ホスト・キャバ嬢との関係は不貞行為?枕営業と慰謝料を弁護士が解説
ホスト・キャバ嬢との関係は不貞行為?枕営業と慰謝料を弁護士が解説
配偶者のスマートフォンに、キャバクラの女性やホストとのやり取りが残っていた。カードの明細を見ると、深夜の飲食代が何十万円にもなっている——。そうした事実を知ったとき、「店の女性(男性)に慰謝料を請求できるのだろうか」と考える方は少なくありません。他方で、夜のお店で働く側から「お客様の奥様から突然、内容証明が届いた」というご相談を受けることもあります。
この問題には、一般の不倫とは異なる特有の論点があります。接客が「仕事」として行われている以上、肉体関係があったとしても、それを法的にどう評価すべきかが問われるからです。この記事では、いわゆる「枕営業」をめぐる裁判所の判断と、その考え方が及ばないと評価される場面、請求する側・された側それぞれの実務上のポイントを、横浜の弁護士が解説します。
そもそも不貞行為とは何か|慰謝料が発生する法的な根拠
配偶者以外の異性と関係を持った第三者に対して慰謝料を請求できる根拠は、民法709条(不法行為による損害賠償)および民法710条(財産以外の損害の賠償)にあります。条文上「不倫」「不貞」という言葉が使われているわけではなく、他人の権利または法律上保護される利益を侵害したことが要件です。
では、不貞行為の場合に侵害されている利益とは何か。裁判実務では、婚姻共同生活の平和の維持という利益、あるいは夫婦の一方が他方に対して有する婚姻共同生活上の権利・利益が侵害されたと構成されるのが一般的です。この「何が侵害されたのか」という出発点が、後述する枕営業の議論に直結します。
また、不貞行為は配偶者と第三者による共同不法行為(民法719条)と解されており、両者は同一の損害について責任を負います。したがって、配偶者と相手方の双方に請求したとしても、認定された慰謝料額を超えて重ねて受け取ることはできません。この点は不貞慰謝料の二重取りはできるかを解説した記事で詳しく整理しています。
「枕営業」は不貞行為にあたるのか|東京地裁平成26年判決の考え方
この問題を正面から扱った裁判例として、東京地方裁判所平成26年4月14日判決(判例タイムズ1411号312頁)がよく引用されます。クラブを経営する女性と長年にわたり肉体関係を持っていた男性の妻が、その女性に対して慰謝料を請求した事案です。
判決は、対価を得て顧客と性交渉を行う行為は顧客の性欲処理に商売として応じたにすぎず、長期間・多数回にわたるものであったとしても、妻との関係で婚姻共同生活の平和を害するとはいえないとして、請求を退けたと紹介されています。地方裁判所限りで確定したとされています。
この判決は「枕営業なら何をしても慰謝料は発生しない」と述べたものではありません。対価性のある商行為としての性交渉にとどまる限りにおいて、という限定付きの判断です。また地方裁判所の判断であり、最高裁判所が示した一般的な準則ではない点にも注意が必要です。
考え方としては、風俗店の利用が原則として不貞行為と評価されにくいことと共通します。この点については風俗通いは不貞行為になるかを解説した記事もあわせてご覧ください。
営業の範囲を超えたと評価されやすい事情
実務上重要なのは、どこからが「商売としての接客」ではなくなるのかという線引きです。裁判例の考え方を踏まえると、次のような事情が積み重なるほど、単なる営業の範囲を超えた私的な男女関係と評価されやすくなります。
| 類型 | 具体的な事情の例 | 評価の方向 |
|---|---|---|
| 場所 | 店舗やホテルではなく、相手方の自宅に出入りしている | 営業の範囲を超えると評価されやすい |
| 時間・継続性 | 営業時間外に日常的に会い、私的な連絡を頻繁に取り合っている | 同上 |
| 旅行 | 宿泊を伴う旅行、とりわけ海外旅行に同行している | 同上 |
| 対価性 | 店を通さない金銭の授受、あるいは対価の授受がない関係 | 同上 |
| 結果 | 妊娠・出産に至っている | 同上 |
| 関係の性質 | 「付き合っている」旨のやり取りがあり、恋愛関係として継続している | 同上 |
逆に、店内での接客や、店の営業として設定された同伴・アフターにとどまる場合には、不貞行為としての評価は慎重になります。実際の裁判では、店外での行動やメッセージの内容が細かく検討されることになります。
慰謝料を請求する側が押さえるべきポイント
1.相手方を特定できるか
源氏名しかわからない状態では、内容証明を送ることも訴訟を提起することもできません。氏名・住所の特定が第一の関門になり、手がかりが乏しい場合は相当の時間を要することがあります。
2.肉体関係を推認させる証拠を確保できるか
店に通っていた事実だけでは足りません。ホテルへの出入りが確認できる写真、宿泊を伴う旅行の記録、性的関係をうかがわせるメッセージなど、複数の間接事実を積み上げる必要があります。なお違法な方法で得た証拠は、それ自体が新たな法的責任を生じさせるおそれがあります(証拠収集でやってはいけないこと)。
3.時効の管理
不法行為に基づく損害賠償請求権は、民法724条により、被害者が損害および加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効によって消滅します。相手方の氏名等が判明してから3年という整理になることが多いため、特定に手間取っているうちに期間が進行している事案も見受けられます。
ホスト・キャバクラ従業員が慰謝料を請求された場合の対応
請求を受けた側から見ると、争える余地が比較的大きい類型といえます。検討すべき主な反論は次のとおりです。
- 肉体関係の不存在:そもそも性的関係がなかった場合。立証責任は請求する側にあります。
- 営業の範囲内であること:対価を得た商行為にとどまり、婚姻共同生活の平和を害していないという主張。
- 故意・過失の不存在:既婚者であることを知らず、知らないことに過失もなかったという主張。夜の店では家庭の事情を明かさない客も多く、この反論が実質的に機能する場面があります。詳しくは「既婚者とは知らなかった」という主張への対応を解説した記事をご覧ください。
- 婚姻関係の破綻:関係を持った時点で夫婦関係がすでに破綻していたという主張。
- 消滅時効の援用:民法724条の期間が経過している場合。
注意すべきは、請求書が届いた段階で安易に謝罪文を書いたり、一部でも支払ってしまったりすることです。債務の承認(民法152条)と評価され、時効が更新されるおそれがあるほか、事実関係を認めたものとして後の交渉で不利に働きます。夜職の方が慰謝料を請求された場合の具体的な対応の進め方は、夜職・パパ活の不倫慰謝料請求への対応のページでもご案内しています。
請求する側・請求された側それぞれの手続の流れや当事務所の取扱いについては、不貞慰謝料請求の取扱いページにまとめています。
よくある質問
キャバクラやホストクラブに通っているだけで不貞行為になりますか。
店内での接客や同伴だけでは、通常、不貞行為とは評価されません。裁判実務上の不貞行為は性的関係を中核とするためです。ただし店に多額の金銭を費やして家計が破綻したような場合には、離婚原因や財産分与の場面で別途問題となる可能性があります。
「枕営業だから慰謝料は払わない」という反論は通りますか。
東京地裁平成26年4月14日判決(判例タイムズ1411号312頁)はそのような判断を示しましたが、下級審の判断であり、すべての事案に当てはまるわけではありません。店外での交際や宿泊を伴う旅行など、営業の範囲を超えたと評価される事情があれば慰謝料が認められる可能性があります。
相手が既婚者だと知らなかった場合はどうなりますか。
不貞行為を理由とする損害賠償責任は、相手が既婚者であることについて故意または過失があることが要件と解されています。既婚者であることを知らず、知らないことに過失もなかったと認められれば、責任を負わない可能性があります。
慰謝料を請求できる期間に制限はありますか。
民法724条により、損害および加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効消滅します。不貞相手の氏名や勤務先が判明した時点から3年と整理されることが多く、早期の対応が必要です。
配偶者と不倫相手の双方に請求すれば二倍受け取れますか。
不貞行為は共同不法行為(民法719条)と解されており、双方が同一の損害について責任を負う関係にあります。したがって認定された慰謝料額を超えて重複して受け取ることはできません。
まとめ
ホストやキャバクラ従業員との関係は、対価を伴う接客という性質があるため、通常の不倫とは異なる評価がされる余地があります。東京地裁平成26年4月14日判決は、商行為としての性交渉にとどまる限り婚姻共同生活の平和を害したとはいえないという判断を示しました。もっとも、これは下級審の判断であり、店外での交際、宿泊を伴う旅行、妊娠といった事情が加われば、結論は変わり得ます。
請求する側は相手方の特定と証拠の確保が、請求された側は安易な承認を避けて反論の柱を組み立てることが、それぞれ出発点になります。初動の対応が最終的な金額を大きく左右する類型ですので、判断に迷われる場合は早い段階で弁護士にご相談ください。
夜のお店で働く方が慰謝料を請求されたケースの費用や進め方は、夜職・パパ活の不倫慰謝料請求への対応の詳細ページでご確認いただけます。
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タングラム法律事務所では、不貞慰謝料の請求・対応について、請求する側・請求された側の双方から数多くのご相談をお受けしています。「枕営業にあたるのか」「請求額は妥当なのか」といった見通しの部分から、横浜の弁護士がご説明します。
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