タングラム法律事務所

遺留分侵害額請求で遺産がわからない|財産の調べ方を弁護士が解説

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遺留分侵害額請求で遺産がわからない|財産の調べ方を弁護士が解説

遺留分侵害額請求で遺産がわからない|財産の調べ方を弁護士が解説

遺留分侵害額請求で遺産がわからない|財産の調べ方を弁護士が解説

「兄がすべてを相続する内容の遺言があると聞かされたが、そもそも親にどれだけの財産があったのか教えてもらえない」——遺留分侵害額請求をお考えの方から、このようなご相談を受けることは少なくありません。同居していた相続人が財産の管理を一手に担っていた場合、他の相続人が遺産の全体像をまったく把握できていないという状況は、むしろよくあることです。

遺留分侵害額請求には1年という短い期限があり、調査の完了を待っていては間に合わないおそれがあります。この記事では、①先に権利行使の意思表示をしておくべき理由、②相続人が自分でできる財産調査の方法、③相手方が開示に応じない場合に使える制度、④調停・訴訟の段階で利用できる調査手段を、横浜の弁護士が順を追って解説します。

遺産の内容がわからなくても遺留分侵害額請求はできる

まず押さえていただきたいのは、遺産の内容がわからないままでも遺留分侵害額請求はできるということです。

遺留分侵害額請求は、遺留分権利者が受遺者または受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求できる権利です(民法1046条1項)。この権利は、相手方に対して請求する旨の意思表示をすることによって行使します。意思表示の時点で請求金額を具体的に特定することまでは必要ないと解されており、実務上も、金額を明示しない形での請求が広く行われています。

この点が重要になるのは、権利行使に期限があるためです。遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅します。相続開始の時から10年を経過したときも同様です(民法1048条)。

調査より先に、まず意思表示を。財産調査には数か月かかることが珍しくありません。調査が終わってから請求しようと考えていると、1年の期間が経過してしまうおそれがあります。自分の遺留分が侵害されている可能性を認識したら、金額が確定していなくても、まず配達証明付きの内容証明郵便で意思表示をしておくことが安全です。

つまり財産調査は、「請求できるかどうか」を決める作業ではなく、「いくら請求できるかを確定させる」作業です。順序を取り違えないことが出発点になります。

遺留分の計算に必要な「遺産の全体像」とは

遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に贈与した財産の価額を加え、そこから債務の全額を控除した額とされています(民法1043条1項)。調査対象は次の3つに整理できます。

調査対象内容主な調査先
相続開始時の財産預貯金、不動産、株式・投資信託、自動車、貸金債権など金融機関、市区町村、法務局、証券保管振替機構
生前贈与相続人以外への贈与は原則として相続開始前1年間のもの、相続人に対する特別受益にあたる贈与は原則として相続開始前10年間のもの(民法1044条1項・3項)被相続人の預金の取引経過、贈与契約書、税務署
債務借入金、未払いの医療費・施設利用料・税金など信用情報機関、金融機関、請求書類

特に見落とされやすいのが生前贈与です。遺言の内容だけを見て諦めてしまう方がいますが、被相続人が生前に特定の相続人へ多額の資金援助をしていた場合、その分が計算に加算され、請求できる金額が大きく変わることがあります。計算の仕組みは遺留分侵害額の計算方法を解説した記事で詳しく説明しています。

相続人が自分でできる遺産の調べ方

遺言書の有無を確認する

相手方から「遺言書がある」と口頭で告げられているだけで、現物を見せてもらえないケースは少なくありません。しかし、遺言書の有無は相続人が単独で確認できます。

  • 公正証書遺言——公証役場の遺言検索システムにより作成の有無を照会できます。平成元年(1989年)以降に作成されたものが対象です。
  • 法務局に保管された自筆証書遺言——相続人は、遺言書保管事実証明書の交付を請求して保管の有無を確認し、保管されていれば遺言書情報証明書の交付を請求して内容を確認できます(遺言書保管法9条、10条)。全国どこの遺言書保管所でも請求でき、他の相続人の同意は不要です。
  • 手元で保管されていた自筆証書遺言——家庭裁判所の検認を経る必要があり(民法1004条1項)、検認期日には相続人に呼出しがされますので、その機会に内容を確認できます。

預貯金を調べる

ここで押さえておきたいのが、共同相続人の一人は、他の相続人の同意がなくても、単独で被相続人名義の預金口座の取引経過の開示を求めることができるという点です。最高裁平成21年1月22日第一小法廷判決(民集63巻1号228頁)は、金融機関は預金契約に基づき取引経過を開示すべき義務を負い、共同相続人の一人はこの開示請求権を単独で行使できると判断しました。

取引経過を取得すれば、相続開始時の残高だけでなく生前の出金の流れも確認できます。まとまった金額が特定の時期に引き出されていれば、生前贈与や使い込みの手がかりになります。支店がわからない場合は、全店照会に応じてもらえるかを金融機関に確認してみてください。

不動産・株式・債務を調べる

不動産は、市区町村が備える固定資産課税台帳(名寄帳)を取得すれば、その市区町村内の所有不動産を一覧で把握できます。ただし名寄帳は市区町村ごとの管理であるため、複数の自治体に不動産がある場合はそれぞれに請求が必要です。この弱点を補うものとして、2026年2月から所有不動産記録証明制度の運用が始まっており、所有権の登記名義人として記録されている不動産を全国分まとめて一覧化した証明書の交付を受けられます。

上場株式や投資信託は、証券保管振替機構(ほふり)に登録済加入者情報の開示を請求してどの証券会社に口座があるかを確認し、その証券会社に残高証明書を請求します。債務は、信用情報機関への開示請求で金融機関等からの借入れの有無を確認できます。債務も基礎財産から控除されますので(民法1043条1項)、マイナスの財産も調べておく必要があります。各手続の詳細は相続財産の調査方法をまとめた記事もあわせてご覧ください。

相手方が開示に応じないときに使える制度

遺言執行者に対する開示の求め

遺言で遺言執行者が指定されている場合、遺言執行者は、任務を開始したときは遅滞なく遺言の内容を相続人に通知しなければならず(民法1007条2項)、また遅滞なく相続財産の目録を作成して相続人に交付しなければなりません(民法1011条1項)。遺留分権利者も相続人である以上、これらの相手方に含まれます。相手方の相続人自身やその依頼した専門家が遺言執行者に就任しているケースでは、この義務を指摘して財産目録の交付を求めることが、事実上の開示要求として機能します。

相続税法49条に基づく贈与税の申告内容の開示請求

他の相続人が受けた生前贈与を把握する手段として、相続税法49条1項に基づく開示請求があります。相続または遺贈により財産を取得した者は、被相続人に係る相続税の申告書の提出または更正の請求に必要となる場合に限り、他の共同相続人等が被相続人から受けた一定期間内の贈与(暦年課税に係るもの)および相続時精算課税の適用を受けた贈与について、贈与税の申告内容の開示を税務署長に請求できます。請求先は被相続人の死亡時の住所地を所轄する税務署です。

この開示請求は、あくまで相続税の申告等に必要な場合の制度であり、遺留分の計算のためだけに利用できるものではありません。また、対象となる贈与の期間は税制改正によって変動しています。利用の可否と対象範囲は、税理士または所轄の税務署に必ずご確認ください。

弁護士会照会(弁護士法23条の2)

弁護士に依頼した場合には、弁護士会照会を利用できます。これは、弁護士が受任している事件について、所属する弁護士会を通じて公務所または公私の団体に照会し、必要な事項の報告を求める制度です(弁護士法23条の2)。金融機関に対する預金の有無や入出金状況の照会、保険会社に対する契約内容の照会など、本人の請求では対応してもらえない範囲の情報を得られることがあります。もっとも、照会先には回答を拒む裁量が一定程度認められており、必ず回答が得られるとは限りません。照会事項を具体的に特定し、必要性を丁寧に説明することが回答率を左右します。相続・遺留分の問題への当事務所の対応は相続の取扱分野のページでご案内しています。

調停・訴訟の段階で使える調査手段

交渉の段階で財産の全容が明らかにならない場合、遺留分侵害額の請求調停や訴訟の手続の中で調査を進めることになります。この請求について訴えを提起しようとする場合には、まず家庭裁判所に調停の申立てをしなければなりません(調停前置主義。家事事件手続法257条1項)。調停手続では、家庭裁判所は必要な調査を官庁等に嘱託し、また銀行や信託会社等に対して関係人の預金等に関して必要な報告を求めることができます(家事事件手続法62条。同法258条により調停手続に準用されます)。

調停が成立せず訴訟に移行した場合には、民事訴訟法上の証拠収集の手段を用いることになります。

手段根拠条文概要
調査の嘱託民事訴訟法186条裁判所が官公署や団体に対し、必要な調査を嘱託して結果の報告を求める
文書送付嘱託民事訴訟法226条文書の所持者に対し、その文書を裁判所に送付するよう嘱託するよう申し立てる
文書提出命令民事訴訟法220条以下提出義務のある文書について、裁判所が所持者に提出を命じる

ただし、これらはいずれも「どの機関の、どの文書を、どの期間について求めるか」を申立側が特定しなければ利用できません。裁判所が職権で財産を洗い出してくれる制度ではなく、事前の自主的な調査によって当たりをつけておくことが前提になります。

なお、調査の過程で他の相続人が被相続人の預金を無断で引き出していたことが判明した場合は、遺留分侵害額請求とは別に、不当利得返還請求(民法703条、704条)や不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)を検討することになります。詳しくは遺産の使い込みの証拠の集め方を解説した記事をご覧ください。

よくある質問

遺産の内容がわからなくても遺留分侵害額請求はできますか。

できます。遺留分侵害額請求は相手方に権利行使の意思表示をすれば足り、その時点で請求金額を特定する必要はないと解されています。遺産の内容がわからない段階でも、まず配達証明付き内容証明郵便で意思表示をしておき、その後に調査を進めて金額を確定させるという順序が一般的です。

他の相続人が預金通帳や遺言書を見せてくれません。どうすればよいですか。

相続人であれば、他の相続人の同意がなくても、単独で金融機関に被相続人名義の口座の取引経過の開示を求めることができます(最高裁平成21年1月22日判決)。遺言書についても、法務局の保管制度を利用していれば遺言書保管事実証明書を、公正証書遺言であれば公証役場の遺言検索システムを、それぞれ相続人が単独で利用できます。

他の相続人が受けた生前贈与を調べる方法はありますか。

被相続人の預金口座の取引経過を取得し、まとまった出金の時期と金額から贈与の有無を検討するのが基本です。また、相続税の申告や更正の請求に必要な場合には、相続税法49条1項に基づき、他の共同相続人が受けた一定期間内の贈与に係る贈与税の申告内容の開示を税務署長に請求できます。利用の可否や対象期間は税理士または所轄の税務署にご確認ください。

調査に時間がかかって1年の期限を過ぎてしまいそうです。

遺留分侵害額請求権は、相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年間行使しないと時効によって消滅します(民法1048条)。調査の完了を待つ必要はありませんので、金額を特定しないまま先に配達証明付き内容証明郵便で意思表示をしてください。金額の確定はその後の交渉・調停・訴訟で行うことができます。

まとめ

遺産の内容がわからないという状態は、遺留分侵害額請求を諦める理由にはなりません。要点を整理します。

  • 請求は金額を特定しなくても意思表示だけで行使できる。1年の期間制限(民法1048条)があるため、調査より先に意思表示を済ませる
  • 調べるべきは、相続開始時の財産・生前贈与・債務の3つ(民法1043条1項、1044条)
  • 預金の取引経過は相続人が単独で開示を求められる(最高裁平成21年1月22日判決)。遺言書の有無も公証役場・法務局の制度で単独確認が可能
  • 相手方が開示しない場合は、遺言執行者の財産目録交付義務(民法1011条1項)、相続税法49条の開示請求、弁護士会照会(弁護士法23条の2)を検討する
  • 調停・訴訟では調査嘱託・文書送付嘱託を使えるが、対象の特定は申立側の責任となる

財産調査は、どの手段をどの順序で使うかによって、得られる情報の質と要する時間が大きく変わります。ご本人で進められる部分も相当ありますが、弁護士会照会が使えるかどうか、1年の期限を踏まえて意思表示・調査・交渉の優先順位をどう判断するかは、結果を左右します。遺産の内容がわからないまま時間だけが過ぎているとお感じであれば、早い段階で弁護士にご相談ください。

遺産の内容がわからないまま、期限が近づいていませんか

タングラム法律事務所では、横浜を中心に、遺留分侵害額請求や遺産分割など紛争性のある相続案件を数多く取り扱っております。財産調査の方法から権利行使の進め方まで、現在の状況に即したご説明をいたします。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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