タングラム法律事務所

トレント意見照会書の添付資料の読み方|ハッシュ値・IPアドレスの確認

トレント意見照会書の添付資料の読み方|ハッシュ値・IPアドレスの確認

トレント意見照会書の添付資料の読み方|ハッシュ値・IPアドレスの確認

トレント意見照会書の添付資料の読み方|ハッシュ値・IPアドレスの確認

トレント意見照会書の添付資料の読み方|ハッシュ値・IPアドレスの確認

プロバイダから届いた「発信者情報開示請求に係る意見照会書」を開くと、照会書そのものよりも分厚い別紙が挟まっていることがあります。そこには、40桁の英数字の羅列、長いファイル名、IPアドレス、ポート番号、そして秒単位の日時が並んでいます。多くの方が、この別紙を前にして手が止まります。何が書かれているのか分からないまま、回答期限だけが近づいてくる——そうした状態でご相談にお越しになる方は少なくありません。

しかし、この別紙こそが、権利者が「あなたの回線から著作物が送信された」と主張している根拠そのものです。中身を読めるかどうかで、回答書に書ける内容はまったく変わります。この記事では、BitTorrent(トレント)事案の意見照会書に添付される権利者側の資料について、各項目が技術的に何を意味するのか、そのうちどこまでが争いようのない事実で、どこからが立証を要する事柄なのかを、横浜の法律事務所で発信者側の対応にあたっている弁護士の視点から整理します。

意見照会書は「照会書本体」と「権利者側の資料」の二部構成になっている

アクセスプロバイダが発信者に意見を聴くのは、情報流通プラットフォーム対処法(旧・プロバイダ責任制限法)6条1項に基づく手続です。同項は、開示請求を受けた開示関係役務提供者は、発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、請求に応じるかどうかについて発信者の意見を聴かなければならない、と定めています。

この手続で発信者のもとに届く書類は、実務上おおむね次の二つに分かれます。

書類作成者主な内容
意見照会書(本体)プロバイダ整理番号、照会日、回答期限、開示を求められている情報の項目、回答書の様式
開示請求書・疎明資料(別紙)権利者またはその代理人侵害されたとする著作物、監視記録(ハッシュ値・ファイル名・IPアドレス・ポート番号・発信日時)、権利の帰属を示す資料

プロバイダによっては、別紙をそのまま同封せず、本体の中に日時・IPアドレス・作品名だけを転記する運用もあります。どちらの形式であっても、確認すべき項目は共通しています。手続のどの段階にいるのかを含めた全体像については、意見照会対応のご案内ページもあわせてご覧ください。

添付資料に並ぶ項目は何を意味しているのか

ハッシュ値(インフォハッシュ)

最初に目に入る40桁の英数字は、多くの場合インフォハッシュと呼ばれる値です。BitTorrentの仕様書(BEP 3)では、トレントファイル内の「info」部分を所定の形式に符号化したうえでSHA-1という関数にかけた20バイトの値と定義されており、これを16進数で表記すると40文字になります。

重要なのは、この値が指しているのが「あるひとまとまりのデータ」であって、「ある作品」ではないという点です。ファイル名・ファイルサイズ・分割単位などを含めた情報の集合から機械的に計算される識別子であり、同じ映画を別々の人が別々の設定で作成すれば、ハッシュ値は別のものになります。逆に、まったく無関係な内容のデータであっても、同じインフォハッシュを持てば同じトレントとして扱われます。

ファイル名

資料には、作品名らしき文字列に解像度や形式を示す英数字が続く長いファイル名が記載されていることが一般的です。ただしファイル名は、そのトレントを最初に作成した第三者が自由に付けた文字列にすぎません。中身が名前のとおりである保証はなく、名前だけで「権利者の著作物が含まれていた」と結論づけることはできません。この点は、権利者側が中身を実際に確認したのかどうかという、資料の作り方の問題につながります。

IPアドレスとポート番号

IPアドレスは、その時点で当該通信に割り当てられていた識別子です。日本の家庭用回線の多くは、接続のたびに異なるアドレスが割り当てられる方式か、複数の契約者が一つのアドレスを共有する方式を採っています。そのため、IPアドレスだけでは契約者を特定できず、発信日時と組み合わせてプロバイダの記録と突き合わせる必要があります。権利者がプロバイダに照会をかけているのは、まさにこの突き合わせのためです。

ポート番号は、同じ回線上のどの通信であったかを区別するための番号です。共有型のアドレス割当てが用いられている場合、ポート番号まで記録されていなければ契約者を絞り込めないことがあり、記録の有無はそれ自体が確認すべき事項になります。

発信日時(タイムスタンプ)

日時は、権利者の監視システムがその通信を観測したとされる時刻です。海外の事業者が監視を行っている場合、記録が協定世界時(UTC)で作成されていることがあり、日本標準時に直すには9時間を加えなければなりません。この換算を誤ると、身に覚えの有無についての説明そのものが的外れになります。詳しくはトレント意見照会書の発信日時とUTC/JST換算について解説した記事で取り上げています。

確認の順序:①表記がUTCかJSTか ②IPアドレスの方式(固定・動的・共有)とポート番号の記載の有無 ③ハッシュ値とファイル名が資料の全体で一致しているか ④権利の帰属を示す資料が付いているか。この四点を押さえてから、記憶と突き合わせるのが安全です。

ハッシュ値の一致が示すこと、示さないこと

権利者側の資料は、しばしば「ハッシュ値が一致しているから同一のファイルである」という説明で締めくくられています。技術的には、SHA-1について異なるデータから同じ値を作り出す手法が2017年に研究者によって公表されており、この関数は衝突に対して脆弱であると評価されています。もっとも、それは意図的に細工したデータについての話であり、通常の事案で偶然に一致が生じることは想定しがたく、実務上、ハッシュ値の一致は同一のデータであることを強く推認させる事情として扱われます。

したがって、争点は「ハッシュ値が正しいかどうか」ではなく、その先にあります。整理すると、権利者の主張は次の三つの層からできています。

権利者の主張主に問題となる点
①データの同一性監視対象のトレントは特定の一つのものであるハッシュ値の記載の一貫性、資料間の不一致
②著作物との対応そのデータは自社の著作物の複製物である中身を確認した資料の有無、権利の帰属を示す資料
③通信の帰属と行為その通信は当該回線から行われ、送信可能化にあたるIPアドレスの割当方式、ポート番号、時刻、回線の利用実態

意見照会の段階で発信者側が検討できるのは、主に②と③です。とりわけ③は、著作権法23条1項が公衆送信権(自動公衆送信の場合は同法2条1項9号の5にいう送信可能化を含む)を著作者に専有させていることとの関係で、「実際に他者が受信し得る状態に置かれていたといえるのか」という評価の問題を含みます。BitTorrentでは断片単位でデータがやり取りされるため、この点は独立した論点になります。断片の送信と侵害の成否については、トレントの断片(ピース)送信と著作権侵害の記事で詳しく述べています。

資料が乏しい場合・示されない場合にどう考えるか

添付資料が監視ログの抜粋のみで、権利の帰属を示す資料も、ファイルの中身を確認した形跡もない、という例は珍しくありません。情報流通プラットフォーム対処法5条1項は、開示が認められるための要件として、①侵害情報の流通によって請求者の権利が侵害されたことが明らかであること、②開示を受けるべき正当な理由があること、の二つを掲げています。①は「明らか」であることを求めるもので、疑いがあるという程度では足りないと解されています。

資料が薄いことは、この要件との関係で意味を持ちます。回答書では、感想として「証拠が足りない」と書くのではなく、どの資料が何を示しておらず、その結果として要件のどの部分が満たされていないのかを、項目に即して述べることが求められます。

なお、同法には、プロバイダが発信者の意見に拘束される旨の規定は置かれていません。総務省の解説でも、意見照会が発信者の手続保障のための制度であることから、開示関係役務提供者は提出された意見を可能な限り尊重して対応することが求められる、という整理がされています。回答書は開示を止める拒否権ではなく、プロバイダおよびその後の裁判手続における判断材料をつくる書面である、という位置づけを理解しておくことが大切です。

回答書を書くときに添付資料をどう使うか

添付資料を読んだうえで回答書を作成する際、実務上とくに注意しているのは次の点です。

  • 事実に反することを書かない。後に開示され、権利者との交渉に進んだ段階で説明を変えると、信用を失い、かえって不利に働きます。
  • 記憶の問題と法的評価の問題を分けて書く。「心当たりがない」ことと、「資料では要件を満たさない」ことは、別々の主張として並べたほうが伝わります。
  • 賠償額の話をこの段階で持ち出さない。意見照会は開示の可否について意見を述べる手続であり、金額を協議する場ではありません。
  • 推測で技術的な反論を組み立てない。誤った技術的主張は、資料の信用性を争う姿勢そのものの説得力を下げます。

回答書の記載事項と、自分で作成する場合の限界については、理由回答書を自分で書く場合の記載事項と限界の記事にまとめています。あわせて、添付資料の読み方から回答書の作成、開示された後の対応までを一続きで確認したい方は、BitTorrent著作権侵害の意見照会対応の特設ページもご参照ください。

よくある質問

意見照会書に権利者側の資料が添付されていない場合はどうすればよいですか。

プロバイダによっては、照会書の本体に日時・IPアドレス・作品名だけを転記し、権利者が提出した資料そのものは同封しない運用もあります。この場合、資料の写しを送付してもらえないかをプロバイダに確認したうえで、回答書には「開示請求の根拠とされる資料が示されておらず、侵害の明白性を判断する前提を欠く」という趣旨を記載することが考えられます。

ハッシュ値が一致していれば、争う余地はもうないのでしょうか。

そうとは限りません。ハッシュ値の一致が示すのは、監視対象のトレントが特定の一つのデータであるという点にとどまります。そのデータが権利者の著作物の複製物であること、その通信があなたの回線から行われたこと、送信可能化にあたる状態があったことは、いずれも別に立証されるべき事柄です。

添付資料のファイル名に見覚えのある作品名が入っていました。認めたことになりますか。

ファイル名は、トレントを作成した第三者が自由に付けた文字列にすぎず、中身と一致している保証はありません。作品名が含まれていること自体は決め手になりません。もっとも、回答書で事実に反する説明をすると後の交渉で信用を損ないます。心当たりの有無は正直に整理したうえで、法的に争える点と切り分けて述べるのが適切です。

意見照会で「開示に同意しない」と述べれば、プロバイダは開示しないのですか。

発信者の意見にプロバイダが拘束される旨の規定は置かれていません。総務省の解説でも、開示関係役務提供者は提出された意見を可能な限り尊重して対応することが求められる、という整理がされています。回答書は拒否権ではなく、プロバイダおよびその後の裁判所の判断材料をつくる書面です。

まとめ

意見照会書に添付された権利者側の資料は、読み方さえ分かれば、何が主張され、何が主張されていないのかを見分けられる書類です。ハッシュ値はデータの識別子であって作品の証明ではないこと、ファイル名は第三者が付けた文字列にすぎないこと、IPアドレスと日時は回線と結びつけて初めて意味を持つこと。この三点を押さえるだけでも、回答書の内容は具体的になります。

もっとも、資料のどこが足りないのかを法律の要件に対応させて述べる作業は、情報流通プラットフォーム対処法と著作権法の双方を踏まえた検討を要します。回答期限は二週間程度と短く、提出した回答書を後から差し替えることは困難です。判断に迷われた際は、早い段階で弁護士にご相談ください。横浜のタングラム法律事務所では、具体的な進め方をBitTorrent著作権侵害の意見照会対応の詳細はこちらでご案内しています。

意見照会書の添付資料の読み方でお困りの方へ

タングラム法律事務所では、BitTorrent著作権侵害を理由とする発信者情報開示について、意見照会書への回答から開示後の示談交渉まで、発信者側の立場で豊富な実績を有しております。お手元の書面と添付資料を拝見したうえで、争える点と見通しをご説明します。

法律相談の予約はこちら

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

発信者情報開示請求・削除請求について見る

意見照会書や損害賠償請求の通知が届いた方へのご案内

当店でご利用いただける電子決済のご案内

下記よりお選びいただけます。