トレント開示請求|家族・同居人が使っていた場合、発信者性は否認できるか
トレント開示請求|家族・同居人が使っていた場合、発信者性は否認できるか
プロバイダから意見照会書が届いた。しかし、書かれている日時に自分は在宅していなかった、あるいは、そもそもファイル共有ソフトを入れた覚えがない——。同居する家族や同居人に心当たりがあるとき、まず頭に浮かぶのは「自分は発信者ではない、と書けば済むのではないか」という疑問だと思います。
この記事では、BitTorrent(トレント)による著作権侵害を理由とする発信者情報開示請求について、「使っていたのは自分ではない」という主張が法律上どのような位置づけになり、どこまで通用するのかを、情報流通プラットフォーム対処法(旧・プロバイダ責任制限法)と民法の条文に沿って、横浜の弁護士が整理します。誰が「発信者」として特定されるのかという手続の全体像については、家族名義の回線を使った場合、誰が「発信者」として特定されるのかもあわせてご覧ください。
そもそも法律上の「発信者」とは誰か
出発点は、条文上の定義です。情報流通プラットフォーム対処法2条5号は、「発信者」を次のように定めています。すなわち、特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録し、又は当該特定電気通信設備の送信装置に情報を入力した者をいう、というものです。
ここで重要なのは、この定義に「回線の契約者」という要素が一切含まれていないことです。法律が発信者と呼んでいるのは現実に情報を送信した者であって、その通信に使われた回線を誰の名義で契約していたかは無関係です。「契約者だが発信者ではない」という状態は、法律上は十分にあり得ます。
それでも意見照会書が契約者宛てに届くのは、権利者が把握できる情報がIPアドレスと、その割当てを受けていた回線の契約者情報だけだからです。プロバイダは、回線の先で誰が端末を操作していたかまでは記録していません。契約者と発信者の同一性は、手続の入口では確かめられていない前提にすぎない、ということになります。
それでも「契約者=発信者」と扱われやすいのはなぜか
定義上は別概念であるにもかかわらず、実際には契約者がそのまま発信者として扱われがちです。裁判例では、当該時刻にIPアドレスの割当てを受けていた回線の契約者が発信者であると事実上推認する考え方が示される傾向にあり、他に利用者がいたことを具体的に示せなければ、契約者自身が発信者として扱われる結果になり得ます。
この推認は、経験則としては自然なものです。自宅の固定回線は通常は世帯の構成員しか使えず、無線LANにもパスワードが設定されているのが一般的ですから、「その回線から送信された」という事実は「その世帯の誰かが送信した」という強い手がかりになります。
したがって、発信者性を否認するということは、この推認を働かせないだけの具体的な事情を示すことを意味します。単に「私ではありません」と述べるだけでは、推認の前提そのものに触れていないため、反論として機能しにくいのです。
類型別に見た、否認の立て方と難しさ
「家族が使っていた」といっても、その中身は事案ごとに大きく異なります。主張の組み立て方も、それに応じて変わります。
| 類型 | 主張の中心になる事情 | 留意点 |
|---|---|---|
| 記録された日時に不在だった | 勤務記録、出張・旅行の記録、交通系ICの利用履歴など、所在を示す客観的資料 | 在宅していなくても端末を遠隔で動作させられる構成があると、反論の余地を残す |
| 成人の家族・同居人が利用していた | 当該人物の端末の存在、利用状況、本人が事実を認めているか | 本人の協力が得られるかで立証の難易度が大きく変わる |
| 未成年の子が利用していた | 子の端末の有無、年齢、利用実態 | 行為者と責任主体の問題が別に生じる(後述) |
| ルームシェア・短期滞在者がいた | 同居の期間、賃貸借契約や住民票、回線の共用状況 | 入退去の時期と記録された日時の対応関係が要点になる |
| 誰が使ったか特定できない | 世帯構成、接続機器の台数、確認できた範囲の事実 | 推測を断定として書かないこと |
共通しているのは、「自分ではない」という否定形の主張よりも、「誰が、どの端末で、どういう状況にあったか」という肯定形の事実のほうが、はるかに検討の対象になりやすいという点です。書面が届いた側の対応全般については、インターネット問題(発信者側の対応)のページでも取扱いを整理しています。
「ダウンロードしただけ」との違い
混同されやすいのですが、発信者性の否認と、行為の性質を争う主張は別の話です。前者は「送信したのは自分ではない」という主体の問題、後者は「受信しただけで送信はしていない」という行為態様の問題です。BitTorrentの通信の性質上、後者の主張はそのままでは通りにくく、詳しくは「ダウンロードしただけ」という主張は通用するかで解説しています。著作権法23条1項は、著作者が公衆送信(自動公衆送信の場合は送信可能化を含む)を行う権利を専有すると定めており、問題とされるのは受信ではなく送信の側面です。
開示された後——行為者と契約者は同じではない
発信者性を争っても開示に至ることはあります。しかし、そこで話が終わるわけではありません。開示は「契約者が誰か」を明らかにするだけであり、「誰が責任を負うか」を決めたわけではないからです。
民法709条の不法行為責任を負うのは、故意または過失によって他人の権利を侵害した者、すなわち現実に侵害行為をした者です。回線の契約者であることそれ自体は、責任の発生要件ではありません。権利者の代理人から通知書が届いた段階でも、実際の行為者が別人であることを具体的に示せるのであれば、自身の責任の有無を改めて検討する余地が残されています。
未成年の子が利用していた場合の責任の所在
相談の多い類型ですので、条文を確認しておきます。民法712条は、未成年者が他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは賠償責任を負わないと定めています。そして民法714条1項は、この規定により責任無能力者が責任を負わない場合に、その者を監督する法定の義務を負う者が損害を賠償する責任を負うとしつつ、ただし書で、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、またはその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでないと定めています。
したがって、子の年齢と判断能力によって、検討すべき条文が変わります。責任を弁識する能力を備えていたと評価される場合には714条の適用場面ではなく、親自身に監督についての固有の過失があったかという別個の問題になります。「子どもがやったのだから親が払うのが当然」という単純な図式ではない、ということです。なお、監督義務を尽くしたかどうかの判断について、最高裁も個別の事情に即した検討を求める判断を示しています(最高裁平成27年4月9日第一小法廷判決)。
回答書に何を書き、何を書かないか
意見照会に対する回答は、開示の可否を左右するだけでなく、その後の損害賠償交渉における自分の言い分の出発点にもなります。この二重の性格が、書き方を難しくしています。
- 確認できた事実と、推測とを分ける——「家族の誰かだと思う」という推測を断定として書くと、後に事実と異なることが判明した際、供述全体の信用性が問われます。
- 否認の理由を具体化する——同法6条1項は、開示に応じるべきでない旨の意見については、その理由を含めて述べることを求めています。理由の具体性が、そのまま反論の強さになります。
- 家族の氏名の記載は慎重に判断する——プロバイダが保有するのは契約者の情報であり、記載しただけで当該家族が開示対象になるわけではありません。もっとも、開示後の交渉で権利者側が実際の行為者と考える契機にはなり得ます。
- 事実に反する記載はしない——短期的に有利に見える記載が、後の交渉や訴訟で最も不利な材料になることがあります。
回答した後に手続がどう進むのかについては、「開示に同意しない」と回答した後の流れで整理しています。対応の手順と費用については、BitTorrent意見照会書への対応をまとめた特設ページもご参照ください。
よくある質問
「自分は使っていない」と書けば、それだけで発信者性を否認したことになりますか。
否認の意思は伝わりますが、それだけでは説得力を持ちにくいのが実情です。同法2条5号は「発信者」を、特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録し、または送信装置に情報を入力した者と定義しており、回線契約者と発信者は本来別の概念です。もっとも、権利者が把握できるのはIPアドレスと契約者情報だけであるため、実務上は契約者が発信者であると事実上推認されやすく、これを覆すには、当該日時に自分が回線を使える状況になかったことや、他に具体的な利用者がいたことを裏づける事情の提示が必要になります。
家族の誰が使ったのか特定できない場合、どう回答すればよいですか。
特定できないことを無理に特定して書く必要はありません。世帯の人数と各人の端末、回線に接続していた機器の状況、記録された日時における自分の所在など、確認できた事実の範囲で具体的に記載し、確認できていない部分はその旨を明示するのが基本です。推測を断定として書くと、後に事実と異なることが判明した際に供述全体の信用性が問われることになります。
実際に使ったのが未成年の子どもの場合、親は当然に責任を負うのですか。
当然に負うわけではありません。民法712条は、未成年者が自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは賠償責任を負わないと定め、その場合に民法714条1項により監督義務者が責任を負うとされています。もっとも同項ただし書は、監督義務を怠らなかったとき等は責任を負わないとしています。責任を弁識する能力を備えていた年齢であれば714条の適用場面ではなく、親の責任は監督についての固有の過失が問われるかという別の問題になります。
家族の名前を回答書に書くと、その家族が開示されてしまいますか。
プロバイダが保有しているのは契約者の情報であり、同居する家族の氏名・住所を独自に保有しているわけではありません。したがって回答書に名前を書いたからといって、その者の情報が直ちに開示対象になるわけではありません。ただし、開示後の損害賠償の交渉において、権利者側が実際の行為者として当該家族を相手方と考える契機になり得ます。誰の名前をどこまで書くかは、家族関係への影響も含めて慎重に判断する必要があります。
契約者というだけで、損害賠償の責任を負うことになるのでしょうか。
回線の契約者であることそれ自体は、民法709条の不法行為責任の要件ではありません。責任を負うのは、著作権法23条1項の権利を侵害する行為をした者です。したがって、実際に行為をしたのが別人であることを具体的に示すことができれば、契約者自身の責任の有無は改めて検討する余地があります。ただし立証は容易ではなく、開示前の回答段階でどのような事実を残しておいたかが後の交渉に影響します。
まとめ
家族・同居人が使っていた場合の発信者性の否認について、要点を整理します。
- 同法2条5号の「発信者」の定義に契約者という要素はなく、契約者と発信者は法律上別の概念である
- もっとも、権利者が把握できるのはIPアドレスと契約者情報のみであるため、契約者が発信者であると事実上推認されやすい
- 否認が機能するかどうかは、「自分ではない」という否定ではなく、誰がどの端末をどう使っていたかという具体的な事実を示せるかで決まる
- 開示は契約者が誰かを明らかにするにとどまり、責任の所在を決めるものではない。民法709条の責任を負うのは現実に行為をした者である
- 未成年の子が行為者の場合、民法712条・714条の適用関係を年齢と判断能力に即して検討する必要がある
- 回答書では、確認できた事実と推測を分け、事実に反する記載をしないことが、後の交渉を含めて最も重要になる
家族間の事情が絡む事案では、事実関係の確認そのものが、当事者にとって精神的に負担の大きい作業になります。誰に何を確かめ、どこまでを書面に書くのかは、法的な有利不利だけでは決められません。回答期限が迫っている場合や、書き方に迷いがある場合には、期限内に弁護士へご相談ください。BitTorrent著作権侵害の意見照会対応の特設ページでは、対応の流れと費用を具体的にご案内しています。
ご家族・同居人の利用が疑われる意見照会書が届いた方へ
横浜のタングラム法律事務所では、BitTorrent(トレント)による著作権侵害を理由とする発信者情報開示請求・意見照会書への対応を継続的に取り扱っており、ITエンジニアの経験を持つ弁護士が技術的背景を踏まえて対応します。ご相談・お打合せはオンラインで完結し、全国からご依頼をお受けしています。なお、本件(BitTorrent著作権侵害の意見照会・開示対応)に限り、オンラインによる20分程度の法律相談を無料で実施しています。他の分野の事案については、この取扱いの対象外となります。
法律相談の予約はこちら※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。なお、法令・裁判手続の運用およびプロバイダの取扱いは変更されることがあります。手続の詳細は裁判所・総務省および各社の公式情報を必ずご確認ください。