タングラム法律事務所

意見照会書が届いたらトレントソフトは消していいか|証拠隠滅になるのか

意見照会書が届いたらトレントソフトは消していいか|証拠隠滅になるのか

意見照会書が届いたらトレントソフトは消していいか|証拠隠滅になるのか

意見照会書が届いたらトレントソフトは消していいか|証拠隠滅になるのか

意見照会書が届いたらトレントソフトは消していいか|証拠隠滅になるのか

プロバイダから発信者情報開示請求に係る意見照会書が届いたとき、多くの方が最初に手を伸ばすのがパソコンやスマートフォンです。トレントソフトをアンインストールしよう、ダウンロードしたファイルを消そう、いっそ初期化してしまおうか——そう考えるのは、決して不自然なことではありません。しかし同時に、「消したら証拠隠滅になるのではないか」という別の不安も湧いてくるはずです。

この記事では、意見照会書が届いた段階でトレントソフトやファイルを削除する行為が刑事上・民事上どう評価されるのか、削除しても開示を止められないのはなぜか、回答期限までに何をしておくべきかを、横浜の弁護士の立場から整理します。

結論——「証拠隠滅罪」には当たりにくいが、消すことが有利になるわけではない

先に結論を述べます。自分自身のために自分の端末のデータを消す行為が、ただちに証拠隠滅等罪として処罰される可能性は高くありません。もっとも、これは「消してよい」という意味ではありません。削除は民事の場面で不利に働き得るうえ、そもそも開示手続を止める効果はなく、自分の身を守るための材料まで一緒に失うことになりかねないからです。実務的には、削除せず、現状のまま保存しておくのが基本の対応になります。

刑事面——証拠隠滅等罪は「他人の刑事事件」に限られる

証拠隠滅等罪を定める刑法104条は、「他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。」と規定しています。条文が「他人の刑事事件」と明示していることから、自分自身の刑事事件に関する証拠を消す行為は、同条の対象には含まれないと解されています。自分の不利益となる証拠を残すよう期待することが難しい、という考え方に基づくものです。

そもそも、著作権侵害の罪(著作権法119条1項。10年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金、またはその併科)は、同法123条1項により告訴がなければ公訴を提起することができない親告罪とされています。BitTorrentによる開示請求の多くは民事上の損害賠償を目的として進められており、刑事事件として立件されていない段階で「刑事事件の証拠」を観念すること自体、多くの場合は現実的ではありません。

注意が必要なケース:実際に回線を使っていたのが家族や同居人で、あなたが「その人のために」端末のデータを消した場合は話が変わり、「他人の刑事事件に関する証拠」を消したと評価される余地が生じます。刑法105条は親族が犯人の利益のために犯したときの刑の免除を定めますが、これは免除を「できる」とするにとどまり、犯罪の成立自体を否定するものではありません。

民事面——「消したこと」が不利に評価されることがある

BitTorrent事案で現実に問題となるのは、刑事ではなく民事の損害賠償請求です。民事訴訟には、証拠を失わせた側に不利益が及ぶ仕組みがあります。

民事訴訟法224条2項は、「当事者が相手方の使用を妨げる目的で提出の義務がある文書を滅失させ、その他これを使用することができないようにしたとき」は、裁判所が当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができる、と定めています。電子データが直ちに「文書」として扱われるとは限りませんが、意図的にデータを消したという経緯は、裁判所の心証形成において不利な事情として考慮されるおそれがあります。

より実際的な問題もあります。削除してしまえば、あなた自身の反論を裏づける材料も同時に消えるということです。たとえば「その日時に当該ファイルは存在しない」「アップロードは設定上行われ得なかった」といった主張は、端末の状態を確認できてはじめて説得力を持ちます。意図せず共有していたという主張と故意・過失の関係についても、設定履歴が残っていることが前提となる場面が少なくありません。

そもそも削除しても開示は止まらない

ここが最も誤解の多い点です。開示の対象となるのは、プロバイダが保有している契約者情報と通信ログであって、あなたの端末の中身ではありません。権利者側は、P2Pネットワーク上で観測したIPアドレスと日時を疎明資料として提出し、当該IPアドレスの割当先である契約者の氏名・住所等の開示を求めます。したがって、端末からソフトやファイルを消しても、プロバイダの手元にある記録は1バイトも変わらず、手続はそのまま進みます。意見照会書に添付された資料の読み方は、ハッシュ値・IPアドレスの確認方法を解説した記事で扱っています。

対象保有主体削除の影響
契約者の氏名・住所等プロバイダ端末を消しても影響なし
IPアドレスの割当ログプロバイダ端末を消しても影響なし
権利者側の観測記録(IP・日時・ハッシュ値等)権利者・調査会社端末を消しても影響なし
ソフトの設定・ダウンロード履歴・ファイル本人(端末内)消せば自分の反論材料も失われる

「共有を止めること」と「記録を消すこと」は別の問題

もっとも、何もするなということではありません。区別すべきなのは、これから先の侵害状態を続けないことと、過去の記録を消すことです。

BitTorrentの仕組み上、ソフトを起動したままにしていれば、ダウンロード済みのファイルは他の利用者へ送信され続けます。侵害状態を継続させないという観点から、共有を停止し、ソフトを終了させることは合理的な対応です。これは記録の抹消ではなく、行為の停止にあたります。一方で、履歴の消去、ソフトのアンインストール、ファイルの削除、端末の初期化は、いずれも記録を失わせる行為です。これらは、行うとしても弁護士に状況を確認してもらったうえで判断するのが安全です。

回答期限までにしておくとよいこと

  • 意見照会書と同封資料の全ページを、封筒も含めて写真またはスキャンで保存する
  • 到達日を記録する(回答期限の起算点となるため重要です)
  • 回線の契約名義、設置場所、同居者、Wi-Fiの設定状況を書き出しておく
  • 照会対象の日時に、誰がその回線を使い得たのかを整理する
  • 端末の設定・履歴は変更せず、そのままの状態で保存しておく

これらは、開示に同意しない旨の回答書を組み立てる際の土台になります。回答書に何をどこまで書くべきかについては、理由回答書を自分で書く場合の記載事項と限界で具体的に解説しました。開示請求を受けた側の手続全般については、当事務所の意見照会対応のご案内もご覧ください。

BitTorrentを理由とする意見照会書への対応手順と費用は、BitTorrent著作権侵害の意見照会対応の特設ページにまとめています。

よくある質問

トレントソフトを削除すると証拠隠滅罪になりますか。

刑法104条は「他人の刑事事件に関する証拠」を対象としており、自分自身の刑事事件に関する証拠を消す行為は同条に当たらないと解されています。ただし、実際に利用していたのが家族など自分以外の人である場合は、その人の刑事事件の証拠を消したと評価される余地があります。

ソフトやファイルを消せば、開示を止められますか。

止められません。開示の対象となるのはプロバイダが保有する契約者情報と通信ログであり、あなたの端末の中にあるデータではありません。端末側を消しても、プロバイダの手元にある記録は何ら変わらず、手続はそのまま進みます。

民事の裁判で、削除したことが不利に扱われることはありますか。

民事訴訟法224条2項は、相手方の使用を妨げる目的で提出義務のある文書を滅失させた場合に、その記載に関する相手方の主張を裁判所が真実と認めることができると定めています。電子データにも同様の考慮が働き得るため、削除の経緯によっては不利な評価につながるおそれがあります。

トレントソフトの通信を止めること自体は問題ありませんか。

通信を止めること(アップロードの停止)と記録を消すことは別の問題です。侵害状態を継続させない意味で、共有の停止やソフトの終了は合理的な対応です。一方、履歴やファイルの消去は後の説明を困難にするため、消す前に弁護士へご相談ください。

心当たりがない場合でも、端末はそのままにしておくべきですか。

心当たりがない事案こそ、端末やルーターの状態は有力な反論材料になり得ます。利用していない旨を裏づける事情を示すためにも、設定や履歴を変更せずに保存しておくことが望ましいといえます。

まとめ

意見照会書が届いた段階でトレントソフトやファイルを削除しても、刑法104条の証拠隠滅等罪が直ちに成立する可能性は高くありません。しかし、削除には、①民事訴訟法224条2項が想定するような不利な評価を受けるおそれ、②自分の反論を支える材料まで失うおそれという実害があり、他方で③開示手続を止める効果はまったくありません。

意見照会は、情報流通プラットフォーム対処法6条1項に基づいてプロバイダが発信者の意見を聴く、発信者側に与えられた数少ない手続保障の機会です。回答期限はおおむね到達から2週間と短く、この間に何を残し、何を説明するかが、その後の展開を左右します。端末に手を加える前に、まず書面と事実関係を弁護士と整理することが、結果的にもっとも確実な自衛策になります。

BitTorrent著作権侵害の意見照会対応の詳細はこちら

意見照会書が届いた方へ——端末に手を加える前にご相談ください

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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