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能力不足の社員を解雇できる?|判断基準と手順を横浜の弁護士が解説

能力不足の社員を解雇できる?|判断基準と手順を横浜の弁護士が解説

能力不足の社員を解雇できる?|判断基準と手順を横浜の弁護士が解説

能力不足の社員を解雇できる?|判断基準と手順を横浜の弁護士が解説

能力不足の社員を解雇できる?|判断基準と手順を横浜の弁護士が解説

執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月9日 最終更新日:2026年10月9日

「何度指導しても仕事のミスが減らない」「中途採用で即戦力として期待したのに、求めた水準にまったく届かない」——こうした社員への対応に悩む経営者・人事担当者の方は少なくありません。周囲の負担が増えると、「もう解雇するしかない」と考えてしまうのも無理はありません。

しかし、能力不足を理由とする解雇は、会社側の想像以上に厳しく判断されます。この記事では、能力不足(ローパフォーマー)を理由とする解雇が認められる基準を裁判例とともに整理し、解雇の前に会社がしておくべき指導・記録の方法と、解雇を決断する場合の具体的な手順を、横浜の弁護士が解説します。

結論から言うと、能力不足を理由とする解雇は、「平均より劣る」というだけでは認められず、能力不足の程度が著しく、会社が指導・教育や配置転換などの改善の機会を与えたにもかかわらず改善の見込みがない場合に限って、有効とされる可能性があります。そのため、解雇を検討する前に、求める水準の明確化、具体的な指導とその記録、改善計画の実施といった「プロセス」を積み重ねておくことが最も重要です。

能力不足を理由とする解雇が難しい理由|労働契約法16条

解雇については、労働契約法16条が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、権利を濫用したものとして無効とする旨を定めています(解雇権濫用法理)。能力不足を理由とする解雇も例外ではなく、次の2点がそれぞれ問われます。

  • 客観的に合理的な理由:就業規則の解雇事由(「勤務成績が著しく不良で、改善の見込みがないとき」等)に該当する事実が、客観的な資料で裏付けられるか
  • 社会通念上の相当性:その事実を前提としても、解雇という最も重い手段を選ぶことがやむを得ないといえるか(指導・配置転換等の解雇回避の努力をしたか)

なお、解雇の事由は就業規則の絶対的必要記載事項です(労働基準法89条3号)。就業規則に能力不足・成績不良を解雇事由とする規定があるかを、まず確認しておく必要があります。

裁判例にみる能力不足解雇の判断基準

能力不足を理由とする解雇の有効性について、代表的な裁判例として次のものがあります。

裁判例結論判断のポイント
セガ・エンタープライゼス事件
(東京地決平成11年10月15日)
解雇無効平均的な水準に達していないだけでは足りず、「著しく労働能率が劣り、向上の見込みがないとき」に限られる。人事考課が相対評価で下位10%未満であることだけでは足りず、体系的な教育・指導により能力向上を図る余地があったとされた
ブルームバーグ・エル・ピー事件
(東京高判平成25年4月24日・労働判例1074号75頁)
解雇無効経験者として中途採用された記者について、採用時に特別な能力基準を設けておらず、中途採用の記者に一般的に求められる以上の能力は求められていないとされ、執筆速度・記事の本数や質等を理由とする解雇に客観的合理性は認められないとされた

これらの裁判例からわかるのは、裁判所が「能力不足の程度」と「会社が改善の機会を与えたか」を重視しているという点です。新卒・未経験で採用した社員や、職種を限定せずに採用した社員については、会社が教育・指導や配置転換によって能力を活かす努力をすべきと判断される傾向があります。

一方で、高い待遇で職種や役職を特定し、特定の能力を前提に中途採用した社員については、期待された能力を欠く場合に、配置転換などの解雇回避措置を尽くさなくても解雇が認められた裁判例もあります。もっとも、この場合も採用時にどのような能力・成果を求めたのかが契約書や求人票等で明確になっていることが前提となるため、「即戦力として採った」というだけで解雇が容易になるわけではありません。

解雇の前に会社がすべきこと|指導・記録・改善計画

能力不足の社員への対応で最も重要なのは、解雇を検討する段階ではなく、その前のプロセスです。次の手順を意識して進めることが考えられます。

段階会社がすること残すべき記録
①水準の明確化担当業務・求める成果・期限を具体的に示す職務記述書、目標設定シート
②具体的な指導ミスや未達の事実を示し、改善方法を指導する指導記録(日時・内容・本人の反応)、メール
③改善計画(PIP)一定期間(例:1〜3か月)の改善目標と面談日程を定めて取り組ませる改善計画書、面談記録、達成状況の評価
④配置転換・降格の検討適性のある他部署・他業務への異動や役職の見直しを検討する異動の検討経過、辞令
⑤注意・警告改善がなければ解雇もあり得ることを書面で伝える注意書・警告書と受領の記録

指導記録は「仕事ができない」といった抽象的な評価ではなく、「○月○日、△△の見積書で金額を誤記し、取引先から指摘を受けた」のように、具体的な事実として残すことがポイントです。また、パワーハラスメントと受け取られないよう、指導は業務上必要かつ相当な範囲で、人格を否定する言動を避けて行う必要があります。

ミスの背景にメンタルヘルスの不調や病気が疑われる場合は、能力の問題として扱うのではなく、受診の勧奨や休職制度の利用を先に検討すべき場合があります。対応を誤ると解雇が無効とされるリスクが高まるため、慎重な判断が必要です。

解雇を決断する場合の手順と注意点

十分な指導・改善の機会を与えても改善が見られない場合、いきなり解雇するのではなく、まずは話合いによる合意退職(退職勧奨)を検討するのが実務上一般的です。退職勧奨は社員の自由な意思に委ねる必要があり、執拗に退職を迫ると違法な退職強要となるおそれがあります。進め方は退職勧奨の適法な進め方の記事で解説しています。

合意に至らず解雇する場合は、次の点に注意します。

  • 解雇予告:少なくとも30日前に予告するか、不足日数分の平均賃金(解雇予告手当)を支払う(労働基準法20条)。計算方法は解雇予告手当の計算方法と解雇の手順の記事をご覧ください
  • 解雇制限:業務上の負傷・疾病による休業期間とその後30日間、産前産後休業期間とその後30日間は、原則として解雇できない(同法19条)
  • 解雇理由証明書:社員から請求があれば、解雇の理由を記載した証明書を遅滞なく交付する(同法22条)。後の紛争で会社の主張の根拠になるため、就業規則の該当条項と具体的事実を記載する
  • 普通解雇と懲戒解雇の区別:能力不足は本人の故意・過失による規律違反とは異なるため、原則として懲戒解雇ではなく普通解雇として扱う

能力不足の社員への対応や就業規則の解雇事由の見直しについては、企業法務(顧問・労務・契約書)の取扱分野ページもご覧ください。

解雇が無効とされた場合の会社のリスク

解雇後に社員が解雇の無効を主張し、労働審判や訴訟を起こすことがあります。解雇が無効と判断されると、社員は労働契約上の地位を維持していたことになり、会社は解雇期間中の賃金(いわゆるバックペイ)を支払わなければならない可能性があります。

実際には、労働審判などの手続のなかで、解決金を支払って合意退職とする形で解決することも少なくありません。社員側から申立てがあった場合の対応は労働審判を申し立てられた会社側の対応の記事で解説しています。

能力不足の社員の解雇に関するよくある質問

Q. 試用期間中であれば、能力不足を理由に本採用を拒否できますか?

A. 試用期間中の本採用拒否も解雇の一種であり、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。通常の解雇より広く認められる傾向はありますが、試用期間中に十分な指導を行わず、短期間の評価だけで本採用を拒否すると無効とされるおそれがあります。

Q. 中途採用で即戦力として期待したのに能力が低い場合はどうですか?

A. 職種や役職を特定し、特定の能力を前提に高待遇で採用した場合は、新卒採用の社員に比べて解雇が認められやすい傾向があります。ただし、採用時に求める能力・成果を契約書や求人票等で明確にしていたかが重要であり、明確でなければ一般的な基準で判断されます。

Q. どのくらいの期間指導すれば解雇できますか?

A. 法律上、一律の期間は定められていません。業務の内容、能力不足の程度、指導の内容や頻度などから個別に判断されます。改善計画を定めて一定期間取り組ませ、その結果を記録として残すことが重要です。

Q. 解雇ではなく、降格や配置転換で対応することはできますか?

A. 就業規則や労働契約に根拠があり、業務上の必要性がある範囲であれば、能力に応じた配置転換や役職の変更は可能な場合があります。ただし、職種限定の合意がある場合や、大幅な賃金の減額を伴う場合には制約があるため、事前に確認が必要です。

まとめ|能力不足の社員への対応は「解雇の前」が勝負

  • 能力不足を理由とする解雇は、平均より劣るだけでは足りず、著しい能力不足と改善の見込みのなさが必要
  • 裁判所は、会社が指導・教育や配置転換などの改善の機会を与えたかを重視する
  • 求める水準の明確化、具体的な指導記録、改善計画、警告書という手順を踏むことが重要
  • 解雇の前に退職勧奨を検討し、解雇する場合は予告・解雇理由証明書などの手続を守る

能力不足の社員への対応は、感情的に判断すると後に大きな紛争に発展しかねません。早い段階で弁護士に相談すれば、就業規則の確認、指導記録の残し方、改善計画書や警告書の作成、退職勧奨の進め方まで、紛争を見据えた対応をとることができます。横浜・神奈川の中小企業の皆様は、問題が深刻化する前にご相談ください。

能力不足の社員への対応・解雇でお悩みの経営者様へ

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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