遺留分侵害額の計算方法|計算式と具体例を横浜の弁護士が解説
遺留分侵害額の計算方法|計算式と具体例を横浜の弁護士が解説
「遺言で自分の取り分がほとんど残されていなかった」「生前に兄だけが多額の援助を受けていた」——こうした場合、一定の相続人には最低限の取り分である遺留分が保障されており、侵害された分を金銭で取り戻す遺留分侵害額請求ができます。もっとも、実際に「いくら請求できるのか」を計算するには、相続開始時の財産だけでなく、生前贈与や債務まで踏まえた複数のステップを踏む必要があります。
この記事では、遺留分侵害額の計算方法を、民法1042条から1047条までの条文に沿って4つのステップに分けて整理し、生前贈与や相続債務がある場合の具体的な計算例まで示して解説します。ご自身のケースでおおよその金額を把握するための手がかりとしてお役立てください。
遺留分侵害額請求とは|まず全体像を押さえる
遺留分とは、被相続人(亡くなった方)の兄弟姉妹以外の相続人に法律上保障された、遺産に対する最低限の取り分です。被相続人が遺言や生前贈与で特定の人に財産を集中させても、遺留分を侵害された相続人は、その侵害された額に相当する金銭の支払いを、財産を受け取った受遺者・受贈者に対して請求できます(民法1046条1項)。
2019年7月1日施行の改正民法により、この制度は従来の「遺留分減殺請求」から「遺留分侵害額請求」へと変わり、原則として金銭債権として処理されるようになりました。請求できるのは配偶者・子(およびその代襲相続人)・直系尊属で、兄弟姉妹には遺留分がありません。計算の出発点として、まず誰が遺留分権利者かを確認しておくことが大切です。
遺留分侵害額を計算する4つのステップ
遺留分侵害額の計算は、大きく次の4段階に分けると整理しやすくなります。以下、順を追って見ていきます。
| ステップ | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| ①基礎財産の確定 | 相続開始時の財産+一定の贈与−債務 | 民法1043条・1044条 |
| ②遺留分割合の確認 | 総体的遺留分×法定相続分 | 民法1042条 |
| ③遺留分額の算出 | 基礎財産×自分の遺留分割合 | 民法1042条・1043条 |
| ④侵害額の算定 | 遺留分額−取得分+承継債務 | 民法1046条2項 |
ステップ1:遺留分を算定するための財産(基礎財産)を確定する
最初に、遺留分の計算のベースとなる財産額を確定します。これを「遺留分を算定するための財産の価額」(基礎財産)といい、次の式で求めます(民法1043条1項)。
基礎財産=相続開始時に有した財産の価額+贈与した財産の価額−債務の全額
ポイントは、相続開始時に残っていた財産だけでなく、一定の生前贈与を加算し、借入金などの債務は全額を控除する点です。どの生前贈与を加えるかは、贈与を受けたのが相続人か否かで期間が異なります(民法1044条)。
| 贈与を受けた人 | 加算される贈与の範囲 |
|---|---|
| 相続人以外(第三者) | 原則として相続開始前1年間にされた贈与 |
| 相続人 | 原則として相続開始前10年間にされた特別受益(婚姻・養子縁組のため、または生計の資本としての贈与) |
ただし、贈与の当事者双方が「遺留分権利者に損害を加えることを知って」贈与をした場合には、上記の期間より前の贈与でも基礎財産に加えられる場合があります(民法1044条1項後段)。相続人への特別受益の範囲は争いになりやすく、詳しくは遺贈とは?特定遺贈・包括遺贈の違いと遺留分との関係もあわせてご覧ください。
ステップ2:遺留分割合を確認する
次に、自分の遺留分割合を確認します。相続人全体に認められる遺留分(総体的遺留分)は、次のとおりです(民法1042条1項)。
- 直系尊属(親など)のみが相続人の場合 …… 基礎財産の3分の1
- それ以外の場合(配偶者や子がいる場合)…… 基礎財産の2分の1
相続人が複数いる場合、各人の遺留分(個別的遺留分)は、この総体的遺留分に各自の法定相続分を乗じて求めます(民法1042条2項)。主なケースの割合を整理すると次のとおりです。
| 相続人の組み合わせ | 各人の遺留分割合 |
|---|---|
| 配偶者と子2人 | 配偶者1/4、子は各1/8 |
| 子2人のみ | 各1/4 |
| 配偶者と直系尊属 | 配偶者2/6(1/3)、直系尊属は合計1/6 |
| 配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者1/2、兄弟姉妹は0 |
ステップ3:自分の遺留分額を計算する
ステップ1で求めた基礎財産に、ステップ2で確認した自分の遺留分割合を乗じると、自分の遺留分額が算出できます。
遺留分額=基礎財産×自分の遺留分割合
たとえば基礎財産が6,000万円、自分の遺留分割合が4分の1であれば、遺留分額は1,500万円になります。ただし、この額がそのまま請求できる金額になるわけではありません。自分がすでに受け取った財産などを調整する最後のステップが必要です。
ステップ4:遺留分侵害額を算定する
最後に、遺留分額から自分がすでに得ている分を差し引き、承継する債務を加算して、実際に請求できる遺留分侵害額を算定します(民法1046条2項)。式にすると次のとおりです。
侵害額=遺留分額−(自分が受けた遺贈・特別受益の贈与額)−(遺産分割で取得すべき遺産額)+(自分が承継する相続債務額)
自分がすでに遺贈や生前贈与を受けている場合や、遺産分割で取得する財産がある場合は、その分を差し引きます。一方、被相続人の借金などを法定相続分に応じて承継する場合は、その額を加算します。
具体的な計算例で理解する
ケース1:遺言で全財産を兄に相続させた場合
被相続人(父)の相続人は子2人(兄・弟)。父は「全財産を兄に相続させる」との遺言を残し、相続開始時の財産は6,000万円、生前贈与や債務はなかったとします。弟が遺留分侵害額を請求する場合の計算は次のとおりです。
- 基礎財産=6,000万円(贈与・債務なし)
- 弟の遺留分割合=1/2(総体的遺留分)×1/2(法定相続分)=1/4
- 弟の遺留分額=6,000万円×1/4=1,500万円
- 弟が受けた遺贈・取得遺産・承継債務=いずれも0
- 侵害額=1,500万円
この場合、弟は兄に対して1,500万円の支払いを請求できると考えられます。
ケース2:生前贈与と債務がある場合
同じく相続人は子2人(兄・弟)。相続開始時の財産は5,000万円、父は相続開始の5年前に兄へ「生計の資本」として2,000万円を贈与し、さらに1,000万円の借入金(債務)を残していました。遺言で全財産を兄に相続させたとします。弟の計算は次のとおりです。
- 基礎財産=5,000万円+2,000万円(相続人への10年内の特別受益)−1,000万円=6,000万円
- 弟の遺留分額=6,000万円×1/4=1,500万円
- 弟が取得する遺産・遺贈=0
- 弟が承継する債務=1,000万円×1/2(法定相続分)=500万円
- 侵害額=1,500万円−0+500万円=2,000万円
このように、生前贈与を基礎財産に加算でき、かつ債務を承継する場合には、請求できる侵害額が大きくなる傾向があります。実務では不動産や自社株の評価、贈与の範囲などをめぐって金額に大きな幅が生じるため、正確な計算には専門的な検討が欠かせません。
誰にいくら請求できるか|負担の順序
侵害額を支払うべき相手が複数いる場合、負担の順序が定められています(民法1047条1項)。受遺者(遺贈を受けた人)が受贈者(生前贈与を受けた人)より先に負担し、受贈者が複数いるときは、原則として後の贈与を受けた人から順に負担します。誰にどの範囲で請求するかも、金額と並んで重要な検討事項です。
請求された側にも、期限の許与や分割払いといった対応の余地があります。立場が逆の場合の考え方は遺留分侵害額請求をされて払えない場合の対処法で解説しています。
請求には期限がある点に注意
遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年行使しないと時効で消滅します。また、相続開始の時から10年を経過したときも請求できなくなります(民法1048条)。計算に手間取っているうちに期限が迫ることもあるため、まずは内容証明郵便で請求の意思を明確に示しておくことが重要です。
よくある質問(FAQ)
遺留分侵害額はどのように計算しますか?
まず相続開始時の財産に一定の生前贈与を加え債務を控除して「遺留分を算定するための財産(基礎財産)」を確定します(民法1043条)。次にこれに自分の遺留分割合を乗じて遺留分額を求め、そこから自分が受けた遺贈・贈与や遺産分割で取得すべき額を差し引き、自分が承継する相続債務を加算して侵害額を算定します(民法1046条2項)。
生前贈与はどこまで遺留分の計算に含まれますか?
相続人以外への贈与は原則として相続開始前1年間のもの、相続人への贈与は原則として相続開始前10年間にされた特別受益(婚姻・養子縁組・生計の資本としての贈与)が含まれます(民法1044条)。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って行った贈与は、この期間より前のものでも含まれる場合があります。
遺留分の割合はどのくらいですか?
相続人全体の遺留分(総体的遺留分)は、直系尊属のみが相続人の場合は3分の1、それ以外の場合は2分の1です(民法1042条1項)。各相続人の遺留分は、これに法定相続分を乗じて算出します。兄弟姉妹には遺留分がありません。
相続債務があると遺留分侵害額はどう変わりますか?
遺留分権利者が承継する相続債務の額は、侵害額の計算で加算されます(民法1046条2項)。そのため債務があるほど請求できる金額は大きくなる傾向があります。基礎財産の計算では債務全額を控除する一方、侵害額の計算では自分が承継する債務を加算する点に注意が必要です。
まとめ
遺留分侵害額の計算は、①基礎財産の確定(生前贈与の加算・債務の控除)、②遺留分割合の確認、③遺留分額の算出、④取得分の控除と承継債務の加算による侵害額の算定、という4つのステップで進めます。式自体はシンプルですが、実際には生前贈与の範囲や不動産・自社株の評価をめぐって金額が大きく変動し、当事者間の主張が激しく対立しやすい分野です。
ご自身の取り分が正当に確保されているか不安がある場合や、算定の前提となる財産・贈与の把握が難しい場合には、早い段階で弁護士に相談することで、時効を意識しながら適切な金額を組み立てることができます。依頼にかかる費用や進め方は遺留分侵害額請求を弁護士に依頼する費用・メリットもご参照ください。
遺留分侵害額の計算・請求は横浜のタングラム法律事務所へ
タングラム法律事務所では、相続や遺留分侵害額請求の事案について豊富な実績を有しております。財産の評価や生前贈与の範囲を踏まえた侵害額の算定から、相手方との交渉・調停・訴訟まで、見通しを立てながらサポートいたします。
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