タングラム法律事務所

トレント意見照会書の発信日時|UTC/JST換算と時刻を争う視点

トレント意見照会書の発信日時|UTC/JST換算と時刻を争う視点

トレント意見照会書の発信日時|UTC/JST換算と時刻を争う視点

トレント意見照会書の発信日時|UTC/JST換算と時刻を争う視点

トレント意見照会書の発信日時|UTC/JST換算と時刻を争う視点

プロバイダから届いた意見照会書を開くと、そこには見慣れない形式で「発信日時」が書かれています。年月日と、秒までの時刻。心当たりのある方も、まったく身に覚えのない方も、まずこの一行を見て「この時刻に自分は何をしていただろうか」と記憶をたどることになります。そして、深夜や早朝の時刻が並んでいるのを見て、いっそう不安になる方も少なくありません。

この記事では、意見照会書に記載された発信日時が何を意味するのか、協定世界時(UTC)と日本標準時(JST)の9時間差がどの場面で問題になるのか、そして「時刻がおかしい」という主張がどこまで反論として機能するのかを、条文と裁判例に沿って整理します。時刻は、発信者側が数字として確認できる数少ない情報のひとつです。その意味を正確につかむことが、回答方針を決める出発点になります。

意見照会書の「発信日時」とは何を指すのか

発信者情報開示の枠組みは、2025年4月1日に施行された題名改正により、現在は「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」(情報流通プラットフォーム対処法。以下「情プラ法」といいます。)が定めています。同法5条1項に基づく開示請求の対象となる「発信者情報」の中身は、総務省令である同法施行規則2条が号ごとに列挙しています。

このうち時刻に関するのが同条8号です。条文は次のように定めています。

第五号のアイ・ピー・アドレスを割り当てられた電気通信設備、第六号の移動端末設備からのインターネット接続サービス利用者識別符号に係る移動端末設備又は前号のSIM識別番号に係る移動端末設備から開示関係役務提供者の用いる特定電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時刻(情プラ法施行規則2条8号)

ここで重要なのは、時刻が単独で意味を持つ情報ではないという点です。同条5号は「侵害情報の送信に係るアイ・ピー・アドレス(略)及び当該アイ・ピー・アドレスと組み合わされたポート番号」を掲げており、時刻は、このIPアドレス・ポート番号と組み合わされてはじめて特定の通信を指し示します。IPアドレスは多数の契約者の間で時間をおいて使い回されるため、「いつ」の情報がなければ、どの契約者に割り当てられていたのかを確定できないからです。

実務上も、この三点セットは請求の前提として扱われています。たとえば楽天モバイル株式会社は、開示請求に必要な書類として「IPアドレス、タイムスタンプ(侵害情報が送信された年月日及び秒単位時刻)、接続元ポート番号の記載があるもの」を求めたうえで、「必要な情報がないと、調査ができない場合があります」と明記しています(同社「発信者情報開示請求のお手続きについて」)。秒単位と明示されている点に、時刻情報の精度が持つ意味が表れています。回線の形態によってポート番号が不可欠になる事情については、楽天モバイル・WiMAX等のモバイル回線に意見照会書が届いた場合の対応で詳しく整理しています。

UTCとJSTの9時間差は、どこで生じるのか

そもそも「日本標準時」とは何か

意外に思われるかもしれませんが、「日本標準時」という言葉は法令上の用語ではありません。情報通信研究機構(NICT)の説明によれば、法令として表されているのは明治19年勅令第51号および明治28年勅令第167号で、東経135度の子午線の時を「中央標準時とする」と定めているにとどまります。実際に社会で使われている日本標準時は、NICTが協定世界時(UTC)に9時間のオフセットを与えたものとして通報しているものです(NICT「標準時・周波数標準のQ&A」)。

したがって、日本標準時とUTCの関係は常に一定です。日本には現在、夏時間(サマータイム)の制度がないため、季節による変動もありません。換算そのものは、次のように単純な足し算・引き算になります。

UTC表記日本標準時(JST=UTC+9時間)日付の扱い
2026-05-10 01:23:45Z2026年5月10日 10時23分45秒同日
2026-05-10 14:00:00Z2026年5月10日 23時00分00秒同日
2026-05-10 15:30:00Z2026年5月11日 0時30分00秒日付が翌日にずれる
2026-05-10 23:59:59Z2026年5月11日 8時59分59秒日付が翌日にずれる

表の下2行が示すとおり、UTCで15時以降の通信は、日本時間では翌日になります。逆に、日本時間の午前0時から午前9時までの通信は、UTCでは前日の日付で記録されています。「照会書の日付には心当たりがないが、その前日なら思い当たる」といった食い違いは、この換算に由来していることがあります。

換算が問題になるのは「どの段階の記録か」

BitTorrentの著作権侵害調査では、権利者から依頼を受けた調査会社が監視システムを用いてピア(ネットワークに参加している端末)のIPアドレス・ポート番号・時刻を記録します。この種のシステムやログは、国際的な運用の便宜からUTCで記録されることが少なくありません。他方、国内のアクセスプロバイダが保有する接続記録は日本標準時で管理されているのが通常です。

つまり、権利者の調査記録からプロバイダの照合、そして契約者への意見照会書に至るまでの過程のどこかで、時刻の換算が行われていることになります。国内プロバイダが発送する意見照会書の発信日時は、日本標準時で記載されているのが通常です。もっとも、書面に「日本時間」「JST」といった注記が置かれているとは限らず、受け取った側からは、どの段階でどう換算されたのかが読み取れません。ここに、発信者側が確認すべき最初の論点があります。

タイムスタンプを争うとは、具体的に何を争うことか

「時刻がおかしい」という主張は、実際には性質の異なる複数の論点に分かれます。整理すると、次の三つの層になります。

争う対象典型的な着眼点
①調査記録の層権利者側の監視システムが記録した時刻の正確性システムの時刻同期はどう担保されているか。記録された時刻は「送信を捕捉した時刻」か「保存が完了した時刻」か
②照合の層プロバイダが接続記録と突き合わせた過程換算の有無。秒単位の一致か、幅を持たせた照合か
③帰属の層その時刻の通信が契約者本人の行為といえるか回線を利用し得た者の範囲。大規模NAT環境でのポート番号の要否

実務で最も争われてきたのは①の層です。この点について、東京地方裁判所令和7年10月30日判決(令和7年(ワ)第70014号・発信者情報開示命令の申立てについての決定に対する異議の訴え事件、裁判所ウェブサイト)は、参考になる判断を示しています。

この事件では、開示を命じられたアクセスプロバイダが異議の訴えを提起し、調査結果に記載された「発信時刻」と、ピースの再生試験結果報告書に記載された「時刻」との間にずれがある通信が複数あることを指摘して、両者が同一の通信であることが不明であると主張しました。これに対し裁判所は、報告書の「時刻」は捕捉したピースを調査会社のハードディスクに保存した時刻を表すものであり、データの保存には一定の時間を要する場合があることを踏まえると、指摘されたずれは最大でも1、2秒程度であって、この程度のずれをもって同一性の信用性が直ちに否定されるものとはいえない、と判断しています。

この判断から読み取れるのは、ずれの存在それ自体ではなく、ずれの「原因」と「幅」が問われているということです。記録の性質が異なることで合理的に説明できる範囲のずれであれば、それは証拠の信用性を左右しません。裏を返せば、換算誤りのように9時間という説明のつかない幅で食い違っている場合や、性質の同じ記録どうしが一致しない場合には、意味のある指摘となり得ます。

なお、同じ判決は、送信されたピースの内容が風景やロゴマークにとどまるものについては表現上の創作性を認めず、その部分の開示を認めませんでした。時刻以外の切り口から個別の通信を検討する余地があることを示すもので、この点はトレントの断片(ピース)送信でも著作権侵害になるかで扱っています。

「その時刻に使っていない」という反論の射程

ご相談の場でよくうかがうのが、「その時刻は寝ていた」「外出していた」というお話です。感覚としては当然の反応ですが、この主張には構造上の弱点があります。

  • BitTorrentのクライアントソフトは、利用者が端末の前にいなくても動作を続けることがあります。就寝中・外出中であっても通信が継続していた可能性を否定できません。
  • 意見照会書が届くのは回線の契約者であり、実際に端末を操作した人物と一致するとは限りません。同居家族や来訪者が利用していた可能性は、別途検討する必要があります。
  • 不在の事実は、記憶だけでは裏付けになりません。勤務記録や交通機関の利用履歴など、客観的な資料と結びついてはじめて意味を持ちます。

したがって、時刻に関する反論は「自分は操作していない」で完結するものではなく、誰がその回線を利用し得たのかという発信者性の議論と一体で組み立てる必要があります。契約者と実際の利用者が異なる場合の考え方は、家族・同居人が使っていた場合に発信者性を否認できるかで整理しています。

理由回答書で時刻をどう扱うか

意見照会に対しては、情プラ法6条1項に基づき、開示に応じるべきでない旨の意見とその理由を述べることができます。ここで時刻の問題をどう書くかは、慎重な判断を要します。

第一に、裏付けのないまま「時刻が不正確ではないか」と書いても、抽象的な可能性の指摘にとどまります。前掲の判決でも、抽象的な可能性の指摘は権利侵害の明白性を左右しないと述べられており、この点は発信者側の主張についても同様に当てはまると考えられます。

第二に、時刻に触れる書き方によっては、その時間帯の回線利用状況を自ら説明する結果になります。回答書に記載した内容は、開示された後の交渉や訴訟の場面でも参照され得る資料です。何を書かないかの判断が、何を書くかと同じくらい重要になります。

第三に、書面上の記載が簡略であること自体は、必ずしも反論の材料になりません。プロバイダによっては意見照会書に分単位までしか記載しないことがありますが、実際の照合作業は秒単位の情報を前提に行われているのが通常です。この点も含め、意見照会の段階でどのような主張が実質的に機能するのかは、意見照会対応のページで当事務所の考え方をご説明しています。書面の作成をご依頼いただく場合の費用や進め方は、BitTorrent著作権侵害の意見照会対応の特設ページにまとめています。

よくある質問

意見照会書に書かれた発信日時は、日本時間ですか。

国内のアクセスプロバイダが発送する意見照会書では、日本標準時(UTC+9時間)で記載されているのが通常です。ただし書面上に「日本時間」「JST」といった注記がないこともあります。権利者側の調査記録がUTCで作成されている場合、どの段階で換算されたのかが書面からは分からないため、まずは照会書と添付資料の記載を照らし合わせて確認することになります。

その時刻に自宅にいなかったと言えば、開示を止められますか。

在宅していなかったことは、直ちに開示を止める決め手にはなりません。ファイル共有ソフトは利用者が操作していない間も動作を続けることがあり、回線の契約者以外の同居人が利用していた可能性も残るためです。もっとも、勤務先の記録や旅行の記録など客観的な資料と結びつく場合には、発信者性を争う事情のひとつとして意味を持ち得ます。

数秒のずれがあれば、通信が違うものだと主張できますか。

数秒程度のずれだけで通信の同一性が否定されるとは限りません。東京地方裁判所令和7年10月30日判決(令和7年(ワ)第70014号)は、調査記録上の「発信時刻」と再生試験結果報告書の「時刻」に最大1、2秒程度のずれがある事案について、記録の性質が異なることを理由に、同一性の信用性は直ちに否定されないと判断しています。ずれの原因と幅を具体的に指摘できるかどうかが分かれ目になります。

秒単位の時刻が書かれていない意見照会書が届きました。

プロバイダによっては、意見照会書に日付と分単位までしか記載しないことがあります。もっとも、プロバイダが契約者を割り出す作業自体は秒単位の時刻を前提に行われるのが通常で、書面の記載が簡略なだけである場合が少なくありません。記載が足りないことをもって直ちに反論が成り立つわけではないため、回答期限との関係も含めて早めに検討する必要があります。

時刻を争う主張は、理由回答書に書いたほうがよいですか。

書き方には注意が必要です。時刻の正確性を争う記述は、裏付けがないまま書くと単なる推測にとどまり、かえって回線の利用状況を自ら説明する結果になりかねません。書面に残る内容は開示後の交渉や訴訟でも参照され得るため、何をどこまで書くかは事案ごとに判断すべきです。

まとめ

意見照会書の発信日時は、IPアドレスとポート番号に結びついてはじめて意味を持つ情報であり、情プラ法施行規則2条8号が開示の対象として明記するものです。UTCと日本標準時の差は年間を通じて9時間で固定されているため、換算そのものは単純ですが、日本時間の午前0時から午前9時までの通信は、UTCでは前日の日付になります。日付の食い違いに心当たりがある場合は、この点をまず確認する価値があります。

そのうえで、時刻を争う主張が実際に機能するかどうかは、ずれの原因と幅を具体的に説明できるかにかかっています。裁判例が示すとおり、記録の性質の違いで合理的に説明できる程度のずれは、証拠の信用性を左右しません。他方で、換算の誤りや、性質の同じ記録どうしの不一致であれば、指摘する意味があります。この見極めは、書面に現れた数字だけでなく、監視システムの仕組みやプロバイダの照合実務についての理解を前提とするため、弁護士とともに検討することをおすすめします。

横浜のタングラム法律事務所では、理系・ITエンジニア出身の弁護士が、技術的な仕組みと法律上の要件の両面から意見照会への対応を検討しています。回答期限は書面の到達から2週間程度とされることが多く、検討に使える時間は限られます。届いた書面の記載に違和感がある段階でご相談いただければ、選択肢を残したまま方針を立てることができます。BitTorrent著作権侵害の意見照会対応の詳細はこちらをご覧ください。

意見照会書の発信日時に心当たりがない方へ

横浜のタングラム法律事務所では、BitTorrentに係る発信者情報開示の意見照会について、理由回答書の作成から開示後の示談交渉まで、発信者側の立場で数多く対応してまいりました。書面に記載された日時や回線の利用状況を伺ったうえで、取り得る方針をご説明します。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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