タングラム法律事務所

遺留分侵害額請求と遺言無効は同時に主張できる?時効の注意点を弁護士が解説

遺留分侵害額請求と遺言無効は同時に主張できる?時効の注意点を弁護士が解説

遺留分侵害額請求と遺言無効は同時に主張できる?時効の注意点を弁護士が解説

遺留分侵害額請求と遺言無効は同時に主張できる?時効の注意点を弁護士が解説

遺留分侵害額請求と遺言無効は同時に主張できる?時効の注意点を弁護士が解説

執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年9月25日 最終更新日:2026年9月25日

「認知症が進んでいた父が、兄に全財産を相続させる遺言を書けたはずがない」「筆跡が母のものとは思えない」。遺言の内容に納得できないとき、まず考えるのは遺言そのものの無効を争うことでしょう。一方で、遺言が有効とされた場合には、最低限の取り分である遺留分を請求する方法もあります。

この記事では、遺言無効の主張と遺留分侵害額請求の関係、両方を同時に主張するときの方法、そして特に見落とされやすい「遺留分の1年の時効」の注意点を、相続の紛争事案を扱う横浜の弁護士が解説します。

結論から言うと、遺言の無効を争う場合でも、遺留分侵害額請求の1年の時効は原則として進行します。そのため、遺言無効を主張しつつ「仮に遺言が有効であれば遺留分侵害額を請求する」という予備的な意思表示を、内容証明郵便などで期限内に行っておくことが重要です。

遺言無効の主張と遺留分侵害額請求の違い

遺言無効の主張と遺留分侵害額請求は、どちらも「遺言の内容に納得できない」場面で使われますが、目的と効果がまったく異なります。

項目遺言無効の主張遺留分侵害額請求
前提遺言は無効である遺言は有効である
主な根拠遺言能力の欠如(民法963条)、方式違反(自筆証書遺言は民法968条)、偽造など民法1046条1項
認められた場合の効果遺言がなかったことになり、法定相続分を基準とした遺産分割に戻る遺言は有効のまま、遺留分に相当する金銭の支払を受けられる
期間制限遺言無効確認の請求自体には期間制限の定めはない知った時から1年、相続開始から10年(民法1048条)

遺言が無効になれば、遺留分より多くの取り分を得られる可能性があります。そのため、まず無効を主張したいと考えるのは自然なことです。ただし、遺言無効の立証は簡単ではなく、裁判所が遺言を有効と判断する可能性も十分にあります。そのときに遺留分侵害額請求まで失ってしまうことがないよう、両方を視野に入れて動く必要があります。遺言無効を争う手続の全体像は、遺言無効確認訴訟の要件と手続きを解説した記事で詳しく説明しています。

遺言無効を争っていても遺留分の時効は進む

遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時」から1年間行使しないと、時効によって消滅します(民法1048条前段)。また、相続開始の時から10年を経過したときも同様です(同条後段)。

ここで問題になるのが、「遺言は無効だと信じていたのだから、遺留分を侵害する遺贈があったとは知らなかった」という言い分が通るかどうかです。

最高裁昭和57年11月12日判決の考え方

最高裁昭和57年11月12日判決(民集36巻11号2193頁)は、改正前の遺留分減殺請求権について、「知った時」とは贈与等があったことに加え、それが減殺できるものであることを知った時をいうとしました。そのうえで、遺留分権利者が贈与の無効を訴訟で主張していても、被相続人の財産のほとんど全部が贈与されたことを認識していたときは、その無効を信じていたため権利を行使しなかったことがもっともと認められる特段の事情がない限り、減殺できるものであることを知っていたと推認するのが相当であると判断しています。

つまり、無効を主張しているというだけでは、1年の時効の進行は止まらないと考えておくべきです。2019年7月1日施行の改正で「遺留分減殺請求」は金銭請求である「遺留分侵害額請求」に改められましたが、「知った時」から1年という期間制限の構造は維持されており、実務上もこの判例の考え方を前提に対応するのが安全です。時効の起算点については、遺留分侵害額請求の時効と起算点の記事もご参照ください。

遺言無効確認訴訟は、判決までに1年以上かかることも珍しくありません。訴訟の結果を待ってから遺留分を請求しようとすると、その間に1年の期間が経過してしまうおそれがあります。

遺言無効と遺留分侵害額請求を同時に主張する方法

実務では、遺言の無効を主位的に主張しつつ、遺言が有効とされた場合に備えて遺留分侵害額請求を予備的に行う方法が広く用いられています。

内容証明郵便で予備的に意思表示をする

遺留分侵害額請求は、相手方に対する意思表示によって行使できます。裁判を起こす必要はありませんが、期限内に請求した証拠を残すため、配達証明付きの内容証明郵便で送るのが一般的です。文面では、たとえば次のような趣旨を明記します。

  • 本件遺言は、遺言能力の欠如(または方式違反・偽造など)により無効であると考えていること
  • 仮に本件遺言が有効とされる場合には、遺留分侵害額の支払を請求すること
  • 本通知は遺言の有効性を認める趣旨ではないこと

このように書き分けておけば、遺言の有効性を認めたことにはならないと一般に解されています。内容証明の具体的な書き方は、遺留分侵害額請求の内容証明の書き方の記事で解説しています。

「遺産分割協議の申入れ」だけでは足りないおそれ

最高裁平成10年6月11日判決(民集52巻4号1034頁)は、被相続人の全財産が一部の相続人に遺贈された事案で、遺贈の効力を争うことなく遺産分割協議の申入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれると判断しました。

もっとも、この判断は「遺贈の効力を争わない」場合を前提としています。遺言の無効を主張しながら遺産分割を求める場合には、遺言が無効であることを前提とした申入れと受け取られ、遺留分を請求する意思まで読み取ってもらえない可能性があります。無効を争う場合こそ、遺留分侵害額請求をする旨をはっきり書いた通知を別に送ることが大切です。

調停・訴訟ではどのように進むのか

遺言無効確認も遺留分侵害額請求も、家庭に関する事件として、訴訟を起こす前に原則として家庭裁判所の調停を申し立てる必要があります(調停前置、家事事件手続法257条1項)。調停では、遺言の有効性に争いがあることを前提に、遺留分相当額での和解なども含めて話し合いが行われます。

調停で解決しない場合は、訴訟に移ります。遺言無効確認訴訟は地方裁判所に、遺留分侵害額の支払を求める訴訟は請求額に応じて地方裁判所または簡易裁判所に提起します。事案によっては、同じ訴訟の中で、遺言無効を主位的に、遺留分侵害額請求を予備的に主張する形がとられることもあります。どのような形で主張を組み立てるかは、証拠の状況や相手方の対応によって変わります。

段階ポイント
相続開始直後〜1年以内遺言の写し、医療記録、介護記録などの証拠収集と並行して、予備的な遺留分侵害額請求の通知を送る
調停遺言の有効性を争いつつ、遺留分相当額を基準とした解決案も検討する
訴訟遺言無効確認を主位的に、遺留分侵害額請求を予備的に主張することを検討する

遺留分侵害額請求をした後の期限にも注意

1年以内に遺留分侵害額請求の意思表示をすると、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を求める権利(金銭債権)が発生します。この金銭債権は、一般の債権と同じく、権利を行使できることを知った時から5年で時効にかかると解されています(民法166条1項1号)。遺言無効をめぐる争いが長期化する場合には、この点にも注意が必要です。

また、遺留分侵害額の支払が確定したときなど、相続税の申告内容に影響が生じる場合があります。相続税の申告・更正の請求の要否や期限については、国税庁の公表情報を確認のうえ、詳細は税理士または税務署にご確認ください。

弁護士に相談すべきタイミング

遺言の無効を争うかどうかの見通しを立てるには、遺言作成当時の医療記録・介護記録、筆跡資料、公正証書遺言であれば作成時の状況など、多くの証拠を検討する必要があります。一方で、遺留分の1年の期間は待ってくれません。

「遺言に納得できない」と感じた段階で、遺言無効を争う見込みと、遺留分侵害額請求を確保するための手当てを同時に検討することが、取り分を守るうえで重要です。相続紛争への当事務所の対応については、遺産相続・遺留分の取扱分野のページでもご案内しています。

よくある質問

遺言無効を主張しながら遺留分侵害額請求をすると、遺言の有効性を認めたことになりませんか?

「遺言は無効であると考えているが、仮に有効とされた場合に備えて遺留分侵害額を請求する」という予備的な形で意思表示をすれば、遺言の有効性を認めたことにはならないと一般に解されています。通知書の文言で、無効の主張を維持していることを明確にしておくことが大切です。

遺言無効確認訴訟を起こしていれば、遺留分の時効は止まりますか?

遺言無効確認訴訟を起こしただけでは、遺留分侵害額請求権の1年の時効が当然に止まるわけではありません。最高裁昭和57年11月12日判決は、無効を信じていたことにもっともと認められる特段の事情がない限り、遺留分を侵害する贈与等を知っていたと推認されるとしています。無効を争う場合でも、別途、遺留分侵害額請求の意思表示をしておくべきです。

遺産分割協議を申し入れれば、遺留分侵害額請求をしたことになりますか?

最高裁平成10年6月11日判決は、遺贈の効力を争うことなく遺産分割協議の申入れをした場合には、特段の事情のない限り遺留分減殺の意思表示が含まれると判断しました。しかし、遺言の無効を主張しながら遺産分割を求める場合には同じ解釈がとられるとは限らないため、遺留分侵害額請求をする旨を明記した通知を送るのが安全です。

遺言無効の主張と遺留分侵害額請求は、どの裁判所で扱われますか?

いずれも訴訟を起こす前に、原則として家庭裁判所の調停を経る必要があります(調停前置、家事事件手続法257条1項)。調停で解決しない場合、遺言無効確認訴訟や遺留分侵害額の支払を求める訴訟は地方裁判所(遺留分侵害額請求は請求額によって簡易裁判所)に提起します。

まとめ

  • 遺言無効の主張は「遺言は無効」、遺留分侵害額請求は「遺言は有効」を前提とする、別々の手段である
  • 遺言の無効を争っていても、遺留分侵害額請求の1年の時効は原則として進む(最高裁昭和57年11月12日判決)
  • 無効を主張しつつ、「仮に有効なら遺留分侵害額を請求する」と予備的に意思表示しておくのが安全
  • 遺産分割協議の申入れだけでは、遺留分侵害額請求をしたと扱われないおそれがある
  • 請求後の金銭債権の5年の時効や、相続税への影響にも注意する

遺言無効と遺留分の問題は、どちらか一方だけを考えて動くと、取り返しのつかない期限切れを招くことがあります。証拠の見立てと期限の管理を並行して行う必要があるため、早い段階で相続に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

遺言の内容に納得できず、遺留分の期限が気になる方へ

タングラム法律事務所は、横浜・山下公園に事務所を構え、相続人間で対立の生じた遺産分割・遺留分の事案について、交渉から調停・訴訟まで一貫して対応しております。遺言無効を争う見込みの検討と、遺留分侵害額請求の期限管理を並行して進めるお手伝いをします。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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