遺留分侵害額の請求調停を自分で申し立てる方法|費用・必要書類を解説
遺留分侵害額の請求調停を自分で申し立てる方法|費用・必要書類を弁護士が解説
「遺言で自分の取り分がほとんど残されていなかった」「相手が話し合いに応じてくれない」——遺留分を侵害されたとき、相手との交渉が行き詰まると、次に考えるのが家庭裁判所の「遺留分侵害額の請求調停」です。弁護士に依頼せず、まずは自分で申し立てたいと考える方も少なくありません。
この記事では、遺留分侵害額の請求調停を自分で申し立てる場合の手順を、申立先の家庭裁判所・費用・必要書類・当日の流れに沿って整理します。あわせて、見落とすと権利を失いかねない「時効との関係」や、自分で進める場合の限界についても、横浜の弁護士がわかりやすく解説します。
遺留分侵害額の請求調停とは?交渉と訴訟の間の手続き
遺留分とは、一定の相続人(遺留分権利者)に法律上保障された、相続財産に対する最低限の取り分です。被相続人が生前贈与や遺贈によって特定の人に財産を集中させても、遺留分を侵害された相続人は、贈与・遺贈を受けた人に対し、侵害額に相当する金銭の支払いを請求できます(民法1046条)。これを遺留分侵害額請求といいます。
この請求について当事者間で話し合いがつかない、あるいは話し合いそのものができない場合に利用できるのが、家庭裁判所の遺留分侵害額の請求調停です。調停では、調停委員が当事者双方から事情を聴き、必要な資料を確認したうえで、解決案の提示や助言を行い、話し合いによる合意を目指します。裁判官が結論を下す訴訟とは異なり、話し合いの延長線上にある手続きです。
申立ての前に必ず確認したい「時効」と意思表示
自分で調停を申し立てる方が最も注意すべきなのが、遺留分侵害額請求権の期間制限です。この権利は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年間行使しないと、時効によって消滅します。また、相続開始の時から10年を経過したときも消滅します(民法1048条)。
ここで重要なのは、家庭裁判所に調停を申し立てただけでは、遺留分に関する権利を行使する意思表示にはならないという点です。裁判所の案内でも、調停の申立てとは別に、内容証明郵便などで請求の意思表示を行う必要があるとされています。1年の期限が迫っているケースでは、まず内容証明郵便で意思表示を済ませて時効の完成を防ぎ、そのうえで調停を申し立てる、という順序が現実的です。
遺留分侵害額の計算方法や意思表示の考え方については、遺留分侵害額の計算方法|計算式と具体例もあわせてご覧ください。
自分で申し立てる場合の手順と申立先の家庭裁判所
申立てできる人・相手方
申立てができるのは、遺留分を侵害された相続人(兄弟姉妹以外の相続人)、またはその承継人(相続人や相続分の譲受人)です。相手方となるのは、遺留分を侵害する贈与や遺贈を受けた人です。
申立先(管轄)
申立先は、原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です。当事者が合意で定めた家庭裁判所に申し立てることもできます。たとえば相手方が遠方に住んでいる場合、原則としてはその相手方の住所地の裁判所に申し立てることになる点に注意が必要です。
申立書の入手と作成
申立書の書式(家事調停申立書)と記入例は、裁判所のウェブサイトからダウンロードできます。遺産の内容を記載する土地・建物・現金預貯金等の遺産目録の書式も用意されています。書式には記入例が付されているため、これを参照しながら、被相続人の情報・当事者・申立ての趣旨・遺留分侵害の実情などを記入していきます。
申立てに必要な費用
遺留分侵害額の請求調停の申立てにかかる費用は、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 収入印紙 | 1200円分(申立手数料) |
| 連絡用の郵便切手 | 裁判所ごとに金額が異なるため、申立先の家庭裁判所で確認する |
| 添付書類の取得実費 | 戸籍謄本・登記事項証明書・固定資産評価証明書などの発行手数料 |
申立手数料そのものは収入印紙1200円分と定額で、訴訟に比べて低額です。郵便切手(郵便料)は保管金として電子納付する方法も用意されており、詳細は申立先の裁判所の案内で確認できます。
申立てに必要な書類
自分で申し立てる場合、書類の準備が最も手間のかかる部分です。標準的には、次の書類が必要とされています。
- 申立書およびその写し(相手方の人数分)
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 被相続人の子(およびその代襲者)で死亡している方がいる場合は、その方の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- 遺言書の写し、または遺言書の検認調書謄本の写し
- 遺産に関する証明書(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳の写しまたは残高証明書、有価証券の写し、債務額に関する資料など)
- 進行に関する照会回答書
- 送達場所等届出書
相続人に被相続人の父母が含まれるケースなど、事案によって追加の戸籍が必要になることもあります。同じ書類は1通で足り、申立前に入手できない戸籍等は、申立後に追加提出することも認められています。なお、遺産に関する証明書は遺留分侵害額を算定する前提として重要で、資料が不十分だと調停での話し合いが進みにくくなる傾向があります。
申立て後の流れ|調停当日から成立・不成立まで
申立書と添付書類を家庭裁判所に提出すると、受理後に第1回調停期日が指定され、当事者双方に呼出状が届きます。調停期日では、申立人と相手方が交互に調停室に入り、調停委員に事情や希望を伝えるのが一般的です。原則として当事者が直接顔を合わせない運用がとられている点も特徴です。
期日は1回で終わるとは限らず、複数回にわたって開かれることもあります。話し合いがまとまれば調停成立となり、合意内容が調停調書に記載されます。調停調書は確定判決と同一の効力を持つため、相手方が支払いに応じない場合には強制執行の根拠にもなります。合意後に支払いが行われないケースへの対応は、遺留分侵害額請求が認められても払ってもらえない場合の強制執行・財産開示手続きで解説しています。
他方、双方の主張が折り合わず調停が不成立となった場合、遺産分割調停のように審判へ自動的に移行するわけではありません。あらためて遺留分侵害額請求訴訟を提起し、裁判所の判断を求めることになります。訴訟を自分で進める場合の流れは、遺留分侵害額請求訴訟を自分で起こす方法|訴状・管轄・費用をご参照ください。
自分で進める場合の限界と弁護士に依頼する場合の違い
遺留分侵害額の請求調停は、申立手数料が収入印紙1200円分と低額で、書式も公開されているため、制度上は自分で申し立てることが可能です。もっとも、実際に手続きを進めると、次のような場面で難しさを感じる方が少なくありません。
遺留分侵害額の算定には、相続財産の範囲の確定、不動産や非上場株式の評価、生前贈与(特別受益)の持戻しなど、専門的な検討が必要です。相手方が財産や生前贈与の存在を争ってくると、調停の場で有効に反論するには法的な裏づけが求められます。1年という短い時効の管理や意思表示の有効性の確保も、見落とせば取り返しがつかない部分です。
弁護士に依頼した場合、これらの検討や資料収集、相手方との交渉・調停での主張を代理して進めることができ、調停が不成立となって訴訟へ移行する場合にも一貫した対応が可能です。争点が複雑になりそうな場合や時効が迫っている場合には、早めに横浜の弁護士など専門家へ相談することを検討するとよいでしょう。当事務所の相続・遺留分に関する取り組みもご参照ください。
よくある質問(FAQ)
遺留分侵害額の請求調停の申立てにはいくらかかりますか?
申立てに必要な費用は、収入印紙1200円分と連絡用の郵便切手です。郵便切手の金額は裁判所ごとに異なるため、申立先の家庭裁判所のウェブサイトなどで確認します。このほか、戸籍謄本や登記事項証明書などの添付書類の取得実費が別途かかります。
調停を申し立てれば、遺留分の時効は止まりますか?
家庭裁判所に調停を申し立てただけでは、遺留分に関する権利を行使する旨の意思表示にはなりません。調停の申立てとは別に、内容証明郵便などで請求の意思表示をしておく必要があります。遺留分侵害額請求権は、相続開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年で時効消滅します(民法1048条)。
どこの家庭裁判所に申し立てればよいですか?
原則として相手方(請求の相手となる受遺者・受贈者)の住所地を管轄する家庭裁判所です。当事者が合意で定めた家庭裁判所に申し立てることもできます。
調停がまとまらなかった場合はどうなりますか?
遺留分侵害額請求は調停前置とされており、まず調停を経る必要があります(家事事件手続法257条1項)。調停が不成立となった場合、審判に移行するのではなく、あらためて地方裁判所または簡易裁判所に遺留分侵害額請求訴訟を提起して解決を図ることになります。
令和元年より前に亡くなった場合も同じ手続きですか?
令和元年7月1日より前に被相続人が亡くなった場合、遺留分侵害額の請求調停は申し立てられません。改正前民法が適用され、遺留分減殺による物件返還請求等の調停を申し立てることになります。適用される制度が異なるため、被相続人の死亡時期の確認が重要です。
まとめ
遺留分侵害額の請求調停は、相手方の住所地の家庭裁判所に、収入印紙1200円分と必要書類を添えて申し立てる手続きです。申立手数料は低額で書式も公開されているため、自分で申し立てること自体は可能ですが、1年の時効管理や相続財産の評価など、専門的な判断を要する場面も少なくありません。まず内容証明郵便で意思表示を済ませて時効の完成を防ぎ、争点が複雑な場合には早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
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