タングラム法律事務所

懲戒処分の進め方|種類・手順と無効にならない注意点を弁護士が解説

懲戒処分の進め方|種類・手順と無効にならない注意点を弁護士が解説

懲戒処分の進め方|種類・手順と無効にならない注意点を弁護士が解説

懲戒処分の進め方|種類・手順と無効にならない注意点を弁護士が解説

懲戒処分の進め方|種類・手順と無効にならない注意点を弁護士が解説

遅刻や無断欠勤を繰り返す社員、業務命令に従わない社員、社内でハラスメントを起こした社員——。問題を起こした従業員にどう対応するかは、中小企業の経営者や管理者にとって頭の痛い問題です。「けじめとして懲戒処分にしたい」と考えても、どの処分を選べばよいのか、どこまでなら許されるのかが分からず、対応をためらってしまう方も少なくありません。

懲戒処分は、企業の秩序を守るために認められた制度ですが、手順や内容を誤ると、後から「不当な処分だ」として無効と判断され、かえって会社が損害賠償を求められるリスクもあります。この記事では、懲戒処分の種類と重さ、減給の上限を定めた法律のルール、無効と判断されないための進め方と注意点を、法務担当者のいない中小企業にも分かるように横浜の弁護士が整理して解説します。

懲戒処分とは|企業秩序を守るための制裁と法的根拠

懲戒処分とは、従業員が企業の規律や秩序に違反した場合に、使用者が制裁として科す不利益な措置をいいます。単なる業務上の注意や指導とは異なり、労働者の地位や待遇に不利益を及ぼす点に特徴があります。

懲戒処分を行うためには、あらかじめ就業規則に懲戒の種類と事由を定め、従業員に周知しておくことが原則として必要と解されています。労働基準法第89条第9号は、制裁の定めをする場合には、その種類および程度に関する事項を就業規則に記載しなければならないとしています(いわゆる相対的必要記載事項)。就業規則に根拠のない処分や、規則に定めた事由に当てはまらない処分は、無効と判断される可能性が高いといえます。

また、懲戒処分の有効性については、労働契約法第15条が重要です。同条は、懲戒が、当該労働者の行為の性質・態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、権利を濫用したものとして無効とすると定めています。つまり、就業規則に定めがあるだけでは足りず、その事案に照らして処分の理由が合理的で、処分の重さが相当でなければならないという二段階のハードルがあると理解しておく必要があります。

懲戒処分の種類と重さ

懲戒処分にはいくつかの種類があり、一般的には次のように軽いものから重いものへと段階的に整理されます。どの種類を設けるかは各社の就業規則によりますが、代表的なものは以下のとおりです。

種類内容重さの目安
戒告・けん責口頭または文書で注意し、反省を求める。けん責では始末書の提出を求めることが多い軽い
減給賃金の一部を制裁として差し引く。労働基準法91条の上限規制があるやや軽い
出勤停止一定期間の就労を禁止し、その間の賃金を支給しない中程度
降格役職・職位や資格等級を引き下げる重い
諭旨解雇(諭旨退職)本人に退職を勧告し、応じない場合に懲戒解雇とする扱いが一般的非常に重い
懲戒解雇制裁として一方的に雇用契約を終了させる最も重い処分最も重い

処分を選ぶ際は、非違行為の重大性、故意か過失か、反省の有無、過去の処分歴、他の従業員との公平性などを総合的に考慮し、行為に見合った処分を選ぶことが求められます。軽微な違反にいきなり重い処分を科すと、社会通念上相当でないとして無効と判断されるおそれがあります。

減給の懲戒処分には法律上の上限がある

懲戒処分のうち「減給」については、労働基準法第91条が明確な上限を定めています。同条によれば、就業規則で減給の制裁を定める場合、その減給は、次の二つの制限を超えてはならないとされています。

  • 1回の減給額:平均賃金の1日分の半額を超えてはならない
  • 減給の総額:一賃金支払期(通常は1か月)における賃金総額の10分の1を超えてはならない

複数の非違行為があり本来はもっと減らしたい場合でも、1回の処分で差し引けるのは平均賃金1日分の半額まで、その月の減額の合計は賃金総額の10分の1が限度です。上限を超えて減給したい部分は翌月以降に繰り越すといった運用が必要になる場合があり、上限を超える減給は違法となる可能性があります。

遅刻・早退した時間分の賃金を差し引くこと(ノーワーク・ノーペイの控除)は、そもそも働いていない時間に対する不支給であり、制裁としての「減給」とは区別されます。ただし、実際に労働しなかった時間を超えて差し引くと、超えた部分は減給の制裁として91条の規制対象になると解されています。

懲戒処分が無効と判断される主なパターン

懲戒処分を行っても、後の労働審判や訴訟で無効と判断されれば、処分は効力を失い、賃金の返還などを求められることもあります。懲戒処分が無効とされやすいのは、次のようなケースです。

就業規則の根拠・周知を欠く場合

懲戒の種類・事由を就業規則に定めていない、または就業規則を従業員に周知していない場合、処分の前提を欠くものとして無効と判断される可能性があります。

処分が重すぎる(相当性を欠く)場合

非違行為の程度に比べて処分が重すぎる場合、社会通念上相当でないとして無効とされることがあります。特に懲戒解雇は最も重い処分であり、有効と認められるためのハードルは高いと考えられています。

手続きの公正を欠く場合

本人に弁明の機会を与えず一方的に処分する、就業規則が定める懲戒委員会等の手続きを経ないなど、手続きの適正を欠く場合も、無効と判断される要因になります。

二重処分・遡及処分・不公平な取扱い

一つの非違行為に複数の処分を重ねる二重処分、行為の時点では懲戒事由でなかったものを後から遡って処分する遡及処分、同じ違反をした他の従業員と著しく異なる扱いをする不公平な取扱いは、いずれも無効とされる可能性があります。

裁判例でも、懲戒処分の合理性・相当性は慎重に判断されています。たとえばネスレ日本(懲戒解雇)事件(最高裁平成18年10月6日判決)では、暴行事件から7年以上が経過した後にされた諭旨退職処分について、その時点では企業秩序維持の観点から重い処分を必要とする客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められないとして、権利の濫用にあたり無効と判断されました。非違行為があったからといって、時間を置いてから重い処分を科すことが常に許されるわけではないことを示す事例といえます。

また、山口観光事件(最高裁平成8年9月26日判決)では、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情がない限り、その懲戒の有効性を根拠づける理由とすることはできないと判断されています。処分を決める前に、事実関係を十分に調査しておくことの重要性がうかがえます。

懲戒処分の適正な進め方(手順)

トラブルを避けるためには、思いつきで処分を決めるのではなく、次のような手順を踏むことが望まれます。

1. 事実関係の調査・証拠の確保

まず、何がいつ起きたのかを客観的に確認します。関係者へのヒアリング、メールやチャットの記録、勤怠データ、防犯カメラの映像など、後から検証できる形で証拠を残しておくことが重要です。前述のとおり、処分後に判明した事実は原則として処分理由にできないため、この段階での調査が決定的な意味を持ちます。

2. 就業規則の懲戒事由との照合

調査で確認した事実が、就業規則に定めたどの懲戒事由に該当するのかを確認します。該当する事由がなければ、懲戒処分を行うこと自体が難しくなります。

3. 本人への弁明の機会の付与

処分を決める前に、本人に事実関係を告げて言い分を聞く機会を与えます。就業規則に手続きの定めがある場合はその手続きに従います。弁明の機会を与えることは、手続きの公正さを担保し、後の紛争リスクを下げるうえで大切です。

4. 処分内容の決定・通知

行為の重さ、反省の有無、過去の処分歴、他の従業員との公平性などを総合的に考慮して、相当な処分を決定します。処分を決めたら、その理由と内容を記載した書面(懲戒通知書)で本人に通知し、記録として残しておくとよいでしょう。

トラブルを防ぐための実務ポイント

懲戒処分をめぐる紛争を防ぐには、平時の備えが欠かせません。まず、就業規則に懲戒の種類・事由・手続きを具体的に定め、全従業員に周知しておくことが出発点です。あわせて、日頃から遅刻・欠勤や業務指示違反などを注意・指導した記録(指導書、面談記録など)を残しておくと、処分を検討する段階で事実の積み重ねを示しやすくなります。

特に懲戒解雇のような重い処分は、有効性が厳しく判断されるため、退職勧奨など他の選択肢も視野に入れて慎重に検討することが望まれます。判断に迷う場合は、処分を実行する前の段階で弁護士に相談し、証拠の評価や処分の相当性について助言を得ることが、後の紛争を避けるうえで有効です。当事務所でも、横浜を中心に中小企業からの労務相談に対応しています。

よくある質問(FAQ)

就業規則がなくても懲戒処分はできますか?

懲戒処分を行うには、あらかじめ就業規則に懲戒の種類と事由を定めて従業員に周知しておくことが原則として必要と解されています。労働基準法第89条第9号は、制裁の定めをする場合にはその種類と程度を就業規則に記載すべきものとしています。就業規則がない、または懲戒に関する定めがない場合、懲戒処分は無効と判断される可能性が高いといえます。

減給の懲戒処分に金額の上限はありますか?

労働基準法第91条により、1回の減給額は平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、複数の事案がある場合でも減給の総額は一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならないとされています。この上限を超える減給は違法となる可能性があります。

同じ非違行為に対して減給と出勤停止を重ねてもよいですか?

一つの非違行為に対して二つの懲戒処分を重ねて科すこと(二重処分)は、不合理・不相当と判断される可能性があります。一つの行為には一つの処分が原則と解されており、処分を選ぶ段階でどの処分が相当かを検討することが求められます。

処分の後で判明した別の問題行為を、懲戒理由に追加できますか?

裁判例では、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情がない限り、その懲戒の有効性を根拠づける理由とすることはできないと判断されています(山口観光事件・最高裁平成8年9月26日判決)。処分を決める前に事実関係を十分に調査しておくことが重要です。

まとめ

懲戒処分は、企業の秩序を守るために認められた制度ですが、就業規則の根拠、処分の相当性、手続きの公正という複数の要件を満たさなければ、無効と判断されるリスクがあります。ポイントを整理すると、①就業規則に懲戒の種類・事由・手続きを定めて周知しておくこと、②減給には労働基準法91条の上限があること、③事実調査・弁明の機会・通知という手順を踏むこと、④行為に見合った相当な処分を選ぶこと、の4点が重要です。

問題社員への対応は、感情的になりやすく、対応を誤ると長期の紛争に発展しかねない分野です。処分を実行する前に弁護士に相談することで、証拠の評価や処分の重さの妥当性を確認でき、無効リスクを抑えることにつながります。労務対応でお悩みの際は、横浜のタングラム法律事務所にご相談ください。あわせて、退職勧奨の適法な進め方整理解雇(リストラ)の4要件就業規則の作成義務に関する記事も参考にしてください。

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※本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律相談ではありません。具体的な案件については弁護士にご相談ください。

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