解雇予告手当の計算方法と解雇の手順|会社側の注意点を弁護士が解説
解雇予告手当の計算方法と解雇の手順|会社側の注意点を弁護士が解説
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年9月30日 最終更新日:2026年9月30日
「問題のある従業員を解雇したいが、何日前に伝えればよいのか」「解雇予告手当はいくら払えばよいのか」――解雇は中小企業の経営者が頻繁に経験するものではなく、いざその場面で手続に迷う方が少なくありません。
この記事では、解雇予告のルール、平均賃金を使った解雇予告手当の計算方法、予告が不要になる場合、解雇理由証明書までを、横浜の弁護士が会社側の実務の流れに沿って解説します。
結論として、従業員を解雇するには、原則として30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります(労働基準法20条)。ただし、予告手当を支払えば解雇が有効になるわけではなく、解雇に客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ、解雇自体が無効となります(労働契約法16条)。
解雇の前に確認すべきこと|予告手当を払っても解雇が有効とは限らない
解雇予告手当は、あくまで「解雇の手続」に関するルールです。解雇が法的に有効かどうかは、これとは別に、労働契約法16条の「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」という基準で判断されます。
そのため、手続に入る前に、少なくとも次の点を確認します。
- 就業規則の解雇事由:常時10人以上の労働者を使用する会社は、就業規則に「退職に関する事項(解雇の事由を含む。)」を記載しなければなりません(労働基準法89条3号)。解雇理由が就業規則のどの条項に当たるかを特定します
- 解雇制限期間に当たらないか:業務上の負傷・疾病による療養のための休業期間とその後30日間、産前産後休業期間とその後30日間は、原則として解雇できません(同法19条1項)
解雇理由の立証に向けた準備は、懲戒処分の進め方と無効にならない注意点の記事も参考になります。
解雇予告のルール|30日前の予告と解雇予告手当
労働基準法20条1項は、使用者が労働者を解雇しようとする場合、少なくとも30日前に予告をしなければならず、30日前に予告をしない場合は30日分以上の平均賃金を支払わなければならないと定めています。また、予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合にはその日数を短縮できます(同条2項)。
| 方法 | 内容 | 手当の支払時期(行政の説明) |
|---|---|---|
| 30日以上前に予告 | 解雇予告手当は不要 | ― |
| 予告なしの即時解雇 | 30日分以上の平均賃金を支払う | 解雇と同時 |
| 予告と手当の併用 | 不足する日数分の平均賃金を支払う(例:20日前に予告→10日分) | 遅くとも解雇の日まで |
30日の数え方は、予告をした日の翌日から起算するのが一般的な理解です。たとえば10月31日付で解雇する場合、遅くとも10月1日までに予告する必要があります。予告は口頭でも可能ですが、紛争に備え、解雇日と解雇理由を明記した解雇通知書を交付し、受領の記録を残すべきです。
解雇予告手当の計算方法|平均賃金の求め方と具体例
解雇予告手当の基礎となる「平均賃金」は、算定すべき事由の発生した日以前3か月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(暦日数)で割った金額です(労働基準法12条1項)。賃金締切日がある場合は、直前の賃金締切日から起算します(同条2項)。
計算例(月給制の場合)
- 月給30万円(通勤手当等を含む)、賃金締切日は毎月末日
- 10月15日に即時解雇を通知 → 直前の締切日(9月30日)から遡る3か月間(7月1日〜9月30日、92日)が算定期間
- 平均賃金:90万円 ÷ 92日 ≒ 9,782円60銭
- 解雇予告手当(30日分):9,782円60銭 × 30日 ≒ 29万3,478円
計算時の注意点
- 最低保障:日給制・時給制・出来高払制の場合は、賃金総額をその期間中に労働した日数で割った額の60%を下回ってはならないとされています(同条1項ただし書)。欠勤の多いパート・アルバイトは、この最低保障額と比較して高いほうを用います
- 除外される賃金:臨時に支払われた賃金や、3か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)は賃金総額に含めません(同条4項)
- 控除される期間:業務上の傷病による休業、産前産後休業、会社都合の休業、育児・介護休業、試用期間は、日数と賃金の双方から控除します(同条3項)
解雇予告・予告手当が不要になる場合と「除外認定」
適用除外となる労働者(労働基準法21条)
次の労働者には解雇予告の規定が適用されません。ただし、カッコ内の期間を超えて引き続き使用されている場合は予告等が必要です。
- 日日雇い入れられる者(1か月を超えた場合)
- 2か月以内の期間を定めて使用される者(所定の期間を超えた場合)
- 季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される者(所定の期間を超えた場合)
- 試の使用期間中の者(14日を超えた場合)
解雇予告除外認定(労働基準法20条1項ただし書)
「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合」または「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」は予告が不要とされていますが、その事由について所轄の労働基準監督署長の認定を受ける必要があります(同条3項・19条2項、労働基準法施行規則7条)。東京労働局の資料では、社内での窃盗・横領等の刑法犯に該当する行為や、2週間以上正当な理由なく無断欠勤し出勤の督促に応じない場合などが例に挙げられています。会社の判断だけで「懲戒解雇だから予告手当は不要」と扱うことはできません。
従業員を解雇するときの手順|6つのステップ
| ステップ | やること |
|---|---|
| 1. 解雇理由の検討 | 就業規則の該当条項、証拠(指導記録・メール等)、解雇制限期間の有無を確認する |
| 2. 解雇以外の選択肢の検討 | 配置転換・退職勧奨など、より穏当な手段を検討する |
| 3. 解雇日と予告方法の決定 | 30日前予告か、予告手当の支払(併用を含む)かを決め、平均賃金を算定する |
| 4. 解雇通知書の交付 | 解雇日・解雇理由・該当条項を記載した書面を交付し、受領の記録を残す |
| 5. 予告手当・最終賃金の支払 | 予告手当は所定の時期までに支払う。未払残業代がないかも確認する |
| 6. 退職手続と証明書の交付 | 社会保険・雇用保険の手続を行い、請求があれば解雇理由証明書を交付する |
人員削減を目的とする解雇は、いわゆる整理解雇として別の判断枠組みが用いられます。会社側の労務トラブル対応全般は企業法務(労務・契約書)のページ、整理解雇の詳細は整理解雇(リストラ)の4要件と違法にならない進め方をご覧ください。
解雇理由証明書の交付
解雇予告をした日から退職の日までの間に労働者が解雇の理由について証明書を請求した場合、使用者は遅滞なく交付しなければなりません(労働基準法22条2項)。行政解釈(平成11年1月29日基発45号)では、就業規則の条項に該当することを理由とする解雇の場合、その条項の内容と、該当するに至った事実関係を記入しなければならないとされています。記載した理由は後の紛争で会社の主張の出発点となるため、慎重に作成すべきです。
手続を誤った場合のリスク|付加金・罰則と解雇の効力
- 解雇の効力:最高裁判所は、予告期間を置かず予告手当も支払わない解雇通知について、即時解雇としての効力は生じないが、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、通知後30日を経過するか、通知後に予告手当を支払ったときのいずれかから解雇の効力が生じると判断しています(細谷服装事件・最判昭和35年3月11日民集14巻3号403頁)
- 付加金:解雇予告手当を支払わなかった場合、裁判所は労働者の請求により、未払額と同一額の付加金の支払を命ずることができます(労働基準法114条。請求期間は当分の間3年=附則143条2項)
- 罰則:20条・19条違反は6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金(同法119条1号)、解雇理由証明書を交付しない22条違反は30万円以下の罰金(同法120条1号)の対象となります
最も大きいのは、解雇が労働契約法16条により無効とされるリスクです。その場合、解雇期間中の賃金(いわゆるバックペイ)の支払を求められる可能性があります。解雇後に従業員側から争われた場合の対応は、労働審判を申し立てられたときの会社側の対応で解説しています。
よくあるご質問
解雇予告手当を支払えば、解雇は有効になりますか?
なりません。予告手当は手続上の義務にすぎず、解雇の有効性は労働契約法16条(客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性)で別途判断されます。
従業員に重大な非違行為があれば、解雇予告手当を支払わずに即時解雇できますか?
「労働者の責に帰すべき事由」による解雇でも、所轄の労働基準監督署長の認定(解雇予告除外認定)を受けなければ、予告手当を省くことはできません。
試用期間中の従業員を解雇する場合も、解雇予告は必要ですか?
試用期間中の者は解雇予告の適用除外とされていますが、雇入れから14日を超えて引き続き使用されている場合には、通常どおり30日前の予告または予告手当の支払が必要です。
解雇予告手当はいつまでに支払えばよいですか?
予告をせずに即時解雇する場合は解雇と同時に、予告と手当を併用して予告日数を短縮する場合は遅くとも解雇の日までに支払う必要があるとされています。
解雇理由証明書には、どの程度具体的に書く必要がありますか?
就業規則の条項に該当することを理由とする解雇の場合、行政解釈では、就業規則の当該条項の内容と、その条項に該当するに至った事実関係を記入する必要があるとされています。
まとめ
従業員を解雇する場合、原則として30日前の予告または解雇予告手当の支払が必要で、手当の額は平均賃金をもとに計算します。一方で、予告手当を支払っても解雇が有効になるわけではなく、解雇理由の合理性・相当性、就業規則の根拠、解雇制限期間の有無といった点を事前に確認しておくことが欠かせません。
解雇を検討している段階で弁護士に相談すれば、解雇以外の選択肢も含めて、紛争リスクを抑えた進め方を検討できます。横浜で従業員の解雇や労務トラブルにお悩みの経営者・人事担当者の方は、お早めにご相談ください。
従業員の解雇・労務トラブルのご相談
タングラム法律事務所では、企業法務(契約書レビュー・労務・法改正対応等)について、中小企業・個人経営の事業者向けに豊富な実績を有しております。解雇の可否の検討から、解雇通知書・解雇理由証明書の作成、解雇後の紛争対応までサポートいたします。
法律相談の予約はこちら※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。