所は、自分がダウンロードしてから利用を停止するまでの間のダウンロードによる損害の全額について共同不法行為者として責任を負うと認めるのが相当であるとして、この主張を採用しませんでした。ダウンロードキャッシュを削除するか利用を停止するまでは送信可能な状態が続いていたのだから、その間は不法行為が継続していたと推認される、という考え方です。
つまり、争うべきは「寄与の割合」ではなく「期間」だということになります。同判決で認められた賠償額も、利用期間の長短に応じて人ごとに差がありました。賠償額がどのような要素で決まるのかについては、トレントの示談金の算定要素を解説した記事もご参照ください。請求される金額は、作品の性質、利用態様、期間、対象となる作品数などによって大きく変わります。
他の人が支払った示談金で、自分の債務は消えるのか
「同じファイルについて何十人も示談しているはずだから、損害はすでに埋め合わされているのではないか」という主張も、同判決の事案でされました。結論として、この主張は採用されていません。権利者と示談したという他の者が誰であるのか、その第三者がいかなる行為に対するものとしていくら支払ったのかについて、具体的な主張も証拠もないというのが理由です。
連帯債務者の一人が現実に弁済をして共同の免責を得た場合には、その限度で他の連帯債務者の債務も消滅し得ます。もっとも民法441条は、弁済等の例外的な場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は他の連帯債務者に効力を生じないという相対的効力の原則を定めています。他の人の支払を理由に減額を求めるのであれば、誰がどの損害についていくら支払ったのかを具体的に示す必要があります。
意見照会の段階でしておくべきこと
以上を踏まえると、意見照会の段階で何をしておくかが、後の賠償額に直接結びつきます。
- 利用を停止した事実と時期を残す——終期の認定は本人の陳述とその内容の自然さに支えられます。いつ、何をきっかけに利用をやめたのかを具体的に説明できる状態にしておくことが重要です。
- 開始時期も確認する——始期が遅ければ責任を負う期間はその分短くなります。権利者側が主張する発信日時と実際の利用状況との整合性を確認する意味があります。
- 事実に反することを書かない——回答書の内容は後の交渉や訴訟で参照されます。争うべき技術的な点と、認めるべき事実とを切り分ける必要があります。
意見照会書への回答をどう組み立てるかについては、BitTorrent著作権侵害の意見照会対応の専門ページで対応の流れと費用をご案内しています。すでに損害賠償請求の通知書が届いている方は、損害賠償請求対応のページもあわせてご覧ください。
よくある質問
トレントの損害賠償は、他の利用者と分割して負担すればよいのですか。
分割にはなりません。共同不法行為が成立する場合、民法719条1項により各自が連帯して損害の全額を賠償する責任を負い、権利者は連帯債務者の一人に対して全部の履行を請求することができます(民法436条)。ただし、責任を負う損害の範囲自体が、自分が送信可能な状態に置いていた期間に限定される点は重要です。
自分がアップロードした量はごくわずかです。その割合まで減額されますか。
知的財産高等裁判所令和4年4月20日判決は、損害額を100分の1程度に減額すべきだとの主張を採用せず、自分が利用していた期間のダウンロードによる損害の全額について共同不法行為者として責任を負うとしました。寄与度の低さだけを理由に連帯を破ることは容易ではありません。
他の利用者が権利者と示談していれば、自分の債務も消えますか。
自動的には消えません。同じ損害について現実に弁済がされていれば共同の免責が生じ得ますが、誰が、どの行為について、いくら支払ったのかを具体的に主張・立証する必要があります。上記の裁判例でも、この点の主張・立証がないとして填補の主張は採用されませんでした。
責任を負う期間の終わりは、どのように決まるのですか。
上記の裁判例では、プロバイダから意見照会を受けた日をもって利用を終了したと認定されています。意見照会書を受け取った後に利用を続けていないことを、陳述書などで具体的に説明できるかどうかが、責任を負う期間の長さに直結します。
まとめ
BitTorrentの著作権侵害では、多数の参加者が関与していても、権利者は身元の判明した一人に損害の全額を請求することができます。これは連帯責任という法律上の構造によるものであり、「自分以外にも大勢いる」という事実それ自体は、直ちに減額の理由にはなりません。
一方で裁判例は、責任を負う損害の範囲を自分がダウンロードを始めてから利用を停止するまでの期間に限定しています。争点は寄与の割合ではなく期間である、という見通しを最初に持てるかどうかで、回答書の書き方もその後の交渉の進め方も変わります。期間を裏づける事実は時間が経つほど思い出しにくくなりますので、意見照会書が届いた段階で経緯を整理しておくことには実益があります。
横浜のタングラム法律事務所は、理系・ITエンジニア出身の弁護士が、技術的な背景と法的な構成の双方を踏まえて対応しています。BitTorrent著作権侵害の意見照会対応の詳細はこちらからご確認ください。
トレントの意見照会書・損害賠償請求でお困りの方へ
タングラム法律事務所では、BitTorrentに係る発信者情報開示の意見照会対応と、開示後の示談交渉について、多数のご相談に対応してきた実績があります。ご自身の責任の範囲がどこまでなのか、請求額が妥当なのかを含めて、お気軽にご相談ください。
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