タングラム法律事務所

労働審判を申し立てられたら|会社側の対応と答弁書を弁護士が解説

労働審判を申し立てられたら|会社側の対応と答弁書を弁護士が解説

労働審判を申し立てられたら|会社側の対応と答弁書を弁護士が解説

労働審判を申し立てられたら|会社側の対応と答弁書を弁護士が解説

労働審判を申し立てられたら|会社側の対応と答弁書を弁護士が解説

ある日、裁判所から分厚い封筒が届く。中を開くと「労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告状」という書面と、退職した従業員の申立書が入っている——。中小企業の経営者や総務担当者にとって、これは相当に動揺する出来事です。訴状ではないから訴訟ではないのだろうか、期日は1か月ほど先だからまだ時間があるのではないか、と考えてしまうかもしれません。しかし、労働審判は「訴訟より軽い手続」ではありませんし、時間的な余裕もほとんどありません。

労働審判は、原則として3回以内の期日で審理を終える、極めて短期決戦型の手続です。会社側の言い分を伝えられる実質的な機会は、答弁書と第1回期日にほぼ集約されます。この記事では、労働審判を申し立てられた会社側の視点から、手続の全体像、答弁書に何を書くべきか、第1回期日までに何を準備すべきか、そして調停・審判・異議申立てをどう判断するかを、横浜の弁護士が実務に即して整理します。

労働審判とは|会社側がまず押さえるべき5つの特徴

労働審判手続は、労働審判法(平成16年法律第45号)に基づき、平成18年4月1日から運用されている制度です。解雇の有効性や未払賃金など、個々の労働者と事業主との間の民事紛争を、迅速・適正・実効的に解決することを目的としています(同法1条)。会社側として最初に理解しておくべき特徴は、次の5点です。

特徴内容根拠
労使の専門家が関与する裁判官である労働審判官1名と、労使の実情に詳しい労働審判員2名の計3名で構成される労働審判委員会が審理する労働審判法7条
原則3回以内で終わる特別の事情がある場合を除き、3回以内の期日で審理を終結しなければならない同法15条2項
非公開である訴訟と異なり手続は公開されない。報道や取引先に知られるリスクは訴訟より低い同法16条
調停による解決が中心委員会はまず話合い(調停)による解決を試み、まとまらない場合に労働審判を行う同法1条、20条
不服なら訴訟に移行する労働審判に対し2週間以内に異議を申し立てれば、労働審判は効力を失い訴訟へ移行する同法21条、22条

裁判所の公表によれば、平成18年から令和6年までに終了した労働審判事件の平均審理期間は82.6日、65.5%の事件が申立てから3か月以内に終了しています。一方、最高裁判所事務総局が公表した令和6年の司法統計では、地方裁判所が新たに受け付けた労働関係の民事訴訟は4,214件で平均審理期間は16.1か月、労働審判の新規受付件数は3,359件でした。訴訟の審理期間と比べると、労働審判の速さは際立っています。この「速さ」こそが、会社側にとっては最大の負担でもあります。

申立てから40日以内に第1回期日が入る|労働審判の時間割

労働審判官は、特別の事由がある場合を除き、申立てがされた日から40日以内の日に第1回期日を指定しなければならないとされています(労働審判規則13条)。裁判所から呼出状が会社に届く時点で、すでに申立てから一定の日数が経過していますから、会社が実際に準備できる期間は3〜4週間程度しかないことも珍しくありません。

しかも、答弁書の提出期限は第1回期日そのものではありません。労働審判官は答弁書の提出期限を定めなければならず(同規則14条1項)、その期限は、答弁書に書かれた内容を申立人が第1回期日までに検討・準備できるだけの期間をおいたものでなければならないとされています(同条2項)。つまり、答弁書の締切は第1回期日よりもかなり手前に来ます。具体的な日付は呼出状に記載されていますので、封筒を開けたらまず提出期限を確認してください。

まず確認すべきこと:①第1回期日の日時、②答弁書の提出期限、③申立ての趣旨(何を、いくら請求されているか)、④担当書記官の連絡先。東京地方裁判所は、審判手続期日の変更は原則として認められないと案内しています。弁護士に依頼するのであれば、この4点を確認したうえで、直ちに動く必要があります。

労働審判は答弁書がすべて|記載すべき6つの事項

労働審判において、会社側が書面で反論できる機会は、原則として答弁書の1回だけです。申立書と答弁書で双方の基本的な主張が出そろった後は、原則として書面による主張は予定されておらず、期日における口頭のやり取りで主張立証を行う運用とされています(労働審判規則17条1項)。答弁書の出来が、そのまま手続全体の帰趨を左右すると言っても過言ではありません。

答弁書には、労働審判規則16条1項により、次の事項を記載しなければなりません。

  • 申立ての趣旨に対する答弁(請求を認めるのか、争うのか)
  • 申立書に記載された事実に対する認否(どの事実を認め、どれを否認するのか)
  • 答弁を理由づける具体的な事実
  • 予想される争点および当該争点に関連する重要な事実
  • 予想される争点ごとの証拠
  • 当事者間でされた交渉(あっせんその他の手続でされたものを含む)その他申立てに至る経緯の概要

加えて、予想される争点についての証拠書類があるときはその写しを答弁書に添付しなければならず(同条2項)、答弁書は写し3通を同時に提出する必要があります(同条3項)。答弁書および証拠書類の写しは、申立人(代理人弁護士が付いていればその弁護士)に直送します(同規則20条3項)。証拠書類の原本は第1回期日に持参します。

実務上、会社側が苦戦しやすいのは4番目と5番目です。労働者側は申立ての段階で数か月かけて主張と証拠を練り上げていますが、会社側は数週間でそれに追いつかなければなりません。タイムカード、賃金台帳、就業規則、雇用契約書、業務日報、指導記録、メールやチャットのログなど、争点に関わる資料は早い段階で一気に洗い出す必要があります。とりわけ解雇や雇止めが争われている事案では、懲戒処分の進め方と手続の適正さや、整理解雇であれば整理解雇の4要件を満たしているかという観点から、処分に至る経緯を裏づける記録が残っているかどうかが結論を大きく分けます。

第1回期日で何が起きるか|審尋への備え

労働審判委員会は、第1回期日において、当事者の陳述を聴いて争点および証拠の整理をし、その期日で実施可能な証拠調べを行うこととされています(労働審判規則21条1項)。書面のやり取りだけで終わる訴訟の第1回口頭弁論とはまったく性質が異なり、第1回期日から実質的な審理が始まります。東京地方裁判所は、第1回期日の所要時間として2時間30分程度を予定していると案内しています。

特徴的なのは「審尋」です。労働審判委員会は、第1回期日から、代表者や当時の上司・担当者に対して直接質問を行います。会社側の代理人が答えるのではなく、事情を知っている人が自分の言葉で答えることが求められる場面です。労働審判員は労使双方の実務に通じているため、質問は具体的です。「その面談は何月何日でしたか」「注意指導は書面で行いましたか」「同種の事案で他の従業員にはどう対応しましたか」といった問いに、その場で矛盾なく答えられるかどうかが心証を左右します。

そのため、期日前には事情を知る担当者と入念に打合せをし、当日は本人が出席するか、少なくとも期日中に電話等で連絡が取れる態勢を整えておくことが必要です。なお、当事者は、遅くとも第2回期日が終了するまでには主張および証拠書類の提出を終えなければならないとされています(同規則27条)。後から資料を追加すればよい、という前提は通用しません。

調停・審判・異議申立て|会社としてどこで着地させるか

労働審判手続では、審理の終結に至るまで、期日において調停(話合いによる解決)を行うことができるとされており(労働審判規則22条1項)、実際にも調停による解決が広く用いられています。調停が成立すると、その内容は調書に記載され、条項によっては強制執行の対象にもなります。調停が成立しない場合、労働審判委員会は、審理の結果認められる権利関係と手続の経過を踏まえて労働審判を行います(労働審判法20条1項)。

労働審判に不服がある当事者は、審判書の送達または口頭告知を受けた日から2週間の不変期間内に、裁判所へ異議を申し立てることができます(同法21条1項)。適法な異議があれば労働審判は効力を失い(同条3項)、労働審判手続の申立ての時に訴えの提起があったものとみなされて訴訟に移行します(同法22条1項)。異議が出なければ、労働審判は裁判上の和解と同一の効力を持ちます(同法21条4項)。

また、事案の性質に照らして労働審判手続による解決が適当でないと認められる場合には、労働審判委員会が事件を終了させることがあり(同法24条1項)、この場合も訴訟へ移行します(同条2項)。争点が多岐にわたる事案や、証人尋問を尽くさなければ判断できない事案では、この扱いになることがあります。

異議を出すかどうかの判断軸:異議を申し立てれば訴訟に移行しますが、訴訟は平均審理期間が1年を超える手続です。解決までの時間、経営陣や担当者が費やす労力、判決になった場合に想定される金額の幅、そして解雇が無効とされた場合の賃金支払義務の累積といった要素を総合して判断することになります。「金額に納得できないから異議」という反射的な判断は、かえって会社の負担を増やすことがあります。

会社側がやってはいけない対応

労働審判で会社側の立場を悪くしてしまう典型的な対応を挙げます。

  • 期限を軽く見る:答弁書を提出しないまま期日を欠席すると、申立人の主張と証拠だけで審判が行われることがあると、東京地方裁判所は明示しています。
  • 認否を曖昧にする:「争う」とだけ書いた答弁書は、争点整理に耐えません。どの事実を認め、どれを否認し、なぜ否認するのかを具体的に書く必要があります(労働審判規則16条1項2号・3号)。
  • 後出しを前提にする:主張・証拠の提出は遅くとも第2回期日終了までです(同規則27条)。第3回で挽回する、という発想は通用しません。
  • 申立人に直接連絡する:手続外で退職者本人に接触すると、圧力と受け取られ、かえって紛争を拡大させかねません。
  • 証拠を作り直す:申立て後に日付をさかのぼって記録を整えるような行為は、発覚すれば会社の主張全体の信用性を失わせます。

逆に言えば、労働審判で会社側が有利に進められるかどうかは、申立てを受けた後の対応よりも、日ごろの労務管理でどれだけ記録を残せていたかに大きく依存します。就業規則の整備、注意指導の書面化、労働時間の客観的な把握といった平時の備えが、いざというときの答弁書の説得力になります。当事務所の企業法務・顧問弁護士のサービス内容もあわせてご覧ください。なお、労働組合を通じた合同労組からの団体交渉と並行して労働審判が申し立てられる例もあり、その場合は両者の対応方針を整合させる必要があります。

横浜・神奈川の会社が申立てを受けたら

労働審判事件は、相手方(会社)の住所・営業所・事務所の所在地を管轄する地方裁判所、労働者が現に就業しまたは最後に就業した事業所の所在地を管轄する地方裁判所、または当事者が合意で定めた地方裁判所の管轄とされています(労働審判法2条1項)。ただし、労働審判を扱うのは地方裁判所の本庁と、東京地裁立川支部・静岡地裁浜松支部・長野地裁松本支部・広島地裁福山支部・福岡地裁小倉支部に限られます。したがって、神奈川県内に本店や事業所がある会社の事件は、原則として横浜地方裁判所の本庁で審理されることになります。

なお、労働審判手続の代理人は、法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほかは、原則として弁護士に限られます(同法4条1項)。裁判所の許可があれば弁護士以外の者が代理人となれる場合もありますが、例外的な扱いです。会社の弁護士費用の考え方については弁護士費用のページをご確認ください。

請求内容が未払残業代である場合、賃金請求権の消滅時効は労働基準法115条で5年とされていますが、附則143条3項により、当分の間、退職手当を除く賃金については3年とされています。請求期間の起算点や時効の成否は、答弁書で早期に主張しておくべき論点です。訴訟に移行した場合には、未払割増賃金について付加金(同法114条)の支払が命じられる可能性もあります。

よくある質問

労働審判の期日を欠席したらどうなりますか。

答弁書を提出しないまま期日を欠席した場合、申立人(労働者)の主張と証拠だけで労働審判が行われることがあると、東京地方裁判所は注意書で明示しています。労働審判の期日変更は原則として認められないとも案内されていますので、呼出状が届いた時点で速やかに対応を決める必要があります。

労働審判の答弁書はいつまでに提出すればよいですか。

労働審判官が定めた提出期限までに提出しなければなりません(労働審判規則14条1項、16条1項)。この期限は、答弁書の内容を申立人が第1回期日までに検討できるだけの期間をおいて定められるため(同規則14条2項)、第1回期日よりかなり前の日が指定されます。具体的な期限は呼出状に記載されています。

社長や担当者本人も期日に出席する必要がありますか。

労働審判委員会は第1回期日から関係者に直接事情を聴くことが予定されているため、事情をよく知る担当者や上司の同席が求められます。東京地方裁判所も、代理人向けの案内で、事情をよく知る方の同行、それが難しい場合は期日中に電話等で連絡が取れる態勢を求めています。

会社に不利な労働審判が出た場合、争えますか。

審判書の送達または口頭告知を受けた日から2週間の不変期間内に、裁判所へ異議の申立てをすることができます(労働審判法21条1項)。適法な異議があれば労働審判は効力を失い(同条3項)、労働審判手続の申立ての時に訴えの提起があったものとみなされて訴訟へ移行します(同法22条1項)。異議がなければ、労働審判は裁判上の和解と同一の効力を持ちます(同法21条4項)。

弁護士に依頼せず会社だけで対応することはできますか。

法律上、会社が自ら手続を追行することは可能ですが、労働審判手続の代理人は原則として弁護士に限られています(労働審判法4条1項)。原則3回以内という限られた期日で主張・立証を尽くす必要があり、期日での口頭のやり取りが審理の中心になるため、実務上は代理人を立てて臨むことが多い手続です。

まとめ

労働審判を申し立てられた会社側にとって、勝負どころは答弁書と第1回期日に集中します。申立てから40日以内に第1回期日が指定され(労働審判規則13条)、答弁書の提出期限はそれよりさらに手前に設定されます。書面で反論できるのは原則として答弁書の1回のみで、遅くとも第2回期日の終了までに主張と証拠の提出を終えなければなりません(同規則27条)。この時間割を前提に、資料の収集、事実関係の確定、担当者との打合せを同時並行で進める必要があります。

また、解雇の有効性が争われる事案では、労働契約法16条の解雇権濫用法理のもとで、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が問われます。会社の言い分がどれほど正当でも、それを裏づける記録が残っていなければ、限られた期日の中で伝えきることは容易ではありません。逆に、記録が整っていれば、調停の場で会社に納得できる条件を引き出せる可能性は高まります。

弁護士に依頼することの実質的な意味は、書面を代わりに作ることだけではありません。この事案は調停でまとめるべきか、審判を受けてでも争うべきか、金額としてどのあたりが現実的な着地点かという見通しを、早い段階で示せることにあります。裁判所からの書面が届いたら、期日の日付を確認したうえで、できる限り早く相談されることをお勧めします。

労働審判の申立てを受けた企業の皆様へ

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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